~ドラゴンだって~
(街の東門の先。「草原」にて)
「おりゃぁぁああぁっ!」
「ぐ……っ!」
竜の硬い手を私は剣でいなす。
ーガチン!ー
剣に竜の爪が触れる度、剣がビリビリと震える。
私は今、何をしているのかと言うと。
前回出てきたあのメリナと言う人?と手合わせをしている。
「そらそら!防御ばかりでは何も出来ずに終わってしまうぞ!ははははは!」
笑いながらメリナさんは尾を振るう。
風を強引に巻き込む音を出しながら私の横腹目掛けて尾が迫る。
「ふっ!」
私は迫る尾に対して後ろに飛び、剣で防御の構えを取る。
ーギィィィン!ー
攻撃を受け、剣の刃先を尾の振るわれていく方向に合わせて受け流す。同時。剣からはチリチリと火花が散った。
続けて受け流した力を利用して私は跳ぶ。
そしてそのまま加えられた力の方向に回転し、メリナさんの首に剣を振るった。
「ほう!私の攻撃をそのまま利用するか!面白い!」
私の得意技"ワルツカウンター"を見てメリナさんは人にこそ化けてはいるが、尖った牙を見せながら笑った。
「だがー!」
次の瞬間。
「がっは…っ!?」
「私の方が速い!」
私の腹の中心に素早く、重い拳が入る。
カウンターに失敗し、殴り飛ばされた私は大きく吹き飛ばされ地面に転がった。
「ゲホッ!かはっ…ゲホッ!」
あまりの衝撃に息がしづらい。
一撃で体力が持っていかれた。
痛みに手が震え、力が上手く入らない。
「終わりだ!」
メリナさんが恐ろしいスピードで距離を詰めてくる。
歯を食い縛りながら、痛みで力が入らない手を止め剣を握り直す。
剣を握り直した時、既に私の目の前にメリナさんが居た。
ー轟ー
重い風の様な音と共に竜の拳が振るわれる。
私は剣を前にし、それを受け止める。
「…ゲホッ……フーッ…フーッ…!」
何とか。ギリギリながらに防御が出来た。
「よし!このくらいで良いだろう!」
自らの拳を止められたことを見届けたメリナさんが拳を下ろして元気に笑う。
「フーッ…はぁ…」
やっと終わった
そう思ったのを皮切りにして、先程までのプレッシャーが体から消し飛ぶのを感じた。
メリナさんの鱗は並大抵の鉱物や剣よりも遥かに硬い。下手に受ければ今頃剣が折れているだろう。
何より、一撃が重かった。
ドタリ。と私は地面に転がった。
格上との戦いは初めてだったのもあるのか、いや、それとも新調してもらったばかりの剣を折られずに扱うことも意識していたからなのか。大の字に転がった私の体は重い石になったような感覚を訴えている。
「ご苦労さまだぞ!レイカ!して何故そうしている?」
大の字になった私の顔を覗き込むようにしてメリナさんは話しかけてくる。
「疲れちゃって…あはは…。」
「そうか!では少し休もう!うん!うん!」
「ふぅ…。」
そう言えば、なんで私がメリナさんとの手合わせをすることになったのか。の説明をしていませんでした。
では時間を30分程遡って話します。
(30分前。「帽子の希望屋」)
「ど、ドラゴン…」
「そうだ!ドラゴンだ!」
「………」
滅茶苦茶になった店内で、私はただ目の前の出来事とその犯人を前に言葉を失った。
「いやー!こうなるとは思わなかった!失敗!あはははは!考えても体が勝手に動く性分で中々調整が難しい!あは!あはははははー!」
それとは反対に。なーんにも考えてなさそうな笑顔をしながら笑う目の前のドラゴン。
そしてー
「………」
同じくして目を丸くした状態でその状態を見つめるセリスさん。恐らくこの人も同じ心境だろう。
なにコイツ。
みたいな。
「…そのぉ…どう言ったご用件でしょうか~?」
少し強張った声で恐る恐るとセリスさんが話をかける。
すると、目の前で自分自身を笑っていたドラゴンは「あ。忘れていた。」と口を溢して問いに答えた。
「先も言ったが、私は"あの夜"に世話になった者だ。」
「あの夜?」
はっ。とセリスさんと私は顔を見合わせた。
「「あのドラゴン!」」
「そうだ!」
「「あー!」」
今思い出すと、この反応はいささか漫才みたいで少し恥ずかしい。
「それで~。あの夜のドラゴンさんが何故このような場所に?」
相手の正体が知れて落ち着きを取り戻したのか、セリスさんはゆっくりと話を続ける。
「うむ。あの夜はちょっとボンヤリとしていてな!散歩がてらこの国に来てしまったのだ。」
「へぇ…。じゃああの大量のアンデッドは?」
ボンヤリしている間にこの国に来た。と言う彼女に私は当時から思っていた事を聞く。
「それは分からん!考えていない間の出来事だったからな!」
「……」
威厳は無いのかこのドラゴンは。
「そんな顔をしないでくれ。ただ、私はたまに自分が考えている行動から体が外れて動くことがあるだけだ!現に最初は元々居たセレストだけを飛ぶつもりだった。」
「それ…認知症とかじゃないですか?良い病院教えますよ?ドラゴンを診てくれるかは分かりませんけど。」
「いや!何分忘れっぽくはないから行かないぞ!ただ本当に「こうしたいなー」とか思ってても体は他の方向に行きたがるとかそう言うのだ!」
「なんですかそれ…。変すぎますよ。」
「あはははは!そうだな!変だな!」
「要するに私で言うなら「グラタンが食べたい」と思ってたのに食べ始めたのは「カルボナーラ」みたいな。」
「そう!「リンゴ食べたい」と思って動いてたら「桃食べてる」って言うやつみたいな!」
「……」
「……」
「「あははははは!おっかしー!」」
二人で馬鹿話をして笑った。
何故だろう、気が合うなー。なんて思ったりして。
「すみません。あの~。先ほどセレストって言ってませんでしたか~?」
お互いに下らないことを話して笑っている中、セリスさんが言葉を挟んできた。
そう言えばそうだった。うっかり一瞬ながら頭から外してしまっていた。
「うん。私はセレストから飛んで此処に来たんだ。」
笑いを止め、メリナさんはセリスさんを向く。
「どうなってたか…とか見てませんか?」
「うーん、そうだなー。セレストの街からは幾らか黒煙が上がってたのと…あと、いつもより死臭を濃く感じたか。な!」
「そうですか…。ありがとうございます~。」
返答を聞き終えたセリスさんは「はぁ~。」と息を吐いて何か考えるような素振りをし始めた。掃除の時こそ「特に気にしていない」、「無理はしていない」とは言っていたけど…。やっぱり気になるんだろう。
(今はそっとしておこう)
私は考えることを始めたセリスさんをひとまずそれに集中させることにした。そして私は落ちた帽子達を拾って取り敢えずカウンターへと運び始めた。
「なぁ。名前は?」
作業を始めた私にメリナさんが声をかけてきた。
私は手を止めて彼女に答える。
「レイカです。フルネームはレイカ=リ=フルールです。」
「ふむ。見るに騎士の卵か!」
「ですね。まだまだ未熟の学生です。」
「未熟ながらに私にくっついてきたあの量の者共を捌いたのか!若いのにやるな!」
「あはは…あの時はロイドさんも居て1人じゃなかったですし…。それに途中で気絶してしまいましたから。全然。」
「ほほう。となると途中で切り替わった様に飛んできたあの範囲魔法や技はあの魔導士か。」
「あ。はい。それとあと二人。」
「二人?あ、思い出したぞ。あの銀色の女騎士と少し魔剣士の男か!」
「はい。銀色の騎士はスノウさん。魔剣士の人はこの店の店長さんで…ホープさん。本当の名前はクロウと言うそうですが…。で、今店に私と居る人はセリスさん。」
「そうかそうか!よく分かったぞ、ありがとう!」
「あはは…。何はともあれあの時のドラゴンさんが無事で良かったです。」
「まぁ、別に何ともないからどっちでも良かったが!」
「………」
それを本人達(私達)の前で言ったら終わりです。
でもまぁ。あの一件で自分の目指す道はまだ遠い事を再確認出来たから、それを考えると「どっちでも」なんて言われても平気ですが。
「さて、と。ほい。」
不意に手を掴まれた。
「え。なんですか?」
「手合わせしないか?と誘おうと思ってな!」
「急ですね!?」
「なーに、強くなりたそうにしてるから良いだろう?なっ?なっ?」
「いや、でも片付けとかしなきゃですし。あ、待ってください!メリナさんの手痛い!痛い!鱗と爪痛いです!」
「セリスとやらー!ちょっとコイツ借りても良いかー?」
急に何を思ったのか手合わせに誘い始めたメリナさんは私の手を竜の手で引っ張りながらセリスさんに私の"貸し出し"を問った。
セリスさんは考え事に集中していたせいもあってか、少しだけ驚きを見せて此方を見た。そして
「良いですよ~。」
「ちょっとぉ!?」
「おー!ありがとう!帰りに果物でも持ってくるぞ!」
「ちょっ!セリスさん!お店はーっ!?」
グイグイとあり得ない程の力で抵抗出来ずに連れていかれる。
店から引っ張り出された所で
「魔法で元に戻しておきますから~!大丈夫~!」
と、大声でセリスさんの声が聴こえた。
で。
(現在)
「リンゴだ!」
「あ、ありがとうございます!」
こうして手合わせを終え、メリナさんと二人でリンゴをかじっています。
「うむ。うまー!」
「リンゴ、好きなんですね。」
「ああ!小腹が空いた時はこれと決めている!」
ガジガジとリンゴを食べる彼女は、人に化けているのもあって竜の威厳は無く。ただ無邪気にしか見えない。
人に化けている彼女は私と同じくらいの背丈だが、歳は恐らく遥かに上なのだろう。そもそもの話、竜種は歳を取るほど大きくなる。元の姿が巨大も巨大だった彼女はもしかしたら1000歳を超えているかもしれない。
けど…
「あぐあぐあぐ…ウマーっ!」
そうだとしても…、ちょっと子供っぽくて可愛い。
「ふぁー!食べた食べたー!」
「ご馳走さまです。」
しばらくしてリンゴを食べ終えた。
私は3個。メリナさんは20個。本人曰く本当はもっと食べたいと言っていた。
その後、私達はお店まで戻り、店が直っている事を確認。私はセリスさんにお礼を伝えた。
「店員だから当然ですよ~。」
とセリスさんは笑っていた。
店の扉に「closed」の看板を立て、鍵をかける。
セリスさんは今住んでいる所の方角もあって裏口から出て鍵を閉め、帰るとのことで店の中で今日はお別れした。
鍵も閉めたし、これで今日はおしまい。
「お疲れ様ー!」
何て言いながら、心の中で「さぁ、私も帰ろう。」と思っていたのだが。
「………」
「~♪」
「あの。」
「なんだ?」
「何で着いてくるんですか?」
「ん?」
「いや、その…帰る方向とか同じなら謝りますけど…。」
「早く家に帰らないのか?季節も季節で夜になると寒くなってしまう。」
「……そ、そうですね。」
メリナさんが着いてくる。
「………」
「此処がお前の家か!中々大きいな~!うん!うん!」
結局、最後まで着いてきてしまった。
「えっと…。」
「寒い…。早く入るぞ!」
「いや!その前に何で此処まで着いてくるんですか!」
「この国じゃ私、家が無いからな。」
「そりゃドラゴンですからね!けどど何処でも寝れるでしょう!?」
「いや、けどまだ冬だぞ?外や洞窟は寒い!」
「うっ。」
此処で「人ではないから」とか言ったら私が悪者になるような言葉が飛んでくる。
「私を此処で住まわせてくれ!なっ?手合わせした仲ではないか!」
「うっ、ぐぐ…じゃ、じゃあ…。」
こうして私は心臓を握り潰される様な気持ちで家のドアを開けるのだった。
…続く。
次回予告
どうも、レイカです。
えっ、今回は私なのかですか。あー、まぁ事情が事情ですから。
次回は私の親が登場!ついでにメリナさんは居候として受け入れてもらえるのか!お楽し…みに…
って、あーっ!それお父さんの大事にしてる壺~っ!ギャーッ!




