第089話 「死神と騎士」
クロノスとロディが対峙した。
「俺達も格闘だけの勝負で良いのか?」とロディが問う。
「ああ、構わない。ってか、クーナさん!これ、射撃戦闘のデータが取れませんね…」
「仕方ないわよ。流れ的にこうなんだから…」
そう。今回の目的の一つは、射撃戦闘データの収集もある。無理だな…とクロノスは諦めた。
「よし!始めるか!」
ロディ中尉がクロノスに襲いかかる。
「速い!瞬発力があるぞ!」
クロノスが驚く。瞬発力だけなら、恐らくブレリアよりも速いだろう。
「ガイア!相手の機体性能はどうだ?」
『確かに瞬発力はブレリアよりも上です。けど、その後の速度を含めたトータル的な速度はブレリアの方が速いと推測します。』
「速度を瞬発力に振ってるのには訳があるよな…回避のためか?なんだろう…」
『機体への負担はかなりだと思います。例えるなら、車をローギアでずっと走らせている様なものですから。』とガイアが説明した。
分かりやすい説明だな!モーターをずっと高回転で回している事になるよな。
クロノスの出した剣をロディが回避した。クロノスも、ボルグ大尉同様に違和感を感じた。
「ガイア、今の敵の回避行動、俺が剣を出してから避けたよな?」
『はい。マスターの動きを見てから回避していますね。』
「そんな事が人間にできるのか?」
『理論上の人間の反射速度の限界に近いです。』
「避けられるな。これは…AIなら可能か?」
『私くらいの性能でも回避できるかは微妙ですね。カメラで捉えて分析してからの回避になりますから、もしかしたら人間の方が判断は速いかもしれません。』
「そうか…全てAIで回避してる訳では無さそうって事か…」
『これはAIで回避していません。回避パターンが毎回違いますから。AIなら、ある程度はパターン化された動きをすると思います。』
「マニュアル操作で、常に人間の反射速度の限界近くで回避してるって訳だ。化け物じゃないか…」
『そんな事を出来る人間はいないと思います。何か理由があるはずです。』
「だよな…けど、人間の反射速度の限界以上の攻撃をすれば当たるって解釈できるよな。ガイア、行けるかもしれないぞ!」
『マスターこそ、人間の限界を超えていると思いますが…』
「この攻撃なら当たるだろ!」
クロノスはそう叫びながら剣を振った。
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ロディ中尉は少し焦っていた。
「何故?なぜ攻撃がかわされる?それに、この俺が回避し切れてない。ギリギリ…と言うかカスってるんだよな…」
自分の攻撃は当たる気配も無く、相手の攻撃を回避してはいるものの、本当にギリギリの紙一重での回避だからだ。
「俺が剣を振る前に回避行動をしている…どんな能力なんだ?普通じゃないぞ…」
今迄に経験した事のない戦い…戸惑いと困惑。
「アイツも強化されてるのか?不味い!」
ロディ中尉がそう叫んだ後、シルバーのABLMをクロノスのが襲いかかる。
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1度止めてから剣を振ると、初動がどうしても遅くなる。流れる様に勢いを殺さず、かつ、不意急襲的に攻撃を繰り出す必要がある。
「そんな事、出来るかな?不意急襲じゃ無くても、可動域を見極めて防御できない所を狙うか…」
クロノスはそう呟き、剣を繰り出しつつも相手の機体を観察した。
「ここだっ!」
右から左に振った剣を回避された後、小さい8の字を描く様に左から右へと打ち下ろす。
その剣速は、ロディ中尉の反応速度では追いつかずシルバーの機体の右肘付近を斬りつけた。
肘から下…剣を持っていた腕を切り落とされたシルバーの機体がバックステップして距離をとる。
ロディ中尉は、すかさず左腕で短剣を構えた。
「ロディ中尉、まだやるか?やるなら続けるが…」
少しの時間、2機は対峙していた。ほんの5秒足らずであろう。
その後突然、無線から唸り声が聞こえてきた。
「うおぉぉぉぉ〜!ググギゲギ…」
「ロディ!意識はあるか?あの野朗…使いやがったな!」
アロン中佐が焦った口調で叫ぶ。
シルバーのABLMの作動音が大きくなると同時に、煙らしきものが少し吹き出した。
その瞬間、クロノスに向かって短剣を突きつけてきたのだ。
「速い!」短剣が蒼いブレリアをかすめる。
クロノスがそれを躱すと、そのまま一直線に周りで観戦していた3中隊、4中隊の隊員の方に向かって攻撃を仕掛けて行った。
「ティル、バルム!逃げろ!ロディが強化剤を使ったぞ!意識が飛んでる。見境無しに攻撃してくるぞ!」
アロン中佐は焦っていたため、小隊無線で伝えるつもりが、間違えてパーソナル回線を使ってしまったのだ。
そのため、クロノスやクルタナ達にも伝わる事になった。
「アロン中佐、パーソナル回線ですよ!」とティル少佐が慌ててアロンに告げた。
「やばっ…まぁ、良いか…」
「強化剤?麻薬みたいな薬に頼って戦ってるの?」クルタナがアロンに問い掛ける。
「そこまで言うほどお人好しじゃないぜ。」アロンがそう言う間に、観戦者がシルバーのABLMに襲われていた。
「みんなまとまって!3機〜4機で固まって防御するのよ!単機では行動しないで!」
クルタナが無線で伝える。それを聞き、3中隊も4中隊の隊員も小隊、中隊関係無しに固まって行動していた。
「俺が止める!少しシルバーの機体を足止めして下さい!」
クロノスがシルバーの機体の方へ向かった。既に2機程撃破されてしまった様だ…
クロノスがロディ中尉に追いつき、後ろから攻撃を仕掛ける。しかし、回避され、更にシルバーの機体が突撃してきた。
「薬に頼って…そんな事してまで戦いたいのか?」
クロノスが無線で叫ぶ。
ロディが突き出す短剣を回転しながら躱し、少し距離を取って対峙した。
「意識も無く自我も無い。それで勝った所で、それはお前の実力じゃないだろうが!」
剣の差で、リーチはクロノスの方が長く有利である。懐に飛び込まれない限り負けないとはクロノスも考えたが、敵の速度が異常に速いのだ。
「ロディ中尉…申し訳ないが、手加減できそうにないよ…」
クロノスが無線でそう伝えると同時に切り掛かった。
ロディも飛び込んできた。
クロノスが横に振った剣をロディはバックステップで躱す。
しかし、クロノスは剣を途中で停止させ、そのままの勢いでシルバーの機体に剣を突き刺す。
その剣は、シルバーの機体のコックピットを貫き、シルバーの機体が煙を上げて停止した。
「ロディがやられただと…あの状態のロディを?」
アロン中佐が呆然とする。
「アロン中佐!退却しましょう。もうメチャクチャになってますから。」とティル少佐が言ったがクルタナが
「ティル少佐、貴方は捕虜でしょ?何で一緒に逃げる気してるのよ!」
「今回は勘弁してくれ。とりあえず、逃げさせてもらうよ!」
ティル少佐がそう言うと、スモーク弾を撒き散らして3機が逃げていく。
「シルバーに撃破された人達は大丈夫ですかね?ABLMは動いてるみたいだけど…」
「クロ、2人ともウチの隊員だが、何とか生き残ってくれたよ。」とボルグ大尉が答えてくれた。
「クーナさん…手加減できなかったよ…。ロディ中尉を殺してしまった…」
「仕方ないわよ。あの状況じゃ…」
クロノスは、昔の暴走以来、敵とは言えなるべく殺さない様に戦っていた。捕虜にすれば敵戦力ともならないだろうと考えていたからだ。
「クロちゃんがシルバーを止めてくれなかったら、ウチらの隊員の被害がかなり出たと思うよ。止めてくれてありがとう!」とアスカ大尉が言ってくれた。
「しかしクルタナ少佐、強化剤って何でしょうね…機体を含めてロディ中尉を研究機関に送った方が良いですね。」とボルグ大尉が考え込んでいた。
「そうね…ウチで預かるわ。ウチの本部に連絡して回収させるから。」
こうして鈴の亡霊小隊との戦闘は幕を閉じた。
強化剤?人体実験でもしてるのか?このABLMは、その人達専用?分からない事だらけの中、クロノスは宿営地へ向けて出発した。




