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アデル★リボン ~万能でサイコパスの魔法少女が、人々の心を救済していく感動物語~  作者: タキ・エーイチ
第6章 人格破綻者の魔女を追う二人が、運命を呪いながら殺し合うまでのお話
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第10話 追う者に追われる者

 朝の光が窓から差し込む。部屋の片隅で座り眠っていたアルジーナは瞼に温かい光を受け、目を覚ました。彼女は、ベッドにぼんやり目を向け、そこに誰もいないことに気が付いて思わず立ち上がった。


 ジローがいなかった。アルジーナは、小さな部屋を何度も見回し、何処にも彼がいないことを改めて確認する。寝起きのぼんやりしていた彼女の頭は冴え、彼が眠っていたベッドをまるで泥棒の如く漁るように調べる。ベッドの上の布団は整えられているが、そこにはまだ人肌の温もりがあった。


 ジローはベッドから抜け出している。そして、そこからまだ時間もそれほど経っていない。アルジーナはそのことが分かると、急いで部屋の扉に手を掛けた。


 すると、アルジーナが扉を押すちょうど直前に、扉がひとりでに開かれていった。



「わっ!? アルジーナ……どうしたんだ、そんな顔して?」


 扉の奥から現れたのは、ジローだった。腕に水の入った瓶を抱えている。アルジーナは、驚いた顔を彼に向けている。


「ジロー……お前……動けるようになったのか……」

「ああ、おかげさまで」

「おかげさまで、じゃないだろう! 急にいなくなって驚いたぞ!」


 照れたように笑うジローを、アルジーナは怒ったように睨んだ。


「宿主から水を貰いにいっただけだ。そんなに睨まなくても……」

「動けるようになったなら、まずは私に一言くらい……」

「ほんの少し部屋を離れるくらいだけだったし、それに、寝ていた君を起こすのも申し訳ないだろう?」


 ジローは、テーブルに水の入った瓶を置きながら困り顔で答えた。


「びっくりするじゃないか、ジロー。昨日まで全然身体が動かせなかったのに、急にベッドから姿を消して……」

「まさか、私がこの世からいなくなったとでも思ったのか?」

「……そうだ。二度とお前と会えなくなったのではないかと思った」


 ジローは、アルジーナのその大袈裟な言葉が冗談だと思って笑った。しかし、彼女の今にも泣きそうな顔に気が付いて、ジローは笑うのを止め、申し訳なさそうに頭を掻いた。


「そのすまなかった、アルジーナ。色々と迷惑を掛けた……」

「いや、いいんだ。私の方こそ、変に心配し過ぎた……。最近、私はどうにかしている」


 アルジーナは頭を振って、静かにベッドに腰を掛けた。ジローは、コップに水を注ぎ、彼女にそっと手渡す。


「心配し過ぎた、か……。その、何というか、アルジーナ__」

「何だ?」

「__失礼かもしれないが、私は君が、もっと冷たい人間だと思っていたよ」


 それは失礼だな、と言い返しそうになったアルジーナは口を噤んだ。彼女は代わりに、苦笑して、


「そうだな。私も、もっと自分が冷たい人間だと思っていたよ」


__ジローが鮮血蜂の毒にやられて治癒魔法を受けることになった日から、もう数日経過していた。


 ジロー達はずっと、ノークの町の片隅にある宿屋に滞在していたのだった。その間、今に至るまで、色々と苦労があった。


 マグによる魔法の治療を受けた後も、猛毒の影響はジローの身体に残り、暫く彼は全身が麻痺して身動きが思うように取れず、ベッドに横たわっていた。そんな彼を献身的に世話していたのがアルジーナだった。彼女は、町に行って二人分の食料を調達し、さらには、ジローの身体が早く完治するように魔法薬まで持ってきて彼に飲ませることもした。ちなみにその魔法薬は、マグから例によって無償で受け取ったものだった。


 アルジーナは、マグの魔法薬店に頻繁に出入りし、彼女に会うようになっていた。グロス教徒にとって本当は忌むべきはずの魔法使いであるはずだが、アルジーナはすっかりマグのことを信頼していた。


 アルジーナは、魔法薬に限らず、マグから他にも色々な物を貰っていた。その一つが、白いローブだ。それはマグの持っていた魔法使いが着用するようなローブで、アルジーナの羽織っていた聖騎士の白いマントがあまりにもぼろぼろになっていため、マグが代わりになるだろうと考えて渡したものだった。アルジーナは、それを一時的に借りて身に着けている。


 今まで着ていた白いマントとその白いローブは似ていなくもなかったが、それぞれの衣服が持つ意味は正反対のもののはずだった。敬虔なグロス教徒であるはずのアルジーナがその魔法使いローブを着用することについては、やはり抵抗を感じるものだった。しかし、結局、彼女はそのローブを着ている。


 アルジーナは、以前の彼女とはすっかり変わっていた。以前の彼女では、魔法使いのローブを着て、魔法使いだらけの町を歩くことなど考えられない。


 アルジーナも、認めざるをえない。自分は、聖騎士だった頃の自分と変わってしまったのだと__


「さて、これからどうしたものか……」


 ジローは、自分のコップに水を注ぎながら呟いた。


「体は本当にもういいのか? マグは、最悪の場合全身が動かなくなるようなことを言っていたぞ。……というか、あの毒にやられて生きていること自体が信じられないことだと」

「私の身体は丈夫なんだ。そう言っていなかったか? そして、今、現に生きている」


 ジローはやや誇らしげに、自分の胸を叩いた。


「ジロー、お前は本当に……」

「ん?」

「とんでもない奴だな」

「そうだな。同じようなことを言われたことがあるよ」


 ジローは苦笑して、コップの水を一気に飲み干し、話の続きをする。


「私達が乗っていた馬車はどうした? 返さなくていいだろうか?」

「馬車は町の外に放置してある。馬はもう野に放ってしまった。……とういうか、誰に返すつもりだ?」

「あの馬車は行商隊の物だ。だから__」

「持ち主はもう死んでいる。どっちにしろ、返しようがない」


 ジローは少し黙ってから「そうか……」と呟いた。彼の顔には、無念そうな影が過った。彼は変な律義さを持っているようで、アルジーナは反応に困った。


 ジローは、頭を振り、別の話をする。


「……身体が回復した以上、旅を続けるつもりだ。私には、捜さねばならない人がいる。だが、この町を離れる前にやっておかなくてはいけないことがある」

「……それは何だ?」

「まずは、マグ殿にお礼を言いに行かねば。そして、何か恩返しをせねばなるまい。私が臥している間、マグ殿には色々と面倒をみてもらったようだからな」

「そうだな。お礼なんていいってマグは言っていたけれど、やっぱり何かするべきだろう」

「そして、アルジーナ__」


 ジローは、アルジーナの手を取った。いきなり手を握られたアルジーナは、びっくと体を震わせた。


「私は、何より君に感謝しなくてはならない。君が私のために奔走してくれて、命を救ってくれた。しかも、大事な君の信条を犠牲にして、私のことを助けてくれたのだろ。君は命の恩人だ」

「それは……」


 アルジーナは、握られた手を拒むことなく、顔だけジローから逸らした。


「そもそも、命を救われたのは私の方だ。だから、私にはお前を助ける義務があったのだ。助けなければならなかったのだ」

「そうだとしても、私は、君に感謝している。ありがとう、アルジーナ。私は、君に何か恩返しをしたい」


 アルジーナは、強く首を横に振る。


「いや、だから、感謝すべきなのはお前ではなく、私の方だ。恩返しをすべきなのもお前ではなく、私の方だ」

「そんなことはない」

「いや、そうなんだ」


 暫くの間、ジローとアルジーナはそれぞれ、恩返しするべきなのは自分の方なのだと主張しあった。傍からみれば、少々幼稚とも思える言い争いが始まった。お互いに頑として譲らず、これでもかと言うくらい、相手に感謝の言葉を述べた。


 言い争いに決着が見えないこと悟ったアルジーナが、少し黙って考える。彼女は、それから語気を弱め、相手の態度を慎重に観察するかのように、気恥ずかしそうに提案する。


「なあ、一緒に、旅をしないか」


 唐突な提案に、ジローは一瞬驚いた顔をする。


「お前の旅の目的は、私と同じ人捜しだったな。それぞれ捜す相手は違うが、あてもなく各地を彷徨っている点で我々は同じだ。なら、私がお前の旅に同行しても支障がないはずだ」

「それは、そうだが……」

「お前が私に感謝しているというのなら、その恩返し受け入れよう。だが、私の恩返しも受け入れてもらいたい。だから、一緒に旅をさせてくれ」


 ジローは、アルジーナの話が上手く呑み込めていない様子だった。


「私の旅にお前のあの力は役に立つ。そして、お前の旅に私も役に立ってみせる。__どうだろうか?」


 急な話に、ジローは困惑した。彼としては、てっきりこの町でアルジーナとは別れるものとばかり思っていたからだ。彼は、顎に手を置いて考える。


「……嫌か?」

「そんなことはない。嬉しいよ、アルジーナ」


 子どものようにあどけなく、そして不安げな顔でアルジーナに訊ねられ、ジローは思わずそう言った。


「ただ、少し考えさせてくれ。なんせずっと独りだったから、旅の仲間を増やすことにはやや躊躇する……」

「……分かった。だが、私は、その……お前と旅をすることも悪くないと思っている」


 ずっと独りだったのはアルジーナも同じだった。だが、彼女はジローを旅の仲間にすること自体には特に躊躇を感じなかった。その理由は、薄々ながら彼女自身感じ取っていた。


__そうだ、マグの言葉は正しかった。マグは、アルジーナ以上に、アルジーナの思いを理解していたのだった。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 ノークの町に朝が訪れてまだ間もない時刻、アデルはマグの店を訪れた。


 カウンターの奥で作業をしていたマグは、アデルの訪問に素早く気が付き、白いローブを翻してカウンターの前までやって来る。


「また来てくれたのね、アデル」


 マグは、アデルとの再会に表情を綻ばせる。彼女の髪と瞳の色は桃色で、笑顔になった彼女は、春の花のようだった。


「おはよう、マグ。また来たわよ。昨夜この町に戻って来たの。魔物退治の依頼の続きでまたすぐしたらこの町から出る事になりそうだから、早めにあなたのところにきてあげたわ」

「嬉しいわね。……正直言うと、あなた約束を忘れて来てくれないんじゃないかって思っていたの。本当に嬉しいわ。……ねえ、ルデア」


 マグは、いつもやっているように、カウンターの端に置いてある金髪の人形を愛おしそうに撫でる。彼女は、恋人を見るかのようにそのルデアという名前の人形に視線を送り、ほっそりとした白い指に絹で出来た金髪を蠱惑的に絡める。


「ねえ、来てあげたんだからワインを出しなさいよ。用意してくれているんでしょ?」


 アデルは、マグと人形のやり取りを無視するように、カウンターを指で突いて鳴らす。


「アデル、君……こんな朝早くからお酒を飲むつもりかい?」


 アデルの頭上の魔法の帽子メメが呆れ気味に言った。


「朝でもいつでも関係ないわ。__ほら、マグ、ワインはあるの?」


 アデルは、カウンターにメメを置き、マグにワインを催促する。


「ええ、もちろんよ。美味しいワインがいっぱいあるわよ。今取って来るわ」

「素晴らしいわね」


 マグは、人形から手を離すと、アデルに一度微笑んでからカウンターの奥にワインを取りに行った。


 メメは、ワインを取りに行ったマグの健気な背中を見て、彼女が不憫に思えて仕方なかった。おそらく、アデルは、ワインの用意が無いのであれば、マグのところにこうしてわざわざ会いに来なかったからだ。そして、余計不憫と思ってしまうのは、マグ自身その事をちゃんと理解していることだった。


「本当にひどい魔女がいたもんだなあ……」

「うん? どうたの、メメ? 急にマグの悪口言って」

「君の事だよ、アデル」

「は? どうしたの、帽子野郎? 急に私の悪口言って」


 メメの呟きにアデルが眉間に皺を寄せる。アデルには自分のマグに対する接し方について特に何か思うところはなかったため、唐突に悪態を吐かれたように感じた。


 やがてマグは、嬉しそうな表情を浮かべながら、ワインボトルを何本か抱えて戻ってくる。カウンターの上に二人分のワイングラスを並べ、そこに透き通った赤いワインを注いでいく。アデルは、満足そうにワインが注がれたグラスを持ち上げると、マグが飲むより先にワインに口を付け、そして一気に飲み干した。


 それから、アデルは遠慮なくワインを飲んでいく。マグは、勝手にワインボトルを掴んで自分のグラスに注いでいくアデルの事を意に介した様子もなく、ワインに唇をそっと触れながら、会話を振る。


 二人の会話は、主にアデルが現在受けている依頼について話題となった。アース王国国王であるゼクス王から直々に頼まれている魔物討伐の事は、マグ自身も関心があった。聞くところによれば、アデルは昨日まで王国の討伐隊に連れられ西方の森林に行き、そこで魔物討伐をしていたそうだ。そして、無事魔物の討伐が片付き、一旦ノークの町に返ってきたというわけだ。


「西の森に潜んでいた魔物を駆逐してきたのね。それは助かるわ。なんせ、あそこの魔物が活発になった所為で、森の向こうとの交通が途絶えていたんだから」

「大方あの森は綺麗になったはずよ。全く、とんでもない数の蜂がいたわ。耳障りったらありゃしなかったわ。……ええっと、確か、鮮血蜂だっけ。あの赤い蜂」

「……そういえば、最近、ちょうどその森を抜けてきた人が助けを求めに店に来たのよ。その人の旅の連れが毒にやられて死にかけていて、私が魔法で治癒してあげたの」

「へー、そんなことがあったの。すごいわね、その人。あの森を抜けてくるなんて」


 アデルは、絶えずワインを啜りながらこくこくと頷きながら話を聞いていた。ワインの効果もあってか、彼女はやや上機嫌になっていた。


「で、その毒にやられた人は助かったの?」

「助かったわよ。私の治癒魔法でね。こう見えて、私もそこそこ万能な魔女なのよ。あなたには敵わないかもしれないけどね、『赤リボンのアデル』さん」

「流石“賢者”マグ殿ね」

「その呼び方好きじゃないわ」


 マグは、子どもっぽく頬を膨らませた。彼女の頬は、ワインを飲んだせいで、ほんのり朱が差している。


「ところでアデル、言い忘れていたんだけど、『ノノ』の調子はどう?」

「ノノ? 別に普通だけど」

「今使うのはちょっと気を付けた方がいいわよ。作製者で元所有者の私から注意しておくわ」


『ノノ』__アデルが愛用している空飛ぶ魔法の箒。アデルの声に呼応して虚空から突如出現し主の命令に従うその魔法の箒は、アデルの最も気に入っているマジックアイテムの一つだった。そして、実は、ノノはマグとの取引でアデルが入手したものだった。


「天体の影響で魔力が溢れている今、活発化しているのは魔物だけじゃなくて、精霊とか悪霊とかの類も迷惑なくらい元気にそこら中に暴れ回っているの」

「まあ、そうよね。それがどうしたの?」

「ノノは高度な魔術によって作られているけど、その中身は要するに精巧な術式を組み込まれた無個性な霊よ。だからこそ、主の命令には従順になってくれて、合理的に行動してくれるの。だけど、万が一、別の霊がノノに入り込んじゃったら、ノノに個性が生まれてしまうのよ」

「個性が生まれたらどうなるっていうのよ? 楽しくお喋りでもしてくれるわけ? あるいは、踊ってくれたり? ノノの奴、物凄く無口だから、その方が多少は愛着がでるんだけど」

「いや、これは結構深刻なことよ」


 アデルは冗談交じりに言った。だが、マグは割と真剣な顔で続ける。


「場合によっては主の命令に逆らうことだってあるわ。霊だって疲れを感じれば動きたくなくなるし、命令の対価に何かご褒美をねだられることもある。個性を持てば喋ったりもするかもしれないけど、必ずしも楽しくお喋りしてくれるとは限らない。そこらへんは、人間と同じ面倒臭さが生じる。……というか、あなたのメメと同じよ。あなたが個性を持っているメメをどう思っているのか知らないけど」

「むっ……それは、確かに深刻ね。この帽子野郎がもう一人増えるって事でしょ」

「アデル、君は本当に失礼な奴だなあ……」


 メメが思わず呟いた。マグは苦笑して、ワインを口に運んだ。


 そんなこんなでワインと会話は進み、5本程あったワインボトルはいつの間にやらすっかり空になっていた。アデルは、グラスの最後のワインを飲み干すと、カウンターに置いていたメメに手を伸ばす。


「じゃあ、ワインも尽きたことだし、そろそろお暇するわ。じゃあね、マグ」

「帰っちゃうの?」


 マグがローブの奥から静かにアデルを見つめる。アデルは、マグの視線に構わず帽子を被った。


「せっかくこの町に来ている事だし、散策でもしようかと思って。マグも一緒に来たいなら来てもいいわよ」

「……いえ。私はいいわ」


 アデルのその誘いに、マグは残念そうに首を横に振る。マグは、人前に出ることをあまり好まない。アデルは、その事を知りながら意地悪にも誘った。メメは、不憫なマグにお節介でもしようかと考え始めた。


 アデルは、マグのその言葉を聞いて、「じゃあね」と言い残してそのまますぐに立ち去ろうかとも思ったが、マグがあまりにも強い視線を向けてくるので、


「楽しかったわよ、マグ。また会いましょう。それまでに、ワイン用意しておいてよね」


 そう何気なく一言添えて、店の扉を開けた。薄暗い店に、外の陽光が差し込み、新鮮な外の空気が埃っぽい部屋を循環する。


 マグは、アデルの言葉に驚いた顔になり、それから胸に手を当てて、立ち去って行くアデルに慌てて言う。


「……ええ! また来てね、アデル」


 アデルは、肩越しにこくりと頷いて、外に出た。


「今のは良かったと思うよ」


 店を出るなり、メメがアデルを褒めた。珍しいメメの褒め言葉に、アデルは首を傾げる。


「……何のこと?」

「あえて駄目出しすると、マグの目と髪の色が前会った時とは違うことに気が付くべきだったかな」

「目と髪の色が違うことぐらい気が付いていたわよ。あの娘、よく目と髪の色変えているし」

「だったら言及してあげなよ。そういうところだよ、アデル」

「何が言いたいのか分からないけど、凄くつまらない事の話をしてるってことは分かるわ」


 アデルは肩をすくめてそう言うと、予定通りノークの町を散策することにした。


 アデルは、明るいレンガ造りの街並みの中を歩いて行く。もう日が昇ってからそれなりに経っているため、ノークの町には人が多く行き来している。魔法使いの町として有名なだけあって、やはり魔法使いの恰好をした人を多く見かける。


 露店に並ぶ色取り取りの果物、透き通ったガラスのボトルに入れられたワイン、精緻な装飾が施された細工、煌びやかな金や銀の装飾品、怪しげな魔法使いが販売している怪しげなマジックアイテム__様々なものがこの町を彩っている。


 ノークの町を気に入っているアデルは、上機嫌で町を回っていた。そして、町の広場に差し掛かる時に、急に背後から声を掛けられる。


「アデル殿!」


 弾けるような大きな声が、響き渡る。男の声だった。アデルは、驚いて背後を振り返る。背後にいたのは、二人組だった。二人とも、アデルに対して大きく目を見開いている。


 一人は、黒髪の大男だった。彼の額には目立つ傷がある。どこか見覚えのある顔だった。彼は、アデルの姿を認めると、輝くような笑顔を向けた。


 もう一人は、銀髪の少女だった。彼女の銀色の瞳が、刃のように鋭く光っている。やはり、どこか見覚えのある顔だった。彼女は、アデルの姿を認めると__激しい憎悪の視線を向けてきた。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

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