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アデル★リボン ~万能でサイコパスの魔法少女が、人々の心を救済していく感動物語~  作者: タキ・エーイチ
第8章 自分の弟に似た男装の幼女が、無残な灰燼と化すまでのお話
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第1話 町で小さな子を見つけて……(前編)

 場所は、魔法使いの交流が盛んなノークの町。明るいレンガの家屋の屋根の上には、まだ昼間であるにも関わらず数匹のフクロウが停まり、町の広場の方を微動だにせず眺めていた。町の広場からは、子ども達の生き生きとした声が響いている。


 子ども達が町の広場で遊んでいた。魔法で風を操り、ボールを弾き合うという魔法使いならでは遊びだ。子ども達は、杖を振り、覚えたての風魔法を上手に操り、声を弾ませながら、自分の方に来たボールを別の方へと飛ばす。


 遊んでいる子どもは全員男の子だった。まだ10歳程度の仲良しの5人組だ。彼らは毎日のように集まって遊んでいる。そんな男の子達の中に、異色の少女の姿が混じっていた。


 悪魔的に煌めく赤い瞳と長い金髪の少女が、そこに混じっていた。普段身に着けている闇色のトンガリ帽子とローブは畳んで広場の隅に置き、彼女は身軽な格好になって、仲良し5人組の男の子達と遊んでいた。


 その少女は、『赤リボンのアデル』。世界各地で噂になっている万能の魔女だ。


 魔法の風で宙に舞ったボールがアデルの方へ向かった。アデルは、赤い瞳を輝かせた。見た目相応の、いや、それより幼い無邪気な輝きを見せた。__ボールを見つめ、手を組み、腰を落として構え、ボールが懐に来るのを待つ。


「ほい…っと!」


 アデルは、その一声と共に、懐に来たボールを組んだ手の上で弾く。ボールは再び宙を舞い、他の男の子の方へ向かう。見事なボール捌きに、男の子達から歓声が上がる。


「ほら、そっち行ったわよ!」


 男の子達に笑顔を向けて、アデルは声を弾ませた。


 そんな男の子達と戯れるアデルの姿を、魔法の帽子メメは、広場の隅で畳まれたローブの上で眺めていた。メメは、何だか不思議に思った。人としての良心が欠如し、非道な行為を繰り返してきた魔女とは思えないような、無邪気に遊ぶ少女の姿がそこにあったのだ。


「お姉ちゃん、すごいや!」

「カッコイイ!」

「僕にも教えてよ!」


 ボール遊びに一旦区切りが付いたところで、男の子達がアデルのところに集まってきた。彼らは、アデルのボール捌きに目を輝かせていた。アデルは、運動でかいた汗を拭きながら、己のボール捌きを誇り、胸を反らした。


「いいわよ。今度個別にレッスンしてあげる。手取り足取り、ね」


 若干邪な気持ちを赤い瞳に宿らせながら、アデルはそう答えた。他者の心を読み取る能力があるメメは、アデルの邪な気持ちを読み取って、苦笑いを漏らした。


「でも、坊や達は魔法の方の練習も必要みたいね。子どもにしては大分上手な方だとは思うけど、風の操り方がまだ甘いわ」


 アデルは、杖を持つ男の子の手をさり気なく触りながら、魔法使いとしての先輩面をしてみる。男の子に触るアデルの手には、やはり邪な気持ちが宿っていたが、無邪気な男の子は、それに気が付く事は無い。


 ただ、魔法の腕について“甘い”と言われた男の子は、頬を膨らませる。


「だったらお姉ちゃん、お手本見せてよ。僕よりも上手く魔法が使えるの?」

「残念だけど坊や、お手本を見せることは難しいわね。まあ、でも、私はすごい魔法が使えるの。私は、万能の魔女なのよ? この前だって、とっても大きな魔物を2匹も倒したんだから」


 アデルが万能の魔法使いなのはその通りだった。しかし、彼女は、7日間に3回までしか魔法が使えない『赤リボンの呪い』に掛かっている。したがって、魔法のお手本を見せろと言われて、易々と見せれるものではない。


 しかし、男の子達は、アデルのそんな事情について知らなかった。


「えー、そんなの嘘だ。すごい魔法が使えるんだったら見せてよ!」

「そーだ、そーだ!」

「見せろ、見せろ!」

「あらあら」


 アデルは、反抗的な男の子達の言葉に、嬉しそうな笑みを浮かべる。


「そんなに言うのなら見せてあげてもいいけど、その代わり相当の対価を貰うわよ」

「たいか……?」

「坊や達の大事なものを貰うのよ」

「大事なものって何?」

「そうね……例えば__」


 首を傾げる男の子達に、アデルは小さく舌なめずりをする。そして、次の瞬間、物凄い速さで男の子の一人の背後に回って、その小さな体を力強く抱き締めた。


「坊や達を食べちゃう、とか」


 いきなり抱き締められた男の子は、驚いて硬直してしまう。煌めく金色の髪の一房が、男の子の首の辺りに垂れて、くすぐった。男の子は、恐怖に似ているようでそれとは少し異なる緊張を覚え、体から汗が滲んだ。


「お、お姉ちゃん……?」

「ほらほら食べちゃうわよ。__食べちゃうわよ?」


 アデルの赤い瞳には、妖しい光があった。抱き締められた男の子の声は震えており、他の男の子達も雰囲気が変わったアデルにやや戸惑っている様子だった


「やめなよ、アデル」

「……ん?」

「そこまでだよ」


 広場の隅から、メメが注意を飛ばす。彼は、アデルの気持ちが昂り始めている事を読み取っていた。注意をしなければ、不味い事態になりかねない。


「……。分かったわよ」


 アデルは、少し名残惜しそうに男の子から離れる。そして、乱れた髪を整える。


「急に驚かせてごめんね、坊や達。ちょっと悪ふざけしちゃったみたい」


 アデルは、男の子達の前で屈みながら、微笑む。恐ろしい魔女とは思えない優しい微笑みだった。その微笑みに、戸惑っていた男の子達の緊張がやや解けたようだった。


「私は、これから少し用事があるから、今日はこれでバイバイね。最近ツイてなかったけど、坊や達のおかげで良い気分転換になったわ。それと、今さらなんだけど__」


 アデルは、胸の赤いリボンを指しながら、


「私の名前はアデル。今度会った時は、“お姉ちゃん”じゃなくて、アデルって呼んで欲しいわ」


 そう名乗るのだった。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 広場での男の子達との遊びを満喫した後に、アデルが向かった先は、マグの魔法薬店だった。


 闇色のトンガリ帽子を被り、ローブを羽織ったアデルは、店の扉をノックした。「入るわよ」と一声だけ掛けて、扉を開き、薄暗く埃っぽい店内に入っていった。


 狭い店内のカウンターには、一本の箒が置かれている。その箒は、現在アデルが所有している魔法の箒『ノノ』だった。今ノノは、マグに預けてあるのだった。


「お帰りなさい、アデル。ちょっと帰りが遅かったわね。少し散歩をしてくるだけじゃなかったの?」


 白いローブを頭から被ったマグが、店の奥から現れる。魔法で頻繁に髪と瞳の色を変える彼女だったが、今日の髪と瞳の色は、それぞれ緑色だった。ちなみに、その懐にはいつものように、金髪に赤い瞳の人形“ルデア”が抱きかかえられている。


「広場の方で子ども達に捕まっちゃってね、少し遊ぶことになったのよ」

「子ども……? 男の子?」

「当然」

「ああ、なるほど」


 マグは、アデルの趣味について承知していたため、帰りが少し遅れた訳を察した。察して、思わず苦笑いした。


「捕まったって、アデル、……君の方から混ざりに行ったんじゃないか。君の言い方には語弊がある」

「細かい事言うな、帽子野郎」


 アデルは、頭上のメメを軽く小突いた。


「それでマグ、結局ノノの不具合の原因は、何だったのよ?」


 アデルは、カウンターに置かれたノノを指差した。


 アデルがマグにノノを預けた理由は、ノノの不具合を診てもらう為だった。最近になって、ノノの動きが明らかに鈍くなっていた。ノノは、アデルが重宝しているマジックアイテムの一つで、魔力を使うことなく、呼び掛けるだけで主の命令のまま動く魔法の箒だ。しかし、この頃になって、アデルが呼び掛けても出現しなくなったり、あるいは空を飛んでいる最中でも勝手に行先を変えてしまったり、思うままに動かない事態が何度か生じていた。


 アデルは、この不具合の治すため、ノノの元所有者であるマグのもとに訪れる事に決めた。そして、幸いなことに、マグは、只今ノークの町に滞在していた。


 アデルは、店にいたマグにノノを預け、マグが不具合を診断している間、ノークの町を散歩する事にし、診断が終わった時間を見計らって店に戻って来たのだった。


「やっぱり、私が以前忠告した通りの事になっているわね。覚えている?」

「忠告……? うーん……、して貰ったような、ないような……」

「今年の異常な魔力の影響で霊の動きも活性化しているじゃない。その所為で、おそらく知らず知らずの内かもしれないけど、ノノに色々と霊が入ってしまっている。宙に舞っている埃が服に付いてしまうみたいにね。__今のところ微弱な霊しか憑いていないけど、その所為でノノに僅かに個性が生じてしまっている。おそらく、“疲れる”という事を覚えてしまっているのね」


 アデルは、頭を捻る。そう言えば、そんな忠告を以前された覚えがあるような気がしてきた。更に言えば、今年はノノを使うことを出来る限り控えるように忠告された気もしてきた。もっとも、そんな忠告を気にせずにノノを遠慮なく使用し続けていたわけであるが。


「“疲れる”という事を覚えたって……疲れて私の命令を聞かない事もあるって事?」

「そういう事。ちなみに、もっとひどい個性になれば“怒る”っていう事も覚えて、主に対して攻撃してくる事もあるかもしれないわね」

「げっ……、それってどうにかなる? ノノがそんなんだと、相当不便なんだけど」

「今憑いている霊については、取り除く事が可能よ。それは私がやってあげるわ。けれど、今後ノノに入ってくる霊については、アデルの方で注意が必要よ。前にも言ったように、なるべく使用を控えてね」

「なるほど、了解したわ。一先ずは、何とかなるのね」


 アデルは、安心したように頷いた。


「ええ、取り合えず、ノノに憑いている邪魔な霊は取り除いておくわ。それで、報酬なんだけど__」

「え、報酬!? 報酬を取るの……?」

「ん? そうね、報酬が欲しいわね」

「え……いや……」


 てっきり無償でノノを治してくれるものと思い込んでいたアデルは、予想外の事に動揺し、目を泳がせる。


「ちょ、ちょっと待って……」

「どうしたの? まさか、無償で修繕させるつもりだったの? 安くないわよ?」


 マグが意地悪そうに口の端を上げて笑った。


「それは……」


 そうだ、高度な魔術を用いて作製されたノノの修繕費用のことだ、一体どれだけ高い報酬を要求されるのか。


 魔法の行使回数に余裕があるならば、その報酬とやらを万能の魔法で用意することは容易いだろうが、今のアデルには余裕が無い。先日、魔物討伐の任務の関係で大分無理をさせられた結果、早くも既に2回ほど魔法を行使してしまっている。そして、次にアデルの魔法の行使回数が回復するのは4日後。それまでに、あと1回しか使えない。その1回は、万が一の緊急時に備えて、使うわけにはいかない。


 アデルは唇を噛み、考える。


……そして、数秒の沈黙の後、


「ノノの修繕費は、……契約上、あなたの負担になるんじゃないかしら……?」


 アデルは、焦りを押し殺すように、指で自分のこめかみ辺りを叩きながら、そんな事を言い出した。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

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