第032話 「告 白」(閉会式)
第3中隊ABLM競技会編が終了です。
競技場からABLMを移動させて退場する。
「ガイア…今日はありがとう。」
『いえ。あまりマスターのお役に立てずに申し訳ありません。』
「そんな事ないよ!ガイアが居るだけで心強かったから…」
本当に心強かった。
「なぁ、ガイア…俺、間違ってたのかな…?」
『分かりません。しかし、私達AIには勝負を放棄する行為は理解できません。』
「勝負を放棄する行為…か…」
心に刺さる言葉だな…
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格納庫に到着し、ABLMから降りた。
ダーイン軍曹が待っててくれていたので、お礼を言った。
「ABLM、ありがとうございました。おかげで優勝する事ができました。」
「おいおい、元気ないな。中隊長に怒られたのが、そんなにショックか?」
えっ?何で知ってるんだ?って思っていると
「えっ?お前、知らなかったのか?お前達の無線通話は、館内放送でギャラリーに聞こえる様になってたんだぜ?」
はぁ?何だって?マジかよ…
「本当ですか?じゃあ…全部聞かれてたんですか?」
「当たり前だろ?お前が怒られている所も、変な言い訳してる所もな。中隊長相手に手加減するとはな…どんだけ化け物なんだよ!」と言いながらダーイン軍曹は笑った。
「しかし、中隊長が怒った所は初めて見たな…」
「ですよね…明るくて温厚な人ですから…」
ボルグ中尉も走ってきて会話に参加する。
「しかし、派手に怒られたな!ハッハッハ!」
すると、クーナさんのABLMが格納庫に到着した。
ABLMから降りてクロノスの方に近づいて来た。表情は少し怒っている様にみえる…
ダーイン軍曹は「ヤバっ…」とか言っているし…
クロノスが、2人の一歩前に出て待つ。クーナがクロノスの正面に止まった。
「どうして手加減したの?」
「俺が勝ったら、クーナさんの中隊長としての威厳が…」と途中まで言った所で言葉を遮られた。
「どうしてそんな事を気にするのよ!勝負で手加減するなんて、戦士に対する侮辱よ!貴方は私を侮辱したのよ!分かってるの?」
「俺…分かりませんよ。整備兵だから…」
俺の言葉が火に油を注いだ様だ…更に怒ってしまった…
「私は勝ち負けなんてどうでも良かった。
私は、貴方と真剣に戦いたかった!
私に本気で正面からぶつかって欲しかった!
私は、貴方の本気を見たかったの!
私は…私は…貴方の才能を直接感じたかったのよ!」
と言って、大声で泣いてしまった。またクーナさんを泣かせてしまった…
「クーナさん…ごめん…」と言う俺に対し
「クロのバカっ!」と言って泣いて走り去る彼女…
ダーイン軍曹が
「あぁ〜あ…泣かせちまったな…」と言っているが、俺はただ呆然とするしかなかった。
ボルグ中尉が
「おい!追いかけなくても良いのか?」
と言うと、ダーイン軍曹が
「ほぼ痴話喧嘩だな…良いのか?好きなんだろ?」
ダーイン軍曹に言われて気付いた。
(俺…多分、クーナさんの事を好きなんだ…)
しかし、追いかけなかった。追いかける資格が無いと思ったからだ。
ボルグ中尉に挨拶をして、もう帰ろうと思っていた。しかし、ボルグ中尉が
「閉会式に参加して行けよ!中隊の競技会だから、表彰はされないかも知れないけどな。」と言う。閉会式に参加する事になってしまった。
早く帰りたい…今、クーナさんに会うのは気まずいのだ…
気付けば全部門で俺は優勝した…だが、気が重い…
閉会式が始まる前にエーレ整備班長とナハス軍曹に会ったが、俺が暗い顔をしていたからか、少ししか話をしなかった。
「おめでとう!」と言われたが、複雑な気持ちだった。この2人も、あの無線通話を聞いていただろうから、事情は知っているだろう。
格納庫の出来事は、ごく一部の者しか知らないだろうが。
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まもなく閉会式が始まる。
俺はゲストとして、表彰台の横に立っている。
中隊の競技会だから、ゲストの俺が1位として表彰される事は無いだろうとボルグ中尉は言っていた。
ただ、なんらかの御礼で表彰台に上がる可能性はあると言っていた。
格闘訓練装置の部、小隊用訓練装置の部の2位から4位が表彰され、中隊長から首にメダルをかけて貰っている。
あれっ?個人トーナメントは?クーナさんが優勝になるから、自分でメダルをかけるのかな?
と思っていたら、こちらは順位ではなく、個人トーナメント優秀選手として、ボルグ中尉とラッハ軍曹の2名が表彰された。
表彰も終わりかと思ったが、まだ大きなトロフィーが残っている。何の表彰に使うんだろう?
多分、予定されて実施しなかった「小隊戦」用のトロフィーだろ?なんて考えていたら、司会が
『競技会の最優秀選手賞を発表します!』
と言っている。
ボルグ中尉とラッハ軍曹は表彰されたし…他に思い当たるのは、ダーイン軍曹かクーナさんくらいだよな…
『今競技会最優秀選手は…全競技1位と言う偉業を達成した、クロノス・ソハヤ軍曹です!』
えぇ〜?俺、表彰されんの?しないって言ってたじゃないの…
表彰台に上がり、中隊長からトロフィーを受け取る。
クーナさんの顔を見たら目が腫れていた。あの後もだいぶ泣いたのだろう…
司会のリジル中尉が「ソハヤ軍曹、一言お願いします。」とマイクを渡してくる。
また無茶振りだよ…
「えぇ…と、このような競技会に参加させて頂き、ありがとうございました。本当に良い経験をさせて頂きました。この経験を整備に生かして、皆さんのお役に立ちたいと思います。今後とも、宜しくお願いします。」と当たり障りのない事を言う…
マイクを返そうと思ったが、意を決して隣にいるクーナさんの方を向いた。
「ドヴェルグ大尉、あのような事をしてしまい、申し訳ありませんでした…」と頭を下げた。
突然の事で驚いた表情のクーナさんが「あっ!良いのよ、別に…」と少し気まずそうな顔で言った。
会場が静まり返っている…
「ドヴェルグ大尉…いえ、クーナさん、俺と付き合って頂けませんか?俺、整備兵だし、戦士の心って分からないかも知れないけど…クーナさんの事が好きなんです。お願いします。」
自分で思った。何で俺は公開処刑みたいに、マイクを使ってみんなの前で告白しているんだろう?と…
クーナさんが、更に驚いた表情をしている…呆けた顔をしながら「はっ…はい…」と言って、下を向いて赤くなった。
『うぉぉぉ〜!』と会場が盛り上がっていった。
司会のリジル中尉も「何と!全部門優勝のソハヤ軍曹、ここで愛の告白ぅ〜!中隊長がそれを受け、ソハヤ軍曹はこの勝負も勝利した〜!」
この人、上手いな…ってか、何で俺…この場で告白したんだろう…
と思っていると、ダーイン軍曹が走ってきて、俺を表彰台から引きずり下ろす。3中隊の隊員に囲まれて、みんなに胴上げをされた…
もう、お祭り騒ぎだよ…クーナさんを見ると、笑顔になっていた。
やっぱり彼女には笑顔の方が似合う。
あっ…彼女って言えば、本当に俺の彼女になったんだな…まだ夢のようだ…
と胴上げをされながら思った。
結構、構想が有っても、話のテンポが悪くなると思って端折ったりしたものもありました。
更に、当初はクロノスとクルタナを付き合わせる予定はなかったのに…
大幅にストーリーを変更しなければならなくなりました。
勢いって恐ろしい…




