第101話 「リジル中尉の意地」
100話を超えてしまいました…
左腕をぶらりとし、右腕の無いクロノスのABLMが指揮車へ向かう。
「引き分けか…いや、実質、負けだよな…」クロノスが呟く。
「ガイアが逐次、攻撃時期を教えてくれたから助かったよ!そうじゃなきゃ、多分、完全に負けたかもな…」
『いえ。マスターは、最後の方は私が伝えるより速く反応していました。もう見極めれる様になったのではないですか?』
「まぁ、コツは掴んだけど、まだ完璧ではないな…あの腕、動きが複雑で難しいよ。」
と、ガイアと話し合っている時、パーソナル無線から叫び声が聞こえた。
「ティル少佐、アロン大佐の所じゃなく、スナイパーを抑えて下さいよ!2機に狙われて大変なんですから!」
「アトルか…お前なら大丈夫だろ?」と、ティル少佐が吐き捨てた。
「大丈夫じゃありませんよ!イシュタだって牽制されて、俺の援護どころじゃないんですから!」
「分かったよ!今スナイパーの所に行く!」ティル少佐がそう答え、リジル中尉とレイア軍曹の所に向かって行った。
「レイア軍曹、いざとなったら逃げろ。俺が足止めするから。」リジル中尉がレイア軍曹に伝える。
「しかし…」
「しかしじゃない。相手は、あのラッハに勝った男だ。俺では足止めくらいしかできない。」
リジル中尉がそう言っている間に、敵スナイパーから攻撃を受ける。足元に着弾した後、レイアが叫んだ。
「ロックオン警報?」イシュタ少尉がレイア軍曹をロックオンしていたのだ。
「レイアぁ〜!」リジル中尉が叫ぶ。
すぐさまリジル中尉は、110mmキャノン砲と中型シールドを投げ捨て、レイア軍曹の機体を突き飛ばした。
その凶弾は、無情にもリジル中尉の機体の右足に着弾したのだ。
吹き飛ばされる2機。リジルとレイアの機体が倒れ込む。1機は煙を出しながら…
もう一度、レイアの機体のロックオン警報が鳴り響く。
リジル中尉が、レイアの機体を庇う様に覆いかぶさった直後、リジル中尉の機体が吹き飛んだ。
今度は右下腹部に着弾したのだ。
「リジル中尉!リジル中尉〜!」レイアが叫ぶ。
「だ…大丈夫だ…」とリジルは答えたが、その顔は苦痛で歪んでいた。
コックピットの右足で操作するペダル部分が潰されて、足が一瞬挟まったのだ。
幸いにも、真横から潰された訳ではなかった。もし真横からなら、リジル中尉の右足は切断されていただろう。
斜めに潰れたため、足を挟んで押し出す様な形になったのだ。
苦痛後、しばらく後にリジルを襲う一瞬の寒気。リジルは自分の脛の骨が折れた事を理解した。
「ちきしょー!やりやがったな!レイアはやらせんぞ!」激痛を堪え、リジルがそう叫ぶと機体を横に転がして110mmキャノン砲を手にした。
「レイアを逃すんだ…レイアを…」リジルには、その事しか頭になかった。
「これでも喰らえ!」そう叫び、リジルは2連射した。通常、キャノン砲を連射しても2弾目を当てる事は難しい。しかし、リジルは1弾目を当てる気はなく、2弾目を当てる練習をしていたのだ。しかも、ロックオンせずに。
練習のきっかけは、シミュレーターのクロノスだった。ロックオンをしないで射撃をすれば、シミュレーターの青い死神は反応が遅れる。それで何度もシミュレーターをし、シミュレーターのクロノスに勝つまで上達していたのだ。
小高い岡の上から伏せて撃った1弾目は、イシュタ少尉のかなり手間に着弾し、土煙を上げた。
「下手な射撃だね!見本を…」とイシュタ少尉が言いかけた次の瞬間、機体が後方に吹き飛んだ。
「キャー!」
「イシュタ!大丈夫か!」アロン大佐が慌てる。
リジル中尉の意地の一撃…
「イタタタ…命は無事ですが、頭を吹き飛ばされてメインカメラを壊されました。」
「やりやがったな!」ティル少佐がリジルに迫る。
「リジル中尉はやらせない!」そう叫び、レイアがキャノン砲を捨てて剣を構えた。
「ほう…お嬢ちゃんが相手をしてくれるのかい?見たところ、まだ操縦に慣れてない様だが…」ティルが不敵に笑う。
「レイア軍曹、下がれ!お前の敵う相手ではない!下がるんだ!」
リジルは死を覚悟していた。このままティルに殺されるのだろうと。それなら、レイアを逃すために最善を尽くしたい。
ABLMを立たせはしたが、右足、右下腹部に被弾しているために歩く事ができない。ましてやコックピットが潰されて右足のペダルは踏めない。
それに、自分の右足もおそらく骨折しているために、激痛で意識が朦朧としているのだ。
レイアがティルに向かって格闘戦を仕掛けた。焦るリジル中尉。
「レイア!下がるんだ!引け!俺が盾になる!」
「リジル中尉!私が足止めします。リジル中尉は逃げて下さい!」
「ABLMの右足が動かないから逃げれないんだよ!お前だけでもにげるんだ!」
「レイア軍曹!下がりなさい!あなたはパイロットですらないのよ。指揮車まで下がって!私が出撃するから。」とクルタナが言う。
この言葉を聞いて、戸惑ったのはティル少佐だった。
「おい!クルタナ、この娘がパイロットではないってどう言う事だ?」ティル少佐が問い掛ける。
「パイロットのセンスがらあるから、私が個人的に操縦を教えていたの。その子は整備士よ。」
「マジかよ!だったら、何でこんなに強いんだ?普通の奴なら撃破されてるぞ?」
そう。レイアはティル少佐に攻撃をし続けていたのだった。リジル中尉を逃すために。
その攻撃が速く、そしてそこら辺のエースよりも鋭いのだ。
「おいおい!パイロットじゃない人間でこれなのかよ。共和国はどうなってやがる…。まぁ、パイロットじゃないなら見逃してやる。この前の俺の捕虜の件の借りもあるしな。」
そう言って、ティル少佐はスモーク弾を2発撃ち込んで後退して行った。リジル中尉は、何とか機体を立ち上がらせたが、全く歩く事が出来ない為にABLMをしゃがみ状態にしていた。
「助かった…の?」レイアは胸を撫で下ろした。
「リジル中尉!大丈夫なの?」クルタナが慌てて無線を入れる。
「生きてます。けど、足の脛の骨は折れてますね…人間で1番太い骨を骨折とは…」
「リジル中尉、帰って来れる?」
「ABLMは動かせません。右ペダルを破壊されてますから。」
「分かった。レイア軍曹のABLMに乗せてもらって帰ってきて。」
「了解しました。」リジル中尉はそう答え、コックピットから降りた。
「リジル中尉!」レイアもコックピットから降りていた。走ってリジル中尉の元に行って、抱きついて泣いた…
「リジル中尉…なんで…なんで私なんかを…」
「すまん…少し無茶をした…」リジル中尉が謝る。
「私を庇って…なんて無茶を…」とすすり泣くレイアの両肩を、リジルは軽く叩いた。
「レイア軍曹、とりあえず指揮車まで行こうか。」 レイアが涙を手で拭きながらコックピットに乗り込み、リジルを持ち上げて指揮車に向った。
***********************
リジル中尉達が激戦を繰り広げる中、ダーインもまた、激しい戦闘を繰り広げていた。
ティル少佐がリジル中尉達の所に向かって行ったので、ダーインの支援が出来ない状態だった。
「ダーイン中曹と言ったな?そっちのスナイパーも大人しくなったし、やっとサシで戦えるな!」
アトル中尉とダーイン中曹は、五角の勝負をしている様に見えた。
しかし、それはスナイパーにダーインが支援されていたからであって、決して互いの本当の実力ではない事をダーインは理解していた。
『コイツ、強いな…リジル中尉達が支援してくれていたから、相手は俺1人に集中できないでいたが…』とダーインは思っていた。
アトル中尉とダーインの剣が激しくぶつかる。
「コイツ…強いぞ…」アトルもまた、ダーインに対してこう感じていた。
しかし、スナイパーの援護が無くなったダーインは、徐々に押され始めた。
「なかなか強いな!しかし、悪いが勝たせてもらうよ!」アトルはそう叫び連撃を繰り出した。
全てを受け流したダーインが攻撃に転じる。しかし、アトル中尉もまた、全てを受け流した。
「集中しろ!集中するんだ!」ダーイン中曹が自分の心に言い聞かせる。
その時、ある変化が起こった。あの…競技会で優勝した時の…




