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アデル★リボン ~万能でサイコパスの魔法少女が、人々の心を救済していく感動物語~  作者: タキ・エーイチ
第8章 自分の弟に似た男装の幼女が、無残な灰燼と化すまでのお話
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第12話 良くない影響

 魔法の箒ノノによって破壊された扉の修理や、悪霊によって散らかされた部屋の掃除をマグが魔法を使って手際よく終えた後、アデルは、コルに起きた新たな異変について語ることにした。


 昏睡状態のコルが目覚めたかと思えば、これまでの記憶が綺麗さっぱり無くなっていた事。彼女が唯一覚えている事が、“コル”という自分の名前だけだという事。色々と記憶喚起を試みたが、どれも上手く行かなった事。


 一通り事情を聞いたマグは、虚ろな目をしたコルを見つめ、難しそうに唸った。その後、きっぱりとこう言った。


「やっぱり、コルの体を解析するべきよ」


 それ以外選択肢はない、と言わんばかりにマグは言う。


 そのマグの言葉に、アデルは、不服そうに口を結んで黙った。そんな態度のアデルに、マグが人差し指を突きつけて言う。


「確かに、コルの体の解析にはリスクが伴う。けれども、それを恐れていてはこの子の正体は何も分からないし、分からない以上、記憶喪失も治しようがない」

「……。……“賢者”のあなたなら、何か分かったりしないの?」

「その呼ばれ方は好きじゃないわ」

「好きじゃなくとも、あなたの博識ぶりは、この国の他の魔法使いの追随を許さない程のものよ。だから、こうしてあなたに意見を伺っているのだけれど?」


 アデルは、厳しいマグの返答に反発するかのように、険悪な口調で返した。マグは、首を横に振り、溜息を吐くと、


「アデル、あなた、その子に会ってから、おかしいわよ」


 マグの唐突な言葉に、アデルは眉をひそめる。


「自覚があるかと思うから、わざわざ私から言うのも何だけどね。あなた、その子の身の安全について、慎重になり過ぎている。以前のあなたなら、他人の事をそこまで心配にならなかったはずよ」

「……そうだったかしら? 覚えていないわ」


 アデルは、捻くれた様子で、惚けたように返す。


「あなたの相棒は__人の心を読むスペシャリストの帽子さんは、何て言っているの?」


 マグは、カウンターの隅に置かれた魔法の帽子メメを一瞥した後、あえてアデル自身に訊ねた。


「メメは……、私に良い変化が起きているって……」

「……。“良い変化”、ねえ……」


 マグは、アデルの言葉を繰り返し、メメに流し目を向ける。


「どうしたんだい、マグ? 何か言いたいことがあるのかい?」


 メメは、マグから意味深な視線を向けられ、居心地悪そうに訊ねる。


「私は、そうは思わないのよ」


 マグは、語気を強めて告げた。


「アデルに起きている変化__それは、多くの人にとって、本来は歓迎するべき変化かもしれない。私はその変化を尊いと思うし、何よりも大切にしている」


 それから、マグは、おもむろに、カウンターの端に置かれた金髪の人形“ルデア”に手を伸ばし、その造りの物の髪を優しく撫でる。そして、人形から手を離し、アデルの赤い瞳を見つめ直す。


「……けれども、その変化が起きるべきでない例外的な存在もまたいる。本来起こり得ない感情を抱く事は、あってはならない事だもの」

「……マグ、あなた、一体何を言っているの……? 分かり易く説明して」


 アデルは、マグの要領を得ない遠回しな言葉に、苛立ちを覚える。


「私が言いたいのはね、つまり__」


 マグは、人の心が読める魔法の帽子メメに何やら目配せをして、


「あなたは、コルから悪い影響を受けている可能性がある。だから、迅速にコルの解析を行う必要性がある」


 アデル自身の為にも、早くコルの解析を行うべきだ。マグは、そう言いたかった。


「……とにかく、あなたは、コルの体を解析したくてしょうがないみたいね」

「そう言うあなたは、コルの体が心配で仕様がないみたいね」

「……」

「なら、こうしましょう」


 マグは、両手を叩いて、提案する。


「万が一のときは、アデルがコルの体を修復することにしましょう」

「……あなたがしくじってコルの体を傷付けた場合、私が魔法でどうにかするってこと?」

「ええ、そうよ。その事ために、あなたが自分の貴重な魔法を使うことについて、異論は?」


 アデルは、少し考えるが、異論らしい異論は纏まらなかった。確かに、貴重な『赤リボンのアデル』の魔法を使うことに躊躇を覚えなくもないが、一方で、マグの提案は理に適っていると思った。


「……最悪の場合、使うのもやむを得ないわね」


 マグは、そのアデルの返答に頷いて、話を詰める。


「魔法を使える余裕は、今ある?」

「いや、無いわね。魔法の行使回数が回復するのは、ちょうど今夜の12時を回った瞬間よ」

「なら、明日にコルの解析を行いましょう。それで良いわよね?」

「……分かったわ」


 アデルは、マグに圧されるようにして、彼女の提案を了承した。


「なら、明日また、コルと一緒にここに来るわ」


 アデルはそう言って、カウンターの隅のメメを取って被り、コルの手を握って、店を出ようとする。


 背を向けたアデルに対して、マグは、寂しげな表情を向ける。


「もう帰っちゃうの? せっかくだから、少しゆっくりしていかない? ワインも置いてあるわよ」


 アデルは、マグの誘いに、背を向けたまま首を横に振る。


「いえ、悪いけれど、これからやる事があるの」

「やる事?」

「最後の悪あがき」


 アデルは、短く告げて、店を出て行ったのだった。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 アデルは、コルの手を引いて、ノークの町を巡る。


「ここのお店は覚えていないかしら?」


 アデルは、とある小道具屋の前で足を止めて、コルに訊ねた。店の窓を覗くと、店内の棚に様々な道具が雑然と並べてあるのが見える。以前コルと一緒にこの店の前を通った時、彼女が目を輝かせて店の窓に額を張り付かせたという事があった。


「ここであなたに望遠鏡を買って上げたのよ」

「望遠鏡……?」


 コルは、虚ろな瞳をアデルに向けて、首を傾げる。


「覚えていないのかしら? あなた、とっても喜んでいたのよ」

「……。……覚えていない」

「あなたの今持っている望遠鏡なのだけど……」


 アデルは、コルのローブの内側を指差す。コルは、虚ろな表情のままローブの内側を探ると、小さな望遠鏡を見つけた。コルは、その望遠鏡を力の入らない指先で触りながら、ぼんやりと見つめる。


「それで楽しそうに星を眺めていたのよ。それも覚えていない?」

「……覚えていない」

「そう……」


 どうして覚えていないのよ、と声を荒げそうになるのを堪えて、アデルは、顔を逸らす。そして、「次、行くわよ」と言って、コルの手を引いて歩きだす。


 アデルは、最後の悪あがきをしていた。コルとの思い出の場所を行き尽くして、それで何か思い出してはくれないか、試していた。希望は薄いと感じつつも、試したかった。


 そして、案の定、コルに何か変化が生じる様子はない。強い期待はしていなかったが、思い通りにいかないことに、アデルは、苛立ちを募らせていく。


 アデルは、早足で町の通りを進んでいく。引きずられるように、コルが付いて行く。そんな二人組を、家屋の屋根の上から何匹ものフクロウ達が目を凝らして見つめていた。


「随分と、『コル』を気に入っているようであるな」


 低い男の声。その突然の声に、アデルは、立ち止まり、後ろを振り返る。


 振り返った先に、一人の男が忽然と現れ、静かに立っていた。


「あなた……」


 アデルは、その男を確認して、思わず顔を引きずらせる。


 フクロウの仮面を被った長身の男。全身を覆い隠すような厚着の黒衣の上に、灰色の滑らかなマントを羽織っている。年齢不詳のその男は、アデルが強い嫌悪感を抱く、奇人の科学者。


「久しぶりね、キルシュタイン博士。まさか、こんなところで会うとはね……」


 アデルは、嫌悪感を隠さず、その男__キルシュタイン博士に挨拶する。


 キルシュタイン博士__異端魔術を研究するロートヘルム帝国の魔術大学の博士。帝国きっての天才で、悪名高いマッドサイエンティスト。以前アデルは、彼の実験に付き合ったことがある。


 キルシュタイン博士は、深々と頭を下げて挨拶をする。


「久しぶりであるな、“赤リボンの魔法少女”」


 その聞き覚えの無い呼ばれ方に、アデルは首を傾げる。すると、フクロウの仮面の奥で、キルシュタイン博士が微笑んだような気配があった。


「相変わらず見目麗しいお姿でいらっしゃる。このような場所で、偶然にも貴女にお会いできて光栄です」

「……ねえ、“魔法少女”って何? 聞かない言葉だけど」

「最近になって我々魔法学者の間で使うようになった言葉です。まあ、気になされるな」


 キルシュタイン博士の表情は、フクロウの仮面によって覆い隠されて読めないが、彼は、どことなく楽しげな雰囲気だった。


「……。あなたがこの町に来ているって、マグから警告されていたけど、どうしてまたこの町に? あなたは、ロートヘルム帝国の人間でしょう」

「実験を行うためにわざわざこの町に赴いたのです。実験条件や法的制約、そういった諸々の事情から、実験の場が限られましてね。全く、この地の領主のブリッド卿には助けられました。彼は、我輩のかつての教え子でして、事情を話したところ、この町で実験を行うことについて快諾してくれました。いや……それよりも__」


 キルシュタイン博士は、アデルの傍らに佇むコルに顔を向ける。


「そこの『コル』の事が気になっているのではないですかな?」

「……あなた、何か知っているの?」

「知っているも何も、それは、我輩の所有物なのです、赤リボン殿」

「どういう事?」


 アデルは、眉をひそめた。


「それは、我輩が今回の実験のために、わざわざ造り出した特製のホムンクルスなのですよ」

「ホムンクルスですって……?」


 アデルは、驚いた様子で聞き返した。ホムンクルスとは、錬金術によって作り出された人造人間のことだ。


「そうです、ホムンクルスです。普通の人間ではありません。……驚きですかな?」

「……」

「賢者殿は、薄々気付かれていたのでは? 彼女は、錬金術のエキスパートでもありますし、何より『コル』は、彼女に馴染み深い古代の製造方法で作製していますので、ここ数日の接触でその正体に気付かれていたようにも思えますが」

「マグは、何も分からないって言って……。……。というか、あなた、その言いぶりだと、ここ数日の私達のことを見ていた?」


 嫌そうな顔をして訊ねたアデルに対して、キルシュタイン博士は頷く。


「当然、見ておりました。この町中に放った我輩の使い魔達の目を通して」


 アデルは、はっとなって周りを見渡す。気が付けば、周りの建物に停まっている多くのフクロウ達が、目を凝らしてアデル達を見つめている。


「最近やたらフクロウを見かけると思ったら……、あれは、あなたの使い魔ね」


 アデルは、寒気を感じながら、屋根の上に停まったフクロウを睨み返す。


「左様です。実験のために、四六時中『コル』の様子を観察する必要がありましたから。また、こうして我輩自身も__」


 キルシュタイン博士は、羽織っている灰色のマントの左右の襟の端を、それぞれ左右の手で掴む。その瞬間、驚くことに、アデルの目の前にいたキルシュタイン博士の姿が消え失せる。まるで、今までそこにいたのが幻だったかのように、長身の男の姿は、町の風景から一瞬で拭い去られた。


 アデルは、思わず、消えたキルシュタイン博士の姿を探して顔を左右に振る。


「__我輩自身も、こうして姿を消して、『コル』や貴女の様子を窺がっておりました」


 再びキルシュタイン博士の声がして、アデルの目の前に彼が姿を現す。そして、やや得意げに「驚かれましたかな?」と笑う。


 アデルは、さらに寒気を覚える。


「趣味が悪いわ。あなた、それ、“ハレンチマント”ってやつでしょ。ちょっと前に、マグからその姿を消せるマントの話を聞いた」

「それは、品性を欠く呼び方ですな。このマジックアイテムの正式名称は、『ゴーストマント』と言うのです。とある偉大な大魔法使いが作製した貴重なマジックアイテムですぞ」

「作った奴が誰かは知らないけど、使っている奴が破廉恥極まりない事は変わりないわ。あなたは、それを使って姿を消して、こそこそ私達の事を覗き見していたんでしょう?」

「そうです、貴女方の事を見ておりました」

「気持ち悪い、死ね」


 アデルの辛辣な言葉に、キルシュタイン博士は肩を竦める。


「やましい目的があって使っていたのではありません。我輩の今回の実験のためです」


 アデルは、キルシュタイン博士を睨み付ける。


「あなたに訊きたい事は山ほどある。その実験っていうのは何? コルが私に似ているのはどうして? コルが突然記憶を失くしたのは? 全部説明してちょうだい」

「……そうですな、貴女には今回の実験に色々と協力して頂いたので、『コル』についてお話する必要があるように思えますな」


 キルシュタイン博士は、アデルに背を向ける。


「場所を変えましょう、赤リボン殿。少し、長い話になります」

「ちょっと、何処へ行くの……」

「取りあえず、人のいない場所へ行きましょう。ご存知かと思いますが、我輩は人の目が嫌いでしてな」


 キルシュタイン博士は、そう言って勝手に歩いて行く。アデルは、険しい表情をしながら、コルの手を引いて、彼に付いて行くのだった。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


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