第046話 「未熟なる者」
執筆完了!
まだダーイン編は続きます。
競技会2日目の朝、ダーインの心には焦りと後悔が有った。昨日の小隊用訓練装置の部で、20分間をクリアできなかったからだ。
「小隊長かラッハに抜かれる可能性があるよな…まぁ、終わった事か…」
悔やんでも悔やみきれない。たらればの話だが、あの時に手が滑らなければ…と思うと、正直やり切れない気持ちになる。
ダーインは、昨日の結果を心に受け止め、ABLMに乗り込んだ。
今日は格闘訓練装置の部を2回実施する。午前中に1回、午後に1回だ。
小隊長とラッハも、格闘訓練装置に関しては1回ずつ残していると言っていた。
ラッハの記録を破れるか?不安はある。
ラッハの記録を破ると言う事は、自己ベストを更新しなければならないと言う事だからだ。
今日、本番にそれができるのか…
ABLMの点検をしていると、中隊長とクロが応援に来た。この2人は本当に仲が良い。見ていて微笑ましいな…
「クロ、昨日受けたアドバイスだが、ターゲットからターゲットの繋ぎの部分な…」
と、クロに色々と教えてもらう。クロは10歳年下であるが、実力に年は関係ない。俺は恥ずかしいとも思わない。ただ貪欲に技術を吸収したいんだ。
俺は未熟だ。しかし、未熟だと言う事は、まだ伸びしろがあるからこそ未熟と言えるのだ。
このままでは終われない。いや、終わらせないつもりだ。
クロからのアドバイスを聞き、ABLMを動かして練習する。ターゲットをイメージして剣を振る。もっと速く!もっとスムーズに!と振り続ける。
「よし!そろそろ行くか…」
覚悟を決めて、開始位置に移動する。
ラッハも、俺の後に最後の1回をやると言っていた。アイツは午後から小隊用訓練装置の方があるから、そちらにも集中しなければならない。
「とりあえず、ラッハの記録を破らなければな…」
現在のトップは、ラッハ軍曹の1分18秒50である。昨日の俺の記録よりも10秒以上速い。しかも、俺は練習では1回も1分20秒を切った事がない。
「俺は出来る!俺は出来るんだ!」自分にそう言い聞かせ、開始のブザーを待つ。
クロに教えてもらった事を思い出せ!
「セルリ…アリス…」妻と娘の名前を呟いた時、ブザーが鳴った!
「いくぞ!」叫ぶと同時にダッシュする。
「ターゲットからターゲットへの繋ぎだ!意識しろ!集中しろ!無駄を無くせ!」呪文の様に心に刻む。
AIのアリスがカウントする。『残り30』
「よし!半分か。順調だ!」そう言うと、更に意識を集中する。
『残り20』『残り10、9、8…』集中しろ!ペースを上げろ!『1…0!』
「終わった…出し切った…どうだ!」
記録係が読み上げる。
「第3中隊、ダーイン軍曹の記録。1分17秒81。トップタイム更新です!」
「やった!トップだ!やったぞ!」
競技会場からも、割れんばかりの拍手が鳴り響く。
ABLMを待機位置まで移動させる。
クロが走ってきて祝福してくれた。
「ダーイン軍曹、やりましたね!だいぶスムーズになりましたよ!」
「あれ?中隊長は?」と聞くと、ラッハが格闘訓練装置の所に並んでいる為、その応援に行ったとの事だった。
クロからスポーツドリンクを渡され、それを飲んでいると、会場が騒ついた。
場内アナウンスが響き渡る。
「第3中隊、ラッハ軍曹の記録。1分16秒30。トップタイム更新です!」
「ラッハ…やってくれるなぁ…」
先程の俺のタイムを約1秒縮めやがった!正直言ってショックだった…短い時間のトップタイムだったな…
「そんな…」クロがガッカリした顔で俺を見る。
「大丈夫だ!俺はあと1回できる。クロ、アドバイスをしてくれ!」
もう、今からの時間はクロに付きっきりで訓練してもらい、終了時間ギリギリに最後の1回をやる事にした。
「クロ…すまんな。見学したいだろうに…」
「いえ。気にしないで下さい。俺もダーイン軍曹の力になれるのが嬉しいんです。」と言ってくれた。
俺は、ここまでしてくれるクロのためにも優勝したいと思った。そして、愛する家族のためにも…
午前中の競技が終わり、小隊用訓練装置の方はボルグ中尉が12分52秒で暫定2位だ。俺の記録は、まだ破られていない。
しかし、午後はラッハがやる為に破られる可能性はある。
まぁ、小隊用訓練装置を実施する残りのメンバーをみると、破られそうなのはラッハくらいだ。
これまでの結果を見ると、現在の俺の順位は「小隊用訓練装置の部が1位で、格闘訓練装置の部は2位だ。
これでも十分な成果だと言う人もいるだろう…しかし、格闘訓練装置の方は、あと1回挑戦できる。
昼飯を食べて、またクロから特訓を受ける。
「あとはやるだけです。本番まで休憩して体力を回復しましょう。」と言われたため、小隊用訓練装置の部を見学しに行く事にした。
ラッハは最後から3番目だ。
「次はラッハか…まぁ、俺は待つ事しかできないけどな!」とクロに言って笑った。
「ラッハ軍曹も上手いならなぁ…」と心配そうに見ていた。
しかし、俺は嫌な人間だ…同じ小隊の仲間の失敗を願っている…なんて小さい人間なんだと自分が嫌になる。
ラッハの競技が開始された。やはり上手いな。危なげなく回避していく。
15分を過ぎて攻撃が激しくなった頃、ラッハも厳しくなってきている様だった。
「あっ!危ない!」つい声を上げてしまった。
しかしラッハは、右腕を犠牲にして撃破判定から逃れた。また避け続けている。しかし、17分を超える前に右後ろに被弾して撃破判定となった。
記録は16分46秒。俺の記録に2分ほど届かなかった。
俺は安堵した。3位は確定である。まぁ、残り2人に超えられる事もないだろうが…
ラッハの競技を見終わると、俺は格闘訓練装置の方へ向かった。
「もう教えられる事は無いと言っても良いくらいです。あとは自信を持って下さい!」とクロが言ってくれた。
「ああ、分かった。今までありがとな!」
「頑張って!」と言うクロに手を振り、ABLMに乗り込む。
係の人に確認したら、残りは俺だけの様だ。
小隊用訓練装置の会場が騒がしい。俺の記録が破られたか?とも思ったが、考えとは裏腹に、係の者に祝福された。
「ダーイン軍曹、おめでとうございます。小隊用訓練装置の部が終了し、ダーイン軍曹の優勝が確定しました。」
「ありがとう!」と言って開始位置まで移動した。
良かった。此方を実施する前に1種目優勝を聞いた事により、肩の力みが消えた。
格闘訓練装置の方も、2位は確定している。
ラッハが俺のABLMに近づき叫んでいる。
「ダーイン軍曹!俺の記録を超えてみろ!ブチかませ〜!」
俺は先程、ラッハの失敗を願っていたのに…コイツは俺を応援してくれるのか…
そう思うと、自分が情けなくなってきた。
「この恩に報いるには、ラッハの記録を抜くしか無いな…」そう思った。
開始位置に到着した。
先程出した自己ベストを、更に更新しなければならない。しかし、ピンチだとは思わない。むしろチャンスだ!
目を瞑り、顔の前で十字をきる。
神にも祈った。あとは…そう。自信を持つ事だよな?クロ?
「よし!やるか!」と気合いを入れて頬っぺたを2回両手で叩いた。
そして、静かに開始のブザーを待つ…
競技会編は次で最後になります。
俺、「小説家になろう」でコレを書き始めた理由はコロナウィルスなんですよね…
なんか、子供たちは学校が休みになるかも知れないって噂がニュースで流れ始めて…
暇になるだろから、俺の妄想でも読んで暇潰しでもしてくれと。
だから、子供達が休みのウチは投稿ペースを早くしようと頑張ってます!宜しくです!




