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アデル★リボン ~万能でサイコパスの魔法少女が、人々の心を救済していく感動物語~  作者: タキ・エーイチ
第6章 人格破綻者の魔女を追う二人が、運命を呪いながら殺し合うまでのお話
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第4話 二人の共通点

 行商隊の荷馬車は、再び進み始めた。


 ジローは、元いた荷馬車に戻り、静かに腰を下ろして、先ほどの自分の言動について顧みていた。グリーグとの口論で湧き上がった熱はもう冷めつつあり、そして、反省しつつあった。


 不必要に攻撃的で挑発的な態度を取ってしまった、と思う。グリーグひいては傭兵ギルドの連中の不正と欺瞞にどうしようもなく腹が立った。その怒りを抑えられなかった。そして、それを追及せずにはいられず、あろうことか、思わず手が出そうになった。


 もし、アルジーナが制止してくれなければ、大事に発展していたかもしれない。こんな危険地帯の真ん中で仲間同士の喧嘩などやっている場合ではないのに。


 ジローは、自己嫌悪に陥った。自分は、あの頃から少しも変わっていない。故郷を追い出されることになった、あの頃から。


 故郷のあの国で、ジローはよく他者と衝突していた。そして、他者から攻撃され続けてきた。思えばその原因は、ジローの不運な境遇よりも、彼個人の性格の方が大きかったようにも思えた。彼は、頑なで、激情に抗えず、そして、独善的だった。


 ジローが故郷を追われることになったあの事件以降、彼自身も少しは自分自身の欠点を見つめるようになり、大人になったような気がしていた。しかし、彼の中には、やはり、どうしようもなく幼稚な部分が残っていた。


 ジローは、そんな自分が嫌だった。


「……アルジーナ、だったか……」


 ジローは、名前を確認しつつ、アルジーナに呼びかけた。離れて座っていたアルジーナは、面を上げ、無言のまま彼に振り向いた。


「さっきは、ありがとう。君が止めてくれなければ、どうなっていたことか」

「別に……」


 アルジーナは、聞こえるか聞こえないかの声で、素っ気なく返した。ジローは、頭を掻きながら、しおらしい苦笑いで続ける。


「本当に申し訳ない。つい、頭に血が昇ってしまってな。私の悪いところだ。今は、反省している。何というか、その……恥ずかしいところを見せた。今後は__」

「恥ずかしい?」


 アルジーナは、ジローの言葉を鋭く遮った。


「貴様は、何か恥ずべきことをしたのか?」


“そうだな”__と、ジローは、軽い調子で頷きそうになったが、止めた。アルジーナが向けてきた真剣な目に気が付き、彼は、凍り付いたように苦笑いを消した。


 銀色の瞳が、射貫くようにジローに向けられていた。ジローは、アルジーナの問いが思った以上に真面目なものであることを感じ取る。


 ジローは、言葉を詰まらせ、アルジーナから思わず目線を逸らした。


「その……、君に、迷惑は掛けた……」


 ジローは、問いから逃げた。アルジーナの眉間に皺が寄る。


「迷惑を掛けられたとは思っていない」


 と、アルジーナは意外な事を言った。ジローは首を傾げる。


「しかし……」

「私は、貴様の方が正しいと思った」

「何?」

「時と場所が悪くなければ、私は貴様を止めなかった」


 慰められているのだろうか、とジローは、アルジーナの顔をちらりと見た。それから、ジローは、恐れるように口を開く。


「……今、冷静に振り返ってみて、彼らにも言い分があった、とは思うのだが? 少なくとも、一方的に彼らを悪人扱いしたのは、失礼だった……」

「貴様は、本当にそう思っているのか?」


 アルジーナの声に険しさが現れた。そして、殺気立ったように続ける。


「奴らは__あの傭兵達は、貴様が言うように、まさに守銭奴だ。護衛の本分から離れ、金や名誉のために、護衛対象の命を危険に晒した。それは、奴らの言動を見れば明白だ。違うか?」

「しかし……」


 ジローは、声が震えた。声の震えは、アルジーナの気迫に圧されたこともあるが、微かに昂揚していたのかもしれない。


 一見、ジローは、アルジーナへの返答に窮して沈黙してしまったかのようであった。しかし、彼は、おかしなことに、昂揚していた。そして、彼は、彼女の言葉に感激してしまっている自分に気が付いた。


 それから、ジローが口籠っていると、アルジーナは、「ふん……」と鼻を鳴らして、失望したように彼から目を逸らした。


 ジローは、グリーグ達傭兵を擁護するかのような自分の言葉を、もっとアルジーナに否定してもらうことを微かに期待していたのだった。もっとも、彼女が彼のそんな複雑な内心を察するまでのことはなかったが。


 暫くの間、二人の間に沈黙が下りた。蹄鉄が地面を踏み鳴らし、車輪が回り、馬車が時折揺れる音だけが二人を包む。アルジーナは、棍棒を軽く握り締めて目を閉じ、次の戦闘を静かに待っている。対して、ジローは、落ち着かない様子で、相手に気付かれない程度にアルジーナへ目を遣っていた。


 自分の気持ちが良く分からないが__もう少し、彼女と話してみたい。ジローはそんな事を思ったのだった。


「アルジーナ、君は、その棍棒で戦っていたけど、そっちの剣の方は使わないのかい?」


 ジローは、思い切って話し掛けてみた。アルジーナは、再び彼のほうへ振り向く。


「……何だと?」


 アルジーナは、重々しく聞き返した。彼女から向けられた表情が予想以上に不機嫌なものだったため、ジローは、一瞬面食らったが、臆せず続ける。


「先の戦闘での君の動きは素晴らしかった。思わず感動してしまったよ。おそらく、剣技の方も素晴らしいのではないかと思ってな」


 アルジーナは、自分の腰に下げている精工な装飾が施された剣を一瞥する。そして、奇妙な一間があってから、彼女は口を開く。


「これは、聖騎士の剣だ。……濫りに抜いたりはしない。あんな魔物、この棍棒で十分だ」


 もしかして無視されるのではないかとジローは思ったが、アルジーナは、顔を伏せながらも答えてくれた。


「その、差し障りがなければ教えて欲しいんだが……、君は、以前聖騎士だったのだろう?」

「そうだが」

「どうして君は、傭兵なんかに?」


 流石に、踏み入った質問だったのだろうか。ジローは、自分の質問がアルジーナの気分を害してしまっていないか心配にはなった。しかし、一方で、彼女の事を知りたいと思った。不思議にも、何か彼女に自分と近いものを感じたのだった。


「いや、言いたくなければ、いいのだが。……すまない、礼儀知らず、だったかもしれない。ただ、少し、君の事が気になったんだ……」

「人を捜すためだ」


 と、アルジーナは、答えた。答えてくれた。


 そして、呟くように口にした彼女のその言葉は、強い意志を帯びていた。


 ジローは、首を傾げる。彼には、彼女のその言葉の重さは感じられるものの、その理由までは知る由もない。


「人を捜す?」

「そうだ、人を捜している。必ず見つけ出さなければならない。__そのために、私は、世界を旅している。生きる糧を得るため、旅で訪れた各地で傭兵なんかをしている」

「私と同じだ」


 ジローは、思わず前のめりになって言った。そのジローの様子が、可笑しいくらいに興奮気味だったので、アルジーナは、伏せていた顔を上げて、きょとんとなった。


「私も、人を捜しているんだ。そして、そのために旅をして、傭兵なんかもしている。君と同じだ」

「そ、そうか……」


 アルジーナには、ジローが嬉しがっているように見えた。彼女は、若干反応に困った。


「私も、その人を必ず見つけ出さないといけないんだ。それが、私の使命だ。その人は、私

が故郷にいる時に出会ったとある魔女なのだが__」

「魔女? 魔女を捜している?」


 アルジーナは、“魔女”と言う言葉に反応する。


「ああ、そうだが」

「私が捜している人も魔女だ」


 さらなる共通点が見つかり、ジローは、更に興奮を強めた。


「おお、そうか! それは奇遇だ! 私の捜している魔女というのは、もしかしたら噂で聞いたことがあるかもしれないが、赤リボ__」


 その時だった。


 ジローが言い切る前に、行商隊に魔物出現を知らせる声が駆け抜けた。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 魔物出現を知らせる声に、一斉に荷馬車達が停止する。そして、荷馬車内で待機していた傭兵達が、待っていたとばかりに、意気揚々と外へ飛び出していった。


 飛び出していった傭兵達は、森の木々に紛れて飛行する黒と真紅の縞模様を視界に捕らえた。先程と同様、出現した魔物は、鮮血蜂だった。傭兵達は歓喜し、その顔に野蛮な笑いが弾けた。


 鮮血蜂は、極めてレアな魔物だ。鮮血蜂の死骸は、各種の貴重な素材となるもので、傭兵ギルドが高値で引き取ってくれる。傭兵達にとっては、まさに空飛ぶ金塊だった。普段は滅多にお目に掛かれることのないその魔物は、今年の異常な魔力の発生の影響を受けてか、この森林に姿を見せるようになっていた。


「仕事だ、野郎ども! 他の団に後れを取るんじゃねえぞ! 俺に続け!」


 吠えるようにそう叫んだのは、グリーグだった。彼は、団員の誰よりも真っ先に馬車の外へ駆け出し、剣を握り締めた右手を高く天に掲げて振り回す。血に飢えた猛獣の如く号令を発したグリーグに続き、彼の団員5名が、団長の気勢に鼓舞されて各々武器を取る。


 グリーグ団は、最近になって傭兵ギルド内で頭角を現した一団だった。結成してからまだ3年も経たない中、傭兵ギルドに所属する千を超える団の中で、去年の総計報酬額の順位は20番以内であった。その功績は、グリーグの誇りとするところだった。


 魔物が活性化している今、グリーグ団にとっては、成り上がる絶好の機会だった。この機に一気に団の名を轟かせ、一流の傭兵団の仲間入りを果たそうとグリーグは野心を燃やしている。


 荷馬車の外に飛び出したグリーグ団の一味は、早速、上空に羽音を響かせる鮮血蜂を見つける。3匹、4匹……、いや、もっといる。十数匹の鮮血蜂が、生い茂る木の葉の間から現れた。グリーグは、目を輝かせ、鮮血蜂へと挑発の意味を込めて、空気が張り裂けんばかりに怒鳴った。


 鮮血蜂の群団は、けたたましく叫ぶグリーグに気が付いた様子だったが、襲い掛かかろうとはしなかった。その鮮血蜂達は、ゆっくりと森の奥へ怯えて引き返すように飛んでいき、木々の合間に姿を消していった。


「追えっ! 一匹も逃がすなっ!」


 グリーグは、逃げて行った鮮血蜂を見て、怒り狂ったように団員に命じた。


「おい、待て、グリーグ!」


 鮮血蜂を追い駆けようとしたグリーグ団の一味を、呼び止める声があった。グリーグが振り向くと、そこには剣を抜いたジローがいた。その背後には、棍棒を握り締めたアルジーナもいる。二人がグリーグに向けた視線には、明らかに敵意があった。


「何だ、お前ら?」


 どうせろくな事を言われないだろうと予感して、グリーグは忌々し気に訊ねた。


「お前ら、また魔物を追いに行くのか!? 何人かはここに残るべきだ!」


 ジローの案の定の言葉に、グリーグは鼻を鳴らす。


「だったらお前らが残りやがれ! 臆病者のお前らにはちょうどいい仕事だろ!」


 グリーグは、小馬鹿にした笑いを飛ばして、鮮血蜂を追跡するために森の奥へと入って行った。背後からジローの怒声が浴びせられるが、グリーグ団の一味は、無視して進んでいった。


 草木をかき分け、グリーグ団の一味は、鮮血蜂達を追い続ける。鮮血蜂達はゆっくりと揺らめくように森の枝や葉を縫って飛んでいくのに対して、草が生い茂り小石が転がる足場を必死に駆けるグリーグ達は、なかなか獲物に追いつけない。


 グリーグ達は、鮮血蜂達に挑発の声を掛け続けるが、鮮血蜂達が襲い掛かってくる気配は無い。鮮血蜂達は、グリーグ達と適切な距離を保って、森の奥へと飛んでいく。ただただ、追いかけっこが続く。まるで、鮮血蜂に遊ばれているようで、グリーグは、苛立ちを覚え、眉間に皺を寄せた。


 気が付くといつの間にか、グリーグ団の背後から、グリーグと同じ獲物を狙って駆けてくる他の傭兵団が複数現れていた。彼は、舌打ちをして、仲間の団員に「必ず俺達が仕留めるぞ!」と呼び掛けた。激しく怒鳴りつけるように発した彼のその呼び掛けは、他の傭兵団を牽制する意図もあった。


 傭兵ギルドの規則として、魔物に最後の止めを刺した者が、当該獲物を獲得できることになっている。複数の傭兵団が共同で任務に当たる場合、誰が最後の止めを刺したかで揉めることが多々ある。酷い場合だと、都合の良い時だけに敵前に出て、悪意を持って横取りを図ろうとする輩もいるくらいだ。


 グリーグは、横取りを企むような不届き者を決して許さない。先ほどの鮮血蜂との戦闘でも怪しい奴がちらほらいたが、今度はそのような破廉恥な行為をさせる隙を与えはさせない。少なくとも、自分達が狙った獲物については。そして、今回の任務で、このグリーグ団が、魔物の討伐数で一番になってやる。


 グリーグは、そのように、他の傭兵団に対して競走心を燃やす。


 鮮血蜂達を追っていると、急に鮮血蜂が止まり、グリーグ達へ振り返った。追っていた鮮血蜂は、最初は十数匹くらいかと思っていたが、気が付くとその倍以上に増えていた。数を増した鮮血蜂達は、威嚇する羽音を高鳴らせ、傭兵達に一斉に毒針を向けた。遂に、鮮血蜂達が、闘う姿勢を示したのだった。


 もしかして、敵地に誘い込まれたのか。と、グリーグの脳裏に緊張が過った。


 だが、グリーグは、警戒はすれど、焦りはしない。ざっと見るだけでも優に30匹を超える鮮血蜂の群れは、並みの傭兵には脅威だが、彼のような手練れには、多少やり応えのある相手程度にしかならない。ましてや、グリーグ達傭兵の方も、他の傭兵団も併せれば相当数いる。彼にはまだ、傭兵団同士の獲物の取り合いの方を心配するくらいの余裕があった。


 しかし、奇妙なのが、鮮血蜂達が毒針をこちらに向けたまま、動こうとしないことだった。木々の間から覗く毒針は、ただ鋭い光をちらつかせるだけで、こちらに向かってくる気配がない。


 鮮血蜂の群れは、陣形を組んで、ただ静かに傭兵達の動きを窺がっていた。まるで、統制の取れた軍隊のようだった。鮮血蜂は、軍団として傭兵達に闘いを挑もうとしている。


 グリーグは、寒気を覚えた。不気味だと思った。虫けら風情が、生意気に何の思考を巡らしているのか。


 傭兵達と鮮血蜂の奇妙な睨み合いが続く。傭兵達は、鮮血蜂の奇妙な行動を訝しみ、だれも迂闊に動こうとしない。


 ならば、俺が先陣を切ってやる。


 と、グリーグが剣の柄を握り締めた時、“それ”は突如出現した__


 鼓膜を劈く金切り声が響いた。人間の声ではない。人間の出せる音ではない。正体不明の身の毛が弥立つ鋭い音が、森に響いた。


 悍ましい金切り声に身がすくんだ傭兵達が見つめる中、毒針を構えた鮮血蜂達の背後から、巨大な鮮血蜂が前線に悠然と姿を現す。大男程の体躯を誇るその鮮血蜂は、通常の鮮血蜂の数倍も大きい。金切り声かと思ったその音は、その鮮血蜂の独特な羽音だった。


 鮮血蜂の女王。__昆虫の蜂に女王蜂がいるように、魔物の鮮血蜂にも女王蜂にあたる存在がいたのだった。


 鮮血蜂の女王の巨体に、傭兵達は圧倒される。鮮血蜂の発達した顎や鋭利な毒針が、より際立って見える。


 だが、グリーグは臆しない。むしろ興奮していた。鮮血蜂の女王なんてレア中のレアだ。必ず自分の手で仕留めたいと、体内の血潮が滾り、胸が高鳴った。


 巨大な鮮血蜂の女王と、その背後で控える鮮血蜂達は、グリーグには、まだ空飛ぶ金塊として目に映っていた。


 そう、グリーグには、眼前の魔物を倒し切れる自信があった。


 まだ、その時までは。


 鮮血蜂の女王は、羽を激しく動かし、更にもう一度、金切り声のような羽音を響かす。傭兵達は、思わず耳を塞いだ。


 周囲の木の葉が振動した。振動は止まない。振動は増長し続ける。森が、狂ったように蠢いているみたいだった。


 周囲の異変を感じたグリーグは、焦燥に駆られて周りを見渡すと、四方から一斉に出現し出した鮮血蜂の群れに気付く。


 傭兵達は、鮮血蜂の群団に包囲されたのだった。それも、数十匹程度ではない。無数の鮮血蜂__おそらくは、百を超える大群が、傭兵達を囲んでいた。


「なっ……、何だ、この数は……!」


 グリーグは、声を漏らした。


 鮮血蜂は、もはや空飛ぶ金塊などではない。それは、死の恐怖そのものだった。


 グリーグは、その時になって初めて、鮮血蜂の恐怖に顔を青くした。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

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