第075話 「中隊長としての責任」
橋の敵防衛部隊は、ほぼ壊滅させたと言っていいだろう。火砲1門に逃げられたが、それでも劣勢を覆して勝利した。
地域を確保し、中隊長が大隊本部に連絡をした。『敵部隊を殲滅し、地域を制圧した。』と報告したら、連隊主力が到着したので増援を向かわせるとの事。
「敵はほとんどエースだったのよ!編成だって不利だったし。えっ?敵部隊は殲滅したって言ってるでしょ!増援じゃなくて交代部隊をよこす調整しなさいよ!」
何かがクーナさんの逆鱗に触れたらしい…
俺は、普段は怒ることのないクーナさんが、無線で怒っている様子を遠目に見ていた。
「あんたバカじゃないの?この地域は、橋を修理し終わるまでは確保しなきゃならないって分からないの?上級部隊に地域確保の計画を作る様に伝えなさい!あっ!作戦幹部に言ってそう処置するのよ。分かった?」
そんな会話をしているのを、遅れてこちらに合流したボルグ中尉とラッハ軍曹も眺めていた。
「クロ、何かあったのか?中隊長が怒るって珍しいぞ?」
「いや…無線の会話の内容を聞いていないから分からないです…。ちょっと聞いてきますね。」
「いや、俺も行こう!」
そう言って、3人でクーナさんの所に行く。
「クーナさん、どうしたの?無線で怒ってたけど…」と俺は確認した。
「どうもこうも…戦闘間も定期的に大隊本部には報告してたんだけど、それを聞いていた連絡幹部がさぁ…」とクーナさんが愚痴を言い始めた。
なんでも、ボルグ中尉も中破されたりして3中隊らしくないとか、戦闘は終わったと報告したのに増援やろうか?とか嫌味を言われたらしい。
更には、4中隊はあっさり任務を完遂して集結地に帰る準備をしているのに、3中隊は何を呑気にその場に止まっているのか?と…
「LO(連絡幹部)って、中隊長より先輩でしたよね…バカとか言ってましたけど…」とボルグ中尉が驚いていた。
連絡幹部は、階級はクーナさんと同じ『大尉』だが5〜6歳年上の幹部の先輩の筈だ。
「だってバカなんだもん…それに、隊員達が命をかけて戦ったのに、嫌味しか言わないから頭にきてさぁ…」
クーナさん…リジル中尉の命を少しだけ弄んでた気がするが…それは言わないでおこう…。
何にしても、中隊の隊員達が軽く見られたから怒ったんだな。良い中隊長じゃないか。
「クーナさん、怒るとシワが増えるよ〜!」と俺がからかうとクーナさんが
「シワが増えても、クロは私から離れないから大丈夫♡」
「中隊長…隊員達の前で惚気るのはどうかと…」とボルグ中尉に言われていた…
主力は到着してすぐだけど、今日中に交代部隊が来てくれるという事だった。
我々2大隊が、先に戦場に来て激しい戦いをしてきたとの報告を受けた連隊長から、戦場地域のかなり後方の基地で待機するように命令を受けた。実質は休養である。
交代部隊が来たため3中隊は、とりあえず集結地に帰る事になった。交代部隊の主力は第3大隊だったが、後から歩兵連隊とかも増強されるらしい。
集結地に到着した、中隊の宿営地にいくと…宿営地内が騒がしかった。女性が大声で泣いている声がするのだ。
「クーナさん、この泣いてる人、アスカ大尉?」と聞くとガイアが『声紋はアスカ大尉と一致しています』と言った。
クーナさんが慌てて「見に行こう!」と言って走り出す。
クーナさんが走り出す前に、ボルグ中尉は既に走って向かっていたが…
大隊の患者収容所に3人で走って行った。到着すると、丁度4中隊の隊員が担架で運ばれて行く所だった。
戦闘中に命を落としたのだろう…。あれは、パイロットのジョンソン軍曹だな…
それを見て泣き崩れているアスカ大尉…
自分では『感情が欠落している』って言ってたけど、隊員のために涙を流している…
「アスカ大尉!」とボルグ中尉がアスカ大尉に駆け寄ったら、アスカ大尉がボルグ中尉に抱きついて大泣きした。
「ボルグ〜!私の…私のせいでジョンが…ジョンが死んじゃった〜!」と言って大泣きしている。
「何でアスカのせいなんだよ?」とボルグ中尉が聞くとアスカ大尉が
「あの時に私がジョンの増援に行っていれば…カバーできていたら良かったのよ!それなのに…それなのに…」
「中隊長、あの時に中隊長がこちらに来てくれなければ、第2小隊が全滅していました…中隊長の判断は間違っていません。例えジョンソンを失ったとしても…」と2小隊長が言っていた。
「それでも…それでも何かやりようはあったはずよ…私がしっかりしていたら、こんな事にはならなかったはず!」
アスカ大尉、指揮官は初めてだと言っていた。俺は今まで『敵のエース部隊に行った裏切り者』と言う偏見があった。
敵に行ったり味方になったり、コロコロと変わりやがって!って思っていた。
ボルグ中尉が、この人と付き合う事になった時も理解はできなかった。しかし、今は違う。
自分の部下のために涙を流している姿を見て、そんな偏見はぶっ飛んで行った。
あの、普段のチャラチャラした言動からは想像出来ないほどの責任感もある。
しかも、アスカ大尉が4中隊長になってからは訓練が厳しくなり、4中隊のレベルもかなり上がっている。
4中隊の隊員に日々の厳しい訓練に対して聞いても、だれも文句を言う者はいなかった。それどころか、毎日が充実しているとすら言っていた…
「4中隊長…そろそろ宜しいでしょうか?」と担架を持つ衛生兵が聞いた。
また大泣きするアスカ大尉の代わりに、アスカ大尉を抱きしめていたボルグ中尉が大きく頷いた。
アスカ大尉を含む4中隊の隊員達とクーナさん、ボルグ中尉と俺でジョンソン軍曹を見送る…
見送った直後、アスカ大尉が泣きながら大声で叫んだ。
「私は…私はもっと強くなる!」と。
それを聞いた4中隊の隊員達も「俺も…俺も強くなるぞ!」と口々に言っていた。
見送ったあと、クーナさんまで泣いてアスカ大尉に抱きついていた。
それを見ていたボルグ中尉に俺は「アスカ大尉、良い中隊長ですね…」と言うと
「ああ、俺もあの2人みたいな中隊長になりたいな…良い見本が2人もいるよ。」とボルグ中尉が頷きながら言った。
「中隊は家族」と、よく言われる。中隊長は大黒柱だ。中隊の隊員の身上(心情)をしっかり把握して中隊団結の核心とならなければならない。
隊員の戦死と言う悲しい出来事ではあったが、このアスカの行動が4中隊の団結をさらに強め、士気を高める事となった。
MUC211.12.29
島での戦闘が収束をしてきたため、我々2大隊はアルメン基地に帰る事になった。
他の大隊はもう少し残るようだが、2大隊は先遣部隊として来ていたし、橋を壊されて増援が見込めない状態で良く戦ってくれたと現地部隊の指揮官からも評価されていた。
確かに転用、転用で、かなりこき使わされたな…
ドゥルガー大橋の応急修理も終わり、橋が通れるようになったため、1日で基地に到着する。
基地に到着後には、すぐに整備等をして30日の午後から休暇になる予定だ。
しかし、またもやTVの取材対応をしてくれと言われたのだった。
今回のドゥルガー島の戦闘の噂が広がり、3中隊だけでは無くて2大隊全員が取材対象らしい。
ゆっくり休ませてくれよ…
まぁ、半日の取材ではあるが、自分の取材の番が来たら呼ばれるので、それまでは整備ができる。
放送は元旦だと言う。なんか、戦闘記録の映像まで渡しているようだった。
あっ!この前のTV放送はどうだったんだろう?録画してるから、あとで見よう。
取材も終わり、整備も終わらせて午後から休暇となった。
クーナさんから突然
「31日に、父親がこちらに来るらしいの。一緒に会いに行かない?」と言われた。
「えっ?本当?良いけど…場所はどこで?」と聞き返すと
「ここより南に100kmくらいの山奥に、ABLMの研究所と実験隊の小さな基地があるのよ。研究所で待ち合わせしてるの。」
年末に、何故かクーナさんの父親に会う事になってしまった…




