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アデル★リボン ~万能でサイコパスの魔法少女が、人々の心を救済していく感動物語~  作者: タキ・エーイチ
第6章 人格破綻者の魔女を追う二人が、運命を呪いながら殺し合うまでのお話
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第2話 傭兵ギルドと部外者

 魔物の活発化という事態は、多くの人にとって害悪でしかない。しかし、この事態に目を輝かせる輩もいた。魔物による被害の増大は、傭兵の需要を増大させ、傭兵稼業を営む者達を喜ばせるのだった。


 その日、アース王国のとある都市を拠点に活動する行商人隊が、道中の護衛に傭兵たちを雇うことになっていた。目的地は、魔法使いの交流が盛んなことで有名なノークという町で、そこに魔術に用いる薬草や鉱石といった素材を運んでいき、それらの売買をするつもりだった。


 魔術の素材の売買は、大きな稼ぎになる一方、ノークの町に辿り着くために道中通らなくてはいけない森林には、危険な魔物が多く出現するのだった。したがって、行商人隊は、多くの傭兵を護衛に付けることにしたのだった。


 ジローに対する今回に依頼というのが、そのノークの町まで護衛だった。


 都市の城門前には、既に何台もの荷馬車が並んでいた。そして、荷馬車の周りには、商人らしき者達と、槍や剣を携えた傭兵らしき者達が大勢集まっていた。ジローは、それらの一団を見つけ、歩み寄る。


「すまないが、今日私が護衛を務めるのはここの一団で間違いないだろうか?」


 ジローは、とりあえず商人らしき人に声を掛ける。


「あなたは……?」


 声を掛けられた商人の男は、ジローに振り返って訊ねる。


「私はジロー。今日この都市からノークと言う町に向かって行商隊が出るのだが、私はその護衛を依頼されている」


 ジローは、護衛依頼の契約書を取り出して見せる。


「ああ! あなたがジローさんですか! 最近噂の凄腕の傭兵だそうで。どうも、今日はよろしくお願いします」

「ええ。こちらこそ、よろしくお願いします」


 商人の男は笑顔を向けて頭を下げ、ジローも頭を下げ返す。


「お前が噂の傭兵か」


 すると、荒っぽい男の声がジローの背後から聞こえる。彼は、振り返ると、そこには6名の男達が、睨み付けるように迫って来ていた。男達は、筋骨隆々で、大きな剣を帯剣しており、いかにも傭兵らしき風貌であった。


 ジローは、眉を顰める。声を掛けてきた男は、明らかに穏やかではない雰囲気であった。


「噂、とは何だ? 私は、ジロー。確かに、傭兵をしているが」

「俺の名は、グリーグ。グリーグ団の団長だ」


 声を掛けてきた、焦げ茶色の短髪の男がそう名乗る。


「ジローか。やはり、お前が噂の傭兵だな。黒い髪に、額の傷、噂通りの見た目だ。聞くところによると、山賊の一味を一人で壊滅させたり、オーガの群れを潰したり、あのヒュドラを討伐したとも聞いたことがある」

「確かに、そんなことをした覚えがある」

「ふん……」


 そのようにジローが自身の功績を何でもないように言ったことが、グリーグの気に障ったようだった。


「ジロー、聞くところによれば、お前、傭兵ギルドには入っていないようだな。仮にお前がそれほどの腕を持っているならギルドへの入会は容易いだろうに。本当にお前が噂通りの実力を持っているのならな」


 グリーグの語気には、明らかに皮肉が込められていた。彼の言葉には露骨な嫌みと、そして、卑しい嫉妬の感情があった。


 ジローは、そのことを感じ取ったが、特に意に介した様子はなく返答する。


「傭兵ギルド、というものがいまいち何なのか分からなくてな。私は、外の国から来た者で、そのギルドというものを良く知らないし、入るつもりもない」

「傭兵ギルドは、その名の通り、傭兵稼業を営む者達で結成されている組織だ。会員内で傭兵としての知識・経験を伝授し、情報を共有し合っている。ここに集まっている傭兵のほとんどは、ギルドの会員のはずだ」


 グリーグは、確かめるように、商人の男の方へと目を遣る。


 ジローとグリーグの間に張り詰めた不穏な空気にやや委縮していた商人は、控え気味に頷く。


「ええ。今回うちの方から依頼したのは、主にギルドの方にです。しかし、確か、ジロー殿の他にも、もう一人……」

「__ここは、ノークへ向かう行商人隊で間違いないか」


 その時、一人の少女が呼びかけてきた。


 銀色の髪と瞳の幼い少女だった。彼女は、男達の間に、鋭い刃のように凛然として立ち入ってきた。身に着けている白いマントは薄汚れていたが、腰に帯びている剣は煌めくが如く精工で、超一級品であった。


「ええ、そうですが。お嬢さんは……?」

「私はアルジーナ。この行商人隊の護衛の依頼を引き受けている」

「ああ、貴女がアルジーナさんですか! 話は聞いてます。お若いのに随分腕が立つそうで」


 アルジーナと名乗った少女は、確かに、随分と若かった。いや、若いと言うより、幼かった。どう見ても十代前半程度だった。


「その子も傭兵なのか?」


 ジローは、商人の男に思わず訊いた。


「ええ。そして、彼女が貴方同様にギルドに所属していない傭兵です」


 ジローはアルジーナを見る。やはり気になったのは、その幼い見た目だ。こんな小さな女の子が傭兵などやるのかと疑問を感じた。


 ジローだけではなく、他の傭兵の男達も同じ疑問を感じたのだろう。男達は、アルジーナの姿を上から下までじっくり観察するように視線を向けた。


「何をじろじろ見ている貴様ら」


 アルジーナが棘のある声で言った。彼女は、ぎろりとジローを睨み付ける。


「いや、すまない。……ただ、君みたいな子どもがどうして傭兵をやっているのか、と思っただけなんだ……」


 と、ジローは正直に答えた。


「私は子どもではない。年齢は貴様とそんなに違わないはずだ」

「しかし……」

「おそらく、この見た目のことを言っているんだろうが、私は、身体的な成長が停滞しているだけだ。__私は、“半霊”だ」

「半霊……、すると君は……」

「私は以前、聖騎士だった」

「聖騎士……」


 ジローは、“半霊”のことについては多少知識がある。確か、グロス教会の特別な儀式を受け、精霊化した者のことをそう呼ぶのだった。半霊化した者の特徴として、髪の色と瞳が人間離れした美しい銀色になり、そして、身体の老化が止まると言われている。


 そうだとすれば、半霊である目の前の少女が、見た目以上に年齢を取っていることも理解できる。


 だが、ジローには、アルジーナの見た目の問題よりも、気掛かりになることがあった。


「では、君は、グロス教会の人間なのか?」


 ジローは、やや表情を曇らせながら訊ねた。


 彼としては、なるべく内心を表に出さないように努力したつもりだった。しかし、彼の表情からは、その内に渦巻く嫌悪感が十分に読み取れてしまった。


 アルジーナは、ジローが見せた嫌悪感に、眉を顰める。


「私はグロス教徒だ。それが何か?」


 アルジーナは、ぶっきらぼうに答えた。


 ジローは、続けて質問をする。


「それは、今もそうなのか?」

「そうだが」

「以前聖騎士をしていた、と言ったが、今は違うのか?」

「どうしてそんな事答えなくてはいけないんだ」


 妙に詮索してくるジローに対して、アルジーナは苛立って強い口調で返した。


「それは……、その……」

「私が何だろうと貴様には関係のないことだろうが」

「す、すまない……、その、教会の人間をあまり良く思っていないので、つい……」

「何?」


 ジローは、アルジーナに気圧されたせいもあって、うっかり言わなくても良いことを言ってしまった。 そして、ジローがうっかり零した言葉に、アルジーナは予想以上に反感を見せた。


 一瞬、沈黙が訪れる。


「貴様、反教会の人間か?」


 静かで鋭い声だった。その場に、緊張感が走った。アルジーナは、今にも腰に下げている剣を抜いてきそうな勢いで、ジローを睨んでいる。


「どうなんだ、答えろ」


 アルジーナの視線は、今やジローだけに集中している。周りの傭兵ギルドの男達などには、一切目もくれない。


「……そんなこと、君に答える必要はない」


 返答次第では刃傷沙汰になりかねない雰囲気のなかで、ジローは絞り出すようにそう答えた。


 ジローとしては、教会に対して色々と思うところがある。故郷にいた頃、大罪人の息子として、特に教会の人間達から酷い仕打ちを受けてきた。彼には、そんな過去があり、教会に対する恨みと不信を胸に抱えている。


 加えて、彼は、グロス教の教義についても、疑問を覚えていた。グロス教は魔法使いを邪悪な存在と見做し__取り分け、治癒魔法を忌み嫌っている。確かその理由は、神の敷いた摂理を歪め、人間が受けて然るべき苦痛の試練を逃れさせてしまうから、だった。彼としては、そのようなグロス教の教義について、違和感を覚えているのだった。


 しかし、その思いを今ここで素直に口にすることが賢明ではないことぐらい、彼は分かっている。彼は、理性を働かせて、吐き出しそうになった教会への恨み言を押し留める。


「私は、貴様に対して、神の偉大さを理解できない無知蒙昧な人間か否かを問うている」

「……そうか」

「この地上には、神の偉大さを理解できていない愚民に溢れている。貴様はその一人なのか? 神の偉大さを人々に伝える教会に対しての不信はすなわち、神への不信に他ならない」

「……」

「どうした、何か反論はあるのか」

「……いや、ない」


 アルジーナの苛立ちは増していく。ジローは、口には出さないものの、その目に教会に対する侮蔑の思いが溢れている。彼自身あまり自覚はないのだが、彼の目は、自身の思いにあまりに正直だった。


「貴様……」


 アルジーナが、歯ぎしりをした。


 そして、アルジーナがやや腰を低くしたように思えた。ジローは身構える。いつ彼女が剣を抜いても対処できるように、彼女の体の動きに注意を払う。


 アルジーナとジローは、口を閉ざし、睨み合う。


「おい、あんたら、その辺にしときな」


 二人の様子を見かねたグリーグが、呆れた顔をしてその間に入っていく。


「お嬢ちゃん、一応俺達はこれから一緒に任務をすることになってんだわ。同じ傭兵同士で斬りつけ合うなんて馬鹿なことは止めてくれよな。問題を起こしたら傭兵としての信用に関わって来るぞ」

「……わかっている」


 アルジーナは、グリーグの言葉に我に返ったようで、溜息をついて緊張を緩めた。


「お前もお前だ。他人の経歴に変に突っ込むんじゃねえ。傭兵としてマナー違反だ」

「すまない」


 グリーグの注意に、ジローは、ばつが悪そうに俯く。


 グリーグの言う通りだ、とジローは反省する。傭兵のマナーというものがジローには良く分かっていないが、確かに、初対面の人間に対して、その経歴を探ろうとするのは、あまり褒められたものではないとは思った。


「まったく、これだからよそ者は……。いいか、今回の仕事はそこそこ大きなものなんだ。今後の俺達のギルド内の評価にも影響してくる。お前ら、俺達の足を引っ張らないでくれよ」


 そう言い残して、グリーグとその団員は去っていく。


 アルジーナは、舌打ちして、ジローをもう一度強く睨み付けてからその場から去って行った。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 城門前に集まった荷馬車達は、定刻通り出発した。


 今回の任務は、それなりに規模の大きい行商隊を護衛するものだった。そのために集められ傭兵の数も相当数に上る。


 集められた傭兵も基本的には傭兵ギルドに所属する者ばかりであった。ギルドに所属する傭兵達は、ギルドにその力量が保証されている。そして、その分、報酬は割高になるのだった。


 ジローはギルドに所属していないが、今回の任務でそこそこ良い報酬を頂けることを約束されている。だからこそ、彼は今回の任務に参加することになったのだった。


 だが、ジローは、今回の任務を請け負った事を、少し後悔し始めていた。


 今回の任務が他の傭兵との共同で行うものである事は、依頼段階で伝えられていた。ジローはそれを承知して、依頼を受諾した。そして、他の傭兵との共同任務でも、何ら問題は無いと思っていた。


 しかし、グリーグの事といい、アルジーナの事といい、予想外にも他の傭兵と揉めそうであった。ジローは、暗い気持ちになった。


 思えば、故郷で憲兵をやっていた頃も、同僚との付き合いが上手くいっていなかった。それは、勿論、ジローの父親の事もあったのだろうが、彼自身のコミュニケーション能力にも大いに原因があったように思えた。


 ジローは、自分の性格上の問題を自覚していた。頑固で、意地っ張りで、他者と衝突しやすい自分の性格に気付いていた。多少なりとも大人になった今では、自分の性格も丸くなったと思うし、少なくとも、改善するように努力はしているつもりだった。


 だが、やはり、他者と関わって仕事をするのは自分に向いていないのかもしれない。ジローは、暗澹とした表情を浮かべながら、移動中の荷馬車の隅に腰を下ろしていた。


 そして、ジローが何気なく顔を上げると、自分と離れるようにして馬車の入り口付近に座っているアルジーナに目が留まる。アルジーナは、黙然と馬車の外の風景を眺めて、動かない。


 何度も思うが、彼女と同じ荷馬車に乗ることになって、本当に気まずい。


 しかも、よりによって、二人っきりの荷馬車に割り当てられるとは。


 ジローとアルジーナは、ほとんど会話を交わさなかった。重い沈黙が、彼らに伸し掛かっていた。


 何か会話をすべきであろうか。と、ジローは思った。


 これから共に護衛任務をする者同士として、少しでも良好な関係を築いた方が良いように思えた。


 だが、何を話せば良いか、ジローには見当が付かなかった。むしろ、下手なことを喋って、より関係が悪化しないだろうかと、懸念した。


「馬車が街道を外れた。もうすぐ森林に入りそうだぞ」


 その時、馬車の外を眺めていたアルジーナが、静かに告げた。ジローは、彼女の声に思わず驚き、体を震わせてしまった。


 今や森林は、凶悪な魔物が跋扈する危険地帯だ。そして、ジロー達傭兵の活躍の場でもある。


「貴様、私と同じく傭兵ギルドというものに所属していないようだな」


 アルジーナは、馬車の外に顔を向けたまま訊ねた。


 ジローは、アルジーナの方から話し掛けてきたことを意外に感じつつも、答える。


「ああ、そうだな」

「腕はどれくらい立つんだ? 同じ任務を遂行する者同士、一応実力は知っておきたい」

「……そうだな」


 ジローは、自分の実力について考え、


「おそらく、今回集まった傭兵の中では一番強い」


 と、端的に答えた。


 すると、アルジーナが目を丸くしてジローに振り向いた。彼女は、驚いた様子でジローを見つめていた。


「一番強い、だと……?」


 アルジーナは、呟くように再度訊ねた。彼女は、ジローが冗談を言っているのではないかと思った。


「ああ、おそらく一番強い」


 ジローは、相変わらず端的にそう答えた。何の嫌みもなく、そう答えた。


 アルジーナは、唖然となって、暫く言葉を失った。自身の実力について、豪語する輩は珍しくはない。しかし、驚くべきなのは、ジローの言葉には、一切混じり気が無いことだった。彼の言葉には、虚栄心も傲りも不思議と感じられなかった。単に客観的な事実を述べたに過ぎないと言わんばかりの、異様な自信が彼にはあった。


「貴様は……」

「……? 何だ」

「変な奴だな」


 アルジーナは、失笑気味に言った。


「……。それは、よく人に言われるが……」

「そうだろうな」

「……いや、どういう意味だ。私は、変なことを言ったつもりはない。君の質問にただ正直に答えただけだ。もう一度言うが、私は強い。おそらくは、今日集まった傭兵の中で一番強いはずだ。実際そうなのだから、そうとしか言いようがない。何かおかしいか?」


 ジローは、アルジーナが変人を見るような目でこちらを見てきたため、焦ったように弁明した。だが、アルジーナの変人を見るような目つきは変わらない。


「そういう君はどうなんだ。“半霊”と言ったが、どれくらい強いんだ?」


 ジローは、若干むっとした様子で訊ね返した。


「……そうだな。私も強いぞ」


 アルジーナも、まず端的にそう答えた。


「少なくとも、自分を最強だと自惚れている奴よりは強いんじゃないかと思うぞ」


 そして、微笑してそう付け足した。ジローを小馬鹿にしたような口調だったものの、そこには、どこかあどけない悪戯心が含まれていた。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

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