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アデル★リボン ~万能でサイコパスの魔法少女が、人々の心を救済していく感動物語~  作者: タキ・エーイチ
間章 とあるお伽話:『万能になった魔法使いのお話』
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とあるお伽話(前編)

 アデルは、ロートヘルム帝国の中央憲兵司令部建物内の資料室にいた。


 彼女は、近くの長机に魔法の帽子メメを置き、資料室の本棚の前で本を立ち読みしていた。特に目的があったわけではなく、あくまで暇潰しに資料室に立ち寄ったのだった。


 中央憲兵司令部の資料室には、大図書館並みの豊富な書物が保存されている。しかも、科学が発展している帝国の先端的な研究資料がそこには収められていた。そこには、アデルの興味を惹くものが無くはない。


 そういうわけで、アデルは、かれこれ数時間、資料室で色々と本を手に取っては、読みふけっていたのだった。


「赤リボン殿、こんなところにいたのか」


 アデルは振り向き、声を掛けてきた人物を確認する。やって来たのは、憲兵の制服を着た赤髭の大男だった。


「あら、ヴァイス長官じゃない。こんにちは」


 アデルは、ヴァイス長官に挨拶をする。ヴァイス長官は、不愛想な表情で「ああ」と返した。


「赤リボン殿は、どうして此処に? 例のマジックアイテムの報告書ならば、別の棚に保管しているが」

「ただ単に暇潰しに来たのよ。面白い本がないかって。あなたこそ、何か用?」

「必要な資料があって来た。そしたら、偶然にも貴女がいたわけだ」


「ふーん、そう」

「……」

「何?」

「いや……」


 アデルは、息を潜めるようにこちらを見つめてきたヴァイス長官を不審がった。


「その……、あまり不用意に司令部内を歩き回らないで欲しいのだが? 他の憲兵達が貴女の事を警戒している。歩き回るなら、せめて腕章ぐらい付けてもらいたい」



 アデルがロートヘルム帝国に滞在している間は、中央憲兵司令部の建物内の一室を宿泊に利用させてもらえることになっている。したがって、彼女が司令部の建物内を歩くことについても認められているはずであったが、ヴァイス長官としては、あまり彼女が姿を表に出すことを良しとはしていなかった。


「まあ、善処するわ」


 アデルは、善処する気など全くない様子で、そう答えた。そうして、手にしていた本を本棚に戻し、別に読む本を探す。


 ヴァイス長官は、アデルのそのような態度に苦笑せざるを得ない。


「で、何か気に入った本は見つかったかな、赤リボン殿?」


 ヴァイス長官は、本棚を見上げているアデルに訊ねた。


「まあ、色々あるわね。流石ロートヘルム帝国だけあって、興味を惹きような目新しい分野の本があるわね。__何かお勧めはある?」

「そうだな……そこら辺の棚だと、確か、“心理学”の本があったはず」

「心理学? ……あ、これね」


 アデルは、目の前の本棚に視線を巡らし、それらしき本を見つけ、手に取って広げた。


「心理学は、人の心の仕組みを探求する科学だ。近年になって密かに勢いを増している。元々は、魔法学の一分野だった。魔術は術者の心の状態に影響を受けることが言われているため、人の心の仕組みを理解することで、魔法をより効率的かつ合理的に運用できるのではないかと考えられて進められてきた研究だ。今では、魔法学とは離れて、独立した科学分野として研究されている」


「ふーん……」


「興味深い研究だが、その内容に少々神学と抵触する部分が無くもない。つまりは、教会関係者が嫌悪しそうな内容が含まれている。したがって、我々憲兵は、注意深くその学者達の動向を観察し、監督しているのだ。私も、色々な意味で注目している」


 アデルは、ヴァイス長官の説明を聞きながら、心理学の本を捲っていった。心理学の本には、アデルに聞き覚えの無い専門用語が多くあった。例えば、ある言葉がアデルの目に留まる。


「……“サイコパス”? 何、この言葉?」

「ああ、それか。心理学の専門用語だな。……確か、人としての良心などが欠如している者のことを指した言葉だったはず」

「つまりは、アデルみたいな人のことだね」


 近くの長机に置かれていたメメが、嫌みっぽく言った。


「ふん、下らない定義の専門用語ね」


 アデルは鼻を鳴らして、心理学の本を棚に戻した。そして、また別の本を探し、本棚を目で辿って行った。


 すると、気になるある一冊の本を見つける。


 アデルは、本棚の端にあったその本に駆け寄った。


 気になった理由は、その本から微かな魔力を感じたからだ。それも、極めて特殊な魔力の気配があった。優秀な魔法使いのアデルには、その魔力を敏感に感知できる。


 そして、その気になる本を手に取って、首を傾げることになる。


「……これ……」


 アデルが手に取った本は薄く、本の表紙には魔法使いの絵が描かれていた。


そして、アデルが手に取った瞬間、その本からは突如魔力が溢れ、表題が無かったその表紙に変化が生じる。


__『万能になった魔法使いのお話』


 本の表紙から、インクが滲み出るようにして、文字が浮かび上がる。本の表題が出現したのだった。


「ああ、その本か。そんなところにあったな」


 ヴァイス長官は、アデルが手に取った本を一瞥する。


「これ何?」


 アデルは、ヴァイス長官にその本を示す。


「それは、魔法の本だよ」

「魔法の本? 魔導書?」

「いいや、魔導書ではない。魔法の仕掛けが施された本だ。読もうとすると、白紙から文字が浮かび上がってくる。浮かびかがってくる文字は、その読者が読める言語の文字が出てくるようになっている。それに、不思議と文字が分からない者でも読むことが出来るらしい」


 アデルは、「へー」と言いながら、その魔法の本をまじまじと眺める。


「それは、変わった仕掛けがなされているわね。……でも、これ何が書かれているの? こんなに薄いし、『万能になった魔法使いのお話』? ……お伽話か何か?」

「ああ、確かに、お伽話みたいなことが書かれているな」

「何でそんなものを司令部の資料室に?」

「まあ、短いし、試しに読んでみると良い」


 疑問を抱きながらアデルは、言われるまま、『万能になった魔法使いのお話』を開いた。


 白紙だったページから、インクが滲み出るようにして、文字が浮かび上がっていく。そして、物語が紡がれていく。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


__あるところに、一人の魔法使いがいました。


 彼は、様々な魔法を扱えることができて、魔法で周りの人達を助けていました。


 彼は、本当に色々なことができました。


 魔法で道具を修理してあげたり、すり傷を治してあげたり、暗い夜道を光で照らしてあげたり、暑い日には涼しい風を吹かしてあげたり、寒い日には温かい火を灯してあげたり、飲み物や食べ物を出してあげたり、時には、魔法で悪党を追い払ったりもしました。


 彼には多くの友達がいました。多くの人が彼を愛していました。多くの人が彼を信頼していました。


 彼は、そんな自分を頼ってくる友達を大切にしていました。友達のお願いを一つ残らず叶えて上げたいと思いました。


 しかし、魔法使いの彼にも、限界はありました。


 それは、ある日のことです。


 彼のもとに、慌てた様子でやって来た人がいました。様々な魔法が扱える彼を頼って、重い病で死に瀕している自分の子どもを助けて欲しいと、その人は頭を上げてお願いしました。


 彼は、困っている人を見過ごすことはできません。直ぐに、その重い病にかかっている子どものもとへと駆け付けました。


 彼は、その子どものために全力を尽くしました。ありとあらゆる魔法を試し、惜しみなく魔力を使いました。


 しかし、彼は、その子どもを助けることはできませんでした。


 彼の魔法は、決して万能ではなかったからです。


 結局、その子どもは病で死に至りました。魔法使いは、その親とともに涙を流しました。魔法使いは、何回も何回も、助けられなかったことを謝りました。


 同じようなことは、何度も起きました。


 彼には、救いきれない人が多くいました。


 彼は、努力しました。魔法の研究を重ね、修行を積み、優秀な魔法使いになっていきました。


 それでも、彼の力には限界がありました。彼には、重い病にかかっている人を救うまでの力はありませんでした。


 本当に困っている人を救う力はありませんでした。


 彼は、自分の無力さに打ちひしがれるのでした。


 そんな彼の前に、とある悪魔が現れます。


 その悪魔は、提案します。大切なものと引き換えに、願いを叶えるだけの力を与えることを。彼の願いとは、すなわち、本当に困っている人を救うことです。


それは、いわゆる悪魔の契約でした。


 しかし、彼は、迷いませんでした。彼は、願いを叶えるだけの力を、心から欲していたからです。


 こうして、その魔法使いは、悪魔と契約を果たしました。


 彼は、悪魔との契約で、万能の力を得ました。


 しかし、その代償として、悪魔の呪いにかかってしまいました。その呪いによって、彼は、自分の大切なものを失ってしまいました。


 大切なもの__それは、人としての良心と、大事な記憶でした。


 万能の魔法使いになった彼は、自分の願い事をすっかり忘れてしまいました。


 困っている人を救いたいというかつての自分の思いを、忘れてしまいました。


 万能になった魔法使いは、すっかり別人になってしまいました。


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