君はどんなゲームが好きだい?
『君はどんなゲームが好きだい?』
突如として流れた放送は一瞬にして教室の空気を変えた。
「ぷっ、あはははは、なんだよこの放送っ!!」
「ええー、だれー?知ってるー?」
「こいつ絶対終わったな」
「ってか先生まだ来ないのかよ」
「これのせいじゃね?」
バカにする声、混乱の声で教室は溢れかえっていた。
こうなる十五分前ーーー。
俺はいつものように都立第一高校の門を潜り、二年二組の教室に足を運んでいた。
お、あの後ろ姿は...。
「よ、透っ!」
「びっくりしたぁ。なんだ、颯かよ。今日は朝からテンション高いな」
こいつは俺の幼なじみの渡辺透。
家が近く、幼稚園から一緒の大親友だ。
顔は悪くないけど、頭が悪い。
ただ、変なところで勘だけはいいんだ。
バカだがアホではない。
だからかな、俺の気が合うのは。
「ん?分かる?実はな、今朝マガ〇ンを買ってきたんだよ!!先週はいいところでおわったから待ちきれなくて!今から休み時間が楽しみだよ!!」
「漫画、持ち込み禁止じゃん。見つかったら取られるよ」
「何言ってんの。週刊って書いてんだから雑誌だよ。漫画じゃないよ」
「屁理屈だ...。ってかさー、今朝、禿山居なかったくない?」
「ん?あーたしかに」
禿山はその名の通り禿げている先生の一人だ。
毎朝、校門の前に立っており、風紀を乱す者や遅刻をする者がいれば即座に指導する、言わば門番のような教師だ。
そんな禿山が今日だけ見当たらなかった。
「珍しいよね」
「寝坊でもしたんじゃね?」
「お前じゃないんだから」
「なにを?!俺はまだ一回も遅刻はしていない!」
「先週のやつアウトじゃなかったのかよ」
「冬ちゃんに何とか頼んだらセーフになった!」
「ほんと、無駄なところで頭回るよな」
「ふふん!天才と呼びたえ!」
「はいはい」
こうして俺達は席につき、ホームルームのチャイムが鳴った。
担任の冬ちゃんこと、小峰冬美先生は少し抜けているところがあって、いつも三分ほど遅れてやってくる。
だが、今日は五分を過ぎても教室の扉が開くことはなかった。
「冬ちゃん遅くない?誰か呼んできてよ」
「えー、そーゆーお前が行けよー」
「ええ?!やだよ!」
「ねぇー、委員長行ったら?」
「も、もう少し待ってみようよ。な、何か用事があるのかもしれないし....」
こういう時、俺はいつも無関心を貫いている。
俺は人並みには明るい性格だと自己評価しているが、陽キャではない。
良くて、陰キャのリーダー的キャラだ。
嫌ではない。
寧ろ自分からそういうキャラを演じているのだ。
なぜなら今のような時に自分に白羽の矢が立つのが嫌だからだ。
キャラ的にもポジション的にもこの教室からは確立しているつもりだ。
俺の席は一番前だが、窓際という素晴らしい場所である。
この席は、教師からすれば視界の端に位置し、最も当てられにくい。
加えて、陽キャ達がワイワイしているなら、空を見上げて時間を潰れるという、今の俺にピッタリな席だ。
そう、いつもと何も変わらない日常だった。
ある一点を除いて。
それは一瞬の事だった。
『〜〜♪♪』
突如、放送機器から流れ出したファンタジー系RPGのような曲。
誰もが唖然とし、顔を伏せていた者でさえ、起きて周りを見渡すほど、それは奇妙な光景であった。
そして、一分ほど流れた後にこの言葉である。
『君はどんなゲームが好きだい?』
こうして、今に至る訳だが、教室の皆が困惑する中、放送の声の主はこう続けた。
『うんうん。みんな質問が多くて嬉しいよ!まずは、そうだね...。誰?何者?について答えようか。僕はこの教室をハイジャックしたゲームマスターだ。名前は....うーん....安直だが"ますたー"とでも名乗っておこうか。あ、僕の姿を見せてなかったね』
その瞬間、黒板に映像が映し出され、そこには道化の仮面を被った同い歳ぐらいの子がいた。
声が高いから、もう少し幼いと思っていたが...。
『さて、次の質問だ。えーと、教師はどうしたについて答えよう。教師の皆様には僕のゲームの最初の犠牲者となってもらった!既に死体はこの世から消えているはずだよ』
「「え?」」
『ふふふ。そう、これはゲームだよ!僕はゲームが大好きなんだ!!プレイするのも、もちろん好きだが、最近は誰かがプレイしているのを観戦するのも楽しいと思っている。早速だが、君達にはこれからゲームをしてもらう。お題はこちら!!』
【コントロール】
『ルールは簡単!これから指名するリーダーの元に集い、ベースキャンプを拠点にターゲットを破壊もしくは死守すること。勝利条件はターゲットの破壊に成功するか、相手を全滅させれば勝ち。これを一ラウンドとして三ラウンド先取でゲーム終了だよ!何か質問はあるかな?』
「は、破壊とか全滅ってどうしろって言うんだ。俺達は武器なんて持ってないんだぞ!」
最初に声を上げたのは須本蓮。
自己中心的で喧嘩っパヤく、後先考えずに行動するやつ。
今も訳の分からない状況に切れているっぽい。
『武器はこちらで用意してベースキャンプに置いてある。様々な種類があると思うから好きな物を使ってくれ。他に質問はないかな?』
「は、はい。負けたチームはどうなるんですか?」
次はこのクラスの委員長の佐々木雫さんだ。
基本一人で本を読んでいるイメージだが、成績はこのクラスでトップの実力者。
根暗ではあるが、文化祭などの決め事では司会を務めて、クラスをまとめられる優等生だ。
『さすが委員長ちゃん!!良い質問だね!満点をあげたいところだよ!だけど出来ないからとりあえず、質問に答えようか。負けたチームはね、ズバリ!死刑となります!』
「は?」
「え?うそ」
『嘘じゃないよ、ほんとだよ!』
仮面越しでも分かるニヤケ切った顔に腹が立つ。
どういう事だ?
今からゲームをして、負けたら死ぬ?
おいおい、何の冗談だよ。
エープリルフールはとっくに過ぎてるっていうのに。
だが、それとは裏腹で、今の状況にワクワクしている自分がいた。
「ふ、ふざけんなよ!!」
「し、死にたくない...」
「そうだ、警察!警察に電話して...」
『ぶっぶ〜〜〜!ざんね〜ん、できませ〜ん!言ったでしょ、ハイジャックしたって。この場での電子機器やあらゆる連絡手段を制限しています!唯一使えるのは僕が用意したものだけ』
この言葉には誰もが絶望の表情を隠せない。
『さて、そろそろ質問も無さそうだし、ゲームを始めようか!じゃあ、まずはリーダーを指名するからそれ以外の人達はどちらのリーダーに就くか決めてね。ではまず、篠原蒼太君!』
篠原蒼太。
こいつは誰が見てもクラスの中心と言える人物だ。
高身長でイケメン、それに学力もそこそこ高いと来た。
文句の付けようがない男だ。
聞いた話だが、陸上部の主将として上手く部員を取り仕切っているらしい。
その事からリーダーとして抜擢されたのだろう。
『もう一人は...森崎颯君!』
え、俺?
「なんで、あいつがー?」
「俺、話したことないんだけど」
ごもっともだ。
どうして俺が?
『さぁさぁ、五分後にはゲームを開始するよ!みんなそれぞれリーダーの傍で待機しててね!それじゃ!』
そして、画面は黒く消え、【コントロール】の文字だけが残った。
「あ、あたし、蒼太君の所行こっと」
「俺も俺も!」
クラスの中心大半はすぐ様、篠原蒼太の傍に集まった。
当然の結果だ。
クラスの端くれか中心人物か、俺だって選ぶ側なら中心人物に即決だろうな。
「おいおい、そんな湿気た面すんなよ!」
俺の顔色を伺ってきたのは幼なじみの透。
「私もあなたに就くわ」
さっき凛々しく質問をした委員長。
まさか俺の方に就いてくれるとは...。
他にも、片岡、池田、森川、林道さんに秋山さんまで。
「みんな...ありがとう」
意外な事にも、俺のところに七人も集まってくれた。
だが、三十人のクラスで七人がこっちということは俺と篠原を除いて、残る向こうは二十一人。
圧倒的トリプルスコアだ。
正直勝てる気がしない。
それに、負けたら死刑なんてみんなの命を預かるようなもんだ。
本当にいいのか?俺の方で....。
「みんな....」
「森崎君、ちょっといいかな」
俺の提案を上書きしてきのは、もう一人のリーダー、篠原蒼太だ。
なんだ、なんだ?
まさか負けてくれとか言いに来たのか?
「どうした?」
「少し考えたんだが、お互いに一ラウンドずつ取って最後は引き分けにするってどうかな?」
引き分け?
確かに、ゲームマスターは負けたチームは死刑と言っていた。
どちらも負けなければ、あるいは...。
『またしてもっ!ぶっぶ〜〜〜、ざんね〜ん!引き分けなんてつまらないじゃん!その時は全員、死刑だからっ!』
こいつはどうやら何があっても人を殺したいらしい。
「森崎君、さっきの提案は忘れてくれ。俺たちは絶対に負けない」
はい、出ました手のひら返し。
絶対に負けないって、それ俺たちに死ねって言ってるようなもんじゃん。
仲間になってくれるとはすごく嬉しいが、易々と道連れには出来ないな。
「みんな...」
『さて!そろそろどちらに着くか決めたよね!じゃあ転送しまーすっ!』
俺の出かかった言葉は一向に出ない。
仕方ない、始まる前にゲームマスターになんとかしてもらおう。
そう思って俺は目を閉じた。
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