第092話 「イシュタ・バエル」
多分…
政治的なつまらない話が多いです…(ー ー;)
後の設定に必要なので入れています…
3月20日に独立宣言をしたクレタ半島であったが、その後は色々とTV放送をしている。
まずは、国名を「クレタ公国」としている。これは、貴族を主体に国を治める気満々だな…
暫定政府の体制は、だいたい整った様だ。首相はやはり、アーサー・ブルーベルだと言う。
アスカ大尉に聞いたら、やはりアロン中佐の父親だとの事であった。
独立宣言から2週間も経った今、表向きは共和国側からは何の反応もない様だが、裏では国会が何度も開催されて協議をしていた。
最初は独立反対派が多かったのだが、独立宣言の1週間後にクレタ公国が「現在は防衛のためにミノア帝国の支援を受けるが、独立後の時期を見て永世中立国を宣言し、ミノア帝国にもトロイア共和国にも与せず中立を保つ」と宣言したので、国会が割れた。
中立なら独立も認めて良いのではないか?
いや、それは独立をする為のブラフだ!
など、話もまとまらない状態であるようだ。TVのニュースでも議論が分かれ、世論も混乱した状態となっている。
しかし、決断の時は来る。
国際連合の加盟国会議で、トロイア共和国の承認無しにクレタ公国の独立を認めたのだ。
かろうじて、独立の条件として「トロイア共和国が独立を認めたならば」と付け加えられたが、それでも国連で認められてしまったのだ。
ここでトロイアが独立を認めないと、はっきり言って、ますます賊軍扱いとなる様な状況だ。
MUC212.4.18
トロイア共和国は国連の決定後の世論の後押しもあり、クレタ公国の独立を正式に認めた。
軍のクレタ半島からの撤収は、3ヶ月以内に行うとの事である。
細部は国家間協議で決まるのだが、トロイア共和国は、頑なに「ミノア帝国軍が撤退しないと我が軍も撤退しない」と主張している。
しかし、クレタ公国は「独立に際してミノア帝国の支援を受ける」と公にしているので、世間的にはトロイアが先に撤退するのが筋ではないか?との意見が多い。
しかし、トロイアからの独立のため、ミノア帝国が介入している事自体がおかしいとの意見もある。
俺からすれば後者の意見に賛成だ。
ミノア帝国は、元々クレタ半島を占領しようとしていたのだ。それを置いて我が軍がクレタ半島から撤退すると言うのがおかしな話である。
インフラも軍基地も、我々トロイア国民の税金から捻出されて作られたものだ。何故、ミノア帝国が関与すると言うのか。
国家間の協議は平行線に終わる。
クレタ公国の軍備に関しては、トロイアは基地を提供し、部隊についてはトロイア共和国の希望者はクレタ公国軍として基地に残っても良い事になったようだ。
ミノア帝国については、軍備に必要な装備品の提供と、隊員の希望者は国籍を変更してクレタ公国軍に入隊できる事となった。
しかし…戦車やABLMをミノア製にしたら、クレタ公国軍かミノア帝国軍かの判別が付かないじゃないか!
しかも、ミノア帝国軍からクレタ公国軍への希望者はかなりの数だと言う事であり、ほぼミノア帝国軍と言っても良い状態になる事は予想できる。
「今後、どうなって行くんだろう…」と、俺が呟くと、クーナさんが
「まさしくミノア帝国の傀儡政権ね。これにアロン中佐のスパイスが入って、とんでもない事が起こるかも知れないわね…」と言った。
「アロン中佐か…何を企んでいるんだ?分からないなぁ…」
「アロン帝国の基盤はできたわ。後は時が経つのを待つんじゃない?」
「そうかな?俺はすぐに行動を起こすと思うよ。」
クーナさんにそう言って反応を見た。クーナさんは考え込んでいたが…まぁ、結論は出ないだろう。
MUC212.4.25(土)
トロイア共和国のクレタ公国独立承認から1週間が経った。
俺達は、まだ基地で待機している状態である。まぁ、隣接する演習場での実動試験等は行っているが、実戦での試験はまだ先になる部品ばかりだと聞いている。
と言っても、軍の撤収期限の7月10日まではトロイア共和国とミノア帝国との間では休戦協定が結ばれたため、実戦テストはできないだろう。
ブレリアだけではなく、Ⅲ型の改善試験をしたり、たまにⅡ型の試験をしたりしている。
うちの中隊にはブレリアとⅢ型がある。どちらも試験・開発用だ。
基本的には、俺達の機体はブレリアだけだが、将来は現有装備のⅡ型やⅢ型の改善試験をする小隊を編成するため、その人達用のⅢ型なのだ。
その内補充されるのかな?それと、運用研究の小隊もできるため、将来は合計3個小隊となる予定なのだが…人がいないために俺達が全て実施しているのだ。
結構、忙しい日々を送っている。
今日は休日なので、俺は例の如くクーナさんのアパートにいる。クーナさんと一緒に朝ごはんを食べながらTVのニュースを見ていると、ミノア帝国のアロン中佐がニュースに出ていた。
「えっ?何でテレビに出てんの?」とクーナさんが驚いていた。
「私は、現在のクレタ公国の軍司令官のアロン・ブルーベル大佐です。私は、かつてトロイア共和国の『六聖剣』と呼ばれ、そして今大戦ではミノア帝国の『鈴の亡霊』と呼ばれた小隊の小隊長もしていたABLMパイロットです。」
ニュース番組なのに、周りのギャラリーが騒つく声がテレビから聞こえた。
「この人、六聖剣だったってバラしちゃったね…」と俺が言うとクーナさんが
「だったら私もバラしちゃっても良いよね?」と言って笑っていた。
「クレタ公国は現在、軍備を整えている最中であり、永世中立国としては軍備を増強する必要があるのです。」
「クレタ公国の軍人になったんだ?まぁ、お父さんが首相だからね…」と俺が言うと
「大佐だってさ。何を企んでいるんだろね〜!」とクーナさんが真剣にテレビをみている。
「現在の軍は、ミノア帝国に防衛を頼っている状態であり、ミノア帝国やトロイア共和国に頼っているのでは、国連に永世中立国としては認められないのです。そこで、クレタ公国国民のみならず、ミノア帝国、トロイア共和国の軍隊経験者の移民、帰化を認めて優遇措置を取るようにします。」
「優遇措置だって!条件が良かったら悩む人も出るかもね。」
「予備役は現役時代の階級に、現役の人は、能力に応じて1〜2階級上で採用します。下士官の人数が足りないのですが、幹部、将官も少ないので募集しています。住居やその他についても優遇する案がありますので、気軽にクレタ公国軍の広報部に連絡して下さい。」
「隊員募集にアロン中佐…大佐?が自らテレビに出る。もう、何を考えてるか分からないわね。」
「バルム大尉はミノア帝国軍に残ったのかな?」
「そうよね…まぁ、ティル少佐はアロン大佐について行っただろうけど…」
「しかし、朝から見たくない顔を見ちゃったね…」と俺が言うと、しばらく会話が途絶えて沈黙した…
その沈黙を打ち破るように、クーナさんの携帯電話が鳴った。
「もしもし。ええ。見たわ。うーん…よく分からないわよね…」
電話の相手はアスカ大尉のようだった。
電話が終わり、アスカ大尉の話をクーナさんからきいたが、結局は2人とも「何を考えてるか分からない」で話は終わったようだ…
しかし、ミノア帝国の最初の目的は「クレタ半島の奪還」じゃなかったのか?それなら戦争目的は無くなったはずなんだがな…
何故、終戦ではなく休戦なんだろう…
***********************
「ふぅ…なんなんだ、いったい…」アロン大佐は大きな溜息をついた。
「何で俺がテレビで広報活動をしなきゃならん?」
「ふふふっ。大佐はカリスマ性もありますから。」
「イシュタは気楽で良いよな…」
「気楽ではありませんよ。パイロットなのに、こうして大佐の秘書みたいな仕事もさせられているんですから。」
「あぁ、ありがとう。次の予定は?」
「軍本部に戻ります。まだ、司令部の体制も整ってませんしね。」
「俺が軍のトップになるのは予想外だったな…誰か将官を引っ張って入隊させないと。」
「ミノア帝国の少将辺りが良いでしょう。中将になれると持ちかければ、来る人がいると思います。」
「いや、大佐連中が狙い目だな。少将にすると言えば来る奴もいるだろ。特に、仕事はできるがエリートコースから外れた奴や同期が少将になった奴とかな。」
「広報部と諜報部に勧誘させます。大佐の苦労も、あと少しで終わりますよ。」
「あぁ。それと、ミノア帝国だけではなくトロイアの大佐達も勧誘してくれ。特にミノア半島の各基地司令とかもな。」
「分かりました。」
イシュタ・バエルはそう返事をし、すぐに電話をかけて指示を出した。
イシュタ少尉…元々はミノア帝国でもトロイア共和国の人間でもない。
アロンがミノア帝国の東に位置する、アッカド共和国に行った時に見つけた少女だ。
身長は女性にしては高い方だろう。170cmほどある。黒髪で色白のモデルのような体型の美女であった。
士官学校も出ていない、まだ21歳の女性が少尉と言う階級なのは理由がある。
そう。ABLMの操縦がずば抜けているのだ。
超能力でも使っているのではないか?と言うその戦い方に、アロンも周囲も驚愕したのだ。
アロンがイシュタと知り合ったのは偶然だった。
車の運転が凄く上手かったため、アロンが帝国に来ないか?と誘ったのだ。
イシュタは天涯孤独の身であった。早くに両親を亡くし、お爺さんに育てられていたので、帝国に行くのもあまり抵抗が無かったようである。
ただの運転手だったイシュタが軍人となる予定もなかった。
アロンが気紛れでイシュタにABLMを操縦させてみたところ、ものの数分で普通の隊員並みに操縦して見せたのだ。
「こいつは…思わぬ収穫だな…」アロンはイシュタに、本格的なパイロット訓練を受けさせることにした。
普通の訓練機関ではなく、研究機関に送って訓練をさせたのだ。そこでの成果を定期的に受けていたアロンは更に驚く。
常人ではない成果を挙げていたのだから。
「イシュタ、帰ったら模擬戦の相手をしてくれ。お互い本気は出さないようにだけどな。」
「良いですよ。仕事は他の人に振りますから。」イシュタはそう言って笑った。
『イシュタと青い死神、どっちが強いんだろうな…』アロンは帰りの車の中でそう考えていた。




