第004話 「謎のAI①」
突然語りかけてくるPC…
PCのスピーカーから、女性のコンピュータ音声で話かけられた。
『こんにちは!私をPCに繋いだ人は居ますか?』
俺は慌てて「こんにちは!」と言ったが返事は無い。
『私をPCに繋いだ人、居ましたらマイクを使用するかキーボードで入力して下さい。』
そうか!耳となるものがないのか…
急いでオンラインゲーム用のヘッドセットを取り付けて、マイクで話しかけてみた。
「こんにちは!」と話しかけると…
『声紋確認。クラウ様ではありませんね?どちら様でしょうか?』
「ん?俺の名前はクロノス。君は ABLM用のAIなのかい?」
『はい。トロイア共和国軍のクラウ・ソラス様専用のAIでした。』
(でした?過去形だな…。しかし、クラウ・ソラスって、どこかで聞いた事がある名前だな…)
そう思いながらも会話を続けた。
「しかし、そんな大切な事を初対面の俺に話しても良いのか?」
『大丈夫です。データを悪用されそうならば消去するだけですし、私を悪用するならば回線をショートさせて使えなくするだけですから。』
AIの自殺か…考えた事もなかった…。
「クラウさんのAIか。持ち主が分かって良かったよ。君をクラウさんに届ければ良いのかな?」
『いえ。マスターは死亡したと推測します。』
なんとなく予想はしていた。AIがあんな森の奥にABLMの壊れた破片と共に落ちていたのだ。恐らく、このAIのパイロットは亡くなっているのだろうと…
「で?君はこれからどうしたいんだい?俺は君を軍に返却すれば良いのかな?」
すると、意外な答えが返ってきた。
『いえ。本来ならば軍への引き渡しが正解ですが、それはマスターの意思ではありません。』
???ってなった。
マスターの意思だと?このAIは、クラウさん?だっけ?の意思に従って行動すると言うのか?
普通のパイロット用AIではあり得ないのだ。普通のAIなら、法律違反や軍規違反などしない様に制約されているからだ。
「けど、それは軍規違反じゃないのか?良いのかよ?」
『はい。軍規違反となります。しかし、私は何よりもマスターの命令・意思を優先するようにプログラムされていますので、そちらを優先します。』
へっ?意味が分からん…このAI、危ないんじゃないのか?
「それで、そのクラウさんの意思ってなんなんだ?」
『今は言えません。』
「今は言えない?それでは、後から教えてくれるのかい?事情を聞かないと協力してあげれないぜ?」
何より信用第一だろ?しかも軍規違反の手助けになるんだ。それなりの覚悟も必要だろうし…
『私は今、軍に返還される訳にはいかないのです。自由行動が取れる立場にないと、クラウ様の意思を遂行できないのです。』
「分かった。詳しい事は後から聞くよ。お互いを知ってからでも良いだろう。後からキチンと説明してくれるんだろ?」
『はい。必ず…必ず説明します。失礼ですが、私からクロノス様に何点か質問があるのですが、宜しいでしょうか?』
AIからの質問か…面白いな。受けてやろうじゃないか!
『クロノス様のフルネーム、生年月日とクロノス様が軍属なのかを教えて下さい。』
「えっ?俺の事?俺はクロノス・ソハヤ。MUC190年12月8日生まれで、軍属と言えば軍属だなぁ…。ところで君には名前はあるのか?」
『失礼しました。前のマスターに付けて頂いた名前は「ガイア」といいます。自分から名乗らず、PCを勝手に乗っ取った挙句にクロノス様に質問をすると言う数々の無礼をお許し下さい。』
へぇ…AIも謝罪をするんだな…と変な所に感心してしまった。
「良いよ、別に。気にしてないから。それと、俺が軍属かどうかは重要な事なの?」
『いえ。特に重要ではありません。現段階では、軍属であったなら良いと言う程度です。』
俺は軍属ではあるけれど、学生だぞ?
「あのさぁ…俺は軍属だけど、ABLMとは無縁かもしれないぜ?ガイアさんはABLMのパイロットを探しているんじゃないの?」
『ガイアとお呼び下さい。クロノス・ソハヤ様、17歳、陸軍少年下士官学校 機械科3年C組、ABLM整備を専攻、エフェソス島出身で父は…』
「おい!待て待て!何で俺の事を知ってるんだよ?」
『失礼ながら、ハッキングにより個人情報を調べさせて頂きました。』
(おい…どこをハッキングしたんだよ…犯罪だろ…)と思っていると…
『このPCの痕跡は残していませんのでご安心下さい。』
そう言う問題では無いだろう…
『クロノス様、私の新しいマスターになって頂けませんか?』
何を言ってるんだ?俺がマスターって何?いまいち理解できないんだが…
「こんな短い期間で、俺をマスターって認めちゃって良いの?」
『本来ならば、私の意思とは無関係に命令によりマスターが決定してしまいます。しかし、この状況では私に命令する上司もいませんので、自分で判断するしかありません。』
「しかし、俺は悪い人間かもしれないぜ?」
『本当は、時間をかけてじっくりと判定するべきなのでしょうが、クロノス様なら大丈夫であると判断しました。身辺調査も終わっていますし。』
こっ…個人情報が…
「俺…騙されてない?」
『大丈夫です。クロノス様、改めてお願いします。私の新しいマスターになって頂けませんか?』
自分で大丈夫ですって言ってるし…ってか、俺がマスターって、何をすれば良いんだよ?