第086話 「混沌のクレタ半島」
仮設整備工場でラッハ中曹が唐突に聞いた。
「しかしブレリアって、なんでⅢ型とかと違って丸味を帯びた形なんですかね?」
「四角いと、関節の向きが判っちゃうでしょ?それで極力曲線にしているのよ。」とクーナさんが答えた。
「へぇ…当時でそこまで拘っていたんですね。」
「まぁ、まさか瞬時に関節の向きを見て判断して格闘をする人が居るとは思わなかったけどね。」
「実際いますからね…ってか、ウチらもある程度はやってますよね。」
「そうね…理想論だと思ってた。それを完璧に実行する人間がいるとは思わなかったしね。」
「なんでブレリアって名前なんです?どんな意味があるんですかね?」ラッハ中曹の言う通りだな…どんな意味なんだろ?
「付けたのは私だけど…安易に名付けたの。当時17歳だったしね。若かったわ…」
「だから、どんな意味なの?俺も興味ある。」メッチャ興味あるよ。
「恥ずかしいけど…『Breaks Warrior』の略なのよね…。全てを壊す戦士であって欲しい。壊して新しいものを築き上げて、そして平和を引き継いで行って欲しい。相手の戦士を打ち破り、平和な世界にして欲しいって。」
「恥ずかしくないですよ。なかなか深いです。」
そんな意味があったのか…知らなかった…。意味なんて考えた事もなかったよ…
そんな話をしている時、中隊本部のブロッシュ中曹が慌てた様子で走ってきた。
「中隊長!今、TVで…」
「えっ?何?何?」
「今ニュースで、クレタ半島が独立を宣言したと報道があり…暫定政府の大統領と言われる人物が宣言していました…」
「クレタ半島が独立宣言?」
「はい。しかも、独立を支援するのはミノア帝国、つまり我々は完全に賊軍扱いです。」
「はい?どう言う事?私達、クレタ半島のために戦ってるんじゃないの?」
「クレタ半島とミノア帝国が裏で繋がってたって事か…」と俺が呟くと、ブロッシュ中曹が
「恐らくな…大統領は『アーサー・ブルーベル』って名前なんだよ。」
「アロン中佐の父親ですかね?」
「ブルーベル一族なのは間違いない。独立すれば、クレタ半島はミノア帝国の属国となる可能性があるな。」とダーイン中曹が言ったのだが、即座にクーナさんが否定した、
「いえ、ならないわ。言うなればアロン中佐の傀儡政権になるわね。アロン中佐、コレを狙ってたのか…戦争を始めて混乱させ、奪い合う半島に平和を取り戻すには、クレタ半島を独立させるしかないと言い包める…」
「言うなれば、アロン帝国を樹立するって事か…」
「アロン中佐に踊らされてるわけね。ミノア帝国の皇帝も、そして共和国も…」
小さいながらも国を構え、領土を拡大するのが目的なのか?
「しかし、バルム大尉はどう考えてるんですかね?帝国の為に、皇帝の為にって動いていたのに、実はアロン中佐に踊らされていたって分かったでしょうから…」
ダーイン中曹は、バルム大尉を気に入ってるのかな?
「大々的に『帝国はクレタ半島の独立を支援する』って言ってるから、行動自体は変わらないんじゃないの?内心は面白くないでしょうけど。」
「我が軍は…これからどうするんですかね?独立を承認して撤退する可能性はありますか?」
「無いんじゃない?だって、上層部は帝国の属国になると思うだろうから、そうなると半島は脅威となるでしょうし。」
「それに、国益の為だと言っているから、領土縮小となる事は容認できないでしょうね…」と、リジル中尉が呟いた。
半島情勢が混沌とする中、俺達は上層部の方針を待つだけであった。
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「アロン中佐…コレはどう言う事です?」
「うん?何がだ?」
バルム大尉がニュースを見ながらアロン中佐を問いただす。
「何がだ?じゃありませんよ。何でクレタ半島が独立宣言をするんです?暫定政府の首相がアロン中佐のお父さんだってのも含めてです。」
「知らんよ。親父に聞いてくれよ。」
「知らない訳ないでしょう?何を企んでるんです?これから何を…目的は何なんですか?」
「俺は知らないぞ?まぁ、取り敢えず共和国の出方を待とうや!」
「共和国がクレタ半島から撤退するなんてあり得ませんよ。」
「まぁ、普通に考えればそうだろうな…。ただし、独立後は中立宣言をすると言ったら?帝国にも共和国にも与せず、緩衝地帯そのままに独立するとしたらどう出る?」
「それは…分かりませんね。帝国と共和国は国交断絶している。クレタ半島が2つを繋ぐ貿易の国にもなり得ます。」
「更に…まぁ、それはいずれ分かる時が来るか…」
「何勿体ぶってるんですか?教えて下さいよ。」
「いずれ分かるさ!取り敢えず、今の任務をこなすとしようぜ!偵察部隊の情報では、ガルム州正面にアスカらしきABLMを見たっては話だ。そこに行こうぜ!」
「アスカ少佐らしきって…緑のABLMがいただけでしょ?当てになるんですかね?」
「虱潰しに当たって行くしかないだろ?それと、諜報部の情報では、例の青いブレリアも基地を出発しているって言っていた。かち合う可能性はあるぜ?」
「俺はダーイン軍曹にリベンジできれば良いです。青いのはお任せしますよ。」
「青いのはロディに任せるさ。俺は適当に相手をするよ。ティルはラッハとか言う奴にリベンジしたいだろうしな。となると…新参者の小隊長が俺の相手かな?」
「かち合いますかね?まぁ、期待してますよ。あれからかなり腕を上げましたから。」
「よし!出撃準備だ!すぐにアスカらしきABLMの所にいくぞ!」
アロンは何を企んでいるのか…このままアロンの元にいて良いのか…そんな想いを胸に秘め、バルム大尉は出撃準備を始めた。
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「中隊長!例の小隊が出現しました。出撃準備をお願いします。」
「場所は?遠いの?」
「約30km前方です。第3歩兵連隊の正面に現れて、増援のABLM大隊が苦戦してます。戦車大隊がほぼ壊滅し、陣地を持ち堪えるのがやっとで、全く歯が立たないらしいです。」
「よし、行こうか!みんな準備して!ブレリアを積載して、準備でき次第出発するわよ。」
「中隊長、今回の目的は?俺達の任務はなんですか?」先に聞いてはいたが、確認の為に聞いた。
「データ収集以外の?」クーナさんが不思議そうな顔をした。
「はい。敵小隊の撃破で良いんですよね?」
「前にも言ったけど、敵エース小隊の殲滅よ。敵の生死は問わない。そんな余裕もないでしょうし。」
「了解しました。」と、俺が言った瞬間…
クーナさんが大笑いしやがった!
「だから、敬語使うのやめてよ〜!クロに敬語を使われると、違和感あって笑っちゃうのよ〜。」
「まぁ、中隊のみんなにも了承を取って、クロは普段は中隊長に敬語を使わない方向でいきましょう…時と場合に応じて使うように…」とリジル中尉がまとめた…
またアロン中佐達と戦うのか…しかし、アロン中佐が開戦に関わっているとしたら、アロン中佐を俺は許す訳にはいかない。




