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Pandora Mimic -箱庭の妖精-  作者: 埼-Saki-
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プロローグ-謎の箱-

 親から異国に住む曾祖母が亡くなった話を聞いた。

会った事もない親類だった上、葬儀も異国の現地で行われたとの事だったから、

私、箱庭沙紀はその話を(そうなんだ)レベルでしか受け止められなかった。


 箱庭沙紀。20歳。

箱庭の家系は、代々伝わる桐箱職人である。

男は力を生かして大本の箱を造り、女は芸術を生かして箱を装飾を行う。

もう何代目かも分かってないが、私、沙紀は母親の指導の下、日々桐箱の装飾を行っていた。

「今日はこのくらいでいいでしょう、沙紀、お疲れ様」

母が箱の装飾に夢中になっていた私を呼んだ。

「沙紀が頑張ってくれるから、私が楽で良いわー。もう少しでご飯できるから部屋で待っててね」

「はーい」

私は返事もそこそこに、今仕上げている箱の装飾を切りの良いところまで仕上げた。

「ふぅ…ご飯食べた後にもう少し…」

「沙紀」

後ろからの声に振り返ると、今まで別の部屋で作業していたであろう父がいた。

「お父さん、頭に木屑乗ってる」

「ん、あぁありがとう。今さっきまで箱造ってたからな…、沙紀も切りのいい所まで終わったんだろう、いつも助かっているし、今日はもう休んでいいぞ」

「…そう?ならそうさせてもらうね、ありがとう」

なら今夜は何をしようか。久しぶりに睡眠を貪るのも良いかもしれない。

そんなことを考えていると、台所から母が出てきて、

「そういえば沙紀、貴方宛てに荷物が来ていたわよ。また通販で買い物?」

「…なんか買ったっけ…荷物は玄関?」

「玄関先に放置してあるから時間があったら部屋に運んでねー」

そう言いながら母は再び台所に戻っていく。

「軽く風呂でも入って頭を洗うか…」

と、頭の木屑を拾いながら父が風呂場へと歩いていく。

「私も荷物を部屋に運ぼう…」


 「…何だろう、この箱」

部屋に運んだ荷物を開けた私の一言目はこうだった。

少しボロいダンボールの中に入っていたのは、そのダンボールにすっぽりと嵌まるほどの木製の箱。

大きさは大人1人が何とか入れるくらいの大きさ。

形的には、いつか遊んだRPGゲームの宝箱にどことなく似ている。

ただ、南京錠が付いている為、開けられなさそうだ。

「差出人は…誰だ?…読めない…」

伝票にはよく分からない言語が筆記体で書かれており、余計に判読できない。

ただ、受け取り人が「Saki Hakoniwa」と書いてある事だけはなんとか読めた。

「私宛ての荷物なのは分かったけど…海外から何か取り寄せた記憶もないなぁ…誰からなんだろう…箱、開けられないし…」

箱の前で唸る私だが、やはり心当たりはない。

そんなことをしていると、

「沙紀ー、ご飯出来たわよー」と母の声。

「…とりあえずご飯食べながらお父さんとかに聞こうかな」

と、独り言を漏らすと、部屋を出た。


 「中身は開けられない箱、ねぇ…」

食卓の場で、届いた荷物について両親と話す。

「差出人は誰なんだ?」

「これ、ダンボールについてた伝票なんだけど」

と言いながら、父に伝票を渡す。

「…駄目だ、俺には読めん…」「んーどれどれ…」

両親は伝票をまじまじと見て、それぞれの反応を見せた。

父は読めなかったようだが、母はなにか気づいたようだ。

「これ、もしかしてお祖母ちゃんの荷物?」

「曾お祖母ちゃん?」

「かもしれないってだけだけど、亡くなったのがつい先日でしょ。遺産相続…ってわけでもなさそうね、私にそういった話が来てないし…でも、お祖母ちゃんが沙紀に何か残すために送ったのかもね」

「…会った事もない私に荷物なんて送るかな」

「会った事はなくても、写真は何枚か送った記憶があるな、沙紀がまだ学生の時に」

そう思い出し話すのは父だ。

「でも、鍵が付いてるから開けられないよ」

「それは私にも分からないけど…もしかしたら親戚の誰かが鍵を持っているかもしれないから一応連絡だけしてみようか」

「お母さん、ありがとう、よろしくね」

そんな流れで箱の話題は流れ、食卓の時間は過ぎていった。


 「ふぁ…眠い…もう寝ちゃおうかな…」

私は大欠伸をしながら布団へと潜り込む。

食事の後、家族三人で箱の鍵を何とか壊そうとしたが、女の非力では言わずもがな、父も仕事で疲れていることもあって結局箱を開けることは出来なかった。

ただ、私が最初に見た時より鍵が若干古びているような気がしたが、余計な力を使って億劫になっている頭では考えることが出来ず、今日はもう寝てしまおう、と考えたのである。

「んふふ…お布団、暖かい…」

そんな暢気なことを言いながら、私は睡魔に身を任せ、普段の時間より大分早く床に就いた。




 就寝してからそう時間が経っていない時間だった。

私は極端な暑さと息苦しさを感じて目を覚ます。

目を開けて視界に飛び込んできたのは―――まるでダンスを踊るような赤、紅、炎。

「…えっ!?…ゴホッ!な、何が―――あつっ…」

私が目覚めた部屋は既に天井まで炎に覆われ―――つまりは火事の真っ只中に、私はいた。

「ゴホッ!ゴホッ!お母さん、お、おとう…ゴホッ!ハァッ…ハァッ…!」

駄目だ、既に部屋は炎と黒煙に囲まれ、脱出できる状態じゃない。

「だ、誰か…助け…ゴホッ!」

私は必死にもがきながら床を這いずる。

しかし、ものの数十秒後に私は焼かれ、生涯に終わりを告げることになるだろう。

そんなのは嫌だ…死にたくない!と思いながら、必死に辺りを見回す。

そこで、部屋の隅に放置されたあの謎の箱を見つけた。

何故か箱の周りだけ炎が引いている、あそこまで行ければ―――!

私は畳が擦れるのと熱いのとで足が痛んだが、必死に箱に向かって這いずった。

箱に近づくと、何とか炎からは遠ざかることが出来、息苦しさは変わらないものの、熱さからは逃れることが出来た。

「ゴホッ!ゴホッ!だけど、このままじゃ―――」

天井がぐらついている。長くは持たなさそうだ。

このままでは下敷きになる―――そう思いながら箱を振り返ると、あることに気がついた。

「…鍵が、開いている?」

謎の箱を閉じていたはずの南京鍵が、今は完全に外れて、ブラブラの状態だった。

「…どうなるか分からないけど―――」

炎が何故か避けているこの箱に入れば、なんとか助かるかもしれない…。

そう思いながら私は、その謎の箱を思い切って開けたのである。中身は―――

「…地図?―――――っ!?」

中に見えたのは立体的な地図のように見えた、しかしそれを認知した瞬間、黒い光に視界を奪われ、そのまま私は意識を失った。


燃え盛る炎の中、箱は焼かれることなく鎮座している。

そして、独りでに南京錠が浮かび上がり、箱に鍵がかかって。

天井が崩落し、箱はその崩壊へと巻き込まれていった。




 のどかな町に、衝撃が走った。

閑静な住宅街に建てられた、代々続く職人の作業場が火事で消失したのである。

消火は朝方まで続き、昼前にようやく火が消し止められ、消防隊が中へ入り込む。

火事の原因は、放火だった。

遺体は二人。男性と女性が一人ずつ。

死亡解剖の結果、二人は刃物で刺され、殺されていた。

家の金品が無くなっていたことから、強盗殺人、証拠隠滅の放火とされた。

住宅に住んでいたのは三人で、その内二人が死亡。

残りの一人は家の一人娘だが、火事の後、連絡が付かない。

犯人に誘拐されたか、行方不明か―――。

現代の人には、分からない。

ただ、焼け跡の灰の中から、開かない箱が見つかっただけだった。

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