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お茶会の誘い

 昼はルシファーは生徒会室で過ごす。学生の身とはいえ、この国の三大公爵の一つであるグラフィス家の後継として執務もこなす忙しい彼は放課後に残ることができないため、昼休みに生徒会の仕事をこなすのだ。

 ユーリもそんなルシファーと共に昼は生徒会室にいることが多い。


 仕事がひと段落ついてルシファーが顔を上げると、ユーリが苦々しい顔で窓の外を見つめている。

 よく見ると握りしめた拳の力が強いのか、拳が白くなってしまっている。

「どうした?」

 刺激しないようゆったりとした足取りで近づき、ユーリが見つめていた先を見ると、そこにはロロと学園では有名な魔番まつがいであるリーリアとガイが見えた。

 リーリアとガイはこの国では唯一の光と闇の属性を持つ魔番のペアだ。魔番は魔力ランクがSSAのため、膨大な魔力を相殺するために結ばれたパートナーを指す。魔番の機嫌を損なうとこの国では立場が失墜しかねない上に膨大な魔力を持つ彼らが魔力暴走を起こすと命の危険があるため、彼らはこの学園では孤立していた。しかもガイは不幸を持ち込む『悪魔の化身』と言われる銀髪に赤い瞳を持つ上に顔中に傷を持ち、しかも奴隷である。

 貴族ばかりのこの学園では誰も近づかない。


(そういえば、ロロが彼らと交流を持つって言ってたな…)


 ユーリにはそのことが悩みの種であるらしい。

「そんなに嫌なら、一度ロロ嬢に話してみたらどうかな? 賢い彼女ならわかってくれるんじゃないかな」

「…いいえ。誰と付き合うかまで口出しして、嫌われたくないので」

 そう言って、憂鬱そうにため息をつくユーリ。

 だからといって無視はできないのだろう、瞳はロロにしっかりと留めている。

「…随分、ご執心だねえ?」

 ルシファーの物言いにからかいの色を感じたのだろう。

 ユーリが嫌そうに鼻に皺をよせて反論してくる。

「そういうのじゃありません。彼女はウチで世話している子なんです。何かあったら大変ですから」

 いかにも「仕方ないのだ」と言いたげに肩をすくめる。

「ああ、そうだった。ロロ嬢はユーリにとって妹のような存在だっけ?」

「違います」

 存外に強い声で言い返してくる。

「ロロは…彼女は僕の数少ない友達ですよ」

「へえ? でも額とかによくキスしてるね? それは異性の友達にするものじゃないよ」

「ルシファー様も良く話していらっしゃるじゃないですか。『妹がかわいい』って。それと同じですよ」

「妹ではないんだろ?」


(おかしいって気づかないのかなあ…?)


 ルシファーは意地悪をしたくなる。

「ユーリはいつもロロ嬢を『妹』って表現されると否定するよね。なのにキスは俺のフィオナへの態度と同じっていうの? フィオナは妹だよ、れっきとした血のつながりのある、ね。いくら仲の良い女友だちがいても、俺は額や頬にキスはしないよ」

 『ほうら、おかしいでしょ? 反論してきなよ』と口の端をニヤッと上げてみせる。

「…無理ですよ。そんなので煽られるような幼稚な人間ではありません」

 ユーリはただルシファーがいつものようにからかってきていると思ったらしい。

 馬鹿馬鹿しいとでも言いたげに冷たい視線を投げてよこし、また窓の外を物憂げに見つめる。


(矛盾をせっかく突いてやったのに)


 ルシファー相手では感情があまり動かされないようだ。もともとあまり真剣に話も聞いていないのかもしれない。彼の関心ごとは別にあるのだから。

 

(…まあ、いい。気づかないならそれで)


 何せ、ルシファーの弟のドラフォンはロロのことが好きだ。ロロと話しているときのドラフォンは少し顔を赤らめながら、何とか彼女の関心をひきたくて頑張っている。

 兄としてルシファーは弟の恋路が上手くいってほしい。

 第一、ユーリがロロへの気持ちを認識したら厄介だ。

 その優秀な頭で作戦を練ってくるのだろうから。

 それに、二人はもともと一緒に住んでいるのだから、ドラフォンの方が随分と分が悪い。


(眠れる獅子は起こすべからず、だな…)


 傍から見れば一目瞭然だが、常識人のユーリには想像がついていないのだろう。17歳の自分が9歳の少女に惹かれているなんて。

 この国では政略結婚が普通なので、そんな年齢差はザラである。高位貴族になれば生まれた直後に許嫁がいてもおかしくないし、女性は学園を去る18歳になる前に嫁ぐごともよくある。

 ただ、ユーリは平民なので、そんな感覚はあまりないのかもしれない。


「あ、そうだ」

「…?…」

 何かを思い出した様子のルシファーをユーリが伺いみる。

「今度の日曜日、ユーリも一緒に来ないか?」

「…え?」

「フィオナがお茶会を開くんだよ。ロロ嬢も誘われるはずだ」

 今小さな令嬢の間に社交界のままごとが流行っている。

 自分の母親が茶会などを開くのをまねて、自分も小さな茶会を開き、友人たちを招くのだ。

「一緒に来るといい。お茶会が終わるまで俺のチェスの相手をしてくれよ」

 ユーリは「面倒くさい」と言いたげだったが、ルシファーはこの過保護な友人が自分の目の届かない範囲に溺愛する少女を置くはずがないという自信があった。

「…まあ、送迎するのも、一緒にお邪魔するのも、時間的にはそんなに変わりませんね」

 お茶会に男性は参加できないが、ロロだけの参加でも送り迎えはするつもりだったらしいユーリは一緒にグラフィス家に伺うことを了承するのであった。

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