8弾:リーン
「(これより支援を開始します、マスター)」
突然、見えるようになった妖精から唐突な宣言。
とりあえず、白昼夢でも見ているのかとほっぺをつねってみるがしっかりと痛みが返ってくる。となると耳に着けたアクセサリーが原因か、いやそれ以外には考えられない。まさか幻覚作用のあるアクセサリーだったとは今ではイヤリングだったものから針が飛び出し、がっちりと軟骨に固定されてしまった後では目も当てられない。
「(マスター、メンタル及びバイタルに乱れが観られます。一度、深呼吸を行い、落ち着くことを提案します)」
俺の動揺の原因からまさか諭されるとはこれ如何に・・・。
しかし、このままでは埒が空かないので言われた通り、深呼吸をして心を落ち着ける。
◇
「(メンタル及びバイタルの正常を確認しました)」
なんとか3分程の精神統一により、冷静さを取り戻した俺は目の前の現実を受け入れて妖精に語り掛けるとする。。
「それで、えーと・・・、俺はなんで急にお前、ピクシーXなんちゃらが見えるようになったんだ?」
「(マスター、ピクシーXなんちゃらではなく、戦闘支援システムAI『ピクシー型Xー001プロトタイプ』です。そして、マスターが耳に着けたデバイスから脳へ信号を送り、視界に私の姿と声を反映させています)」
それは大丈夫なのか、俺にはオーバーテクノロジー過ぎて心配になってくる。
「そ、それは身体に特に脳とかには害はないのか?」
「(害という点については問題ありません)」
「その言い方だと害以外には問題があるのか?」
「(はい。マスターの身体は通常の生身ですのでフルサポートを受けるには身体の強化が欠かせません)」
「それは・・・身体を改造しないといけないってことか?」
「(はい)」
「・・・ちなみにそれはどういった改造になるんだ」
自身を改造するつもりはないが思わず、好奇心から聞いてしまう。
「(例えば、身体全体を機械化すれば、私からのサポートを余すことなく受ける事ができ、人の身では超えられない動きが出来るようになります)」
普通にやべぇだろ、それ・・・流石に自分が改造人間になるとか想像したことはなかったわ。
「ま、まあ、いいや。それでこの生身でも受けられる支援っていうのはあるんだよな?」
「(その問いに対してお答えします。私は戦闘支援システムAI『ピクシー型Xー001プロトタイプ』です。主にマスターの戦闘サポートを行います)」
さっきから名称が長い。長過ぎる。
「(システム名の通り、登録者の戦闘支援を目的に生み出されたAIです)」
戦闘支援と云われても戦いについて、ずぶの素人である俺にはさっぱりである。仕方がない詳しく聞くしかないようだ。
「すまん。戦闘支援と云われても何をしてくれるのかさっぱりなのだが?」
「それについては私もマスターの能力を把握しておりませんのでまずはチュートリアルから開始したいと思います。それではC区画のVー1ルームへ移動しましょう」
微妙に会話が成り立っていないような気がするのは生まれたばかりのAIだからなのだろうかと思いつつ、そんな部屋知るわけもないので案内させる。
移動の最中、長ったらしい名称で呼ぶのは覚えるのも面倒だし、「おい!」や「お前」では感じが悪いのでなんて呼んだらいいかと聞いたところ、俺が決めてくれと言われた。
なので考えた結果、『リーン』と名付けた。
リーンに連れられてきた通称Vー1ルーム。
広さは25m×25mの何もない殺風景な部屋。その中央へと導かれるとリーンが説明を始めた。
「(このVー1ルームでマスターの能力を確認します。まずは【心刃】を発現して的に向かって攻撃してください)」
的なんて何処にあるんだと思っていると床から案山子のような的が現れる。とりあえず、言われた通りに【心刃】を発現して、的に向かって心弾を撃つ。
タァンッ!
乾いた音が部屋に木霊するが的の案山子はびくともしない。
「(攻撃を確認しました。マスターの【心刃】はランクG。有効射程距離は10mです)」
知ってるけど、改めて言われると哀しいものがある。
「(次は身体能力及び戦闘能力を計測します)」
リーンの言葉と共に案山子君は床に引っ込み、唐突に狼の魔獣が現れる。思わず、身構えるがすぐに説明が入る。
「(安心して下さい。目の前の魔獣はホログラムです。これからこのホログラムと戦ってもらいます)」
確かに戦闘能力等を測るならわかりやすいやり方だとは思うが気になることがあるので聞いておく。
「計測方法は解ったがこの部屋で【心刃】を撃っても大丈夫なのか?」
「(はい。問題ありません。この部屋はかなり頑丈に設計されていますのでランクC程度の【心刃】までなら計算上、耐えられます)」
つまりは俺の【心刃】程度では傷ひとつ付かないと言われたようで闘争心が沸き上がる。俺の心情も知らずかリーンは淡々と進めていく。
「(それでは始めますが準備はいいですか)」
俺は無言で頷くと模擬戦闘は開始された。
◇
Vー1ルームには模擬戦を終えて、床に大の字で寝転がり、荒い呼吸を繰り返す俺がいる。
最初の狼の魔獣にはそれほど苦戦しなかったが続いて、虫型の魔物が現れて、それを倒すとまた違う種類の魔獣や魔物との連戦。挙げ句の果てには大型の魔獣や亜人型の高位魔族などと続き、色々なタイプの敵と強さが異なる敵と戦わせられた。そして、リーンによる俺の戦闘力の精査は終わり、評価を告げられる。
「(マスター、戦闘力の評価が終わりました)」
結果が結果だけに正直、期待は出来ない。
「(マスターの総合戦闘力はGランクです)」
ここでもGランクかよと内心でボヤキながら評価の続きを聞く。
「(この評価を受けて、マスターには戦闘力の向上の為、【心刃】の早期強化、基礎支援及び育成プログラムを推奨します)」
【心刃】の強化については元々そのつもりなので言われるまでもないがいきなり基礎支援や育成プログラムと言われてもよくわからないので細かな説明を求める。
「(基礎支援は銃型の【心刃】を使用するマスターの命中率を上げる為、マスターの視界に直接、予測弾道線を表示します)」
「・・・予測弾道線?」
それはあれか?銃撃とかのゲームでたまにある解りやすいように表示されている射線のことだろうかと思っていると次の説明へと移っていく。
「(育成プログラムはマスターに足りない戦闘技術を身に付けてもらう為の訓練になります。具体的には肉体的なトレーニングにマスターの弱点でもある不意の接近戦に備えた『近接銃戦闘技』を取得してもらいます。『近接銃戦闘技』については専用の機器を使い、目から情報を脳内に直接インストールしてから実際に身体を使い習得してもらいます)」
肉体的なトレーニングなんか当たり前過ぎて珍しくもないのでわかる。『近接銃戦闘』も近接戦闘に銃を組み込んだ戦闘術だろうと予測がつく。しかし、脳内に情報を直接インストールは聞き捨てならない。
「(それから・・・)」
まだ、あるのかよ!と思っていると思わぬことを言われた。
「(マスターが身に付けている粗悪な装備は廃棄し、新しい装備に替えることをお奨めします)」
粗悪と言われ、俺は自身の身なりを見渡す。
麻で編まれた服とズボンはごわごわしており、防御力も皆無で戦闘には不向きだろう。
くつは木を彫って削っただけの物で当然、履き易さやグリップなどは壊滅的なレベルだ。
しかし、代えた方が良いと言われても代える為のお金もなければ、装備を売っているお店も村にはない。ではどうすればいいのかと思っていると壁が開き、ロッカーが床の上を滑るように目の前にやってくる。
「カチッ!」っと、ロックが外れるのと同時に扉が開いていく。
「こっこれは!!」