第031話 「虚しき勝利」(vsクルタナ戦)
いよいよ決勝戦となる。
テイン中曹、ダーイン軍曹、ラッハ軍曹と言う3小隊の強敵達を打ち破り、やっとここまで来た。
自分でもよく勝てたと思う。
噂通り…いや、噂以上にクーナさんは凄い。勝つ自信は全く無い。
武装はどうするか…って考えたが、それも無駄だと理解した。
と言うか、中型シールドはいらなかった…さっきも持って行ったけど、結局は途中で投げ捨てたもんなぁ…
と言う事で、シンプルに行く。
◯固定武装の84mm無反動砲
◯右手に両刃の剣
◯左腕に小型シールドを装着
◯左胸に短剣を装着
で行く予定だ。
しかし、クーナさんとの戦いはどうなるかは分からないよな…
出来る事しか出来ないし、今更ジタバタしても仕方がないか!
試合開始まで、あと20分となった。先程試合が終了したばかりの俺を気遣って、時間を空けてくれているのだ。
準備は良い。あとはやるだけだ!今日、初めてABLMで戦闘行為をした俺が、ここまで来れたのが奇跡なのだ。
刻一刻と迫る開始時間。柄にもなく緊張している自分に驚く。
さぁ!始まりだ!入場ゲートを通り、開始位置まで移動する。
クーナさんと戦う事になるなんて、夢にも思っていなかったよ…
彼女が9年戦争時、『六聖剣』と呼ばれたエースの1人であると言う事実は、今は俺しか知らない。
伝説は本当だった。本当に凄い人だ。
こんなにABLMを操縦出来る人は見た事がない。
可愛い顔、華奢な身体、細い手足で、この鉄の機兵を自由自在に動かすのだ。
さぁ!行こうか…これで最後だ!
開始位置に到着した俺は、静かに眼を閉じて開始のブザーを待った。
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開始位置で、3中隊長は眼を閉じた。
私はクルタナ・ドヴェルグ。あの時の六聖剣の1人、カーテナ中尉ではない。
毎日毎日戦場に行き、人を殺して喜ばれる…そんな生活から解放されたのよ。
「私、クロに勝てるのかしら?」
怖い…あの時の自分が目覚めてしまいそうで…
感覚が麻痺していた。戦争が終わり、客観的に自分を見つめ直した時、あまりの狂った行為に自分の事が怖くなった。
あの戦士にも家族がいる…あの時、何故そんな事すらも考えられなかったんだろう。
しかし、殺らなきゃ私が殺られていたかもしれないと、いつも自分に言い訳をして生きてきた。
時間は掛かったけど、やっとまたABLMの操縦が楽しいと思えるようになって来た所だったのに…
自分が怖い…けど、彼の本気を見たい。
あの子は凄い。操縦技術ならクラウ大尉よりも上だろう。あんな才能は見たことがない。
彼の才能を直接感じたい…
『ブ〜〜〜!』と試合開始のブザーが鳴り響くと同時にクルタナは両眼を見開いた。
「さぁ、クロ、覚悟してね!」と呟き、中央の広場へ向かう。
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試合開始のブザーが鳴った。
クロノスは考える。
「クーナさん、どんな攻撃をしてくるのかな?アサルトライフルは使ってくるだろうなぁ…」
なんて思っていると、無線が入ってきたのだ。
「クロ、お疲れ〜!やっと戦えるね。」
クロノスは慌てた。
「くっ…クーナさん。対戦相手との無線通話は禁止でしたよね?」
「中隊長特権よ!クロ、中央の広場で待ってる。格闘戦のみで決着を着けましょ!」
「えっ?そんな…分かりました。」
中央広場に到着した。本当にクーナさんが待っていた。
俺がクーナさんの方に歩いて行くと、クーナさんが無反動砲の弾倉を排出した。
俺も同じく排出する。
クーナさんが片刃の剣を構えて俺に対峙する。
「クロ、良い?始めるわよ……始め!」と言って俺に斬りかかってきた。
俺は両刃の剣を両手に持って警戒する。
「うわぁ!ダーイン軍曹より打ち込みが速い。」
凄まじい剣速。剣の切り返しも速い!しかし俺は、その全ての攻撃を防いで見せた。
打ち込んでくる場所が分かってしまうのだ。
ダーイン軍曹との試合で、太刀筋が見える様になった。そして、ラッハ軍曹との試合で、それを確信してしまったのである。
相手のABLMの足の動き。剣の位置、向き。手首、腕、肩、腰、その他諸々の向きと予備動作、音を聞いて各モーター出力を予測すると、どのくらいの速度でどのように攻撃してくるのかが分かってしまうのだ。
「クーナさん…俺に格闘攻撃は通用しないよ…」
いくら速く斬り込もうと、切ってくる時期と場所が分かっているのだ。防げてしまう。
攻撃の隙を見て、俺は剣で攻撃してクーナさんの中型シールドを弾き飛ばした。
シールドを弾き飛ばされたクーナさんは、剣を両手で握った。
俺は悟ってしまった。多分、格闘戦で俺に勝てる人はいないだろうと。奢りなんかではない。
確かに、俺の動体視力を超えた速さで打ち込まれたら防御は不可能だが、ABLMを使っている限り、そんな攻撃は不可能に近いだろう。
両手持ちに変えたクルタナが、また連撃してくる。攻撃のバリエーションも豊富で、普通の人はあまり攻撃しない下半身にも斬り込んでくる。
確かに速い…が、防げる範疇なのだ。
「このままだと勝つな…」
その時、俺は思ってしまった。勝ってしまって良いのだろうか?と。
彼女の中隊長としての威厳、元六聖剣としてのプライド…
ぽっと出の整備兵に中隊長が負けるなんて、部下に示しがつくのだろうか?
そう考えた時、防御の手を少し緩めた。
左腕をクーナさんの剣が掠める。次は右足…
クリティカルヒット判定は無いが、徐々に下がりながら追い詰められていくのを演じた。
「さぁ、とどめを刺してくれ…」
クーナさんの最速の攻撃が俺を襲う。一太刀目を受けた衝撃で剣を弾き飛ばされ、そのままとどめを刺された。
はずだった。
とどめの2撃目が、俺の機体に触れる前に剣が止まったのだ。
クーナさんから無線が入る。
「クロ、何で手加減するの?何でワザと負けようとするのよ?」
クーナさんにバレていた。手加減していた事を…
「いや…本気ですよ。負けましたよ…」と言う俺にクーナさんが怒鳴った。
「ふざけないで!こんなので勝って、私が喜ぶと思ってるの?バカにしないで!」
「いや…本当に…疲れてきて…」と言い訳する俺に対して、本当に怒った声で
「貴方は戦士である私を侮辱しているのよ?分かる?勝ち負けなんてどうでも良いの!本気を出して!」
そう彼女に怒られ…俺は仕方なく剣を拾う。
そしてクーナさんに「分かった。」と無線を入れて剣を構えた。
剣を構えて対峙する2人だったが、勝負は一瞬で終わった。
この試合、初めてクロノスから攻撃を仕掛けた。
ABLMの状況を見て、敵の剣を防ぐ事ができると言う事は、それを攻撃に応用する事もできるのである。
一太刀目をワザと剣で防がせて関節の稼働方向を限定し、そして防御が届かない位置に剣を振る。
まずは右脚を斬った。バランスを崩した所に左腕を斬りつける。
ガイアが俺に報告する。
『敵、右大腿部及び左腕が機能停止したと推測』
下がって間を取った。
クーナさんを見ると、右手に剣を持ち、右脚を引きずりながらも、まだ俺に向かって来ている。
「クロ、来なさい!まだ終ってないわよ!」
もう勝負は着いているだろう?何で向かって来るんだよ…もう止めようよ…
「クーナさん…ごめん…」
飛び込んだ俺に最後の一撃を加えようと、片足で回転しながら斬ってきたクーナさんの剣を躱し、胴体を斬りつけた。
ガイアが言う…
『撃破判定を確認。勝利しました。』
勝った…勝ったんだが…嬉しく無いんだよ…
虚しい気持ちを胸に競技場を後にした。
第3中隊ABLM競技会って言うシリーズのサブタイトル名を変更しました。①〜⑤まであってややこしいと思ったので。
あと、各タイトル横の話数を「第031話」と言うよう表記し直してます。まさか、こんなに詳しく書くようになるとは思わなかったんです。
最初は80話くらいで終わる予定でしたから…
多分、100話は余裕で超える予感てます…




