第072話 「エース部隊との戦闘①」
中隊長の号令で前進を開始した。
徐々に敵に近づく。
敵は防御しているABLM1個中隊に1個砲兵中隊及び1個戦車小隊が増強されていると見積もられる。
我々の隊形は、いつもと同じく3小隊が先頭で1・2小隊が後ろに控えている。
1・2小隊の真ん中には中隊長がおり、中隊を中央から指揮するとともに、不利な小隊の方に中隊長が増援にいける隊形だ。3中隊独自の隊形だろう。
普通は2個小隊を前に出して正面押ししていくので、本当に特殊な隊形だと思う。3小隊ありきの隊形なのだ。
近づくと、敵砲兵の射撃を受けた。敵は射撃してくるが、我々が下手にキャノン砲とかで射撃をすると、ドゥルガー大橋を破壊してしまう恐れがあるため、状況を見ないと射撃できないのだ。
「好き勝手に射撃してきやがって…」と、ラッハ軍曹が呟いていた。
「中隊長、敵部隊は、ABLM中隊基幹と戦車小隊はいますね。砲兵は確認できません。」とラッハ軍曹が報告した。
キャノン砲のスコープを使用して確認したのだ。
「ABLM中隊の機体色は確認できる?」とクーナさんが質問する。
「右側の敵小隊は、赤、黒とノーマルカラーが2機で、左側の小隊は、黄色…水色かな?あとはノーマルカラーが1機確認できます。奥の小隊は、赤と…赤?ワインレッドか?の2機の他、ノーマルカラーが2機ですね。残り1機と中隊長機は確認できません。」
少なくとも、6機はエースって事か…
「紫は無しか…アロン中佐達は居ないみたいね。赤いのはティル少佐の可能性はあるかな?」
「いや、ティル少佐とは配色が違いますね。ティル少佐は赤黒でしたから。」
「アロン中佐達の小隊が帝国では1番強かったんでしょ?それよりは敵は劣るはずだわ。大丈夫よ。」とクーナさんは相変わらず楽観的だ…
敵の砲兵射撃の他、戦車小隊からも射撃を受ける距離まで近づいてきた。
「みんな、敵の位置を常に頭に入れておいて!迂闊に射線に機体を晒さないように。3小隊は、敵の射線を切りつつ前進して接近して。ルートは任せる。ルートが決まったらデータを送って頂戴ね!」
3小隊の接近経路をボルグ中尉が送った。
「3小隊、このルートで行くぞ!道が狭いので、1列で迂回して行く。行進順序は、クロ、ダーイン、俺、最後はラッハだ。」
クーナさんがみんなに命令する。
「1・2小隊は停止!射撃支援の準備にかかれ。3小隊が接近するまで待機よ。もう少しで激しい戦闘が始まるわ。みんな、死なないでね!」
3小隊は、敵の射線から隠れて接近して行く。敵の右小隊の手前500mの付近まで近づけた。
敵もレーダーで見えているだろうが、この先は開豁しているために迂闊に3小隊を射撃できる位置まで移動できないのだろう。
砲兵の射撃もされてはいるが、前に小高い山があるために山に砲弾が落下している。
開豁した地域への出口の手前で、俺はボルグ中尉に意見具申した。
「ボルグ中尉、出口から出たら、3機並列で突撃しませんか?敵も前面に3機いますので、同時に制圧したいです。」
「同時に行くか…分かった。俺は右の敵に行く。クロが中央でダーインが左側だ。敵もエース級だ、気を付けろよ!ラッハは後方から支援射撃と敵スナイパーの牽制を頼む。中隊長に意見具申するよ。」
と言って、ボルグ中尉が中隊長に無線で意見具申した。
「了解。3小隊のルートだと、敵の右小隊に攻撃をするで良いのかしら?」
「はい。敵の右小隊に3機同時に突撃します。」
「分かったわ。突撃のタイミングは私が統制する。1・2小隊はスモークを準備!3小隊が突撃する前に、後方の戦車小隊の前にスモークを射撃するわよ!2弾目もスモークね。2弾目の目標は、1小隊は右ABLM小隊と後方のABLM小隊の間、2小隊は左右の小隊の間ね。1弾目は私が射撃の統制をするけど、2弾目は各小隊長が統制して!」
と、クーナさんは直ぐに作戦の変更を達した。頭良いなぁ…。柔軟性があると言うか…
「3小隊、突撃準備が完了したら報告してね!」
とクーナさんからの無線に、ボルグ中尉が「準備良し!」と答える。
「了解!3小隊はスモーク射撃の弾着10秒後に突撃!突撃の号令は中隊長が掛ける!」
スモークが弾着してから煙の効果が出始めるのが、約10秒後なのだ。
「1・2小隊、目標正面の敵戦車小隊手前50m、スモーク、射撃準備良ければ報告!」
「1小隊、準備良し!」
「2小隊、準備良し!」
「射撃用意…撃て!」
「1・2小隊、2弾目を速やかに射撃せよ。3小隊、突撃5秒前…3、2、1、突撃!」
クーナさんの号令で突撃した。ラッハ軍曹から連絡が来る。
「ダーイン軍曹の敵は黒い機体だ!クロの相手は赤で、小隊長の相手はノーマルカラーです!」
それぞれが了解し、接敵行動をとりながら接近する。スモークのおかげで、敵の支援射撃は無い。
「敵を撃破した者は、隣の支援に行くか敵スナイパーの撃破に行け!その時の状況を見て、俺が判断するからな!」
そうボルグ中尉が伝えた後、各々は自分の正面の相手と対戦することとなった。
************************
中隊長の号令により、クロノスが先頭で飛び出して行った。敵小隊のヘイトがクロノスに一瞬だけ集中する。
その後、ダーイン、ボルグ、ラッハと飛び出して行く。敵は困惑し、自分の正面に向かってくる敵に集中する。
ラッハが射撃支援基盤に到着した頃、クロノスは敵の赤いABLMに接近していた。
クロノスは左腕のマシンガンで牽制しようと思ったが、敵は障害物を利用して射線を切る。剣を構えてそのまま接近して行くと、敵がバズーカを構えているのがチラッと見えた。
「射線から飛び出した瞬間に射撃するつもりか?好都合だ!」そう言って、クロノスは敢えて射線に飛び出す。
予想通りにバズーカを撃って来たので、それを剣で弾いて更に接近する。相手もバズーカを捨てて剣を構えた。
「赤いABLM…潔いな…構えにも隙が無い。」クロノスから斬りかかるのは止めておいた。相手の剣を全て受け、クロノスには勝てないと理解させてから撃破するのだ。
殺しはしない。共和国の『蒼い死神』には勝てないと理解させれば、今後も無用な戦いをしなくても良くなるのでは?と考えたからだ。
そして、薄いオレンジ色の『戦場の女神』も同等だと思わせれば、クルタナも戦闘に巻き込まれる事が少なくなるのではないか?と思ったのだ。
敵の赤いABLMが斬り込んできた。なかなか鋭い斬り込みだが、クロノスが捌けない速度ではない。フェイントも交えて攻撃して来たが、全て受け流す。
帝国のABLMも、左腕に固定武装のミサイルか?を付けている。
それを足元に向けて発射されたが、共和国のABLMの無反動砲より初速が遅いし発射のタイミングも予測できたため、近距離とはいえクロノスは回避した。
またクロノスに接近し、剣で斬りかかる。敵に好き放題攻撃させた。連撃を全て受け流すと、赤いABLMは距離を少し取った。
「そろそろ攻撃するか…」クロノスがそう呟いた時に、赤いABLMが後方に逃げて行ってしまった…
「何だ?こいつ…。勝てないと思って逃げた?なら追いかける!」
クロノスが追いかける。速度はブレリアの方が速い。敵はレーダーで追いつかれると悟ったのか、機体を反転させて身構えた。
いつもより少し遅い速度で剣を振る。右から左へと横に振った剣を敵が受け止めた。
その瞬間、クロノスは最速で剣を引き、敵の左脚を突いて破壊した。
そのまま振りかぶって左肩に剣を入れて左腕を切り落とした。
すぐさま下から上へと切り返して右腕を切り落とし、コックピット付近に蹴りを入れて仰向けに転倒させた。
残った右足に剣を刺し「ボルグ中尉、敵を撃破しました。次の目標を指示して下さい。」と報告し、戦闘終了となった。
クロノスが周りの様子を見ると、ボルグ中尉の戦闘も少し遅れて終わったようであったし、ダーインも撃破していた…
「残り1機か…」クロノスがそう呟くと
「ダーイン、大丈夫か?」とボルグが聞いていた。
「こちらも撃破した。小隊長は?」
「こっちも片付いた。俺とラッハは後方の砲兵部隊をやりに行く。ダーインとクロは、敵スナイパーを撃破後、敵戦車小隊を撃破に行け!」
「砲兵部隊って少し遠いですよ?射点予測では2kmくらいありますが…」
「砲兵が2kmの距離なら近い方さ!1・2小隊が砲兵に射撃され始めたから、叩かないと脅威になる。」と言った後、ボルグは中隊長に無線で伝える。
「中隊長、3小隊は敵小隊正面の3機を撃破。ダーインとクロで、後方の戦車小隊を撃破させ、俺とラッハで敵砲兵の位置に前進して撃破したい。」
「クロとダーイン軍曹は大丈夫?2機で戦車4両を相手できる?砲兵はウザかったからボルグ中尉の方はお願いしたいけど…」
「大丈夫です。なぁ、クロ!」とダーインが張り切って言った。
「クーナさん、俺達は大丈夫。敵戦車の位置まで分かってるから。戦車撃破後は、後方にいる小隊に攻撃をします。」とクロノスも伝えた。
「了解!3小隊、頼んだわよ!」
中隊長にそう言われ、俺達はそれぞれの目標に前進した。




