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ユーリはイライラがとまらない

(本当に、おもしろいな)


 チェス盤を挟んで向かいに座っているユーリを見ながらルシファーはそう思った。

 ユーリの番だが、本人は気づいていないのかずっと窓の外を見ている。さっきからずっとそうだ。


 着てしばらくはルシファーとユーリはフィオナ主催のお茶会に参加して少女たちの相手をしていたのだが、頃合いをみて屋敷に入った。

 もっとも、ユーリはロロが気になるのかその場に留まろうとしたが、ルシファーに「君は俺とチェスする約束だっただろう」と言われ、また慣れない少女の相手も大変だったのか、意外とあっさりとルシファーについてきた。

 しかし、チェスにはまったく集中していない。

 ユーリとは何度かチェスをやったことがあるものの、実にユーリはスマートな打ち筋をしている。ルシファーが年上かつ公爵家の人間であり、生徒会長であるからか、常にルシファーに一歩譲りながらも退屈させないようにほどほど強く、たまには「運が良かっただけ」と打ち負かす。ルシファーからすると手加減されている状態は歯がゆくもあるが、何とかしてその余裕を奪い、チェスで本気勝負を挑みたいと思っていた。

 今日の打ち筋はめちゃくちゃだ。何も考えていないのか、ルシファーが圧倒的に有利に立っている。

 ユーリは今眉間に皺が寄っているが、これはチェスに対してではなく、外の様子に対してのものだろう。

 ユーリの視線をたどって、ルシファーも外に目を向けた。

 視線の先にはユーリと同じくルーク公爵邸で居候をしているロロとルシファーが溺愛している兄弟の内の一人のドラフォンがいる。

 ルシファーとフィオナの計らいが功を奏し、二人はお茶会で二人で話しこんでいる。


(…おや?)


 よく見ると、ロロがドラフォンの両手を握って話をしている。

 どうやら、ドラフォンは愛しのロロに健闘しているようだ。

 ユーリの視線は鋭い。射貫くような視線をドラフォンに送っている。

 しかし、これでも無自覚なのだろう。

 この不器用な友人は自分の感情にはまったく無自覚なようだ。

 傍からみると明らかにロロに恋慕を募らせているように見えるのだが、自分では気づいていないようで、ルシファーがフィオナに対して向けるような、親愛の情が深いだけだと感じているようだ。

 もしかしたら、今は本当に親愛なのかもしれない。

 ユーリとて、今8歳年下のロロに対してああだこうだしたいなどといった不埒な感情など持っていないだろう。

 ただ彼の感情はロロが成長するにつれて親愛から恋愛に変わるものだろう。ルシファーの親愛は変わることがないけれど。

 

 ルシファーは親切にその感情がどんなものかユーリに教えるつもりはなかった。

 ルシファーの弟のドラフォンはロロが好きだ。

 兄として、友人のユーリよりもドラフォンの恋愛が成就してほしいと思うのは当然だろう。

 だから、ルシファーはユーリの恋路をこれでもかと邪魔するつもりでいるのだ。


「…ユーリ、君の番だよ?」

 チェス盤を軽く叩きながらルシファーはユーリの注意を戻した。

 あまり外に注意を向けさせていては、いつ「やめる」と言い出すのかわからない。

 なるべくユーリをこちらに引き留めなければとルシファーは思っていた。

「…ああ、すみません」

 ユーリはチェス盤に集中し始める。

 見下ろすと、ユーリの長いまつげが際立った。しなやかな黒髪がチェス盤に影を落としていた。

 思わず、ルシファーはユーリの黒髪に手を伸ばした。

「何ですか?」

 いかにも迷惑そうに顔をしかめるユーリに、ルシファーは苦笑してみせた。

「いや失礼。本当に君は女性のような美しさだね。髪も美しい」

 ユーリの顔が歪んだ。

「やめてください。僕はそんな趣味はありません」

「おや? 俺も女性の方が好みだけど?」

「そうであることを心から願いますよ。未来の公爵家の為にもね」

 ため息をつきつつ、ユーリはようやく駒を動かした。


 コンコン バタン


 慌てた様子でルシファーの部屋がノックされ、ルシファーの返事を聞く前に扉が開いた。

 ドラフォンが慌てた様子で中に入ってくる。

「ルシファー兄さま、花の図鑑を貸して」

「それはいいけど、ドラフォン、ノックの返事があってから中に入ってきてくれ。今客人と真剣勝負の最中だ」

 図鑑のある本棚を指さしながら、ルシファーがやんわりととがめるとドラフォンは気まずそうに顔を赤らめた。

「失礼しました、ルシファー兄さま、ユーリ様。急いでいました」

 すぐに頭を下げる様子は高位貴族にありがちな傲慢さがなく、好感が持てる。

 そう謝ったらすぐに本棚から花の図鑑を取り出し、足早に扉へ向かう。

「ドラフォン、図鑑をどうするんだ?」

「ロロに図鑑で花を教えながら花園を案内するんだよ、兄さま。じゃあね」

 目をキラキラさせて楽しそうに答えると、ドラフォンはいそいそと部屋を出て行った。

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