第056話 「戦闘終了後の会議にて」
静まり返った戦場で、クロノスは無線のスイッチを入れた。3中隊系を使って連絡する。
「中隊本部、こちら33e、敵部隊を殲滅した。今から帰投する。」
「ちょっと、クロ!大丈夫?殲滅したって…」無線を聞いたクルタナが困惑する。
信じられないが、クロノスはたった1時間余りの間に、ほぼ1人で敵1個連隊基幹の敵を殲滅させたのだ。
「こちら33e、合流地点のデータ送信頼む。ABLM回収車の位置に行ってから合流地点へ向かう。」
「33e、こちら30、中隊本部だ。ABLM回収車はこちらで回収する。33eは、そのまま中隊本部の位置まで前進して貰いたい。」
「こちら33e、了解。ナハス軍曹が荷台に乗っているので、慎重に運転して欲しい…」
「こちら本部、了解した。」
クロノスが応答し、最初に立ち寄った第3中隊本部へと向かう。
クロノスが移動している間、各大隊から2大隊本部に問い合わせが殺到したらしい。どう言う事なのか?と…
結果的には勝った。この規模の戦闘にしては、損害はかなり少ないだろう。
作戦を無視した行動ではあったが、結果は大勝である。それぞれの大隊が、それぞれの思惑のままに質問してきたようだった。
各部隊の指揮官は部下に欲しいと思うだろう。しかし、その戦いぶりを見た者は、仲間も含めてクロノスに恐怖してしまっていた。
アレは本当にABLMなのか?と…
本当に同じABLMを使っているのか?と…
明らかに違うその動きに、敵も味方もクロノスを見た者は驚愕し、或いは歓喜し、恐怖した。
理解を超えた動きをどうにか説明して欲しい。確かにクロノスは、競技会でも次元の違う動きはしていた。
しかし、まだ理解できる範疇だったのだ。今回は違う。人知の理解を超えている。
クルタナも何故、クロノスが戦闘に参加しているかの細部は知らない。なので、大隊本部から問い合わせが来ても答えられない。
クロノスが第3中隊本部に到着した。
「クロ…」と言ってクルタナが人目も憚らず抱きついた。
「クーちゃん…ナハス軍曹が…」
そう言って、クルタナを抱きしめながらクロノスは泣いた。クルタナも泣いていた。泣いている2人を、周りはただ見守るしか無かった。
「俺…いっぱい殺したよ…。本当にたくさん…」
更に涙が溢れ出た。冷静さを失い、自分はとんでもない事をしてしまったと…。
「そう…。ナハス軍曹は別な車で段列に届けてるわ。話は後で聞くから、とにかく大隊本部に行きましょ。」
とクルタナに言われ、クロノスはABLM回収車を運転して移動した。
大隊本部に着くなり、今度は連隊本部に行けと言われた。しかし、その途中で無線が入り管理小隊長から、とりあえず段列に戻って来いと言われた。
何が本当なのか分からずに混乱したが、戦闘が終わったので、連隊本部に行くのは集結地に戻ってからになると聞いた。
クロノスは、段列の整備所に到着した。
ついでだったので、ABLM回収車に戦闘で損傷したダーインの機体を乗せて運んできた。
ダーインの機体を積む時、荷台の血の塊を見てナハスを思い出してしまった。
段列地域に到着し、レート整備班長に事情を説明した。
仲間が裏切るなんて信じられないようであったが、事実、ナハス軍曹の遺体は段列に運ばれていたし、レート整備班長も、ナハス軍曹を確認していた。
「クロ…大変だったな…」レート整備班長も、周りで聞いていた整備班のみんなも涙を流していた。
残存兵の掃討も終わり、撤収命令が下る。
集結地までの帰りは、レイア伍長が助手席に乗る事になったが、女性の前だと言うのにまた涙が出てしまう。
何故…何故こうなった?俺が悪いのか?いや、あの時、ナハス軍曹を守る事もできたんじゃないか?と後悔ばかりが溢れ出る。
帰りの車内は無言のままだった。レイアもクロノスの気持ちを察してか、何も話す事はなかった。
集結地に到着し、次の日の朝に連隊本部に呼ばれた。なんでも作戦会議をやるらしく、大隊長と一緒に行く事になっていた。しばらくすると、第3中隊長も来た、何故か会議に参加するらしい。
会議の議題は3点であった。
①今回の俺の行動と第3中隊の隊員のスパイ疑惑について
②連隊の再編成について
③連隊の今後の予定について
である。
会議が始まると、俺への尋問が開始された。前の日には戦闘データを連隊本部に渡していたので、それを元に尋問されるのだろう。
「君の戦闘データを確認した。本当に第3中隊のテイン中曹が我々を裏切ったようだな。彼の目的や狙いは何だったと思う?」と聞かれた。
「はい。目的は、我が国の新型機を帝国に持っていく事だと思います。」
「ドヴェルグ大尉、テイン中曹は前からスパイだったと思うかね?我が連隊の情報も渡していたと考えられるか?」
「いえ。情報は流して無いと思います。むしろ、早期に撃破されて後退した他の方面軍にスパイが大量にいるのではないでしょうか?普段の行動や言動からも、彼が敵側と判断できませんでした。」
「スパイではなく、突発的に裏切ったと?」
「はい。その可能性は…」とクルタナが言おうとしている言葉を遮り、クロノスが発言した。
「いえ、突発的なものでは無いと考えます。今回の戦闘で、第3中隊正面の敵は他に比べて多かったと思います。戦闘データを見ても分かると思いますが、第3中隊の第3小隊の正面には、テイン中曹を回収するための部隊もいました。明らかに計画的に新型を入手するためです。」
クルタナは驚いた。そこまでの話をクロノスから聞いていなかったからだ。
「そうだな。では、その後のソハヤ軍曹の行動だが、君はテイン中曹の戦力を無効化して捕虜にできたんじゃないか?」
「できたと思います…。いえ、できました。」
「何故、そうしなかったのかな?その方が、軍としても情報を聞き出せて都合が良かったんだが。」
「私怨です。ナハス軍曹を殺され、逆上していました。」
「私怨か…まぁ、戦闘とは計画があってのものだ。君達は何故、テイン中曹に狙われたんだ?」
「達ではありません。テイン中曹は俺を殺そうとしたんです。俺の力が帝国の脅威となる、と…。それにナハス軍曹は巻き込まれたのです。俺の性格を知っているため、テイン中曹は自分が殺されるとまでは考えて無かったと思います。」
「しかし、君は殺した…と。その後、数々の命令を無視し、戦闘加入しているが?」
「ドヴェルグ大尉もボルグ中尉も、俺の指揮系統上の上官ではありません。命令を聞く義務はないと考えます。」
「しかし、戦闘員でない者が戦闘に加入している。これ自体が明らかな命令違反だとは思わないかね?」
「それは…そうです。命令違反となるでしょう。」
「敵機を56機撃破か…たった90分間で。撃破数だけ聞くと2個大隊以上だが…これは、どう説明してもらえば良いやら…」
「レーダーに映った敵を、次々に撃破しただけです。頭に血が上り真っ白になっていました…」
このような形で会議は進む。会議と言うよりも事情聴取である。恐らく、この後に上級部隊にも報告しなければならないのだろう。
俺への処分等は特に無いとの事であったので驚いた。命令違反だったんだが…
議題②に移った。
なんだかんだ言って、今回の戦闘では損害はあった。特に第4大隊は壊滅的な損害である。そこで補充隊員を入れての再編成を行う訳だが、その時、連隊直轄小隊のメンバーを変更する案があるとの事。
なんと、クロノス、ダーイン、ラッハと言うメンバーで、小隊長がクルタナかボルグ中尉と言う二つの案があると言う。
実際、小隊長とは中尉か少尉がやるものだが、連隊直轄小隊の場合は勝手が違う。中佐までが小隊長をできるようになっている。
クルタナは即答しなかった。ボルグの意見を聞きたかったのだろう。
クロノスにも意見を聞かれたが、クロノスは
「ドヴェルグ大尉が直轄小隊長になるなら来ます。ならないなら3中隊に配属させて下さい。」と言った。
特に理由は聞かれなかった。相手方も、だいたい理由は察しているのだろう。
「ますますドヴェルグ大尉を直轄小隊長にしなければならなくなったな…」と副連隊長が言っていたので、この編成はクロノスありきの考えなのだろう。
代わりの3中隊長を補充するかどうかを速やかに決定しなければならないため、今日中に返答してくれと言われていた。
3つ目の議題に入る前に、クロノスとクルタナは会議の場から外されたため、自分達の部隊に帰る事になった。
帰りにクルタナとクロノスは、今後について話をした。
「クーナさん、直轄小隊長の件、どうするの?」
「受けてみたいけど…ボルグ中尉次第かな?連隊は、クロを直轄小隊に入れたいんでしょうね。そうなると私が小隊長にならざるを得ないと…」
「ごめん…我がまま言って…。俺がクーちゃんを直接護りたいんだ…」
クロノスがそう言うと、クルタナは照れながら笑った。
クルタナは、部隊改変についての話をボルグ中尉にする事となる…中隊の今後を心配しながら…




