4代目
シーンと静まる食堂・・・・。
あれ、俺、何を口走った?
「・・・え、あ、うん。そういう風に感じたの。それは、うん。どう解釈すれば・・・いいのかなぁー」
あの3代目が動揺している。
しまった!
つい口から出てしまった。
「囮班から報告しまーす!」
ヘリュがすかさずフォローを入れてくれた。
その後も通常の報告がされながら、俺も冷静になる。偵察班の話をする頃には淡々と事実だけを説明。マッピングを担当したテッチョから、図面と模型も提示された。
あと、クイーンアント護衛が14体いたことから、兵隊が126体、遊撃が14体ほどいると報告。
囮班の闇溜まりから出たファントムベアーに5体ほど潰され、囮班が12体駆逐したので、現在の個体数は約137体。
闇溜まりから出るバースの事も考慮しつつ、護衛数を減らしておきたいので、1日10体ずつ討伐。1週間後に70体討伐出来れば護衛数は6体ほどまで減るだろうと予測。
『1日10体も駆逐したら、闇溜まりからのバースにアントが対応できないのでは?』という意見があったが、『卵の羽化』時間を考えると、時間はかけられない旨を説明。
話し合いの結果、クイーンアント討伐作戦は8日後ということに決定した。
その日は計画通り支援部門や引退団員も総出で、討伐部門のバックアップをしてくれるそうだ。元々それコミの計画だったから、計画立案者の俺としては助かった。
あとは7日間のシフトとスケジュール確認をし、討伐日の具体的作戦行動内容は、明日の定時会議へ持ち越しとなった。
俺の最初の発言は見事になかったものにされ、いつものように定時報告会は終わろうとしていたのだが・・・
「最後に私と2代目から報告事項がありまーす!」
3代目単独だとどうせろくでもないこと。でも2代目も絡むということは、真面目なやつだ。
俺達は団長の方を向く。
皆の視線を集めた3代目。スッゴい笑顔。
「はい、じゃあ伝えますね。これ、決定事項だから。今日で私は団長やめまーす!」
はぁ!?何言ってんの!?
やっと最後の親玉を倒せるってところまで来てるのに!
「んでぇ、4代目はカウルになりましたー!拍手ぅ!!!」
はぁ?
拍手されている音はする。
けど感覚がついていかない。
「あれ?なにその顔。2代目からお願いしてくれたんじゃないの?」
されてない。
「『頼んだぞ』と伝えたら『はい』と了承した。そうだよな?カウル。」
いやいやいや、そうだけど!そんな会話したけど!違うよね!?2代目主語とかなかったよね!?
あの会話の流れから『フォレストアント討伐作戦は』だと思うじゃん!
「カウルゥおめでとー!!」
「これからよろしくなぁ!」
この皆の驚いてない感じ・・・
「皆、知ってたんだろ!!」
そう叫ぶ俺に一同頷く。
グルかよ。皆グルかよ!!
「そりゃ団長を選ぶんだもん。みんなの意見くらいきくわぁー!」
まるでドッキリ大成功みたいな顔して笑う3代目。
「今日の作戦が成功したら4代目就任って話になってたんだよ。」
ヘリュ!貴様だから報告書を先に書いてくれたり、妙に優しくてテンション高かったのか!
今思えばドボルボさんもモモラさんも・・・いや、すれ違い挨拶する元団員さん達もやけに笑顔だったのか!
てっきり、クイーンアント確認作戦が成功したからだと思ってたのに!!
騙された!
「元々、2代目と3代目になるときに約束してたのよ。フォレストアントクイーンを倒す算段がついたら団長は引退するってね。まさかこんなにかかるとは思わなかったけど。」
「私もマロラ・・・3代目の申し出を受け入れた上で団長に任命した。実際、3代目の発明がなければ恐らくもっと長い時間がかかっただろう。」
ガヤガヤしていた団員達が一瞬にしてシンっとなる。
俺も今日、クイーンアントを見てから、歴代の団長や団員達の30年間の軌跡に思い、考えていた。
「カウル、3代目が最初いつからお前に4代目を任せようと思ったか、教えてやる。」
2代目がニヤニヤしながら俺に言う。
絶対、あの顔は『今朝だ』っていう顔だ。
「お前が6歳の頃だ。」
全然違った。
ってか、え?・・・6歳?
「カウル。お前、6歳の時の事、覚えてるか?」
・・・確か3代目が就任したのが、俺が6歳の頃。
こっそり就任式をやってたこの本部に忍び込んで・・・。初めて2代目を見たんだ。
「あの時、マロラになんて言ったか覚えてるか?」
うん。
「全く覚えてないです。」
古株達が口を押さえて笑ってる。そうだよな。支援部門は皆、俺が子供の頃から顔見知りだ。
「3代目が就任した翌日にな、お前は『僕が大きくなったら必ずフォレストアントの王様を倒すから、それまで頑張って』ってよ。」
「言ったぁ!?俺が!?覚えてないんだけどぉ!?」
ついに心の本音が口から出てしまった。
「言ったのよ。だから私、カウルが大人になった頃迄には『場』を整えようと思って開発しまくったのよぅー!よかったわぁ、ギリギリ間に合って。でも、まぁ理由はそれだけじゃないんだけどね。」
・・・・・えぇぇぇぇぇぇぇ。
「あの頃、カウルは毎日走って遊びに来てたもんね。」
「可愛かったわよねぇ。ほら、私が怪我したときに包帯をさ・・・」
古参の御姉様達が俺の覚えていない子供の頃エピソードを話し始める。
やめてくれ!
「俺が大森林に行くときに、まだ4歳のカウルがこっそりついて来たことがあってな。」
それは覚えてる。が、そのあと初めて見たバースに・・・お漏らしして川に投げ込まれた・・・記憶が・・・って、言うな!それ言うな!
「え!聞きたい!カウルの小さい頃の話!」
「あ、俺も!」
うぅぅぅぅぅ、俺の子供時代黒歴史暴露があちこちから聞こえてくる・・・。古参団員、恐るべし・・・。
「ほれほれ!まだ会議の途中だ!」
パンパンと、手を鳴らしたのは総務部部長のモートーンさん。この団員の中でも最年長者。
「『いっぱい食べてね』と泥団子を差し入れてくれたあのカウルが就任する嬉しい気持ちは俺も同じだ。」
なにサラッと俺との幼少黒歴史を出してんだよ。
「まだ会議の途中だ。3代目、さっさとこの場を収めて、会議を終わらせなさい。」
「はーい!じゃ、明日からカウルが4代目ってことなのでよろしく!時期が時期だから就任式とかお祝いパーティーは8日後にやろうね!」
8日後は、作戦決行日・・・。3代目は俺の作戦、信じてくれてるんだな。
4代目就任にも拒否権はないんだな。
「じゃ、定時会議終了!!」
2代目と3代目が去り、こうして怒濤の定時会議は終了。古参団員もそれぞれ自宅へと帰っていった。
残るはこの本部にある寮暮らしの討伐部門団員のみ。
「さーてと、カウル!ちょっとさっきの話、聞かせてもらおうか。」
・・・延長戦が始まった。