第079話 「スカウト」
クーナさんのお父さんが説明する。
「第101技術試験隊も、教導隊だけじゃなくて専属パイロットを持つ事になったんだよ。そして、研究所内や演習場だけじゃなく、実践で実用試験をする部隊を作る事になったんだ。今日の目的は、君達が使っているブレリアがどうなのかの聞き取りだったんだが…模擬戦を見たらクロ君もクルタナも欲しくなったよ!」
「パイロットは何人必要なんですか?」
「これから部隊を立ち上げるからね。最初は1個小隊+1名の5人だね。小規模なABLM研究部隊だが、特別編成の独立大隊として行動する。大隊と言ってもABLM小隊1個だけどな。」
「欲しくなった。じゃないでしょ!編成も装備も分からないし、何をさせられるかも分かったもんじゃない!」
「おいおい、お父さんが娘を危険な目に合わせると思うのかい?」
「思うから言ってるんでしょ?研究のためには妥協しないんだもん。」
「編成は2個中隊となる。研究支援中隊とABLM中隊。ABLM中隊は初めは1個小隊だけど、最低でも2個小隊は欲しいな!」
「まさか、大隊長はお父さんじゃないでしょうね?」
「うん?お父さんだけど?何か問題あるのか?ついでにABLM中隊長がクルタナと考えてるけど。」
「1個小隊って…まさかウチの3小隊の隊員を引っこ抜く気じゃないでしょうね?」
お父さんが「ドキッ!」とした顔をしている。
「いやぁ…だって、クルタナくらいのレベルが他に3人いるんだろ?興味はあるよ。」
「いや、3中隊全員が教導隊より強いですよ。ウチの中隊で1番弱いと言われている人でも、クーナさんと戦った教導隊で1番強い人に勝てます。」
「クルタナ…お前、どんなレベルの中隊を作ったんだよ…」
「いや…隊員に死んで欲しくないから鍛えたけど…逆に強いからって危険な任務に就かされるようになったんだよね…」
「ともかく、正式に要請させてもらうからな。来るか来ないか考えてくれよ。いや、是非来てくれ!」
その後も色々と話をさせてもらった。お父さんは特に俺を口説きたいようで、研究に関する仕事の内容や研究の楽しさを力説していた。
「クロ君は元整備兵なんだろ?だったら、機械を作る楽しさとかを理解していると思うけどなぁ。ハッキリ言ってピッタリなんだよ。」
「パイロットしかできない奴は、機械がどう動いているかなんて考えないんだ。けど、クロ君は違う。機械を知っているって、本当にここのパイロット向きなんだよ。感想を聞いても、機械を知っていると具体的に説明できるし。クルタナもだぞ!」
お父さんも必死だ。俺は
「俺は興味ありますけど、俺を口説くよりも娘さんを説得した方が良いですよ。俺はクーナさんがいる所なら喜んで行きますから。」
「そうか…そっちも攻めないとダメか…」
「俺はクーナさんが居る所にしか行きません。行けないなら軍を辞めても良いとさえ思ってます。」
「それなら私が辞めるよ!」とクーナさんが言ってくれた。
「けど、君達はもう、軍を抜けれないだろうな。これだけ軍のプロパガンダに利用されてしまえば…」
「影武者で良いじゃないの。別に本人じゃなくてもさぁ…」
「強い奴は影武者にならんぞ。自分の名前を上げたいからな。かと言って、弱い奴では影武者は務まらないから、そう簡単には行かないんだよ。」
まさか研究隊にスカウトされるとは思わなかったな…。その後も色々と話をした。最後にお父さんに
「こう見えて、クルタナは間抜けな所がある。今後とも娘を宜しくな!」そう言われてお父さんと別れた。
帰りの車で、クーナさんと研究隊について話をしる。「クロは研究隊に行きたい?」
「うぅ〜ん…興味はあるよね。整備兵だから機体開発とかは凄い魅力的だよ。」
「要請が来たら行こうか?」
「俺はクーちゃんに任せるよ。ただ、3中隊の人達と別れるのが辛いかな?今まで命をかけて一緒に戦った仲間達だからね…」
「それなんだよね…転属要請がきたら、中隊全員を集めて、中隊のみんなに相談するよ。」
「解決法は無いからね…。」
「クロ、誤魔化さないで本心を言って。」
「だから興味はある。けど、その程度だって。俺の中心はクーちゃんだよ。クーちゃんがいる所ならどこでも行くし、それだけで幸せだよ。」
「結局は私次第か…困ったわね…。私も判断できないでいるのよ…クロがどうしたいかも考えておいてよ。私がそれに合わせるって方法もあるでしょ?」
「まぁ、命令ならば行かなきゃならないし、希望なら中隊のみんなに相談しよう。」
困った事になった…人生が変わる大イベントだよな…
クーナさんのアパートに着いても2人で悩んでいた。そして2人で年を越す。
家族以外で年を越すのは初めてだ。
「クーちゃん、今年1年ありがとう!クーちゃんと出会えて、凄い幸せな人生になったよ!」
「私の方こそ…クロに会わなかったらどんな生活してたんだろう…」
「ガイアのおかげだよね!ガイアがクーちゃんをアルメン基地に転属させなければ、俺達は出会う事もなかった。いや、俺がガイアを拾わなきゃ、出会う事はなかったね!」
「運命なのよ…私達が出会えたのも、そしてこれから起こる事も…」
「これから起こる事か…考えると怖いなぁ…」
「何を言ってるの!私達の未来は、明るい未来しかないわよ!来年も良い年になりますように!」と言って手を合わせていた。
「そうだね!クーちゃん、今年はありがとう!」
来年も良い年になると良いなぁ。




