第067話 「第4中隊長着任」
宿営地に到着後、3中隊長の所に行き、捕虜から聞いた話をした。
俺とクーナさんがミノア帝国軍の賞金首になっている事をだ。
「恐らく、アロン中佐の仕業ね…それで私とクロばかり狙われた訳だ…」確かにクーナさんも狙われてたよなぁ…
「しかし、それならそれで作戦の立てようもあるわよね!」と、クーナさんは前向きだ。
「私達が囮になって周りに支援してもらったりすれば、かなり効率よく撃破して行けるかもしれないわね。」
「ダメだ!クーちゃんが囮なんて。やるなら俺1人でやる!」
彼女にそんな事をさせる訳にはいかない!
「そしたら私が心配じゃん…」とクーナさんが困った顔をしている…
「俺は大丈夫!俺は負けないよ。」
「100%なんて保証は何処にもないのよ?」」
「それでも、クーちゃんにやらせるくらいなら、俺がやる!」
「クロ…興奮するな…。俺もいるんだぞ…」
あっ!ボルグ中尉がいるのを忘れて、中隊長にタメ口になってしまった…
「あっ!中隊長、すみません…」
「まぁ、中隊長とクロの関係は、みんな知ってるけどな…」
「3人しか居ないから良いでしょ?ボルグ中尉。」
「はぁ…中隊長がそう仰るなら…。」
「だって…クロに敬語を使われると、めちゃくちゃ違和感あって笑っちゃうんだもん!」と言って、クーナさんはケラケラ笑っている…
「それはそうと、この件に関しては連隊本部にも伝えた方が良いでしょうね…」ボルグ中尉が真面目な顔で言う。
「そうね!まぁ、どの道捕虜から聞き出せるんでしょうから、私から大隊本部と連隊本部に伝えておくわ。」
「はい。連隊も、これで作戦を立てれるかも知れませんし、有益な情報だと思います。」ボルグ中尉がそう伝え、中尉長の天幕を出た。
「はぁ…」とボルグ中尉がため息を吐いている…
「どうしたんですか?ため息なんか吐いて…」
「お前達を見てると…羨ましくてな。俺も彼女が欲しいんだがなぁ…」
「部隊交代で基地に帰ったら、誰かに紹介して貰ったら良いんじゃないですか?」
「今時期、軍人と付き合う人もいないだろ?死ぬかも知れんからな…」
そんな話をしながら歩いていると、4中隊の宿営地の方が騒がしくなった。
「何ですかね?4中隊の方が騒がしいですね。」
「4中隊長が入院する事になったから、その準備やらで忙しいんだろうな…」
「やはり怪我の状態は良くないんですか?」
「足を複雑骨折してるからな…ABLMには乗れんよな?」
「中隊指揮だけって訳には行きませんよね…」
「あぁ…中隊長機があるからな…。時には第一線で陣頭指揮をしなきゃならんし、仕方がないだろ。」
4中隊長…大丈夫かな…
MUC211.11.23
第4中隊長の補充要員が入ってくるので、大隊の紹介行事があると言う。
随分と補充が早いな…
宿営地の広場に整列し、式台の横に立っている後任4中隊長を見て、3小隊の皆んなは驚愕した…
見覚えのある顔…と言うか…こんな事ってあるのかよ…
紹介されようとしている人物は…
「クロ!あれ、アスカ少佐じゃないのか?刑務所行きじゃないのかよ?」とダーイン軍曹が聞いてきたが…俺も何がどうなのか、てんで分からないのだ?
「元々が共和国の軍人とは言え、何で中隊長になれるんですかね?」俺も不思議なのだ。
「アスカ・ロン大尉は、長い間ミノア帝国で諜報員として潜伏活動をしていた。一般部隊は久しぶりなので、皆んなも色々と手伝ってやってくれ。」
そう大隊長が紹介した。
「そう言う事にしたのか…上手いな…」ボルグ中尉が妙に感心している。
「けど、敵のパイロットだったって、皆んな知ってるんじゃないですか?少なくとも、3中隊の隊員はほとんど知ってますよね…」
大隊の紹介行事が終わり、中隊長の着任式となったが、まぁ、このご時世だ。簡単に済ませていた。
気になったので、クーナさんと3小隊のメンバーとで着任式を見に行ったんだが…着任式の言葉が引っかかる…
「3中隊に負けない中隊にする!私も3中隊長に負けない中隊長になる!」って…
しかし良いのか?ウチの大隊、中隊長が女性2人になったぞ!
着任式が終わり、クーナさんと3小隊皆んなで4中隊長の天幕へ行った。
天幕へ行って中に入ると
「アンタらか…何しにきたのよ?」と悪態をついている…
「何考えてるの?何を企んでるのよ?」と、クーナさんが激しく問い詰める。
「企みなんかないわよ…」
「何で軍に復帰できるのよ?軍事裁判したんじゃないの?」クーナさんも不思議だよな…俺も知りたいな。
「したわよ…判決は有罪の無期懲役。当たり前だけどね。その後、取り引きを持ちかけられたの。」
軍が取り引きか…確かに、これほどのパイロットなら、軍も使いたくなるって事か?しかし、一度裏切られているんだぞ?
取り引きの内容は、特別措置として軍に復帰させる。階級は元の大尉。それだけらしい。
サンガール地方の戦いで、戦死ではなく帝国の捕虜となり、そのまま帝国に潜伏したと言うストーリーが出来上がった様だ。
「それだけな訳ないでしょ?貴女にデメリットがないじゃない。軍もそんなに馬鹿じゃないわ!」
「家族を人質に取られてるの。軍に軟禁されているわ…。まぁ、今までも、家族は軍に監視されていたらしいけどね。入院中のお爺ちゃんは軍病院に移されたし。」
「軍が人質って…倫理的にどうなんですかね…。」と俺が聞いたが、戦争自体がどうなんだ?って話にもなるか…
「表には出さないでしょ?軍から復帰の打診があったとき、私も喜んだわ。条件次第では復帰したかったからね。」
「何で?」と言うクーナさんの質問に、何故かモジモジしている…
「あんた…本気でボルグ中尉の事を…」クーナさんの女の感が冴える。
全員が驚く。本気か?
「ボルグ中尉!どうなんですか?」とダーイン軍曹が聞いているが…
「ダーイン、何で俺に聞く?俺は関係ないだろ?」
「いや…4中隊長の事はどう思ってるのかな?って思いまして。」
「いや…まぁ…性格も明るいし、綺麗な人だとは思うけど…そんな話をしに来たんじゃないだろ!」
それを聞いて、アスカ大尉が嬉しそうだ…
「本人どうしの問題なんだろうけど…俺はこの人は許せません。クーナさんを狙った事は忘れられませんよ。」
「私もエクス中尉をやられたのは忘れられない…」
「クロちゃん…戦場では敵を狙うものなのよ?あの時は敵だった。けど、今は味方よ。」
なんでクロちゃんなんだ?馴れ馴れしい…
一通りの話が終わり退室しようとした時、アスカ大尉が「ボルグ中尉、少し話があるの…」と言っていたため、ボルグ中尉だけ残る事になった。
「どこまで信用できるんだろう…」俺は心配になった。
「どこまでも信用できない人よ。しかし、ボルグ中尉の事、本気なのかしら。」
どうなんだ?分からんな…
ボルグ中尉が帰って来てから、3小隊の皆んなでその後の話をきいた。
「いや…切実だったぞ…」ボルグ中尉が話し始めてくれた。
なんでも、アロン中佐との戦いを見て気になったらしい。劣勢の中でも諦めない心、そして、実際にアロン中佐と張り合った技術。
とどめは、あの面会で話しをした時らしい。あれ以来ボルグ中尉の事が忘れられない。軍から復帰の打診が来た時、第3騎兵連隊じゃなきゃ復帰しないと条件を出してここに来た。
こんな気持ちは初めてだ。どうか自分と付き合う事を前向きに考えて欲しい。
と真剣に言われたらしい。
「ボルグ中尉、この前彼女が欲しいって言ってたじゃないですか!良いんじゃないです?2、3歳年上でしょうが、綺麗な人だし。」
「しかし…。いや…正直、女性にここまで思われたのは初めてだから、戸惑ってるよ…」
「もし付き合う事になっても、みんな祝福しますよ。」ラッハ軍曹がそう言うと、ボルグ中尉は
「前向きに検討してみるよ…」と言って悩んでいる様だった。
恋は盲目…アスカ大尉がねぇ…




