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アデル★リボン ~万能でサイコパスの魔法少女が、人々の心を救済していく感動物語~  作者: タキ・エーイチ
第8章 自分の弟に似た男装の幼女が、無残な灰燼と化すまでのお話
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第3話 男の子にしてみよう

 まだ夕暮れには早い時刻にも関わらず、ノークの町の明るいレンガ造りの家屋の屋根には、数匹のフクロウが停まっていた。フクロウ達は、微動だにせず、街路で屈み込んでいる魔法使いのローブを着た子どもを見つめている。


 その魔法使いのローブを着た子どもは、四つん這いになり焦った様子で左右に顔を振りながら、何かを探している様子だった。


 その子どもの風貌は、魔法使いの町であるノークの町の中でも、奇異なものだった。サイズの合わない大きなローブを羽織った、淡い紫色の長髪と瞳の少女。__何より、魔力に敏感な者には分かるのだが、その少女は、少し奇妙な魔力を纏っていた。


 その奇異な風貌の子どもに近付く魔法使いがいた。闇色のトンガリ帽子にローブの、悪魔的な煌めきの金色の長髪に、赤色の瞳の魔女__『赤リボンのアデル』だ。


「あなた、どうしたの?」


 と、アデルは話し掛けた。


「その……お金を落としちゃったの……」


 アデルに、涙ぐんだ淡い紫色の瞳が向けられる。


 その子どもは、女の子だった。ローブの内側は女性が着るようなワンピースだった。仮に、その子どもが男の子だったのなら、助けてあげても良いと思って声を掛けたアデルは、ややがっかりもしたが、その少女の顔を見て、思わず固まってしまった。


「……あなた」


 その少女の顔が、自分と似ていた。髪や瞳の色は違うものの、目つきや顔の輪郭が非常に自分と似ている。自分の顔をそのまま幼くしたような顔だった。


「アデル、この子……」


 アデルの頭上からその少女の顔を見たメメも、同じことを思った。メメからしても、目の前の少女の顔は、アデルに似ていた。


「あなた、名前は? あなたのパパやママは何処?」


 アデルは、その少女に屈み込んで、質問をする。あまり子どもに対しては相応しくない、探りを入れるような、若干強い口調だった。


「私は、コル……その……」


 その少女__コルは、立ち上がりながら、自分の名前をアデルに教える。けれどその後、困った様子で眉を曲げ、アデルをじっと見つめて黙ってしまった。


「どうしたの、コル。お嬢ちゃんの名前は分かったけど、あなたのパパやママは?」


 アデルは再度質問するが、コルは、首を横に振る。


「パパとママは、知らない……」

「知らない? 何処にいるか分からないの? 迷子?」

「違うの。いるかどうか分からないの……」


 アデルは、首を傾げる。孤児という事なのだろうか。アデルは質問を続ける。


「じゃあ、あなたの家は何処にあるの?」

「……分からないの」

「分からない? じゃあ、何処で寝泊まりしているのよ?」

「町の通路の端っこで寝たりしているけど……」

「……浮浪児ってやつかしら?」


 アデルが、目の前の少女の答えに今一つ要領を得ないでいると、他者の心が読める能力を持つメメが助けを出す。


「その子、記憶が無いみたいだよ」

「記憶が無い?」

「そう。どういう訳か、記憶喪失みたいなんだ」


 アデルは、コルに視線を戻す。


「あなた、記憶が無いの?」

「記憶……?」


 コルは、アデルの質問を上手く捉えられず首を傾げた。アデルは、煩わしそうに頭を掻きながら、聞き方を変える。


「ええっと……あなた、何時どうやってこの町に来たか覚えている? あるいは、ここの町に来る前の事は?」

「……覚えていない。気が付いたら、この町にいたの」

「それは、何日前ぐらいの話?」

「2日……、3日前……、うーん……?」

「ふむ、2、3日前、気が付いたらこの町にいたわけね」


 アデルは、話を整理しつつも、質問を続ける。


「……で、立て続けに質問して悪いんだけど、あなたのその服はもともとあなたが着ていたの?」

「この服? うーん……多分……」


 コルは、自分が着ているサイズの合わない魔法使いのローブを、まるで他人の服を見るように、不思議そうに摘まみながら首を傾げて見つめていた。


 アデルは、コルをじっと見つめる。彼女の服装に、奇妙さを感じた。サイズの合わないローブとその内側のワンピースは薄汚れているが、しかし、その生地自体は質の良いもので、おそらく、ある程度高価なものだった。誰が彼女にこの衣服を与えたのか、疑問だ。


 と、その時、不意にコルのお腹が鳴った。コルは、頬を染め、両手で自分の腹をしょんぼりした様子で押さえる。そして、「お腹すいた……」と、泣きそうな声を漏らす。


「あなた、お腹減ったの?」

「うん……。でも、お金ないの……」

「……」


 コルの助けを求めるような目に、アデルは無言となる。


「アデル、助けてあげなよ」と、メメ。

「助ける? 私がこの子を?」

「そうだよ。逆に聞くけど、君はこの子を助けないつもりなのかい?」

「……うーん」


 アデルは、腕を組んで考え込む。


 アデルにしては、珍しい反応だった。いつもなら、何の躊躇いも無く、“助けない”と即答しそうなものだ。それこそ、稀に生じる気まぐれを起こさない限りは。


「ねえ、コル」


 だが、その時、アデルは気まぐれを起こした。あるいは、目の前の少女に対する疑問を解消せず、そのまま別れることは出来ないと考えたのだろう。


「取引をしましょう」


 アデルは、コルにそう持ち掛けた。「取引……?」とコルは、首を傾げる。メメは__一体急に何を言い出すんだこの魔女は……__と思いつつ静観する。


「あなたの当面の生活の面倒を見てあげる。その代わり、私の言う事も聞いてもらう」

「お姉さんのいう事?」

「あなたみたいな子どもにも簡単に出来ることよ。だから__」


 アデルは赤い瞳を輝かせて、ぐいっと、コルの腕を引く。


「あなたの体を貸して」


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 初めにアデルがコルを連れて行った場所は、服屋だった。そこで、アデルは、子ども用の服をじっくりと吟味しながら選び、最終的には質素な半ズボンとカッターシャツを自分のお金で購入し、それをコルに着させた。


 それから、アデルがコルを連れて行った場所は、床屋であった。アデルは、店主に鬱陶しいくらい細かく指示を出しながら、コルの淡い紫色の長髪は切らせた。短く、切っていった。


 そして__


「ふむ……」


 アデルは顎に手を置いて、出来上がったコルを見つめて頷く。


 コルの長かった淡い紫色の髪は、肩に掛からないくらいまで短く切られている。サイズの合わないローブの内側は、男の子が着ていてもおかしくない半ズボンにカッターシャツ。そして、まだ子どもなだけあって、身体の女性的特徴は顕著ではない。


「ふむ……」


 と、アデルは、また頷く。どことなく満足気な様子だった。アデルの性癖を知っているメメは、彼女がコルを使って何をしたかったのかを察し始める。


「どう思うかしら、メメ?」

「どう、って……男の子に見えなくもないか、ってこと?」

「そうよ。流石、察しが良いわね、あなた。__これなら、何とか中性的な男の子に見えなくもないんじゃないかしら。しかも、美男子」

「男の子に見えなくもないってのは、確かにそうかもね」

「しかも、美男子」

「君が自分似の顔を美形と思うなら、きっと美男子なんだろうね」

「やはり、美男子」


 アデルは、やたら美男子である事を強調してくる。


 アデルとメメに自分の恰好を色々と話し合われて、コルは居心地が悪そうに俯いている。それに、髪の毛が随分と短くなったため、首元の風通しが良くなりすぎて、若干落ち着かない様子だ。


「……あの、お姉さん……、これで良いの? お腹減ったんだけど……」


 また、アデルに連れ回されている最中も、空腹がコルを苛んでいた。だが、アデルは、満足が行くまで、対価を与えようとはしない。相手方の先履行を徹底している。


「うーん、そうねえ……」


 するとアデルは、コルの胸に手を伸ばし、探る。


「お、お姉さん……?」


 コルは、急に胸を触られて、戸惑い、硬直する。アデルは、コルに構うことなく、怖いほど真剣にその胸を探り続ける。


「うーん……、ほんの少し、膨らみがあるといえばあるわね……」

「何を確認しているんだか……」


 メメは、思わず呆れた声を漏らす。


「……まあ、でも、良いでしょう」


 アデルは、納得いったようで、コルの胸から手を放す。


「それじゃあ、コル、今度は私が約束を果たす番ね。__あなたの好きな物を好きなだけ食べさせてあげる。何が食べたい?」


 その言葉にコルは顔を輝かせた。


「本当!? 何でも食べて良いの!?」

「ええ、そういう取引よ。お金なら、十分あるわ。何でも奢ってあげる」

「やったあ!」


 コルは、手を上げて飛び跳ねる。その姿は確かに、アデルの好物である、男の子が元気にはしゃぐ姿に見えなくもない。


 コルは、アデルの前に無邪気に跳ねてきて、笑顔を向ける。


「お姉さん、ありがとう!」


__アデル、ありがとう……


「……っ!?」


 その時、不意に、声がした。知らない男の子の声。そして、それと同時に、アデルを立ち眩みが襲う。アデルは、よろめいて屈み込み、地面に片膝を付いてしまう。


「……アデル?」


 唐突に屈み込んだアデルに、メメは心配そうに声を掛ける。コルも、驚いた表情で、アデルを覗き込んでいる。


「……今、誰か私に……」

「……? どうしたんだい、アデル?」

「……いえ、その……何でもないわ……」


 気が付けば、アデルの額には汗が浮かびあっていた。彼女は、驚きながら、その汗に触れる。


「お姉さん、大丈夫?」


 コルも、心配そうに声を掛ける。


 アデルは、自分と顔の似た少女を、改めて見つめる。10歳頃の自分を見ているようだった。10歳頃の自分を男装させたような姿だった。美男子に見えなくもないその少女の姿は、ただ、自分に似ているだけに過ぎない。けれど、他に、誰か__


「大丈夫よ」


 アデルは、頭を振って、立ち上がる。そして、心のもやもやを吹き飛ばすように、額の汗を拭う。


「思いの外に完成度の高い美男子を作り出してしまって、衝撃を受けているのかもしれないわね」


 などと言いながら、アデルは、コルの頭に手を置く。


「それと、コル、もう一つお願いなんだけど、良いかしら?」

「何、お姉さん?」

「“お姉さん”じゃなくて、アデルって呼んで欲しいの」


 あどけなく首を傾げるコルに、アデルは、微笑む。


「そっちの方が、嬉しいから」


 そのアデルの表情は、人としての良心が欠如している魔女とは思えないような、朗らかなものだった。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 ノークの町は、もう夕闇に飲まれつつあった。町の家屋に、ぽつぽつと灯りが付き始めている。


 コルは、紙袋いっぱいのクッキーを貪りながら夕闇の街路を歩いている。紙袋の中に豪快に手を突っ込んでクッキー掴むと、小さな口の中を限界近くまでクッキーで満たす。それから、頬を膨らませた状態で無理やり顎を動かして咀嚼すると、物凄い音を立てて喉の奥に送り込む。そして、空になった口の中に、再びクッキーを詰め込む。


「もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ」

「あなた、お腹を空かせているのは分かるけど、少しは味わって食べなさいよ。それなりに高いやつなんだから、それ」

「もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ」

「聞いていないわね……」


 アデルは、クッキーを貪るコルの隣を歩いている。アデルは、猛然と飢えを満たそうとしているその少女の横顔を、苦笑を浮かべながら眺めている。


 そうして二人が歩いている内に、紙袋の中のクッキーは空になる。コルは、そこでようやくアデルの方に顔を向けて、


「美味しかった、アデル!」


 口の端にクッキーの食べかすを派手に付けて、満面の笑みを浮かべた。


「それは良かったわね。お腹は十分に膨れた?」

「うん!」

「……それにしても、食べかすがひどいわね、あなた」


 アデルは、コルの顔に手を伸ばす。そして、コルの柔らかい頬を優しく摘まむようにして、丁寧に口の端の食べかすを払っていく。コルは、自分の顔の掃除を黙ってアデルに委ねる。


 アデルは、改めて、じっとコルの顔を見つめる。見れば、見るほど、自分に似ている。ただの偶然か、それとも、この少女は自分と何か関係があるのか。__それに、この少女は、自分に似ているだけではない。奇妙な魔力を帯びている。記憶がないことといい、この少女は普通ではない。


 アデルは、コルの顔の掃除が終わった後も、ずっと彼女の頬に手を置いて、その顔を見つめた。


「……アデル?」


 コルは、流石に見つめられ過ぎて、不審がって首を傾げる。


「……コル、記憶が無いって言ったけど、本当に、何も覚えていないの?」


 アデルは、コルの頬から手を放しながら、訊ねる。


「私達、顔が似ているじゃない。さっきのお店の人達にも言われたけど、姉妹と間違われるくらいよ」

「うん、似ている! 似ているの、嬉しい!」

「そう、似ているの。だから、あなたと私、何か関係あるんじゃないかって思うのよ。あなた、自分が何者か、本当に何も覚えていないの?」

「うーん……そんな事言われても……」


 コルは、困った様子で顎に指を置き、何か思い出そうと目を瞑る。アデルは、腕を組んで、必死で何か思い出そうと頑張っているコルを見守る。


「アデル、さっきも言ったけど、この子、本当に何も覚えていないみたいだよ。あんまり困らせるような事は止めようよ」

「頑張れば、何か思い出すんじゃないの? 私は、それを期待して__」


 その時、アデルの後ろから声が掛かる。


「貴様、そんな小さい子に対して何をしている?」


 聞き覚えのある不愉快な声に、アデルは眉を曲げた。


 アデルが振り返ってみると、やはり、そこにいた。


 銀色の髪と瞳の白マントの少女と、黒色の髪と瞳の黒マントの青年の二人組が、アデルの背後にいた。銀髪の少女は、怒ったような鋭い視線をアデルに送り、黒髪の青年は、困った表情で不穏な様子の連れを見ている。


「犬女……」

「犬女ではない!」


 アデルの呟きに、銀髪の少女__アルジーナは素早く反応する。


 アデルは、その吠えるようなアルジーナの怒声を聞いて、思わず溜息を漏らした。何か、面倒くさい事になる予感がするのだった。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

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