第077話 「教導隊との模擬戦①」
何でこんな事になったんだよ…
休暇中に教導隊の人と模擬戦なんて…
訓練場に到着した。4機どころか6機いるが…どう言う事だ?話が違うんじゃないか?
6機と戦うのかな?まぁ、どうでも良いか!
技術試験のためなら、サンプルは多い方が良いだろうし。俺もこの機体にはまだ慣れてないし。
クーナさんのお父さんは、車の荷台から徐に折り畳みの机と椅子を出していた。その机の上にパソコンを置き、俺に無線で話しかける。
「クロ君、戦闘中に指示を出させてもらうかもしれんが、研究のための指示だけだ。戦いに関する指示はしないから好きに戦ってくれ。」
「分かりました。宜しくお願いします。」
「頼むのは此方の方だよ。あとクルタナにも乗せるからね。1人だけでは無く、色々な人の意見を聞きたいからね。」とお父さんが言ったあとに
「ちょっと!乗らないと思って全く操縦してないわよ。先に言ってよね!」とクーナさんが文句を言っていた…
教導隊のABLMは、みんなⅢ型だな…格納庫の奥にあったⅠ型とⅡ型は教育用か?
「さぁ、やろうか。宜しくな!」とシュケルト大尉が言う。最初は誰だ?
「最初の相手は俺だ!」と言ってABLMが近づいてきた。
この声は…アラド中曹か。
「シュケルト大尉、何かルールはあるんですか?」
「いや。特には無いが…」
「射撃も有りって事で良いんですか?まぁ、俺は格闘しかしませんけどね。」
「それでは、格闘のみにしよう!」そう言って、シュケルト大尉は隊員に指示していた。
相手は、最初に挑発してきたアラド中曹か…すぐに終わらせる!
2機が対峙する。その後、無線でシュケルト大尉から「始め!」と号令がかかった。
「いくぜっ!死神!」と言ってアラド中曹が切り掛かってくる。
左から右へと振られた剣を受け止めたが、その後も連撃を繰り出してくる。
全てを受け流し、右から左へ剣を振って左腕を破壊判定させ、そのままコックピットに突き刺して撃破判定を勝ち取った。
「次っ!すぐに始めましょう!」
無線でそう伝える。
待機していた者が前に出てきた。
一応は、俺達と戦いたいと言う人達なので、先に攻撃をさせていた。しかし、振る剣を全て受け止めていく。
わざと俺の剣を受け止めさせ、切り返して反対回りに回りながら斬りつける。
「あっ!威力が強すぎた…」
相手のABLMが吹っ飛んで行った…
撃破判定を受けた後、クーナさんのお父さんから無線が来た。
「クロ君!もっとブレリアを限界まで使ってくれ!6割程度だぞ。もっとブレリアを追い込むんだ!」
「そんな事を言ったって…相手が全力を出せる程強く無いんですよ!」
「クロ君…この無線、スピーカーで周りに聞かれてるんだよね…」
「えっ?不味い発言でした…かね?」
俺の心の中で「チーン!」と言う音が鳴った…
「もう面倒臭い!3機まとめてかかって来いと伝えて下さい。こんなんじゃ、技術試験になりませんよ!」
「君…大胆な発言するね…。本当に良いのかい?」
「はい。3機来ても大丈夫です。負けるくらい追い込まれないと、コイツの性能の全力は出せませんよ!」
「分かった。伝えておくよ。」とお父さんが心配そうに言った。
「クロ、本当に大丈夫なの?」とクーナさんから無線が入った。
「大丈夫だよ。この程度ならウチの3小隊の方が断然強い。この人達、2小隊長のリジル中尉よりもかなり弱いよ。」
「だからクロ…この無線、周りに聞かれてるってば…」
あっ!そうだった…
「事実を言っているだけだから、大丈夫でしょ?なんなら3小隊と小隊戦をやったら良い。ウチが速攻で勝つよ。」
「ほぅ…君の小隊は、そんなに強いのかい?今度、お手合わせ願いたいな。」
「それは俺1機に勝ってから言ったらどうです?俺1機に勝てないのに、ウチの小隊に勝てる訳ありませんから。」
「俺は2小隊長のゴーン・グロスター少尉だ。本当に3機で行くから覚悟しておくんだな!手加減はせんぞ!」
そう言って、俺は3機と対峙した。2機にしておけば良かったかな?と少し後悔した…
「ソハヤ軍曹、本当に良いのかね?」と、シュケルト大尉も流石に心配している。
「大丈夫です。やりましょう!」俺はそう答えて剣を構えた。
「始め!」との掛け声と共に真ん中の1機が襲い掛かってきた。と同時に左右の機体が回り込み、俺は囲まれる形となった。
「ガイア!左側の防御を頼む!左腕のコントロールはガイアに任せる。」
『了解しました。』とガイアが答える。
「早く1機でも撃破しないとな…」そう呟いて敵の攻撃を受け流す。
前と右後方から交互に攻撃が来る。
「ガイア!まずは前の敵を撃破する。あと少ししたら前に出るから、左側の防御を頼むぞ!」
『了解しました。任せて下さい。』
右側の敵の攻撃を受け止めた。次は真ん中が攻撃してくるんだろ?そう思い、受け止めて弾いた反動で、真ん中の敵へと俺から距離を詰めた。縦に振ってきた剣の横腹を左から右へと弾き、時計回りに回りながら胴体部分を切る。
『中央の機体の撃破判定を確認しました。』とガイアが伝えてくれた。
「次は右をやる。引き続き左側の防御をしてくれ!」とガイアに頼み右側の敵の動きを観察る。
敵は左右に分かれて少し離れていた。左側はガイアが完璧に防御してくれている。他のAIもここまでできるのかな?
「よし!飛び込むぞ!」
ガイアが敵の攻撃を盾で弾いた瞬間に、右側の敵へと飛び込んだ。右の敵が剣を横に振ったのを屈んで躱し、左から右へと剣で斬りつける。両足の破壊判定を確認し、次は左側の敵だ。
もう1対1なので、心にも余裕が出てきた。
敵と正面から対峙する。敵が回りながら斬りつけて来た所を飛び込んで回転を止める。
回転を止める時、剣の刃を立てて敵の腕を止めたため、敵の右腕は破壊判定を受けたようだ。
自分の回転の勢いで、俺の剣にぶつかって判定を受けたのだ。
そのまま剣で敵を弾き、胴体に蹴りを入れて転ばせた。
胴体を左足で踏みつけて剣をコックピットに向けて刺す体勢を取って少し待つ。
「参った。俺の負けだ。」と、転ばせたABLMのパイロットから無線が入った。
「クロ君!まだ80%だよ。100%までは能力を引き出せなかったね。君の操縦は機体に優しいな。」とクーナさんのお父さんから無線が入る。
「もう終わってしまいましたから…次はクーナさんが操縦ですよね?」
「ああ。80%とは言え、良いデータが取れたよ。ありがとう。」
「それでは交代しますね。」と言い、クーナさん達がいる所まで移動した。
機体から降りて見学者達の方を見ると、俺を見ながら沈黙していた。
「クーちゃん、頑張ってね!」
「もう…乗りたく無いんだけど…」とクーナさんがお父さんの方を見ると、お父さんは目を逸らした…
「まぁ、相手は1人だし、やってみやるわ。」
そう言ってブレリアに乗り込むクーナさん。
「ちょっと!これ、私達のブレリアと感覚が全然違うわよ!」とクーナさんが大声で騒いでいた。
「うん、違うけど、クーちゃんならすぐに慣れると思うよ!」と励ましのつもりで言ったのだが
「ちょっとクロ!無責任な事いわないで!」と怒られてしまった…
「まぁ、何かあったらガイアに聞いてよ。」
「もう…どうしよう…」とクーナさんが困っているようだ。
スピーカーで流れる無線の内容を聞いた見学者達がざわついている。
「死神は、初めて乗った機体でアレだったのか?」とか言っていた。
さぁ、次はクーナさんの模擬戦か!
俺は無責任に「クーちゃん、頑張ってね〜!」と言った…




