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アデル★リボン ~万能でサイコパスの魔法少女が、人々の心を救済していく感動物語~  作者: タキ・エーイチ
第7章 凄惨な悪戯好きの妖精達が、相応のお仕置きを受けるまでのお話
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第2話 悪戯好きな妖精

 ボレルの町の近辺にある“妖精の森”。


 文字通り、妖精が棲む森だ。


 “妖精は、自然と共に巡る”__妖精達が自身の存在についてそのように語るように、彼女達は自然の化身だった。彼女達は、生物としての肉体と、人間の幼子のような個性を有するものの、本質的には霊的存在であり、不死の存在と言われている。肉体が滅びたとしても、その魂はもとの自然へ戻り、やがてまた妖精として転生する。妖精は、そのように人間とは違う特殊な種族だった。


 さて、多くの妖精達が棲むこの地では、草木が強い生命力を得、特殊な魔力を帯びる。妖精は、その存在自体が周囲の自然に影響を及ぼし、妖精が棲む場所では、特殊な草木が生え育つ。例えば、“妖精草”と呼ばれる貴重な薬草がここでは育ち、ボレルの町の人がその貴重な薬草の為に採取しに森へやって来るのだった。


 その日もまた、妖精草を採りに、ボレルの町の人間が、妖精の森に立ち入ったのだった。


 妖精の森へやって来たへその男は、剣を携え、周囲を警戒しながら森の奥へと進んでいく。緊張でやや息を荒くし、視線を忙しく巡らせ、耳を研ぎ澄ませ、揺れ動く木の葉にすら敏感に反応する。


 殺気だったその男に対して、森は非常に穏やかだった。鮮やかな緑色を乗せた葉が澄み切った風に揺らされ、百花繚乱の花々が微かに入ってくる陽光の下でその華やかさを誇り、その周囲を煌びやかな羽の蝶が舞う。森の自然は、妖精の力で、そのように美しさを保っている。


 この森に来た多くの人間が、その森の美しさに魅了されるところだったが、その男は違った。彼に今、そのような余裕はない。


 妖精の森には今、恐ろしい魔物が跋扈していると聞く。現に、この森に踏み入った町の多くの人が、行方不明になっていた。今ではすっかり、命知らずだけが立ち入ると言われる、危険地帯と認識されていた。


 そのような危険地帯と分かっても、その男には、どうしても妖精草が必要な理由があった。


「ばあっ!」


 突如、茂みの陰から陽気な声と共に、何かが飛び出してきた。


 男は、張り裂けんばかりの驚きの声を轟かせて、反射的に剣を抜く。彼は、飛び出してきた何かに思わず剣を振り下ろしそうになり、しかし、寸前のところで飛び出してきたものの正体に気が付き、腕を止める。


「うわっ……! 危ないなあ、おじさん」

「な……っ、何だ、妖精か……」


 飛び出していたものの正体は、妖精であった。透き通った羽を生やした、人間の手の平に乗る程度の小さな少女だ。


 危うく男に剣を振り下ろされそうになったその妖精は、慌てて空中に身を引いた。妖精はその身に帯びた魔力を使って、自由自在に宙を飛べるのだった。


「全く、脅かすなよ、くそ。……悪いがお嬢ちゃん、今お前さんの悪戯に付き合っている場合じゃないんだ。早く妖精草を採りにいかねえと……」


 妖精は、しばしば森に立ち入った人間に悪戯を仕掛けてくる。今みたいに急に茂みの影から飛び出してきて脅かしたり、頭の上に芋虫を落として着たり、酷いものだと、落とし穴に嵌めたりしてくる。


 いつもであれば、妖精の悪戯など可愛い子どもの遊びみたいなもので、多少鬱陶しい程度だが、今は違った。恐ろしい魔物が跋扈していると聞く今の森の中で、急に飛び出して来られると、心臓が破れて気絶しそうなくらい驚かされる。


 男は、冷や汗を拭いながら、苛立ちの目を空中の妖精に向ける。


 その妖精__白い羽の妖精は、無邪気にけらけらと笑う。


「ごめんなさいね、おじさん。でも、良い事教えてあげる」

「ん?」

「今、この森は危険よ。怖い魔物が現れたの。このまま進めばきっと、魔物に食べられちゃうわよ」

「その事はもう町で噂になっている。だが、俺は進まなきゃいけないんだ。どうしても、妖精草がいるんだよ」


 彼は、抜いた剣を鞘に収めながら、強い口調で言った。


「あら、どうして?」

「俺の子どもが難病を患っている。俺の大事な子どもが……、まだ7つの小さな子が、病に冒されながら苦しそうにして、だけど、それでも必死に病と闘っている。あの子を、絶対死なせるわけにはいかない。だが、あの子を救うには、妖精草を調合した薬がどうしても必要みたいなんだ」


 それこそ、彼が危険を承知でこの森へ立ち入った理由であった。


 彼が妖精の森へ行くと告げた時、彼の妻は泣きながらそれを止めようとした。愛する子どもを救いたいという気持ちは、彼女も彼と同じであったが、妖精の森へ入って帰ってこられた人がいないことを聞いていたのだ。彼女は、愛する人を二人も失いたくはなかった。


 だが、彼はここへ来た。剣の腕に大した自信はないが、それでも剣を取り、勇気を奮い立たせて、妻の反対を押し切って、愛する子どもが病魔と闘っているように、自分もまた恐怖と闘う決意をした。


「なるほど、それならしょうがないわよね。あなたの子どもさんのために」

「そうだ。だから、俺は進む。愛する子ども事を思えば、魔物何て怖くない」


 決意を宿した表情で、男は震えた足で森の奥へと進もうとする。


「ちょっと待って、おじさん」


 白い羽の妖精は、男の背中に声を掛ける。男は、肩越しに振り向く。


「なんだ? 本当にお嬢ちゃんに付き合っている暇はないんだが」

「良い事教えてあげるって言ったでしょ。まだ話は終わっていないわよ。あなたが妖精草を採れるように手伝ってあげる」

「手伝う?」

「道を教えてあげる。いつも人間達が通っている道ではダメよ。それじゃあ、魔物達に出会っちゃう。私達妖精が知っている道なら、まだ奴らに気が付かれていないから、無事に妖精草のところまで辿り着けるわ」


 その言葉に、男は、思わず妖精の方に体を振り向かせる。男にとって、その妖精の言葉は希望の言葉だった。


「教えてくれるっていうのか? その道を……」

「そうよ、教えてあげる。おじさんにだけ、特別よ」

「本当か!?」


 白い羽の妖精は、微笑んで頷く。


「ええ。子どもさん、助かると良いわね」


それから白い羽の妖精は、男を道案内していった。男は、妖精に導かれるままに森を進んでいく。最初は、また妖精が何か悪戯を仕掛けてくるのではないかと警戒もしていたが、彼女が悪戯を仕掛けてくる様子はなく、そして、彼女の言う通り、案内されている道を通る限り、町で噂されている魔物が出現する気配もない。


 男は、やがてその妖精を信用するようになり、警戒を解き、彼女に話し掛け始める。愛する子どものことや妻の事、その家族の大事な思い出、子どもが難病を患っていると知ったときの絶望、子どもを助けて欲しいという気持ちが大きいが故に、“助けられない”と告げてきた医者と揉めてしまった事、そして、妻と激しい口論してまでこの妖精の森に来ることにした経緯、そんな事を道中話した。


 白い羽の妖精は、男の話を頷きながら、同情を示すように真剣に耳を傾けてくれた。優しい妖精だと、男は思った。妖精と言えば、森に立ち寄った人間に悪戯ばかりする鬱陶しい存在とばかり思っていたが、男はその認識を改め始めた。少なくとも、親切に道案内をしてくれるその妖精を、今は天使のように思えた。


 そして、男は目的地へと辿り着く。


 男の目の前には、淡い緑色の光を仄かに放つ草々が広がっている。その草こそ、“妖精草”と呼ばれる薬草だ。妖精が棲む特殊な地の魔力によって育ったその薬草は、万病を治癒する力を秘め、様々な魔法薬の調合に用いられる貴重な薬草であった。


 男は、喜びに顔を輝かせて、淡い緑色の光を放つ草々へ屈み込んだ。彼は、妖精草を掴んで根本から引き抜いて、取り出した袋に5、6本詰めていく。


「良かったわね、目的が果たせて」


 白い羽の妖精が、すいっと男の前まで飛んで来る。


「ありがとう。君のおかげで、魔物と出会わずにこうして妖精草を採ることが出来た」


 男は白い羽の妖精を見つめる。彼の目は、少しばかり涙で潤んでいた。


「良かったら、君の名前を教えてくれないだろうか?」


 そして、彼は、その白い羽の妖精に名前を尋ねた。彼にとって、その妖精はまさに、愛する子どもの命の恩人だった。その命の恩人の名前を知り家族に伝えたい、と彼は思ったのだった。


 白い羽の妖精は、微笑みながら答える。


「ピエリスよ」

「そうか、ピエリスか。可愛らしい名前だ。……君の名前は一生忘れない。本当に、感謝している。家族にも、きっと君の名前を伝えるよ、ピエリス」


 すると、白い羽の妖精ピエリスは、くすりと笑う。


「残念だけど、あなたが私の名前を家族に伝えることはできないのよ」

「……? どうしてだ?」


 ピエリスの言葉に、男は首を傾げる。


「私は約束したわ、あなたが妖精草を採れるように手伝うと。けど、手伝うのは妖精草を採るまでの事であって、あなたがその草を子どものところまで届ける事までじゃないの」

「一体、何を言って__」


 その時、相変わらず微笑みを浮かべるピエリスの背後から大きな影が立ち上がる。


大蛇のようなそれは、一本の茎。生え広がる妖精草を押し退け、土を撒き散らしながら、地面から勢いよく飛び出した。人間の体を大きく上回る極太の茎はうねり、鎌首をもたげる。よく見ると、茎の先端には巨大な花が開いており、呆然と口を開いた男に、その花が恐ろしい顔を向ける。


「ひっ……!」


 男は、その巨大な花の顔を見て、恐怖に顔を引きつらせる。


それは、怪物の花だった。大きく鮮やかな花弁の中心部分__花の雌蕊や雄蕊のある部分には、無数の硬質な棘が密集していた。もはや牙と言っても良いその硬質な棘には謎の粘液が滴り、そして、悍ましく蠢いていた。その花の面は、まるで牙を生やした獣の口のようであり、通常の植物にあり得ないものだった。


「まっ……、魔物!」


 男がそう口にしたのに対して、怪物の花を背にしたピエリスは頷く。


「そうね、魔物ね。あなた達人間が恐れている魔物よ。ふふ、いいわねえ、その顔! 人間の恐怖の顔! 何度でも見たくなっちゃうわ」


 ピエリスは、けらけらと笑う。


「ど、どういう事だ、これは!? その魔物は!?」


 男は、状況に頭が追い付けず、混乱する。


「さーて、悪戯の始まりよ。ほら、やっちゃって」


 ピエリスは、男の問いに答えず、背後の怪物の花に振り向いて、嬉しそうに両手を叩いた。


 ピエリスの指示に答えて、怪物の花は、茎の巨体を撓らせ、牙を剥いて男に飛び掛かる。男は慌てて飛び跳ね、間一髪怪物の花の牙から逃れると、息を荒げながらピエリスに背を向けて走り出した。


 男には状況が上手く呑み込めていなかったが、直感的に自分が採るべき行動は理解していた。すなわち、あの怪物の花、そして、ピエリスから逃げる事だ。


 男はよろめきながらも必死で走った。己の命の危機だ。そして、何より、子どもの為に、ここで死ぬわけにはいかない。せっかく手に入れ妖精草を、何としてでも、ボレルの町で病魔に苦しながら待つ子どものもとへと、届けなくてはならない。


 子どもと妻には、必ず戻ると伝えた。子どもには、辛いのもあと少しの辛抱だと言い聞かせた。妻には、あえて別れの抱擁はしなかった。抱き合う事なら、彼が街に帰還して喜び合いながら、いくらでもできるからだ。男は、必ず子どもを救ってみせるという意思で、この森に来た。


 だから、絶対に死ぬわけにはいかない。逃げ切らなくてはならない。


 走り続ける男は、急に片足が引っ張られ、地面に顔を思いっきりぶつけた。呻き声を漏らす彼は、自分の足に絡まっている蔦に気が付く。突如、不自然に地面から生え、彼の足に動物のように伸びて巻き付いている、不気味な蔦があった。その蔦によって、彼の足は地面に繋ぎ止められている。


 彼はその正体不明の蔦が何なのかは考えなかった。そんな余裕はない。今は、とにかくにげることだ。__彼は、剣を抜き、渾身の力を込めてその蔦に振り下ろした。


 蔦は、呆気なく切れた。地面に繋ぎ止められていた彼の片足は、自由になった。彼は、また走り出す。森の出口へ向かって、全力を振り絞る。


 しかし、走り出した彼の目の前__一本の大木がその太い幹をわずかにくねらせる。そして、次の瞬間、その奇妙な動きを見せた大木は、独りでに長く太い枝を腕のように回し、走ってきた彼に対してその枝を鞭のように振り下ろした。


「がっ……!? な、……何だ、……と……」


 男は、鞭のように振るわれた太い枝を頭に受け、よろめき、うつ伏せで地面に倒れる。


 そして、倒れた彼の周りの地面から突如蔦が何本も生え、彼を地面に縛り付けた。手も足も胴体も、全身が縛り付けられて、今度こそ彼は身動きが取れない状態になった。


「おじさん、追いかけっこは楽しかった?」


 倒れた男の頭上から話掛けて来たのはピエリスだった。そして、彼の前に現れたのは、ピエリスだけではない。彼女の周りには、他に何体もの妖精が集まっていた。


 集った妖精達は、それぞれ様々な羽の色を持っていたが、皆同様に小さな少女の姿をしている。そして、彼女達は、地面に縛り付けられた憐れな男に対して、子どものようにくすくすと笑っている。


「これは君の仕業か、ピエリス!?」

「ええ、そうよ」

「これは何の真似だ! 君は一体俺に何をしようとしているんだ!?」

「言ったでしょ、悪戯よ。私達妖精による、醜い人間達への、聖なるお遊び」


 男は、身を激しく身をよじるが、蔦から解放されることはない。彼は、震える声で、ピエリスに尋ねる。


「お、俺はどうなるんだ……、俺は、町にこの薬草をもっていけるのか……?」

「それは、無理よ。あなたは、ここで死ぬんだもの」


 すると、ピエリスの足元から、再び地面を割ってあの怪物の花が現れた。巨大な茎を蛇のようにしならせ、粘液が滴る無数の牙のような棘を男に向ける。しかも、現れたのは1本だけでなく、彼を囲うように5本の怪物の花が地中から這い上がってきた。


「つ、妻と子どもが待っている! あの子は、この薬草がないと死んでしまうんだ!」

「関係ないわね。死んじゃえばいいのよ、あなたも、その子も」

「頼む! お願いだ! 助けてくれ! ……助けてくださいっ!」

「お、命乞いするの? 命乞いしてみてよ」


 意地悪な笑みを浮かべたピエリスに対して、男は全身を震わせて叫んだ。


「助けてください! 助けてください! 助けてください! 助けてください! 助けてください! 助けてください! 助けてください!」

「気持ちの良い命乞いね。まあ、助けてあげないけど」


 けらけらと笑ったピエリスは、手を叩き、怪物の花々に対して、男に“悪戯”をするように命令した。彼を囲う怪物の花々は、牙を剥き彼に噛み付いて行く。


 怪物の花の牙が皮膚を貫き、血肉を啜る。男は苦痛に悲鳴を上げる。怪物の花々は、容赦なく、彼の身体を齧り取っていく。


 身動きが取れない男は、為されるがままにその凄惨な悪戯を受け、苦しみ悶え、泣き叫ぶ。妖精達は、男の無様な姿に愉快極まりないといった様子で哄笑する。


 深い絶望の中、男は、愛する妻と子どもの名を叫んだ。森の出口に向かって、ボレルの町に向かって、妻と子どもが自分を待っている家に向かって、叫んだ。届くはずのないその叫びに、妖精達は、やはり愉快極まりないといった様子で哄笑した。


「全く、見苦しいわね。肉体の生存に執着するなんて、何て低俗な種族なのかしら、人間てのは」


 ピエリスは、笑いながら、苦しみ悶える男に、冷たくそう言い放った。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 妖精の森に魔物など出現していなかった。


 あるいは、人間に襲い掛かる脅威的な存在を“魔物”と定義するならば、妖精の森に棲む現在の妖精こそ、魔物であった。


 妖精は、本来、植物の成長を促進させる程度の能力しか持たない。妖精は、せいぜい人間に対して、子どものような悪戯を仕掛けられるだけで、特段害を為すまでの力は持っていない。しかし、今年の異常な魔力の増加の影響を受けて、妖精達は変化した。彼女達は、植物を怪物化させ、そして、操る能力を手に入れた。人間を殺める程の力を__人間達に復讐するだけの力を手にいれたのだ。


 人間達に侮られ、棲み処の森の草花を採取されるがままであった妖精達は、人間達に反撃することにしたのだった。


 白い羽の妖精ピエリスは、怪物の花に食されている死に絶えた男を満足そうに見下ろし、笑っている。他の妖精も、ピエリス同様に笑っている。彼女達は、男の泣き叫ぶ姿を存分に楽しんだのだった。


 そして、彼女達は、優越感に慕っていた。妖精の操る怪物の花が、死に絶えた男の血肉や衣服を食らっているその光景は、妖精の力が人間を上回っていることの証左であった。


 さて、人間への“悪戯”を堪能したピエリスには、やるべきことがあった。


「スワロウ! 出てきなさい、スワロウ!」


 ピエリスは、仲間の妖精達の方に振り向き、一人の妖精の名を呼ぶ。彼女に呼ばれて、妖精達の中から、おずおずと彼女の前に出て来る妖精がいた。


 黒い羽の妖精スワロウだった。彼女は、怯えた表情で、ピエリスの顔を見上げる。


「なっ……何かな……」


 弱々しい声で訊ねたスワロウに対して、ピエリスが眉を上げる。


「何かな、じゃないわよ。あなた、またヘマをしたわね。危うく逃げられそうになったじゃないの。蔦を操る練習はちゃんとやっているわけ?」

「ご、ごめん」


 慌ててスワロウが謝ると、ピエリスは急にスワロウの左頬を片手で摘み引っ張る。頬が引っ張られた痛みに、スワロウは、悲鳴を上げて黒い羽をぴくりとさせる。


「このノロマのスワロウ! あんたの間抜け面を見るとどうしてこんなにイライラするのかしら!」

「そんなこと言われても……」

「あ?」


 スワロウがほんの少し口答えしたため、ピエリスはより強くその頬を引っ張った。スワロウは、また悲鳴を上げ、目に涙を浮かべる。


 スワロウは、ピエリスに逆らえない。妖精達のリーダーであり、妖精として強い力を有しいるのがピエリスだった。そして、そのピエリスに目を付けられ、何かといじめられているのがスワロウであった。


「あなた、まさかとは思うけど、人間に同情して手加減したんじゃないでしょうね?」


 睨み付けるピエリスに対して、スワロウは小刻みに激しく首を横に振る。


「していない! 手加減なんてしていない! 本当にしていない!」

「本当? あなた、ルビアの奴と仲良いじゃない。あの人間贔屓の裏切り者と。違うの?」

「確かにルビアちゃんとは仲良いけど……」

「なら、あんたはあの裏切り者の影響を受けてんのよ! 私があいつに毒された腐ったあんたの精神を叩き直してあげるわ!」


 ピエリスは一方的にそういうと、スワロウの右頬も摘まんで引っ張り上げる。スワロウは、逆らう事もせず、痛みに体と羽を震わせ、目をきゅっと閉じて涙を零した。そんなスワロウが虐められている姿を、周囲の妖精もにやつきながら眺めている。


「何をしているんだ!」


 そこへ割って入った声に、スワロウは思わず目を開ける。頼りになる友人の声だった。赤い羽が、目に入る。


「ちっ、あんた……ルビア、来たのね」


 赤い羽の妖精__ルビアは、森の奥から飛んで来て、スワロウとピエリスを力ずくで引き離した。ルビアは、スワロウを周囲から覆い隠すように抱きしめ、ピエリスを鋭く睨み付けた。ピエリスも、舌打ちをして、ルビアを睨み返す。


「森が騒がしくなっていると思って来てみれば、また人間を殺していたのか、お前達は」


 ルビアは眼下の悍ましい光景__怪物の花々が男の死体を貪り食っている光景を見下ろし、眉をひそめる。


「人間を殺して何が悪いの? あいつらは、私達の神聖な森に汚い足を踏み入れてくる不届き者よ」

「それが人間を殺して良い理由になっていると思っているのか?」

「ええ、そうよ。当然じゃない」


 薄笑いを浮かべてそう言い切ったピエリスの言葉を聞いて、ルビアは怒りで思わず握り拳を作る。


「……馬鹿げている。こんなことに、スワロウを巻き込むな」

「気を利かせてそのノロマを誘ってあげたのよ。で、付いてきたわけ」

「無理やりひっぱってきたんだろう。もう止めろ」

「何ですって?」


 ルビアとピエリスの間に一発触発の空気が漂い、周囲の妖精達の表情にも緊張が走った。ルビアに抱きしめられているスワロウは、どうしたら良いかわからず、ただ黙り、目を伏せている。


「私達はもう帰る。いいな」


 最悪攻撃をしてくることも警戒しながら、ルビアはスワロウを抱きしめたまま、その場から上空へ上がっていく。彼女のピエリスに向けられた眼は、攻撃して来るなら容赦なく反撃することを語っていた。


 ピエリスは、動かなかった。唇を噛みしめながら、退場していくルビアとスワロウを悔しそうに見送った。


 ルビアは、ピエリスと同等、あるいは、それ以上の強い力をもった妖精だった。ピエリスと言えども、ルビアと本気で闘うとなれば無事ではすまない。したがって、やむを得ず退場するのを許したのだった。


「……ありがとう、ルビアちゃん」


 無事にピエリスから離れたところで、スワロウが申し訳なさそうに言った。


 ルビアは、抱きしめていたスワロウを放すと、溜息を吐く。


「良いんだ、スワロウ。それより、もうあいつらと関わるのは止めろ」

「……でも」

「いいな?」


 顔を近づけて語気を強めて言うルビアに対して、スワロウは、顔を背け曖昧に頷くだけであった。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

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