第094話 「士官候補生試験」
MUC212.4.27(月)
昨日のクーナさんとのデートは楽しかったなぁ…本当にクーナさんって良い子だよな。優しいし、俺は歳下なのに男を立ててくれるし…
本当に俺は良い女性と付き合う事ができて幸せだよ…
なんて浮ついた事を考えながら朝礼に参加中である。前に立つクーナさんを見て、また浮ついた事を考える。
『戦闘服姿のクーナさんも可愛いなぁ…』などと思っていると、突然、クーナさんから名前を呼ばれたのだった。
「この度、ソハヤ中曹が士官候補生の一次試験に合格しました。はい!みんな拍手ぅ〜!」
パチパチパチ!と拍手をされた…
「えっ?えぇぇぇぇ〜!」
士官候補生の試験は、軍曹昇任後4年を経過すると受験資格ができる。俺はまだ軍曹昇任から2年程度しか経っていないが、受験資格に落とし穴が…
「35歳以下の軍曹昇任後4年を経過した軍曹又は中曹」と書いてあったのだ。
俺は中曹になった為、受験資格が出来てしまっていた。4月の上旬に仕方なく、しかも適当に受けた筆記試験に合格しただと?
「中隊長!これは軍の陰謀が見え隠れしている…」
「そんなのどうでも良いわよ。とりあえず、二次試験を頑張ってね♡」
どうでも良いって…何で俺が合格する訳?おかしいだろ!
ハッキリ言って、俺は士官なんかになりたくないのだ…
何故って?自分の事で手一杯だからである。大勢の部下の面倒は見れないのだ!
朝礼が終わり、クーナさんに中隊長室に呼ばれた。
2人きりの中隊長室…クーナさんを見ると…相変わらず可愛い!ムラムラする気分を抑え、クーナさんにハッキリと言った。
「俺、幹部になる気なんて全くないよ?」
「私もそう思って、二次試験を辞退できるか確認したの。そしたら、それは出来ないって念を押されたわ。」
「えっ?マジで?どうしよう…」
「このままだと、軍はクロを士官にするわね。落とす理由がないもの。だって、トロイア共和国の英雄よ。」
「それは作られた英雄だよ?だいたいにして、一次試験、本当に回答は適当だったんだよ。それでも合格させたってのが強引だよね。」
「二次試験は、面接と特技の実技試験だからね。つまり、面接はどうにでもなるし、実技試験はクロなら落ちるはずがない。完全に仕組まれてるわね…」
クーナさん…どうしよう…
「まぁ、良いじゃない!クロが士官になっても、どの道ABLMのパイロットのままなんだし。」
「整備兵に戻りたい…」
「もう無理よ…あれだけ軍の広報に使われたら…パイロットを引退する年までは…」
「だよね…まぁ、とりあえず、二次試験は受けなきゃならないんだね?受験日は?」
「まだ6月の中旬から下旬ってしか聞いてない。決まったら言うわ。」
中隊長室を出てから憂鬱な気分になる。何でだぁー!
と思っていると、リジル中尉、ダーイン中曹、ラッハ中曹が来た。
「クロ、凄いじゃないか!士官候補生の一次試験に合格なんてさぁ。」とラッハ中曹が言う。
「俺も軍曹からの叩き上げだ。分からない事があったらアドバイスはできると思うよ。」とリジル中尉が言ってくれた。
「しかしリジル中尉、合格したら今後はどうなるんだい?」とダーイン中曹が聴いてくれた。俺も興味がある。
「6月に二次試験を受けて、7月中旬が合格発表かな?合格したら、8月1日に准尉に昇任するよ。准尉自体が、ほぼ士官候補生の階級みたいなもんだからね。そして、次の年の4月から1年間、士官学校に入校するんだ。入校中の8月1日に少尉になるよ。」
「軍が1年間もクロを入校させておくか?まぁ、戦争が終わったら入校させるだろうけど…」
「しかし、クロが少尉になったら、リジル中尉は要らなくなるんじゃ…」とラッハ中曹が呟いた。
「ラッハ!何で事を言うんだ!そういのは、思ってても言わないもんだぞ!」とダーイン中曹が笑いながら言っている。
「何て事だ…クロ、頑張るなよ!」とリジル中尉が士官らしくない事を言っていた…
「いや、真面目な話、士官大学出と変わらない出世スピードだよな…」
「クロは今、21歳だろ?22歳で少尉だったら…」
「いや、23歳でかな?士官大学出の奴らと同じスピードだな。こんなのは聞いた事がないな…」
「なりたくてなる訳じゃないですよ…」
「まぁ、リジル中尉は新編される2小隊に異動って事で!」とラッハ中曹が締めくくった。
周りで聞いていた中隊の隊員みんなで笑っていたが、俺は笑える状況では無かった。
もう、軍の思惑にすっかり嵌められている気がするんだよな…軍の掌で踊らされたているように思えて、なんだか嫌な気分になった。




