ー帽子で希望を作る店ー
ー幻想国 オルレニアー
その国では魔物や人が比較的平和に過ごしている。
たまーに、お互いが小瀬り合う事はあれど、部族間の戦争とか物騒な出来事はほぼ皆無。言わばマジの平和な国がありました。
そんな国で、探せば何処にでもあるような街。
そしてその中で人気の無い商店街の外れ。そんな場所に。
「はぁ…相変わらず来ませんねぇ。お客様。」
ドでかい溜め息と共にカウンターに頬杖突きながら口を溢している男が居ました。
「もういっそ、押し売り気味に近隣の方々に凸るのもありかもしれませんねぇ」
この男の名前「ホープ」(偽名)。英語にしてHOPE。訳して漢字にするならば希望。つい最近この国に訪れ「帽子」を売る「帽子屋」を開いている身長181cm。体重70.4kgで独身の23歳。彼女居ない歴=歳の数の冴えない男。
(しかし割りとイケメンの部類である)
「近くのお店の方々に、どうしてお客は来ないの~?なんて聞いてみましたが…」
と、彼は自らの服装をカウンターの隣にある鏡を見て確認する。そこにはまさに「ピエロ」、はたまた「道化師」と言ったような奇抜そのものが立っている。
「これが原因とか言われても、好きで着ているこの格好だけは外せませんしねぇ」
鏡から目を離し、ホープはその場でクルリと一回転。優雅にポーズを決めるとまた独り言を呟く
「しかし、店の顔はその店に居る者の格好で8割決まる…とか言われているのもまた事実。う~む…」
こうしてホープは周りの意見と自分の意見の中、思考を巡らせ道化のごとく踊り回っていた。その時
ーガチャリー
「!」
帽子屋の扉が開いた。
「いらぁっしゃいませぇ~♪こちら帽子の希望屋でございます♪ホッホー」
ホープは扉を開け、中へと立ち入ってきたその"客"を迎え入れるため。奇抜なステップでカウンターからヌルリと出てくる。
(当事者曰く、その時の出方は「キモい」と言われた)
「ひっ!?」
そのあまりの奇抜さに度肝を抜かれたか。
客はその場で二歩三歩と足を後ろへ動かした。
勿論。慌てた状態で後ろ歩きなど危ない以外の何物でもない。足をもつれさせた客は後頭部から派手に床へと激突させる形ですっ転んだ。
ーガンッ☆ー
「へぶぅ!?」
その客が転んで気絶したと同時。客が持っていた鞄は大きくスイング。ホープの顔面を強く打つ。
「あいたたた…。開店以来初めてのお客様だと言うのになぜこんな…」
打ったところが赤く残る顔面を気にしながら、ホープは体勢を立て直す。
「とは言え刺激が強すぎましたね…と、おや。鞄の中身がお店に散らばってしまいましたか。片付けをしなくてはいけませんが、その前にこのお客様の介抱を。む?」
やれやれ。と大きく溜め息を吐き、倒れた客を見るホープ。その客は恐らく17~18くらいの歳で、赤みを帯びた茶髪の少女であった。
「女性でしたか。であれば下手に触ると今後に響いてしまうかも知れませんねぇ…えー、ロープロープ。」
(2時間後)
「ん…」
帽子の希望屋。その休憩室もとい作業室。ホープはそこにあるベッドに少女を寝かせていた。して、こうして目を覚ました少女であったが
「おや?お目覚めですね。お客様」
近い。近すぎる。
少女が起きた時、目の前に待っていたのは道化の顔のドアップであった。
(しかも笑顔が奇抜だった)
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
起きて早々の危機。少女は眼前のピエロの顔面に向かって鋭く拳を繰り出す。
ーバキャッ!ー
クリーンヒット。
「おごはぁっ!?」
大きく吹き飛ぶホープ。部屋の片隅にまで飛ばされ壁に激突。ゴロゴロと床を転がり…
ーゴスッー
「あいたぁっ?」
作業台の足に頭を打つ。
「な、なな何なんですかあなたは!?」
半ば泣き顔をしながら、自らにかけられていた毛布を体に巻いて身を守る体勢になった少女はホープに言葉を投げた。
「な、何と言われても…。この店の店主ですが…あーいて。それにしても鋭いパンチ…お見事です。」
「そ、そりゃどうも…ってなるわけ無いでしょう!?状況!私が此処に来てからの状況!どういうわけか説明してください!」
「は、はい…」
(そして30分ほど時は過ぎ…)
「…とまぁ、私。店主のホープ(偽名)さんは記念すべきお客様第一号である貴女のご来店。その歓喜の余りにお客様を驚かしてしまい…こうして今に至るわけでして。お分かり頂けましたでしょうか?ハハァーン?」
「ま、まぁ…何となく?ホープさんに悪気はないのは分かりましたよ。うん。」
(と言うか、最後のハハァーン?って何?要る?)
一連の説明を終え、「ふひぃー」と安堵の溜め息を吐くホープ。続けて彼は彼女が寝ている間に中身を入れ直した鞄を手渡す。
「大変お騒がせしました。こちらお荷物です。」
「ど、どうも…」
(ん?何か重い?)
鞄を返してもらった手前。神妙な顔をしながら少女は開けてみる。するとその中には少し雑な形で詰め込まれた白い「羽根つき帽」が入っていた。
「あ、あの~。これは?」
当然ながら少女は知らないものを入れられていたのでそれを出し。それを詰め込んだ犯人であろう店主にそれを見せ聞いてみる。
「はい。そちら「風来帽」です。」
「風来坊?」
「いえ、「風来帽」です。」
「はぁ…?」
よく分からないものの、続けて「今回のお詫びと言うことで無料です。受け取ってください」と言われたので少女はよく分からないまま受け取る。そして少女は店を後にするため、夕日に照らされる街道に出ようとする。
「ああ、お客様。一応帽子の持ち主様になられますので…お名前とサインをこの紙にお願いします」
呼び止められた。
「分かりましたけど…もう来ませんからね?」
と、少女は今回の一件を振り返り、疲れきった様子でそれをよく見ない内にさっさとサインをした。
「ふむ。ご記入確かに確認させていただきましたぁ♪ふむふむ?「レイカ=リ=フルール」様ですか。ほうほう。して!此度のご来店ありがとうございましたぁ♪それでは"また"。ホホホ~」
(そしてしばらくの後。フルール家 レイカの部屋)
レイカはこのオルレニア王国の騎士家。その長女である。騎士家のため、家は厳しく…はない。
普通に裕福な家庭である。
「結局、タダで貰っちゃったけど…ただの帽子よね。これ。仕掛けとかされてるなんてことは無いよね?」
だが、今日は疲れている。
この帽子について考えるのはまたの機会にしよう。ましてや、見た目はかなりお洒落なのだ。そう言う意味では使えるかもしれない。そう判断を下し、帽子をいつも使っている自室の机に置き、灯りを消して床に着いた。
(翌日)
日曜日。休日のレイカの朝は予定が無い限り遅い。
朝10時くらいに目を覚ました。
「.......」
目を覚ましたレイカの目の前には先日訪れた奇妙な帽子屋。その店主から渡された「風来帽」がある。
「一応今から行きたいところがあるし、被ろう…かな?」
こうして、レイカはお気に入りの外出の普段着を着込み、「風来帽」を被って外に出た。その時レイカは被った瞬間と外に出た時。この二つをすることでなにかが起こるかもと危惧していたが、帽子は反応を示すことはなかった。
「これと言って何も無いわね…この帽子。良かった…普通の帽子で…」
ほっと一安心。と帽子を一撫で。同時に
「そうとなればまずは近くの果物屋さんへ」
と口にしながら店へ向かって駆け…出そうとしたその時であった。
「へ?」
浮いた。何が?
「何で…?え、私浮いてる?」
そう、レイカが。
そして次の瞬間!
「うきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
よく飛ぶよく飛ぶジェットのように。大袈裟に。
天高くレイカは天高く空中へと放り出された。
「えっ!?えっ?」
戸惑う。
そして今度は辺りを見渡す。
空がある。下には自分が住んでいる街。
「今度は…お、落ちるぅっ!?」
今度は急降下。一貫の終わりと言わんばかりの高さから、恐ろしい勢いでレイカは街に落ちていく。みるみる内に街の道の床が近くなる。
「ひぃぃぃっ!?」
ーフワリー
あまりの恐怖に目を閉じていたレイカだったが、痛みはなく。気がつけば果物屋の前に立っている。
「…?」
突然の出来事だったため、言葉を発する事叶わず。そこに立ち尽くすレイカ。そこに
「おやおや!レイカ様ではありませんか!先日はどーうもぉ♪」
と、聞き覚えのある声がレイカを呼んだ。
慌てて声のした方を向くレイカの目の前には男が立っていた。しかしー
「あの…どちら様でしょうか?」
その男は黒髪の長身、そして何処でも見れそうなジャケットとジーンズを着込み、ハンチング帽を被った見覚えの無い者であった。
「イヤですねぇ?私ですよ。ホラ、帽子屋の。」
「はぁっ!?あ、あのピピ…ピエロ店主!?」
驚くレイカを見てニカニカ笑う男はおもむろにペンと絵の具を出すと顔を塗りピエロ顔を作る。そう。昨日見たあのピエロ顔だ。
「げぇっ!?」
「ホホホーホー!思い出しました?」
男。いや、ホープは絵の具とペンを拭き取りながらレイカにこう続ける。
「して、「風来帽」はどうです?」
と。
「どうですもなにも…」
「そちら。先程その効果を体験なされたようですが、「行きたい場所」に高速で移動すると言う代物でして。ついでに風の属性に耐性が付いちゃいます!これでお買い物などは楽チン!風のピクシーさんの様なイタズラも~?無問題!」
説明を終えたホープは輝くような目でレイカを見る。
レイカはそれに少し引きつつも、すぐに切り返す。
「こんな危なっかしいモノ要りませんから!返します!」
強く返したレイカ。
「えー?それは出来ませんねぇ。」
しかし返ってきたのは即答でこれだった。
「何でですか!?」
「なぁんでもなにも。昨日お帰りになられる際に書いていただいた紙に詳細が。ホラ☆」
「は?」
そうしてレイカに手渡された紙。
おっかなびっくり。目を見開いてレイカは内容を読み上げる。
「この帽子を受け取った私は、今後、この帽子屋。「希望屋」の看板役として活動することを此処に約束致します。発行…帽子の希望屋店主 ホープこと「クロウ=マッド=フェイス」…」
読み上げられた内容に笑みを溢す帽子屋の店主。
そしてその前で書類を見ながら震えるレイカ。
「契約書はちゃんと目を通さないと怖いですねぇ。にょほ☆」
「のぉぉぉぉぉぉぉっ!」
かくして、奇妙な帽子屋と少女の物語が始まるとか始まらないとか。ホホ。