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機動機兵ブレリア「戦場の絆」  作者: キジ白のやまちゃん
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第074話 「リジル中尉の成長」


 クルタナは焦っていた。


 敵の左の小隊を2機撃破したものの、ほとんどは牽制のための射撃しかしていないからだ。


 それに、敵を撃破したのは1小隊と2小隊であって自分ではない。指揮官としては当たり前なのだが、やはり自分で動かないと気が済まないタイプなのだ。


  

「残るは水色と黄色の2機ね。私が前にでるから、2小隊は続行して。1小隊は射撃支援よ!」


「しかし…3小隊を待つ作戦では?」と2小隊長のリジル中尉が聞くが、クルタナは


「だって、早く撃破したいんだもん!」


「だもんって…大丈夫でしょうか?」


 リジルは困惑していた。最初から計画通りではなく、臨機応変に対応はしていた。しかし、この命令は中隊長(クルタナ)の我儘なのではないのか?と…


「どの道、3小隊ですぐに来れるのはダーイン軍曹とクロだけよ。私とリジル中尉で撃破しちゃおうよ。」


「はぁ…分かりました…」


 乗り気ではないリジルと中隊長(クルタナ)の2機を先頭に、2小隊は接近して行った。


 リジル中尉は競技会でも上位であり、3小隊の隊員を除けば、おそらく1番となる実力はある。


 いつも3小隊が先頭となって撃破数を稼いでいるから少ないが、それでも撃破数5機とエースの要件は満たしており、実際に他の部隊に行ったならばトップレベルであろう。


 しかし、3小隊の化け物達をいつも見ているために、リジル中尉は自分に自信が無かったのだ。


「リジル中尉は水色の相手をして。私は黄色いのをやるわ。大丈夫!自信を持って!」


 中隊長にそう言われたが、敵もエースだ…「本当に俺は勝てるのか?」とリジル中尉は不安で仕方がなかったのだ。


 もし敵が3小隊の隊員みたいな凄腕だったら…そう思わずにはいられずに落ち着かない。


「中隊長…自分は不安であります…」正直に中隊長に自分の気持ちを打ち明けた。すると


「リジル中尉、貴方に足りないのは自信よ。貴方は強い!3小隊が別格なだけで、リジル中尉は十分強いわ。クロに教えてもらった事を思い出して戦って頂戴。」


 リジルは悟った。「そうか…これは、いつも3小隊の後ろにいる俺達に自信を付けさせるために、敢えて作戦変更をしたのだ。」と


「中隊長、ありがとうございます!」リジルはクルタナに感謝した。


 しかし、当のクルタナ本人は「敵、強いかなぁ?よし!暴れるぞー!」と意気込んでいた。リジルが良いように勘違いしているとも知らずに…



「リジル中尉、行くよ!」そう言って、クルタナが先頭で飛び出した。


 クルタナが右側の黄色の機体に向かう。リジル中尉は左側の水色の機体に向けて前進した。


 敵がバズーカ砲をこちらに向けているのをリジルが確認して焦る。


「ちょ!俺はクロみたいに避けれねぇぞ!」


 リジルが必死に回避行動をとり、運良く?バズーカ砲を躱す事に成功した。


「あぶねぇ…冷や汗でるわ!」と独り言を言うリジルにクルタナが助言する。


「落ち着いて敵の動きを見るのよ!敵の行動を予測するのは良いけど、それに囚われないでね!」


「はい。了解です!」


 リジルがそう答え、剣を構えて接敵する。


 敵がもう1発バズーカ砲を撃ってきたが、それを避ける事は無かった。


 落ち着いてバズーカ砲の向きを見ると、少しズレている事に気付いたので命中しないと判断したからだ。


「見える!俺にも見える!」


 落ち着きを取り戻したリジルが更に敵に近づくと、敵はバズーカ砲を捨てて剣を構えた。


「やってやる!やってる!」


 最近は射撃支援ばかりだったので、格闘戦は競技会以来久しぶりなのである。


 しかし、訓練では日頃からクロノス等に相手をしてもらっていた。


 敵が斬りかかって来た所を、剣で受け止めた。


「クロより遅い!対処できない速度じゃない!」


 敵がもう一度剣を振る。冷静に太刀筋を見極め、また剣で受け止めた。受け止められた敵は、更に連撃してきたが、それも全て受け流したのだ。


「俺、強いんじゃないのか?」とリジルは思った。


 次はリジルから攻撃する。敵も剣で受け止めてくる。なかなか強い。


「ちくしょー!簡単には勝てないか…」と呟いた時、敵の突きが左腕をかすめた。


「危ねぇじゃねぇか!この野朗!」


 もはや、誰に対して怒っているのか分からない状態である。


 敵が左から右へと剣を振る。それを受け止め、流れるように剣を振り下ろす。しかし、その剣を躱されてしまう。


 お互いに決定打がないまま戦闘が続いた。


「もっと速く!もっと無駄なく剣を振るんだ!」


 リジルは自分にそう言い聞かせる。


「クロとの訓練を思い出して!各関節の向きや予備動作を見て、敵が防御し難い所を見極めるの!」とクルタナから無線が入る。


「そうだ!それだよ!先ずは防御だ。しっかり敵の事を見なければ…」


 リジルは教えられた事を思い出す。敵の手首、肘、腕、肩の向き。腰、足をどう動かしているかなど、必要な情報を集めて頭の中で整理する。


「この情報処理速度を速くしなければな…そして判断するんだったよな。」そう呟いて集中すると、朧げながらも太刀筋が分かるようになってきた。


 そうすると、今まで防御で手一杯だったのが、攻撃の事まで考えられるようになってきた。


 敵の攻撃を捌いていくのにも余裕が出てきた。


「だんだん理解してきたぞ!」


 訓練ではこんなに身に付かなかった。命を賭けた戦いだからこそ、真剣になって集中しているのだろう。


「これを応用して、今度は攻撃だ!」


 そう意気込み、敵を注視して観察した。


「ここが防御し難いか?」リジルの剣が敵の機体をかすめる。


「ここだ!」そう叫んで出した剣が敵の左腕に当たった。


「威力が弱かったか…スムーズに動けなかった。次は思い切り斬ろう!」


 リジルがだんだんとコツを掴んでいく。周りから見ていると、リジルが圧倒している様に見えるだろう。


 敵も防御で手一杯だ。しかも、敵は周りを気にして目の前のリジルに集中していない様にも感じる。


 リジルが左から右に剣を振ると、敵がそれを受け止めた。初撃を受けられた瞬間にリジルは「もらったっ!」と叫んで次の剣を繰り出す。


 防がれた剣を滑らせる勢いを利用して剣を引き、敵の腰の旋回部に突き出した剣はしっかりと機体を捉え、上半身と下半身を分断した。


「やった!勝ったぞ!」そう喜ぶリジルに、クロノスが無線で伝える。


「左腕を切り落として下さい。固定武器で射撃される可能性がありますから。」


 リジルがレーダーを見ると、自分の周りに3機の機影が映っている。


 目の前の相手に夢中になって、レーダーを見る余裕もなかったのだった。



『敵が周りを気にしてたのはこれだったのか…』とリジルは思って、クロノスに確認する。


「クロ、いつから見てたんだ?」


「結構最初の方だと思います。リジル中尉、かなり強くなりましたね!」



 クロノスとダーインが居るのは理解できる。しかし、もう1機は?誰なんだ?と振り向く。


 リジルの予想通りクルタナであった。


「中隊長、いつからそこに?」


「クロとの訓練を思い出してってアドバイスした少し前かな?戦いを見ていてアドバイスしたから。」


 クルタナは、速攻で敵を撃破してリジル中尉の増援に向かったのだったが、見ていて面白い勝負だったため見学していたのだ。


「そんな…加勢して下さいよ…。ってか、クロとダーインも加勢してくれたって良いだろ!」


「いや…リジル中尉が勝てると思っんで…それに、中隊長が止めるし…」とダーインが答えた。


 クルタナは、2人に手を出すなと合図していた。

 

「中隊長、俺の成長のために…」


「えっ?あっ…そっ…そうよ!リジル中尉のためを思ってさぁ!」


 クルタナは慌てて言い繕ったが、ただ単に見ていて面白かっただけであった…


 まぁ、本当にピンチになったら助けようとは思ったが、戦いを有利に進めていたから手出ししなかったのだった。


『まぁ、リジル中尉も一皮剥けたみたいだし…結果オーライよね!』そう思いながら、少し反省するクルタナであった。


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