3弾:思いやり
成人の儀式を終えてから教会にどれ程の時間、座り込んで居ただろうか。
何度も神父様が心配して見に来ていたが「大丈夫です」としか答えていない。
開け放たれた扉の外からは成人を祝う祭りの喧噪が教会内へ木霊する。
結局、どれだけ考えても母親への良い報告の仕方は思い浮かばない。
それはそうだ。なんたって、ランクGだったのだから。
頭に思い浮かぶのはあれだけ期待させたのに母親が残念な顔をする姿だ。
それでもいつまでもグジグジと考え込んでいても良い結果には変わらないので覚悟を決めて、立ち上がる。
気持ちも足取りも重く、まるで傷を負った体を引き摺るように歩き出した。
村の中央広場では盛大に祭りが催され、活気のある風景が流れている。
今日の儀式では悪い意味で有名になってしまった俺は指名手配を受けた犯人のように隠れるように避けながら広場から離れ、遠回りで家に向かう。
祭りの喧噪が遠ざかり、空を見上げれば綺麗な星空が広がる。
この夜空の壮大さに比べれば、なんて自分は矮小なのだろう。
溜息を吐き出し、再び歩きだそうとすると後ろから声を掛けられる。
「ちょっと、いいか?」
どうせ、儀式を見ていた村人が馬鹿にしでも来たのかと思いながら振り返れば、見慣れない精強そうな男がひとり。
つま先から頭まで確認すれば、年季の入った防具が明らかに『心刃使い(ブレイバー)』だという雰囲気を醸し出していた。
「成人の儀式を観させてもらった」
やはり、俺を馬鹿にする為にわざわざ言いに来たのかと悲観的に思っていると意外なことを言い出す。
「まさか、銃型の【心刃】を授かるヤツに出会えるとは思わなかった」
聞き間違いでなければ、この男は俺の【心刃】を銃型と言った。
この世界に銃がないことは以前に村の人達から聞いたことがあるので知っている。
実際に儀式で俺の前に【心刃】の銃が顕れた時、皆あれは何だ?とわかっていない様子だったのだ。
そこでこの男は俺と同じように前世の記憶を持っているのかとの疑念が生まれるがしかし、次の言葉でその疑念も吹き飛んだ。
「まさか、古代の遺物でも滅多にお目にかかれない銃の【心刃】を授かるとはな」
「・・・古代の遺物?」
初めて聞く、わくわくワードに思わず聞き返してしまう。
「ああ、知らないか。古代の遺物ってのはな。失われし文明ステイーツの遺跡で稀に発見される道具のことで銃はその中でもとりわけ非常に強力な武器なんだ」
この世界に失われし文明なんてものがあったなんて驚きだ。
「【心刃】の鑑定でランクGと宣告されていたが俺が保証しよう。君の【心刃】は他の4人よりも強くなるよ」
「!?」
俺のランクGの【心刃】が今日、供に儀式を受けた4人の【心刃】よりも強くなる?いったい、この男は何を根拠に言っているのか。よくわからない。
「残念だけど、今日はもう遅い。もし、俺の言うことに興味があるのなら明日、村の東にある森に来るといい。君の疑問に答えよう」
この不思議な巡り合わせに戸惑いが残るが藁にもすがりたい今の状態では断る理由はない。
男は「俺は伝えたから後はお前次第だ」と背中で語り、祭りが行われている村の広場へと行ってしまう。
まだ、事態を完全には呑み込めていない俺は男が人込みに消える姿を見つめていた。
先程会った男に言われたことを反芻しながら歩いていれば、知らぬ間に家の前に着いていた。
家からは明かりが漏れ、人がいることを告げていた。
ゆっくりと扉に手をかけて、深呼吸をしてから開ける。
家の中には普段よりも豪華な食事にひとり、母が俺の帰りを待っていた。
「ただいま・・・」
俺の声に気付いた母は花が咲くような笑顔を向けて、迎えてくれる。
「おかえりなさい、アレク」
言葉が喉に詰まり、上手く言えないが言葉を振り絞りなんとか会話を繋げる。
「遅くなってごめん。母さん」
「いいのよ。それより立っていないで座りなさい。今、スープを温めなおすからね」
無言で首肯くと席に座る。
スープを温める母の背中を見ながら俺は儀式の結果を告げることにする。
「母さん、俺の【心刃】なんだけど・・・」
母は振り向かずにスープを見つめていた。
「ランクGだったんだ・・・」
「そう・・・」
返事は短く、やはり母さんも落胆しているのかと思っていると振り返り、変わらずの笑顔を向けてくる。
「でも、アレクは『心刃使い(ブレイバー)』になるのを諦めたわけじゃないんでしょ?」
「えっ!?」
「何?」
思っていた反応と違い過ぎて、混乱しそうだ。
「アレクは【心刃】のランクが低かったくらいで諦めるの?」
「そんなことはないけど・・・」
「ならいいじゃない」
調子が狂ってしまう。
「ほんとはね。私もアレクの授かる【心刃】が気になって教会へ見に行ったの」
「っ!」
「それで神父様がランクGだって告げた時、これでアレクと離れなくて済むって、正直安心したのよ。アレクには悪いけどね」
少女のように舌を出して、微笑む母はなんだか幼く見えた。
「でも、考えてみたらアレクが素直に諦めるなんて考えられないし、そんな風に育てた覚えもないしね、何よりあの人の子だからアレクなら絶対に諦めないだろうな~てね」
スープを皿によそい、席に着く。
「なるんでしょ?『心刃使い(ブレイバー)』に?」
こんなにも俺の事を考えていてくれたなんて、なんだか悩んでいた俺が恥ずかしくなってくる。
「なるよ。母さんには淋しい思いさせて悪いけど、俺は『心刃使い(ブレイバー)』になる」