第091話 「次の決戦へ向けて」
タイトルを『機動機兵ブレリア「戦場の絆」』と変更しました。後々「戦場の絆」の所も削除するかもしれません…
クロノス達は現在、基地に向かって帰隊中であった。予定より少し早いMUC212.4.2である。
アロン中佐達との戦闘では必要なデータは収集できなかったが、その後に別部隊の増援に参加させてもらって実践データを収集したのだ。
これは、中隊みんなの「早く基地に帰りたい」と言う事からの努力…なのか?の現れだろうな…
レイア軍曹も、クーナさんの伝令として良くやっている。真面目にパイロットを目指しているみたいで、クーナさんも自分のブレリアをレイア軍曹に操縦させて教えていた。
「クーナさん、レイア軍曹はどう?パイロットのセンスあるの?」と聞いてみた。
「あの子、凄い運動神経が良いわ!センスは有ると思う。空間把握能力が少し低いかな?」
「空間把握能力って結構大事じゃない?ブレリアの動きを常にイメージして操作しないと…」
「男女の違いよね…」
「男女の違いって、何が違うの?」
「まだ、脳科学でも推測の域だけど…」とクーナさんが説明してくれだ。
何でも、男女では脳の構造に違いがあるらしく、右脳と左脳をスムーズにつなぐ「脳梁」と言う所のの形状や大きさが違うとの事。
男性の方が脳梁が小く、右脳、左脳のどちらか片方の脳を集中して使用することが多いと言う。
そのため男性は、何かに没頭するような1人でこなす作業が得意らしい。
逆に女性は脳梁が大きいため、脳全体を使用し、集中力を分散させることができると言う。
そのため、みんなでやる様な協調性が必要な作業や、多くのことを同時に処理する作業が得意な反面、1人で黙々とこなす作業は苦手らしい。
戦闘では、他の機体との協調性が必要であるとは言え操縦自体は1人でする作業だ。
同様に脳の使い方の違いから空間認識能力は男性のほうが高いとの研究結果も出ている。
3次元のイメージに於いて、女性は頭頂部や前頭部を多く使用するのに対し、男性は海馬をより使用していると言う。
海馬は脳の記憶や空間学習能力に関わる脳の器官であると言われており、そのため、女性は物体の違い(空間)を把握するには意識しなければならないのに対し、男性は無意識的に空間把握を行えると言う研究結果も出ている。
「それなら、クーちゃんは何で操縦が上手いんだろうね。女性なのに。鍛えれば能力が上がるって事かな?」
「ほら!私って天才じゃん!テヘッ♡」
「女性の方が強調性があるから、操縦さえ上手くなれば小隊行動は女性の方が連携が取れるって事かなぁ…」
「そう!だから私は凄いのだ!」
「確かにクーちゃん、凄いもんな…」
「えー!クロの方が凄いよっ♡」
「あのぉ…イチャイチャするの、やめてもらえませんかね?」と、リジル中尉が嘆いている…
ここは帰りの車の中…と言ってもマイクロバスのキャンピングカーの様に豪華な車だ。
パイロット達は、長距離の移動は常にこの車を使っている。
「しかし、今回のシルバーのABLMみたいなのがたくさん居たら…もし、中隊規模で揃えられたらキツいですよね…」とラッハ中曹が考え込んでいた。
「クロは戦ってみてどうだった?私達よりも強いと感じた?」とクーナさんが聞いてきた。
「多分…現時点ではウチらの方が強いと思う。けど、強さの根本が違うから何とも言えないなぁ…」
「強さの根本って?」
「あっちは身体能力が高いでしょ?反射神経だけで回避し、そして攻撃してくる。けど、ウチらは先読みで回避して、攻撃も先読み。基本的に強化戦士の方が強いんだよ。今はウチらが強いけど、対策されたら勝てないと思う。」
「対策って、どんな対策をされたら困るの?」
「例えば…ブレリアの様に関節の向きが判断し難い形状にするとか…と言ってもブレリアもよく見れば判断できるんだけどね。」
「うぅーん…単純だけど効果はありそうね。けど、ウチらで模擬戦した時は、クロ、普通に避けてるじゃない。」
「まぁ、そうなんだけどね…クーちゃんも、他のみんなも避けてるよね。」
「構造から違ったら厄介よね。例えばどの方向にも曲がるフレキシブルな関節とか。」
「そんな物、作れるのかな?」
「できると思うよ。油圧チューブを使用したり、人工筋肉の様なもので全方向に曲がる様にするとか…」
「タコの足見たいな感じ?それなら90°にカクッと曲げれないよね?」
「多重関節にすればそれなりに曲がると思うよ。まぁ、普通のみたいにカクッとは曲がらないと思うけどね。」
「湾曲を描いて曲がる感じだよね。それはそれで厄介かもね…」
「まぁ、帝国の新型も関節は普通のタイプだったし、そんなのを作るメリットって無いんじゃないかしら?」
「メリットはあるよ。俺達みたいな人間に対抗できる。重大なメリットだと思うよ。」
「そうよね…クロを撃破できたら、1個連隊以上の戦果になるよね…」
この会話に、ダーイン中曹、ラッハ中曹も加わって話が盛り上がっていく。
この様な何気ない会話から、新装備の開発の基となるものが生まれる事もあるのだ。
「多重関節については、基地に着いたら開発部に言っておくね。これは有効かも知れないし。」
クーナさんがそう言うと、他の人達が更に要望を伝えた。基本的には、今使っている機体の不満点などを言っているのだが、それがブレリアの進化の種となって、いつか花が咲くだろう。
まぁ、リジル中尉は「ドリンクホルダーを付けてくれ」とかって、しょーもない要望しか挙げてないが…
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クロノス達が基地に到着する頃、ミノア帝国の研究本部ではアロン中佐が研究・開発担当者と話し込んでいた。
「どうだい?例の関節はできそうか?」
「作れない事はありません。ただし、フレキシブルベロータイプだと、どうしても可動域が制限されてしまうのです。」
「可動域が制限されるとどうなるんだ?」
「今の技術では、背中の剣を持つ事ができないかも知れませんね…」
「そんなに曲がらんのか?」
「曲げれない事はないんですが、曲げれる様にすると伸び側の内部構造が丸見えになります。内部構造は、極力露出させたくないんで…」
「これはダメか…」
「いえ、発想自体は素晴らしいと思います。仮に中佐が言ったみたいな回避を敵がしてるのだとしたら、かなり有効ですよ。なので、従来型と多重関節のハイブリッドを作成します。」
「ほぉ〜!その手があったか…」
「従来型の利点と多重関節の利点を合わせていきます。欠点は、恐らく重量ですね。それと制御…」
「どんな型になるんだ?」
「これが基本構造の設計図です。肘や、手首はそのままに、手首から肘、肘から肩までを多重関節とします。肘を固定しても、2箇所の多重関節で湾曲を描いて90°迄は曲げる事が可能です。」
「グニャグニャしそうで気持ち悪いな…」
「どちらかを固定出来る様にもしますし、どちらも開放できるようにもします。開放したら、操作には慣れが必要でしょうがね。」
「とりあえず開発を進めてくれ!これが無いと蒼い死神には勝てないんだよ。」
「了解しました。とりあえず腕を作成します。2週間後には試作が出来上がると思います。完成したら連絡しますね。」
「頼んだよ。俺の機体を置いていくから、試作が出来たら、これに取り付けてテストしてくれ。」
「ありがとうございます。こちらも頑張って進めていきます。」
帝国のクロノス達への対策が進む中、クロノス達もまた対策を練る必要があると考えている。
いたちごっこが続く中、クレタ半島の独立の話も進展して行く。




