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登校風景

 俺は、人が恋する瞬間を見たことがある。


 そして、人が失恋する瞬間を見たことも。




「あれ? ユーリじゃないか。おはよう」

「ルシファー様、おはようございます」

 朝、この学園の生徒会長であるルシファーが馬車から降りたら、少し先で同じく馬車から降りてきたユーリと出くわした。


 ルシファー・グラフィス。この国の三大公爵家の一つであるグラフィス家の長男であり、この学園での生徒会長である。高等部3年で、魔力ランクA、魔力属性は火。

 グラフィス家の特徴である、燃えるような赤い髪に青い瞳をした長身で男らしい青年だ。


 ユーリはルシファー率いる生徒会メンバーの一員で書記を務めている。高等部2年。基本的に有力貴族の集まりである生徒会の中で平民ながら1年の時からメンバー入りをしており、かなり優秀だ。

 男にしてはひょろりとした細身の体にまっすぐな黒髪、黒い瞳の持ち主だ。


「おはようございます、ルシファー様。おはよう、フィオナ、ドラフォン」

 ユーリと同じ馬車からなんとも可愛らしい美少女がユーリのエスコートで降りてきた。ゆったりとした柔らかに波打つ金髪に青い瞳、真っ白な肌をした少女はロロといい、ユーリと共に三大公爵家の一つ、マーナ家のルーク公爵の屋敷に住んでいる。


 ロロはルシファーの双子の弟ドラフォン、妹のフィオナと同じ9歳である。

 ロロは平民ながら魔力ランクSで魔力属性は風。フィオナは魔力ランクAで魔力属性は水である。二人は同じクラスで、明るく人懐こいロロと大人しく優しいフィオナは仲が良い。

 ドラフォンは残念ながら魔力がなかった。魔力持ちの多くは貴族から出てきて、魔力持ちは例外なくこの学園に通い魔力の扱い方や魔法を学ぶのだが、魔力持ちでない貴族も通うことができる。その場合は学ぶ内容が違うため、クラスが分かれるので、ドラフォンは二人とは違うクラスだ。ドラフォンは男の子らしいやんちゃな性格だが、フィオナ同様優しいので、ロロはドラフォンとも仲が良い。


 ルシファーとユーリが並んで歩き、その少し前をロロ、フィオナ、ドラフォンが仲良く雑談をしながら歩く。

「ロロ、今日の髪飾りとても綺麗ね」

「ありがとう、フィオナ。へへ、これはこの前ユーリがプレゼントしてくれたんだ。ちょっとケンカしちゃったけど、仲直りのしるしに。髪もユーリが結んでくれたの」

 ロロの髪には彼女の瞳の色と同じ青色のリボンの髪飾りが飾られていた。それはユーリの贈り物らしい。

 3人が賑やかに仲良く歩いている様子をとても優しい眼差しで見ているユーリを見て、ルシファーは思う。


(この男もこんな優しい表情をするんだな)


 第一、あんな小さな少女相手にケンカするなんて意外だ。仲直りにわざわざ髪飾りを買って送る人間だなんて思ってもみなかった。ケンカしたらそのまま放置してしまいそうなのに。

 ユーリは決して愛想が悪いわけではない。どちらかというと、誰に対しても優しく朗らかに接することができる。

 ただ、誰に対しても同じような対応で、彼自身は特別仲の良い友達もいなければ、仲の悪い友達もいなかった。

 飄々として、つかみどころのない男。特に何かに固執することもない。どこか人間味に欠けたところがあると思っていた。

 仕事は恐ろしくできるし、良くも悪くも敵を作らないので物事を進めるには重宝する人間だ。ぜひルシファーの側近として学園の卒業後も傍で働いてほしいと思い、何度も声をかけてきていた。ユーリも声をかける度に「未来のことは何も考えてないので」と、どちらかでもないあやふやにはぐらかすばかりだったのに、ある頃から「将来はルーク公爵の傍で彼を支えるから」とはっきり拒絶するようになった。

 お世話になっているルーク公爵に感謝しての言葉かにも思えるが、それは違うとルシファーは思っている。

 それなら、もっと前からルーク公爵の元に居続けると言ったはずだ。ユーリは固執するような人間ではなかったし、情に流される人間でもなかった。冷たく映るかもしれないが、利を取る人間なのだ。だからこそ、ルシファーも声をかけ続けてきた。じゃなければ既にその他の公爵のもとにいる人間に声などかけない。


 きっかけはロロだ。一年少し前にロロはルーク公爵のところへ来た。

 始めは先に居候していた身であるユーリが仕方なしに世話をしてしていたみたいだが、今は進んで世話をやいている。幼い同居人が可愛くて仕方ない様子だ。


(ユーリ自身は俺がドラフォンやフィオナを構う気持ちと同じだというけど…)


 血は繋がっていないが妹のようなもの。そんな言い方をしていたが。


「じゃあ、ロロ、また授業が終わったら迎えに行くから」

 初等部と高等部の校舎は違う場所にあるため、分かれ道に来たところでユーリはロロにユーリが代わりに持っていたロロのカバンを渡す。

 少しかがんで、その滑らかな髪の感触を楽しむように髪を梳き、

「また午後にね」

 と、ロロの額に軽くキスをする。


(…どう見ても、違うよな…)


 本人は気づいていないだろうが、ユーリのロロのために出す何とも甘い声といい。

 優しいが他の女性に誤解される行為はしない、普段の彼からしたら考えられないような、女性のかばんを当たり前に持つ行為。


(絶対好きだろ、あれは)


 ただ、常識に囚われている彼には8歳も下の少女に恋をしているなんて自分でも気づいていないのだろう。

 そして、ルシファー自身も気づいていないユーリに敢えて彼の恋を教えてあげる気もなかった。

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