第087話 「幻影との戦い」
仕事が忙しくて更新が疎かに…申し訳ありません…
出発してしばらくすると、戦場に到着した。戦場と言っても、第3歩兵連隊の段列地域なので前線よりは後方となる。
キャリアーからブレリアを降ろす。全て管理部の隊員がやってくれるので、俺達は楽をさせてもらっている。
クーナさんは車両無線機で、何やら現地部隊と調整しているようだ。
「みんな!すぐに出発するわよ!」と、クーナさんが慌てていた。
「どうしたの?状況が悪いの?」と聞くと
「今、例の小隊が第2大隊の正面にいるらしいのよ。アスカ大尉の所で暴れてるらしいわ。結構やられちゃってるみたいなの。」
「4中隊も、だいぶ強くなったんだけどな…戦死者が出てなきゃ良いが…」と、ダーイン中曹が心配していた。
「敵は1個小隊しかいないから、3中隊も援護に行っているらしいけど…心配だから、とにかく早く行きましょ!」
「みんな大丈夫かな…早く行こう!」
全員ブレリアに乗り込み、無線を繋ぐ。2大隊の無線周波数も確認し、無線に加入した。
「ガイア、どうだ?7号機は。」
『はい。0号機とは微妙に違いますね。マスターには、0号機の方が合うと思います。』
「えっ?何で?」
『各関節の油圧取り付け部が少し違うため、可動域が0号機の方が広く、恐らく0号機の方が速度は速いです。』
「けど、ゼロの方が重いんだろ?」
『0号機は理想を追求した形なのです。フレームに於いても生産性などは考えずに作られています。』
「微妙な違いがそこまで違くなるのか?」
『微妙な違いがたくさん有れば、それだけ重なりますから。』
「ゼロと同じだと思わない方が良いな…確かに7号機を使えば使うほど違和感が出て来たけど、やっと理解できたよ。」
『その違和感に気づくのはマスターくらいだと思います。』
「まぁ、慣れるしかないか…前線が近くなってきたな。ガイア、今日も頼むぞ!」
『了解しました。』ガイア…返事が淡白だな…
前線が近くなり、2大隊の無線が聞こえて来た。
「アスカ大尉!赤いのが右に行ったぞ!黒いのは3中隊に任せてくれ!」
おっ!この声はボルグ大尉だな。
本当に、敵は2個中隊を相手に引かないな…だいぶ強そうだぞ。
「シルバーがヤバい!コイツ…速いぞ!中隊長、ウチの小隊だけじゃ保たない!増援頼む!」
シルバーの機体は3中隊正面か…クーナさん、どっちに行くんだろう?
「リジル中尉、クロとラッハ中曹を連れて3中隊に行って!シルバーはクロが相手をして頂戴。私はダーイン中曹と4中隊の増援に行くわ!」
「了解!」みんなの声がハモった。
敵の動きをレーダーなどで見ると、紫色と黒い機体、恐らくアロン中佐とバルム大尉が4中隊で、シルバーが3中隊の相手をしてるな。
赤いのはティル少佐だな?真ん中に居て、隙を見てどちらにも攻撃している感じだ。
さぁ!再戦と行こうじゃないの!
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アロン中佐達は困惑していた。今まで相手していた部隊とは違う唯ならぬ雰囲気、そして、実際に戦ってみても強かったからだ。
「アロン中佐、コイツら…今までの部隊と違いますよ。手強い!」とティル少佐が無線で伝える。
「どこか攻略法があるさ。コッチは緑色のABLMがいるぜ!アスカかな?」
「いや!こっちにも緑色がいるんですよ。中隊長機だな。アンテナが3本ある。」
「こっちも中隊長機だぜ?なんだ?中隊長は緑色にするのが流行ってるのか?」
ボルグはABLMをパーソナルカラーにしていた。しかも、アスカ大尉と同じ様な緑色で。
違いと言えば、アスカ大尉は緑色が基調で黒も入れているが、ボルグ大尉は黒の所を白…と言うかグレーにしている。
その程度の違いなので、パッと見は判断できないだろう。
「中隊長自ら突っ込んできた…やらせてもらう!」そう言いながら、ロディ中尉はシルバーの機体を疾風の如く操り、緑の機体と対峙した。
後方からの援護を受け、シルバーの機体に襲いかかるボルグ大尉であったが、軽くいなされてしまった。
「なんだ?強い…強いが、クロとは違うな…。何か違和感がある。」ボルグは困惑する。
捉えたと思って剣を振るが、尽く剣が空を切るのだ。
「クロの場合は、剣を振る前に避ける動作に入ってる。避けられるって分かるんだが…コイツは俺が剣を振ってから避けてるな…。もしそうなら、並外れた動態視力と反射神経だぞ?」
実際、ロディ中尉は剣の初動を見てから回避していた。感の鋭さも増しているので、普通の相手ならそれだけで回避できるだろう。しかし、ボルグ大尉程の実力になると隙がなく、予備動作も最小限のためにこの様な回避をしているのだ。
「ABLMも他の奴とは型が違う…瞬発力か?初動が速いな…」ボルグは相手をじっくりと観察していた。そして、その情報を大隊の全員に伝えていたのだ。
もしも自分が撃破されたら、次の人に託すために…
ボルグ大尉が剣を振るが、剣で受け止められ反撃された。反射的に回避したが、胴体を掠めていった。
「今のは危なかった…時間稼ぎだ。時間稼ぎをして中隊の隊員数機で囲まなければ!」
「ボルグ大尉、増援に来ました!後方100mの位置にいます。」
「おお!クロか?助かったよ。中隊の隊員だけではシルバーの奴は多分倒せん…」
「俺達もいますよ!」
「リジル中尉とラッハか?頼もしいな!」
「まぁ、俺はスナイパーなんで後方から…」
「リジル中尉、いつからスナイパーになったんだ?こっちに赤いのも来るかもしれんぞ!」
「クロがシルバーを相手します。俺は赤いのを相手しますから、ボルグ大尉は下がって中隊の編成をし直して下さい。」とラッハ中曹が伝える。
「分かった。クロが到着したら下がらせてもらうよ。それまでは時間稼ぎに相手しておく。」
クロノス達が小山を超えて到着した時、凄まじい光景を目にした。
ボルグ大尉が剣を受けた直後、もの凄い速さで剣を返してボルグ大尉のABLMの左腕が斬り落とされたのだ。
いや、ボルグ大尉だったから左腕で済んだのだろう。回避が遅れたら、脳天からコックピットまで貫通して行きそうな程の威力で剣が振り下ろされたのだから。
「ボルグ大尉!ボルグ大尉!」
「大丈夫だ。とりあえずは動ける。一旦下がらせてもらうよ。クロ、シルバーの機体は強いぞ。気を付けろよ!」
ボルグ大尉が全力で距離を取る。シルバーの機体は少し追いかけてきたが、直ぐに止まって蒼いブレリアの方を向いた。
「アレが青い死神か…俺の相手が務まるか?」ロディ中尉は不敵に笑った。
そしておもむろにパーソナル回線を開く信号をクロノスに送る。
「青いブレリアのパイロット、聞こえるか?パーソナル回線に応じろ。」
クロノスがパーソナル回線に応じて許可信号を送った。そこに共和国側がクルタナ、リジル、ダーイン、ラッハ、帝国側はアロン、ティル、バロムも加わった。
「青いブレリアのパイロット.一騎討ちに応じろ!他の者に手を出さない様に言え。」
「何故応じる必要がある?俺達の方が人数的に有利なんだ。応じる義理はない。」
「それなら、青い死神は俺から逃げたって言いふらすぜ?」
「それは無理だろう。お前はここで死ぬんだから。」
「それこそ無理だろ。俺は負けた事がないからな。」
「奇遇だな。俺も負けた事がないんだ。」
「それは今回みたいに逃げてるからだろ?」
正直言ってクロノスはカチンと来ていたが、冷静を装う。
「まぁ、シルバーの機体を相手しろと言われているから、戦いはするけどね。ただし、他の人が手を出さないかは分からないぞ。」
「負けそうになったら仲間に頼るのか?まぁ、良いだろう。相手してもらおうか!」
今、正にクロノスとロディの戦いが始まろうとしていた。




