第055話 「暴 走」
何時間経ったのだろう…辺りも明るくなり始めていた。
圧倒的に不利な第3小隊の正面を切り崩す事に成功した第3中隊は、衝撃力をそのまま保って前線を押していく。
クロノスは、ダーインを囲んでいた3機を速攻で撃破していた。
ボルグ中尉とラッハ軍曹の方にそのまま向かい、残りの3機を1人で撃破する。
ボルグは唖然とした。減らしたとは言え、自分達が苦戦していた数の敵を、クロノスがあっさり撃破したからだ…
「速い!これは…鬼か?悪魔か…夢なのか?」
ボルグと同様、ラッハも驚愕する。
「味方だと心強いな…クロが居ると負ける気がしない…」
クロノスからボルグに無線が入る。
「33α(アルファ)、こちら33e、直ぐに33cの所に行って貰いたい。まともに動ける状態では無い。」
「33α(アルファ)了解!33eは今後どうするのか?」
ボルグは不思議だった。本来、整備兵のクロノスがそのままダーインの機体の故障を見るべきだと思ったからだ。
「33eは、これより第2小隊正面の敵を殲滅しに行く!」
ボルグ中尉は慌てた。
「待て!待つんだ。これは命令だ!」
「敵を皆殺しにする!」
クロノスは、ナハスを失い、ダーインまでも危ない目に合わせた敵が憎かった。
既にクロノスには理性は無い。戦うだけの機械と化していた。
この戦いに負けると言う事は、自分の愛するクルタナにまで被害が及ぶ。
敵を殲滅する事以外は考えていなかった。
「33e!クロ!待つんだ!」と言うボルグ中尉の静止を振り切り怒鳴る。
「敵は全員ぶっ殺します!」
ブチ切れたクロノスが暴走したのだった。
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クルタナは3小隊無線を傍受して驚く。何故クロノスが戦っているのだと。
ボルグ中尉に言われて、クルタナは3小隊の無線を傍受したのだ。クロノスを止めてくれと言われて…
「クロ!何をやっているの?下がりなさい!」
クルタナもクロノスを必死に止める。しかし
「クーナさんに害をなす者どもを排除する。俺はもう、愛する人を失いたくないんだ!」
「待ちなさい!これは命令よ!作戦が…前線が混乱するからやめなさい。」
クルタナは作戦のせいにしたが、本当はクロノスを危険な目に合わせたく無かったのだ。
「俺は3中隊の隊員では無い。クーナさんは指揮系統上の上官ではないから、その命令は聞く必要は無い。」
「私の気持ちはどうなるの?それも無視するの?」
「自分の気持ち、自分の決心を優先する!3中隊…いや、3連隊の前にいる敵を殲滅する。」
「思い上がらないで!貴方1人で何ができると言うのよ。直ちに戻りなさい!」
「目の前の敵を殲滅する!」
クロノスはそう言った後、無線を切った。
「何故…何故なの…」クルタナか泣き崩れた。
何故か3中隊正面は敵が多い。それどころか、1個連隊以上の規模の敵を殲滅するなんて、人間1人、ABLM1機では不可能なのだ。
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「ガイア、稼働可能時間は残りどのくらいだ?」
『はい。約90分です。』
「何だ?あの敵は…」3小隊正面の敵方側に、敵機を2機確認した。
『恐らく、テイン中曹を回収するための部隊だと思われます。』
「そうか…トロイアの最新型を敵側は欲しがっている訳かよ…排除する!」
そのまま近づく。敵もレーダーでキャッチしたようで、警戒態勢となった。
マシンガンを撃つ敵に対し、素早く斜めに避けると同時に無反動砲を発射した。
そのまま距離を詰め、剣で2機を撃破する。瞬殺である。
「よし、2小隊正面に行くぞ!精度は悪くて良いから、レーダーの索敵範囲を広げろ。」
『了解しました。マスター。』
2小隊正面の敵を次々に撃破し、その次は1小隊へ…
3中隊正面の敵を撃破したならば、次は4中隊正面へ…
2大隊正面が終わったら、次は隣の大隊へ…
クロノスは、鬼神…いや敵から見たら悪魔か死神に見えたであろう。正確に剣でコックピットを貫き、次々と撃破していく。
敵どころか、味方も恐怖した。あまりの凄まじい戦いぶりに…
どれだけの時間が経ったのであろう。戦場が静まり返る頃、戦場でたった1機で立ち尽くしている友軍のABLMが確認された。
周りには、数十機と撃破したであろう敵の機体が散乱している。
それは、今回の戦闘が終結した証でもあった。




