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アデル★リボン ~万能でサイコパスの魔法少女が、人々の心を救済していく感動物語~  作者: タキ・エーイチ
第6章 人格破綻者の魔女を追う二人が、運命を呪いながら殺し合うまでのお話
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第1話 魔物の活性化

 時は深夜。そのような時刻に、アース王国王都の王城へとある魔法使いが招かれていた。


 謁見の間において、アース王国国王__ゼクス王は、真っ赤なマントを羽織り、黄金の王冠を戴いて、玉座に悠然と鎮座していた。そして、金色の長い髭に覆われた顔は、像の如く微動だにしない。


 彼は、王としての威風を纏って、眼前の魔法使いの少女と対峙していた。


 謁見の間には微かな緊張感が漂っていた。夜の深い闇の帳が、謁見の間を覆っているようだった。ゼクス王とその4人の親衛隊、そして、招かれた魔法使いは、互いに相手を探るようして黙然と視線を交わした。


 アース王国という大国の国王と言えども、その魔法使いの少女には畏怖を感じざるを得ない。その少女の正体を知っている者ならば、誰だってそうだ。


「お久しぶりね、ゼクス陛下」


 部屋に漂う緊張感を打ち破るように、その魔法使いは口を開いた。


 それから、彼女は、急に思い出したように、被っていた闇色トンガリ帽子を脱いで、片膝を地面に付き、闇色のローブに身を包むようにして頭を下げ、国王に礼儀を示した。


「良い。面を上げよ」


 その国王の言葉に、魔法使いの少女は表情を崩して立ち上がり、笑顔を向けた。惹きこまれるような赤い瞳と艶やかな長い金髪の悪魔的な煌めきが、謁見の間に振り撒かれたようだった。


「元気にしていたかしら」


 その少女__『赤リボンのアデル』は、形式的な礼儀は十分尽くしたと考え、打って変わって馴れ馴れしい口調でゼクス王に訊ねた。


「まあ、それなりに、といったところだ」

「そう? 私達の久しぶり再会だってのに、あなた酷いしかめっ面だから、てっきり元気ないのかと思ったわ」

「余をそんな風にからかえるのは貴女くらいだぞ、アデル殿」


 ゼクス王は、無意識の内に周囲に目を配り、若干躊躇いがちに答えた。


「ふん、なんか、すっかりよそよそしくなったわね、ゼクス。見た目もあんなに可愛い男の子だったのに、今じゃそんな長い髭生やしちゃって。ねえ、せめて見た目だけでもどうにかならない? あなたの体にある“聖剣”の力でもっと若返ることができるはずよ」

「今でも十分に若い容貌をしていると思うのだが?」


 ゼクス王は、“聖剣”の力で不老の力を得ている。彼は、既に40歳を超えているのだが、その見た目はどう見ても20代そこそこだった。顔を覆う長い髭が剃られれば、もっと若く見られるだろう。


「もっと若くよ。10歳前後くらいまで若返ってくれない?」

「アデル、君さあ……」


 アデルの手元の闇色のトンガリ帽子__喋る魔法の帽子であるメメが呆れ気味に呟いた。メメは、アデルの性癖をよく知っている。


「流石にそれは、余の王としての威厳が……」


 そして、ゼクス王も苦笑いを浮かべる。彼も、アデルの性癖のことについては薄々勘付いていた。


「王としての威厳ねえ……王としての威厳を保つためにわざわざそんな長い髭も生やしているの?」

「まあ、そうだな」


 アデルはやや寂しげに笑う。


「私としては、あなたと出会った頃のあなたが一番好きだったんだけどね。変わってしまったのね、あなたは。見た目も、口調も、態度も」


 ゼクス王とアデルは、彼が国王に戴冠する以前からの知り合いだった。


 それも、彼にとってアデルは、幼少期における王位継承問題の紛争における命の恩人でもあった。彼が、アース王国王位継承の証である“聖剣”を無事体内に宿すことに至れたのも、この万能の魔女の手助けのおかげだった。


 また、彼にとって、アデルは単に命の恩人だけということに止まらない。少年だった頃の彼には、彼女が女性として魅力的でとても眩しく見えた。そして、特別な思いを寄せていた。その思いは、今もほんの少し残っているのかもしれない。


 だが、彼は今や国王で、彼女は恐るべき魔女。彼女に対する恩義や恋慕は別にして、適切な距離を置いて接しなければならない。


 ゼクス王としては、アデルとあまり公の場で対面することは憚れるのだった。今夜も、4人の親衛隊のみを傍において秘密裡にアデルと会っているのだった。


「確かに、余は大人になって、王になって、色々とあの頃とは変わっただろう。しかし、余が貴女の味方であることは変わらない」


 ゼクス王は、微妙な緊張感をもって告げた。


「あら、それは嬉しいわね」

「だが、余が貴女を庇えるのにも限界があることを心に留めてもらいたい。つい最近でも、貴女がブリッド卿といざこざを起こしただろう」

「ブリッド卿?」


 アデルは、聞き覚えの無い名前に首を傾げる。


「貴女がノークという町で起こした騒動だ。魔法使いの決闘ということで卿のご息女を惨たらしく死に追いやった事件だ」

「ああ、あの事」


 アデルは、ゼクス王が何の事件のことを言いたいのか理解した。


 以前、アデルは魔法使いの交流が盛んなノークの町で、その地域を治める領主の娘__ルイーザという名前のお嬢様と決闘をしたことがあった。決闘は、魔法使いの慣習に従って行われ、アデルはルイーザとの決闘に勝利した。そして、敗北したルイーザは、死の呪いを受けることになった。


 ブリッド卿とは、おそらくルイーザの父親の領主のことだろう。


「そういえば、私があの町を去ったあと、色々面倒な騒ぎになったって聞いたわ」

「本当に面倒なことになったぞ。あんな惨い殺され方をすれば騒ぎになるのも当然だ」


 呑気なアデルに対して、ゼクス王は叱り付けるように言った。


「あの後、憤慨したブリッド卿がアデル殿に対して裁判を起こした。ブリッド卿の領地内で起きた事件だったため、卿の領主裁判権の下、彼の領主裁判所でアデル殿の罪状に対して審理された。貴女の殺人罪の成否についてだ」

「ああ、どこかでその事も聞いたわ。勝手に人のいないところで裁判してくれちゃって」

「貴女だけではなく、決闘の立会人についても殺人幇助として罪に問われたそうだぞ」

「あ、そうなの。それは知らなかったわ」


 ゼクス王としては、アデルに対して、他者を巻き込んだことにについて少しでも罪悪感を覚えてもらうことを期待したが、アデルはまるで他人事を聞いている様子だった。


「両名に対する判決は死刑となった。ろくに審理することなく、即刻そのような判決が下された。頭に血を昇らせたブリッド卿によってな」

「全く不当な判決だわ。あの決闘とそれによる敗北者への死は、魔法使いの慣習法上正当化されるわ。そして、魔法使いに関する紛争は、王立裁判所への上訴が認められる。王立裁判所なら、そんな不当な判決を破棄してくれるはず」


「だがブリッド卿は、その上訴権について争った。すなわち、あの決闘は魔法使いの法規範を逸脱した決闘であり、魔法使いに関する紛争ではないと」

「とんだ怖いもの知らずね。どんな理由で争ったのか知らないけど、あんな由緒正しい魔法使いの紛争にケチを付けるなんて、魔法結社が黙っていないわ」


 アース王国では、領主の自治権として裁判権があるにも関わらず、魔法使いの紛争について王立裁判所に上訴権を認められているのは、魔法使い社会の秩序統一を重んじる魔法結社の意向を反映させたものだった。したがって、その上訴権について下手に争うことは、魔法結社と敵対することになりかねない。アース王国において魔法結社の権威は極めて強大なため、魔法結社との敵対は最も避けなければならないことであった。


「どうやらアデル殿が素手で決闘相手を追い詰めたことについて問題視されたらしい。魔法使いの決闘において魔法以外の手段で勝利したことが魔法使いとしての品性に欠ける行為ではないかと」

「品性に欠けるねえ……」


「品性に欠けると思うよ、アデル」とメメ。

「黙れ帽子野郎」と、アデルはメメを握り締める。


 アデルは、あの時の決闘の事を思い出す。確か、決闘相手を素手の殴打で降参させたのだ。だが、今冷静に振り返ってみて、自身のその行為に“魔法使いとしての品性に欠ける”という言い分も分からないではない、とは思った。


「だからって魔法使いの法規範を逸脱したなんて論理の飛躍もいいところよ。少なくとも、上訴の要件の“魔法使いに関する紛争”は否定しようがないわ。形式的には完璧に魔法使いの決闘なんだから」

「だが卿は上訴権は認められないと必死で争った。そして、手っ取り早く死刑を断行しようとまでした。決闘の立会人の男は卿によって処刑されそうになった」


「で、どうなったの?」

「ノークの町の魔法使い達が立ち上がって、卿による処刑を阻止した。処刑されそうになった男は、魔法使い達の間で匿われた。多少荒っぽいことにもなったそうだ。__そうしている間に、王立裁判所は魔法使いに関する紛争として上訴権を認めさせ、それから問題の決闘を魔法使いの慣習法上正当化されるという判断を下した。つまりは、無罪判決が出た」

「それは良かったわね」


 やはりどこか他人事のようにアデルは言った。


「無罪判決は出たが、その後もノークの魔法使いと卿との間で色々と揉め事があったのだ。アデル殿、貴女は自身が起こした事件について大したことはないと思っているかもしれないが、あの事件を収束させるために多くの人が尽力したのだぞ。特に、“賢者”マグ殿は、貴女の無罪を勝ち取るため奔走していた」

「ふーん。じゃあ、今度あの娘に会った時にでもお礼を言っておくわ。そういえば、ちょくちょくあの娘には私のした事で世話になっているし」


 ゼクス王は、こめかみを指で押さえつけながら溜息を吐いた。アデルには、あの事件について全く反省の色が窺えない。


 アデルのしでかした事を数えれば切りがない。彼女も最近では多少分別を持つようになったが、それでも頻繁に問題行動をする。__魔法による通貨偽造の大罪が追及された経験があるにも関わらず未だにそれを止める事は無く、自己の利益の為ならば人を殺めるのも躊躇することなく、やや細かい事であるが、通行許可を無視して当然のように都市の壁を魔法の箒で乗り越える。


「頼むからアデル殿、わが国であまり目立つことはしないでもらいたい。貴女の悪い噂は嫌でも耳に入ってくる。これ以上騒ぎを起こされると、余も擁護しきれない。それに、近頃は貴女を追い回している者もいると聞くぞ」

「それはどうも、ゼクス王」


 アデルは、各地で敵を作り続けていた。個人を含め、様々な国や種族から、恨みを抱かれている。彼女自身、その事は自覚はしており、最近ではなるべく敵を作らないように立ち振る舞ってはいるが、あまり危機感を持っているわけではなかった。


 アデルは、手に持った闇色のトンガリ帽子を被り直す。


「で、何のために私を呼び出したのよ?」


 アデルがゼクス王の前に呼ばれたのは、何も彼の説教を受けるためではない。彼女は、万能の魔女に対して依頼したいことがあると言われてわざわざ王城へ呼び出されたのだった。


「そうだな、本題に移ろう。アデル殿、貴女ほどの魔女ならば気付いているとは思うが、今年は異常に魔力が溢れている。恐らくは、稀有な星のアスペクトの影響だろう。各地に魔力が溢れ、その所為で魔物の活動が活発化している

 今わが国では活発化した魔物による被害が著しくなっている。そこで、アデル殿の力を借りたいと思うのだ。『赤リボンのアデル』の力で、未曽有のこの事態を解決していただきたい。それが、余からの依頼だ」


「……まさか、天体を動かせとでも? いくら万能の魔女と言えども、流石にそれは……」


 アデルは、言葉を濁した。


 今年の異常な魔力の発生については、彼女自身も気付いていた。そして、その原因が、天の星々の配列による影響であることも分かっていた。そうであるなら、理論上は天体に干渉し、星々の配列を変えれば問題は解決しそうだ。しかし、万能の魔女の彼女としても、天体に干渉することは容易ではないように思えた。


 ゼクス王は、首を横に振る。


「いや、天体を動かすなど、そんな冒涜的なことを余はそんなことは求めておらん。アデル殿には、各地に発生した魔物の掃除をお願いしたいのだ」

「各地ってどこよ? まさか、アース王国の魔物全てを駆逐しろなんて言うんじゃないでしょうね?」

「特に問題になっている地域だけで構わん」


「それでもそれなりに手間が掛かりそうね。知っていると思うけど、私の魔法には回数制限がある。その1回の魔法に対して破格の報酬を依頼者には要求している。今回の依頼では、その貴重な私の魔法を何回も使うことになりそうよ」

「分かっている。相応の報酬を用意したいと思う。余は、アース王国の国王だ」

「なるほど」


 その言葉を聞いて、アデルは笑みを浮かべる。


「私は万能の魔女。私の魔法に見合った報酬を差し出せるなら、どんな困難な願いだって叶えて見せるわ」


 アデルはいつものようにそう豪語して、ゼクス王の依頼内容を詳しく聞くことにした。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 ジローは、荷馬車の中で、揺れていた。着ているマントに身を隠すように、静かにしていた。


 ジロー__額に傷がある黒髪の大男。かつてはルソル王国という国で憲兵をしており、今はわけあって故郷から追い出されて世界を旅していた。


 彼は生きる糧を得るため、自身の並外れた身体能力を活かして、各地で行商隊の護衛を請け負うことを生業にしていた。護衛の稼業はそれなりに上手くいっており、今や徐々に彼の名が行商人間で知れ渡るようになっていた。


 今も彼はとある行商人隊から依頼を受け、護衛中であった。


 彼の乗る馬車の中には、無数の木箱と彼と__そして、もう1人の護衛役がいた。


 ジローは、ちらりと同乗者に目を遣る。そして、よりによって“彼女”と同車することになるとは、と気まずい気持ちになった。


「何だ、貴様」


 ジローの視線に気付いて、相手は睨んでくる。鋭い、殺意のある銀色の瞳だった。


「いや、すまない。何でもない」


 ジローは、慌てて目を背ける。


「ふん」と、鼻を鳴らす音がした。


 ジローは、溜息を吐きたい気分だった。まさか、よりによって、先ほど険悪なやり取りをした彼女と同じ荷馬車を担当することになるとは。恐らくは、傭兵ギルドに所属していない者同士一緒にさせられたのだろう。


 彼女は第一印象から強烈だった。刃のような銀色の髪と瞳の、幼く可憐な少女だった。その幼い容貌に反して、どこか佇まいには他者を突き刺すような威圧感があった。


 彼女の名前は確か……アルジーナといったはずだった。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

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