6弾:強化と・・・
【心刃】の強化の為に森の中を徘徊する。
足場は森特有の湿った地面に所々、積もった落ち葉や苔が生えており、気を抜けば足を滑らせてしまいそうだ。
足下にも注意を向けつつ、俺はリコットから得た、この森に生息する魔物を思い出す。
この森で確認されている魔物は5種類。スライムにキノコの魔物、蔦植物の魔物、鼠の魔獣、兎の魔獣。
どれもGランクに指定されているモンスターだ。
行く手を阻むように前を塞ぐ、倒木を乗り越えて先を見据えれば、立派な樹の根本に見たこともない大きな赤い笠を広げるキノコがふたつ。
恐らく、あれがリコットから聞いたキノコの魔物だろう。
奴らは近付いた獲物に麻痺効果のある胞子を浴びせ、相手が動けなくなったところを捕食するらしい。
こういう時、遠距離から攻撃出来る俺の【心刃】は大変便利だ。
ゆっくりと近付き、目測で10メートルの距離に近付くと両手に持つ銃を構え、それぞれに狙いをつける。
狙いをつけたところで同時にトリガーを引き、先制攻撃。
狙いは悪くなく、2匹とも笠に命中して穴を開けた。
キノコだからかその身は柔らかく、心弾はやすやすと貫通し、後ろの樹に当たると表面の幹が弾けた。
撃ち抜かれたキノコの魔物は空気が抜けた風船のように萎み、30cm程あった躯は半分以下まで萎んでしまった。
◇
強化を始めてから時間が経ち、太陽が沈みかけてきた夕方。森の中は一層暗くなってきたので初めての『心刃使い』としての活動を切り上げて村へと戻る。
本日の成果はスライム4匹、キノコの魔物3匹、蔦植物の魔物2匹とまずまずの結果だろう。
途中、鼠の魔物を見掛けたが動きが早く、狙いをつけているうちに見失ってしまった。
動く的に素早く狙いをつけて当てられるようになるのが当面の目標だ。
ブレイバーズギルドへ戻るとカードをリコットに渡して、狩りの清算をしてもらう。
Gランクの魔物は一律で1匹100S。単位はセル。1セル1円と思ってくれ。
半日で900Sの稼ぎ。初心者なのでこんなもんだろうと自分を納得させる。
満足しているのは久しぶりにギルドの受付嬢らしい仕事が出来たリコットだ。
お金はカードに振り込むことも出来るがこれまで育ててくれた母に渡そうと思い、現金で貰った。
家に帰ると初めての魔物狩りに心配していたのか母が暖かく迎えてくれた。
お金はあなたの為に使いなさいと受け取って貰えなかったがその気持ちだけで嬉しいと言っていた。いつか、もっとお金が貯まったら何か贈るのも悪くない。
食事をしながら初日にしてはまずまずな滑り出しだと報告した。
寝る前に【心刃】をもう一度確認する。
【心双刃銃L・R】
《ランクG》
威力:50
射程:10
連射:1
弾倉:12
再充填:500秒
┏威力
┃┗威力Lv:0/50
┃ ┗威力2Lv:0/40
┃ ┗威力3Lv:0/30
┣射程
┃┗射程Lv:0/5
┃ ┗射程2Lv:0/5
┃ ┗射程3Lv:0/5
┣連射
┃┗連射Lv:0/3
┃ ┗連射2Lv:0/3
┃ ┗連射3Lv:0/3
┣弾倉
┃┗弾倉Lv:9/10
┃ ┗弾倉2Lv:0/10
┃ ┗弾倉3Lv:0/10
┣再充填
┃┗再充填Lv:0/30
┃ ┗再充填2Lv:0/30
┃ ┗再充填3Lv:0/30
┗???
全て弾倉へポイントを振ったので12発まで増えている。明日は朝早くから強化に励む予定なので少し早いが寝床に着く。
◇
翌朝、空気がまだ肌に冷たい時間に家を出て南の森へ向かう。
森の中はまだ早朝ということもあり、鳥の鳴き声がよく響いている。
朝露のせいか、昨日よりも滑りやすい足下に気を使い、森の奥へと向かう。
歩くこと30分。朝から動き出しているスライム共を一蹴していき、ポイントを稼ぐ。
そんな折、樹が密集し倒木が目立つ場所へとたどり着いた。
そこはどうやらキノコの魔物の群生地なのか樹の根本や倒木の影にいるわいるわ。
降って湧いたボーナスステージに自然と口角が上がる。
タァッン!タァッン!
ボーナスステージらしく、心弾を撃ち込み、キノコの魔物を淡々(たんたん)と処理していく。
それでも奴らは逃げる素振りすら見せない。きっと、動かずにじっとしていれば、やり過ごせると思っているのだろう。熊に遭ったら死んだふりをしろと同じ迷信だ。
3分と掛からずにキノコの魔物を駆逐すると全部で16匹。弾倉レベルも上がり、一気に28発×2の56発になった。
気分良く探索を再開すると視界の端を鼠型の魔獣が横切った。
発現していた【心刃】を向けて、トリガーを引くが的は小さく素早い為、なかなか当てられない。
それでも弾倉に余裕が出来ているので残りを気にしながらも諦めずに次から次に撃つ。
そんな中、放った1発の心弾が魔獣から逸れて大岩へと向かう。しかし、心弾は大岩に当たらずに通り抜けていった。
一瞬の事ではあったが大きな違和感に囚われ、その間に鼠型の魔獣を取り逃してしまった。
弾数を使い取り逃したのは痛いがそれでも今、俺の関心の大半を占めているのは謎の大岩だ。
好奇心に引き寄せられ大岩に近付き、件の大岩へとゆっくりと手を伸ばす。
俺の手は大岩に触れることなく、すり抜けていった。
「ホログラム?」
大岩は見せかけで何度手で触れようとしてもすり抜ける。
意を決して、頭を突っ込む。
大岩の中は洞窟のようで人が二人も並べば、肩が当たる幅しかなく、下へ向かうように緩やかな坂になっており、奧からはうっすらと暗いが自然光とは違う人工灯の光が漏れていた。
高まる鼓動を感じつつ、警戒を怠らないように洞窟の奥へと足を進めた。