第057話 「青いブレリア」
場所は第3中隊本部…
クルタナは、中隊に帰ってボルグを呼んだ。話はもちろん、直轄小隊長についてである。
クルタナが小隊長になるか、ボルグが小隊長になるか…
3中隊長がボルグ中尉に事情を説明する。
「先程、連隊本部から打診がらあったの。部隊再編成に伴い、連隊直轄小隊のメンバーを変更するという事だった。そのメンバーに、3小隊の隊員が全員選ばれてるの。」
「ダーイン、ラッハに俺ですか?あと1名は?」
「クロよ。それに、小隊長は私かボルグ中尉かどちらかと言う打診なの。」
「それなら中隊長が行って下さい。」
ボルグは辞退した。本当に強い人間が直轄小隊に行くべきだと思ったからだ。
「しかし、今時期に中隊長が変わったならば、中隊がバラバラになる可能性が…。」
クルタナは、中隊の事を心配していた。
連隊の思惑、クロノスを中心に連隊直轄小隊を作るようだと言う事も説明した。
しかし、クロノスはクルタナの元に来たがっているとも…
ボルグ中尉が自分の気持ちを伝える。
「正直言って、中隊長は今のまま、3小隊も今のままでクロが入ってくれるのが俺の理想です。しかし、連隊長にも考えがあるでしょうし…。」
「連隊長の目的は分からないわ…そのように意見具申してみようかな…」
もしも意見具申が通らなければ、中隊をボルグに任せてクルタナが直轄小隊長となる決心をする。
その時は、後任の中隊長を支えてくれとクルタナはボルグに頼んだ。
MUC211.10.23
クロノスは、連日の事情聴取で疲れ切っていた。テイン中曹についての事情聴取であり、何回も軍警察に同じ事を繰り返し言っている。
そのおかげで勤務にも穴が空き、整備班も忙しそうである。
クロノスは原因不明の体調不良となった。
事情聴取の苦痛と重なり、ナハス軍曹を看取った時の、あの衝撃的な夢を繰り返し見て寝不足となっていた。
フラッシュバックのような形で繰り返し起きているように感じていたのだ。
それが続き、医務班へ行くも内科的には問題はなく、連隊には精神科医はいないため、とりあえず連隊心理幹部のカウンセリングを受ける事になった。
カウンセリングを終え、精神科医のいる方面軍診療所に行くよう勧められて受診した。その結果「COSR(戦闘・作戦ストレス反応)と診断された。
一般で言う所の「ASD(急性ストレス障害)」である。
病状的には同じだが、一般とは全く異なる概念である。
ASDとは、トラウマとなる圧倒的な出来事を経験して間もなく始まり、1カ月未満で消失する日常生活に何らかの支障をきたす反応である。症状が1カ月を超えて持続する場合は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)となり重症化する可能性もある。
普通の場合なら、本人が安心感を感じられる環境を整え、周囲のサポート体制を整える事になる。本人のストレス状況に関して、共感を持って理解を示しながら励まして行くのだが、軍隊の行うCOSRの対処法は違う。
安心できる環境へと後方の病院へ下げたら、2度とその隊員は第一線に戻す事ができなくなるのだ。
また、部隊から離して安全な地域に後送すると、戦場が嫌になった他の隊員が多数、同じような症状を訴えてくるようにもなる。
なので、軍隊では第一線の隊員がこのような状態になったら、自分の部隊の後方にある段列地域で勤務させる。もう少し良くなったら、部隊に戻れる、第一線にに復帰できると励ましながら。
しかし、元々クロノスは整備班で段列地域での勤務であり、たまたま第一線に行って戦闘加入したため、勤務場所等の変更もなくそのまま勤務する事となった。
医師には後方支援勤務でそんな事は無いと思うが、1か月弱は間違っても戦闘行為はしないようにと釘を刺された。
幸か不幸か、この診断結果により連隊直轄小隊を改編する案は無くなった。
連隊直轄小隊のメンバー変更の全てが白紙となったため、クロノスもクルタナも、そして3小隊のメンバーもそのままとなったのだ。
中心となるべきクロノスがこの状態であるならば、連隊直轄小隊のメンバー変更に不安が生じたのだろう。
この事を聞き、クルタナはクロノスの事が心配だった。自分の様に過去を引きずってしまうのではないかと…昔の自分の様に、悪夢にうなされる日々を送るのではないかと…
クロノスは、精神科医には11月13日までは段列勤務をする様にと指示を受けていた。
しかし、中隊長に直談判し、3中隊に配置換えをしてもらうよう希望する。
これは、レート整備班長とも話し合って決めた。大隊の補充要員に、整備兵を2名にしてもらい、パイロットの補充を1名減らす様に調整する事をお願いした。
調整は大丈夫なようだ。整備兵の補充調整はパイロットより簡単であり、調整担当としては助かる内容だったからだ。
大隊長も了承し、クロノスの3中隊への配置換えが決まった。当初は医師の指示通り、11月13日以降に配置換えする予定だったが、クロノスの希望により、10月27日の補充要員の到着日に配置換えする事となった。
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26日の夜、整備班で送別会が行われた。皆んなが俺を心配してくれていた。
しかし、自分の彼女が指揮官である中隊に行けるので、俺には不満は無い。
「俺が大隊を守る気持ちで頑張ります!」そう言うと、皆んな笑顔になり
「デカい事を言ったな!期待してるぞ!」と言って、快く送り出してくれた。
27日の朝、3中隊長に配置申告をする。その際、第3小隊に配置されると伝えられた。
ボルグ中尉に挨拶に行くと、3小隊のメンバー皆んなに歓迎された。ボルグ中尉は
「クロ、本当に来たな!歓迎するよ。」と言ってくれた。
「俺の使うABLMはどこに有るんですか?」と質問したが
「今日、補充要員と一緒に届く筈なんだがな…」
とダーイン軍曹が言っていた。空いているはずのテイン中曹の機体は、あの時に俺が使っていたから無事の筈だが…
しばらくすると、俺の使う機体が到着したので受領しに行ってくれと言われた。
中隊長機と俺用が来るとの事で、中隊長は少し遅れて行くと言っていた。
ダーイン軍曹と2人で受領に行ったが…
「クロ…何だ?このABLMは…」
Ⅱ型ともⅢ型とも違うその機体を見て、2人で言葉を失っていた。
すると、後ろからクルタナが声を掛ける。
「研究本部にあった機体を2機、特別にこちらに回してもらったの。」
クルタナが手配し、自分の分も併せてクロノスの為に特別に使用許可を取った様だった。
「機体名はブレリア。製造は6機のみ。私と父さんが作った試作機なの。」
「えっ?これを俺が?」
「ええ。開発された時期は1型と同じ頃だけど、製造コストが高過ぎて…ほぼ油圧式なのよ。パワーは凄いし、性能は今のⅢ型よりは遥かに高いのよ。」
「クーナさんが作った機体を、俺が使う事になるとは…」
「元々1型とのコンペで負けてしまった機体よ。性能は高いけど、高コストと制御が難しくてね…ガイアレベルのAIじゃないと機体制御は無理かも…」
「高性能なら、少数でも量産すれば良かった様に思うけど…」
「だからⅢ型を開発したんじゃない?Ⅲ型は、Ⅱ型とブレリアのハーフみたいな感じよ。高性能と低コストを両立したいんだと思う。」
「中隊長のAIは大丈夫なんですか?競技会の時に見たら、ガイアと同じく色がシルバーだったけど…」
「うん。ガイアほどの性能はないけど、普通のよりも高性能よ。これなら制御できる。」
「俺はどっちの機体を使えば良いんですか?」
「私の機体はオレンジの方だから、こっちのグレーの機体を使って。その機体はプロトタイプの0号機。コスト度外視で製造された機体よ。」そう言ってクルタナは笑っている。多分、俺が敬語を使っているからだろう…
しかし、本当に自分の上司になったのだ。職場で敬語を使わない訳にはいかないのだ。
「中隊長のは何号機なんですか?」
「私のは3号機よ。因みにクラウ大尉が1号機だけど、もう破壊されてしまったし…2号機はエクス中尉の機体だったけど、あの事件以降に回収されてⅢ型のテストベットになったって聞いたわね。」
「あと2機はあるのか…」
「他の2機は、実用テスト用と予備機だったかな。まぁ、使ってみて!」
そう言われ、クロノスがグレーの機体のコックピットに乗り込む。コックピットの規格は共通のようだ。
ガイアをセットし、確認する。
「ガイア、この機体を制御できるか?」
『はい。私は元々ブレリア用に開発されたAIです。クラウ大尉もブレリアを使用していましたので大丈夫です。』
「そうなんだ…よし!それじゃ、行こうか!」
操縦して直ぐに理解した。パワーが違う!反応速度が違う!
「凄い機体だな…少し敏感すぎるか?慣れれば大丈夫かな?」
『マスター、感度を下げますか?』
「いや、このまま行く。そのうち慣れるさ!」
3中隊のハンガーまで移動させて、ブレリアを眺める。
Ⅲ型とは形が違いすぎる。Ⅲ型も他国のABLMも、比較的角ばった形が多い。しかしブレリアは、丸味を帯びた型なのだ。
違う種類の機体が来たとの事で、整備班から連絡が来た。
整備の参考に、1度実物を見たいとの事であった。整備書も予備部品も来ているので見なくても大丈夫そうではあるが、3日ほど貸し出す事になった。
その時、レート整備班長に「連隊で撃墜数最多のエースだ。機体色を好きな色にできるがどうする?」と聞かれた。
機体色については変えるつもりはなかったが、ナハス軍曹が好きだった「澄海青」にしてもらう事にした。
「主はコバルトブルーで、他はセンス良くお願いします!」と言って機体を整備班に預けた。
3日後、コバルトブルーに塗られた俺の機体が帰ってきた。
やっとタイトルの機体を出す事ができました…長かった…




