4代目カウル②
大樹の間から最初の一体目が姿を見せる。
すかさず俺は右小手弓を発射。小矢は『氷矢』。左手には追加の小矢を2本を指に挟んでいる。
ファングウルフの左前足に当たり、地面ごと凍りつく。1匹足止め完了。
直ぐ様、2本目の小矢をセットし、次の標的。
二体目ファングウルフの右目にヒットすると、仰け反って動きが止まる。
3本目の矢をセット・・・っと、やっぱり間に合わないか!
三体目が跳躍し、牙を見せながらスパニトスを目掛けて襲いかかる。こいつはスパニトスに任せるとして・・・っと、もう一体もすでに後ろからスパニトス目掛けて飛びかかってる。
4体目に右小手弓を向けるも、ファングウルフのスピードの方が速く、間に合わないな。
さて、ミルラはどう動くか。
3体目はスパニトスが両手剣で攻撃を受け止めている。何とかファングウルフのスピードにもついていけたようだ。
あと少しで4体目の牙がスパニトスに届くか否かというタイミングで、鎖のついた鎌がファングウルフの眉間に刺さる。
ミルラの鎖鎌、ナイスタイミング。
それならば・・・俺は右目が凍っているファングウルフの右足に3本目の小矢を放つ。
これで2体の動きは完全に封じた。
後はスパニトスとミルラの動きを見ながらアシストしよう。
背中の複合弓を取り、矢を番える。この矢は小矢ではなく、ちゃんと殺傷能力のある矢だ。
一体目のファングウルフの延髄目掛けて、射ち放つ・・・命中っと。
残りは三体。
追加の矢を番えておいて、2人の動きを見ながら、アシストに徹する。
スパニトスは15歳で1年目団員、ミルラは16歳の2年目団員だ。
後輩達の指導も含めて支援してくのが、俺達先輩団員の仕事でもある。
20歳にして、俺は14年目団員だから。
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「む・・・息子を討伐団員に?」
2代目の申し出に、父さんは見るからに動揺していた。
「あぁ。本人の意思も確認した。」
「まだ、若すぎるだろ!」
「若いが、基礎能力はある。お前が息子を本部に来るのを止められないくらいな。」
「そりゃわかってるけどよぉ。でも、危険だろ!まだ6歳なんだぞ!!」
「正直、私は『流石、お前達の息子だな』と思っている。」
物凄い拳骨を頭にくらって、俺は泣きながら隣の部屋のベッドに横たわっていた。
そんな俺にも、2代目と父さんの言い争いが聞こえてくるくらい、父さんは俺の入団を反対していた。
二人が大きな声で言い争ってる声を聞きながらいつしか寝てしまい、朝になった。
朝には2代目はおらず、居間に行くと父さんが椅子に腰かけていた。
その父さんが、起き抜けの俺に話しかけた。
「父さんと母さんが相談した結果、カウルの入団を許すことにした。ただし、約束を守ってくれるならば、だ。絶対に父さんと母さんより先死ぬな。それを守れるなら父さんも母さんも応援する。」
「・・・うん。約束する。」
その日、俺は訓練団員生になった。
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結局、足を凍らせた二体は俺が頚椎を複合弓で撃ち抜いて、残り二体はそれぞれミルラとスパニトスが絶命させた。
5分以内に終わったから、問題ない。
「やっぱり4代目の小手弓の精度は凄いです。僕にはあんなに正確に射てません。」
「まー、長年やってるから。あ、ミルラは前足持ってね。」
駆った四体のファングウルフを箱の中に放り込む。
蓋をしてボタンを押すと、ポンッと2cm四方の小さな箱へ変わる。
これは小箱という3代目イチオシの発明品。
原理はさっぱりわからないけど、箱の中に入れたものごと小さくなったり元の大きさに戻したり出来る謎の小箱だ。
大森林でバースを倒しても、解体する場所がない。あったとしても、解体中に血の匂いに誘われたバースが寄ってくることも多い。
過去、何十人も解体中に命を落としたそうだ。
この小箱により、討伐率も回収率もあがったし、何よりも危険が減った。
その分、帰ったら大量の解体をしなければならないのだけどな・・・・。
その後もファングウルフやナーフェルボアに出くわしながらも、珍しい草や新種の花を見つけつつ、2時間が経過したので本部へと戻った。
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解体を終え昼食。
昼食は有料。今日は日替わり定食Bにしよう。A定食もB定食も一律2G。
俺達の給料は月末に渡される。基本給は100G。それに能力給+売上給+貢献給ってのが加算される。これは経理班の2代目が計算している。
俺の手取りは200~500Gと、月によってバラバラ。今月はどうなるのかなぁ。
昼食を済ませて、武器や道具の整備を鍛冶班に任せた後、14時からは巣のキラーアント討伐が始まる。
これは朝の大森林メンバー9名で向かうのだが・・・。
「4代目は参加するなよ。」
2代目からストップがかかる。
「お前、今日から4代目なんだから、他の仕事があるんだ。1日10体のアント討伐は他の団員に任せろ。」
そうなのか。俺、午後も動くと思ってたのに肩透かしをくらった感じだ。
「4代目は連れていく。8人で作戦を練り直せ。」
そういうと2代目は、団長室へと俺を連れてきた。
「これからお前は午後からここで書類仕事だ。マロラは逃げ出したが、カウル・・・お前は逃げないよな?」
スッゴい圧力と目下に見える書類の束・・・。うん、逃げられないね。
そして今日から午後の仕事はキラーアント討伐から書類仕事に変わった。
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定時報告会の時刻。
俺が4代目として参加する初めての報告会だ。
皆の報告・・・書類仕事をした後だからだろうか、昨日よりも各支援部門の苦労がよくわかる気がする。
ヒラ団員の時は、支援部門の報告に『へぇーそんな事今してるんだぁ』とか、『どちらもやってみればいいのに』なんてサラッと聞いては思っていたんだけど。
実際の予算や費用、トラブルやら人件費やら・・・そういうのを書類にて触りだけは知ってしまった今、古参団員や2代目の苦労がなんとなくわかった。
それでも今日、俺がやった書類仕事っていうのは『承認』って所に俺のサインと団の印を押すだけ。
書類には一応、目を通すけど繋がりや用語がわからない。さのわからない用語が出る度に2代目に聞いていたのは最初だけで、後は黙々とサインを書いては印を押していった。
「サインと印をしてもらうだけでも効率はいい。」
今までは2代目が『3代目マロラ』って書いて、その下に『代筆 2代目フィルム』と書いては印を押していたそうだ。
3代目が面倒な書類仕事を投げ出したくなる気持ちわかるけど、この仕事してる2代目見ちゃうと投げ出しちゃ駄目だと思うわ。
俺もちゃんと内容を理解してサインをかけるようになりたい。
わからない単語や内容は全てメモしておいた。絶対に後で調べよう。
定時報告会の話に戻る。
それぞれ報告が終わった後、最後に俺が会を閉めなきゃならない。
「えー、これで報告会は終了です。ただ、終了後にアントクイーン討伐作戦のシミュレーションを模型を使って確認するので、討伐部門の関係者は残って下さい。以上、解散。」
そうして定時報告会は終了した。
広い机の上に巣の模型を置いて、作戦の確認と当日の動きを確認しなきゃ・・・「4代目ぇー!!」
「はい?」
「昨日の話の続きも、勿論するよな?」
グイグイとキラキラした目で俺に攻め寄る討伐部門の面々。
・・・・・・今日も延長戦が長くなりそうだ。