4代目カウル①
ナウ大森林から5キロほど離れた所にポツンと建つ3軒の家。その中でも一番小さい家に俺の両親が住んでいた。勿論、子供の時・・・10歳までは俺もそこに住んでいた。
生まれた頃、俺と遊んでくれるような同じくらいの子供はいなくてさ。農作業に忙しい両親も俺に構っている時間はないから、暇してるヒューストン婆さんとヘィーロ爺さん・・・一番デカイ家の婆さん爺さんが昼間は俺を構ってくれた。
ってか、ほとんど二人が本を読んでくれたり、字を教えてくれたり、木登りや料理や掃除・・・うん。ほとんどこの二人が教えてくれたようなもんだ。
だけど俺が4歳の時に婆さんが死んで、後を追うように爺さんが死ぬと、昼は俺一人きりの時間になった。
両親は昼こそ構ってはくれなかったけど、朝と夜はこれでもかっ!っていうくらい一緒に遊んでくれた。
けど、昼は一人きり。
そんな時、時々家に来る父さんの友達というオンサさんが、暇してる俺を連れてきてくれたのがこの討伐団本部だった。
オンサさんも昔は討伐団員だったんだけど、今は家業を継いで討伐団のサポートをしているっていう商人だ。
今でも時折、ここに商売しに来ているし、たまに俺とも会ってくれる今でも大切な恩人の一人だ。
そんなオンサさんに討伐団本部に連れてきてもらい、初めて見る建物や色んな種族の人に、俺は大興奮。
みんなに構われて、すごく楽しかったのを覚えている。
その次の日から、俺は一人でこの討伐団本部に来るようになった。
「一人で来たら危ないだろ!」
と、2代目から強制送還されることもあった。
父親から、
「討伐団本部に一人で行っちゃ駄目だ。父さんと一緒の時だけだ。」
と説教を受けたけども、父親が俺を連れていく時間がないのは子供の俺にもわかっていた。
だから、こっそり毎日通っては父親が農作業を終える前にはしれっと帰宅みたいな生活を毎日毎日していた。
父親に見つかりそうになる度に、『どうやったら抜け出せるか』を子供自分なりに考えて、あの手この手で通いつめた。毎日が鬼ごっこみたいなもんだ。
そのうち、討伐団員・・・まぁ今の古参達が現役で討伐してた頃、色々な事を教えてくれるようになった。教えてくれた人の中には死んでしまった人もいっぱいいる。当時の俺にはわからなかったけど。
皆が構ってくれるから、俺もそれが楽しくて、色んな人について回っては、遊んでもらっていた。
毎日毎日、少しでも長く討伐団本部にいれるよう、子供なりに頑張っていたのさ。
3代目が就任した日、2代目に『今日こそは俺が家までで送って、お前の父さんに文句を言ってやる』と言われて捕まった。
父さんに叱られるかもしれない恐怖で俺は帰り道の道中、ずっと無言だった。その道中で、2代目に言われたんだ。
「カウル・・・。お前、俺達の仲間に入りたいか?」
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現時刻は5:12
俺は今、朝の鍛錬真っ最中。
俺達討伐団員のスケジュールは休みの人以外、ほとんど皆同じ。
大体5時迄には起きて、支援部門は各々の仕事準備。討伐部門は朝鍛錬。
6時頃に食堂で朝食(団員は無料)を食べ、8時から討伐部門は大森林、支援部門は作業開始。
因みに食堂では6時から9時までは主食おかわり自由の朝定食。15時までは2種類日替わり定食。18時までは選択夕食になっている。
選択夕食というのは、パンかご飯の主食に、6~8種類ほどの副菜と2種類の汁物から自分で食べたいものを食べたいだけ選択して食べるっていう方式。
団員は朝と夜は基本無料だけど、昼食と甘味・酒は団員も有料。
俺はいつも4時に起床して、朝はストレッチとランニングと筋トレ。水浴びして汗を流した後、6時から朝食を食べる。これが14年間毎日してきたスケジュール。
そして4代目になったらしい今日も変わらず同じスケジュール。
「はい、朝定食。」
準団員のおばちゃんから朝食を受けとる。今日の朝定食は具沢山味噌汁と漬物と焼き魚、それに山盛りご飯。
『朝はキチンと食べて、食物からエネルギーをとるように』と訓練団員生時代から言われ続けているので、特に苦もなく食べきる。
食後、部屋に戻って装備を身につけてから食堂に戻る。
「おはよー!カウルじゃなかった、4代目!」
「おはよー。」
今日の勤務メンバーがちらほらと集まっていた。
出発20分前には必ず全員集合。そこからくじ引きが始まる。
筒の中には『1』『2』『3』の数字が書かれた棒が入っており、同じ数字のメンバーで大森林へと向かう。
『1』は北路『2』は中央路『3』は南路。
俺の番号は『2』、今日は中央路か・・・。中央路はバースが多いからハズレ番号。
「4代目、よろしくお願いしまーす。」
「僕も『2』です。よろしくお願いします。」
今日の出勤者は12人中9名。3人は休日。大森林には3~4名がチームで行動する。今日は3人行動。
チームになったメンバーと、チームリーダーを決めて持ち物の確認をした後、軽く打ち合わせをして、8時にはそれぞれ決まった路を出発。
『2時間で進めるところまで進みつつ、採集やバース討伐をし、2時間たったら本部へ帰る』のが決まり。
「じゃあ行きますか。」
チームリーダーの俺。あと魚人族のメーホーンと、竜人族のスパニトスが今日のメンバー。
俺達3人は中央路へと走り向かった。
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移動中は俺とメーホーンが採集物チェック、スパニトスがバース警戒。スパニトスはゴーグルを常に『バース察知』というモードにしての移動だ。メンバーによっては役割を変える事もある。
「カウ・・・4代目、あそこに『マツタケノコ』が生えています。」
「オッケー。じゃあメーホーンは採集、俺は後ろ、とスパニトスは前のバース警戒ね。」
採集中は採集者が無防備になるため、他のメンバーでこうやって警戒する。
メーホーンが採集し、採集した場所の位置をメモ。
採集した位置がわかるのは開発部が作った『距離測定機』のお陰。これは本部にある大本の機械からどのくらい離れたのか計測してくれる機械。時測計と同様、一人一台持っているし、大森林に行くときは必ず持っていかなくてはならない。勿論、3代目の発明品。
これがあるから大森林で例え一人ではぐれたり、チームで迷ったとしても、距離測定機の目盛りを頼りに本部へと戻ることが出来るからだ。
無事採集を終え、中央路を先に進む。
中央路と言っても道があるわけではなく、ただ広い大森林の真ん中、巨大な木々の間を散策しているだけ。
「あ、あの木の所に『コウショフラワー』だ。俺が取って来るから、二人は警戒よろしく。」
左手を突きだして、手首と中指を曲げる。右小手弓と同様、左中指にはめたリング、これにより中指の動きをトリガーにして矢を放つ事ができるのだが、右の小手弓とは性能が異なる。
右小手弓は特殊矢を放つ物だが、左小手弓は矢が伸縮性の強化ゴムと繋がっていて、矢を射ったら伸長し、5秒たつと収縮する。矢じりのアタッチメントの種類を変えることで色々な場面で重宝する。
右小手弓から発射された矢が太い木の枝に刺さる。引っ張ってもびくともしないから大丈夫。
5秒。
ゴムが収縮し、俺の体が宙に浮き、矢元へ引き寄せられ、無事に太い枝に到着。アタッチメントのボタンを押して、矢を木から抜く。
はい、採集完了。採集は5割、半分は必ず残す。袋に入れて、座標を確認してメモっと。オッケー。
さてと、飛び降りてもいいんだけど・・・ちょっと高いな。近くの木幹に右小手弓を発射して・・・っと。
無事、地に足がつく。
いつもこんな感じで大森林捜索を進めている。
「4代目、バースの反応。僕の前方、約・・・20m先。5体。」
俺もゴーグルを『バース察知モード』へと変える。
赤いぼやっとした塊が5体。うん、バースだ。大きさや形からファングウルフだろう。こちらに近づいて来ている。
バース察知モードはバースの姿を捉えることはできるけど、木等の障害物は全く見えない。これもいつか改良版を開発してくれると嬉しいんだけど・・・。
とりあえずモードを戻し、2人に指示。
「打ち合わせ通り、最初はスパニトスは前衛でメインのアタッカー、ミルラは後衛でアタッカーのサポート、俺は遊撃でアシストに回る。会敵して3分後にスパニトスとミルラは交代。5分で殲滅出来なければ一度撤退だ。」
「はい!」
「わかりました。」
会敵。
やっぱりファングウルフだ。