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熱帯夜の幻覚

作者: 天野 進志
掲載日:2019/08/01

 熱帯夜の幻覚



 暗黒にうごめく、衣擦れの音


 ゴクリと飲み込む生唾


 肌と肌がぬめる音をたて


 黒髪が、からみつく



 耳を濡らす囁きが、俺を固まらせ


 汗ばむ指が、俺をとろかす


 心までもが溶けてなくなる



 苦しくなる程の湿気が俺を囲み


 重い体がのろのろと従う



 差し出された毒を、狂おしくも舐め上げる


 濡れて滴り落ちる毒


 俺を殺し、もてあそぶ


 俺を死なせぬ毒



 よじれた体が動きを早め


 そして、満ち果てる



 満たした俺は、尚も貪られる


 抗う力は、最早ない


 囚われ、喰われ続ける夜



 地の果てまで逃げた俺は、未だカゴの中



 満ち溢れ、にじむ程の湿った匂い


 むせ返る(さが)



 こがれる、真夏の夜

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