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アデル★リボン ~万能でサイコパスの魔法少女が、人々の心を救済していく感動物語~  作者: タキ・エーイチ
第5章 最強の力を手に入れた落ちこぼれが、神様にお祈りするまでのお話
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第16話 エピローグ

__ラインハルト・ヴァイスには、かつて、落ちこぼれと呼ばれていた時期があった。


 彼は、帝立魔術学院に特待生として招き入れられた。魔力測定において、桁違いの魔力反応を示したからだ。一般的に、優秀な魔法使いほど高い魔力を秘めていると考えられているため、彼は、行く行くは、非常に優秀な魔法使いになることを期待された。


 しかし、彼は、周囲の期待に応えることが出来ずにいた。特待生であるにも関わらず、魔術の実技の授業では、上手く魔法を扱うことが出来ずにいた。実技の成績は、最底辺の評価を受けていた。


 いつの間にか、彼は、同級生達から、落ちこぼれと揶揄されるようになった。見下され、罵倒され、そして、いじめに遭った。


 だが、彼は、挫けなかった。何故なら、彼には、自分を支えてくれる家族や、いじめから守ってくれる友人がいた。彼の周囲には、敵ばかりだけではなく、味方もいた。


 そんなある日、彼は、ある友人からの誘いで、変哲な魔法学者の元へと連れられることになった。その魔法学者の名は、キルシュタインと言って、その友人の叔父にあたる人物だった。


 キルシュタイン博士は、異端魔術の研究をしていて、その当時、未知の魔法が封じ込められているとある魔導書を調査していた。それは、本の表面に書かれている題名すらも解読不能な魔導書だった。


 だが、ラインハルト・ヴァイスは、その魔導書を読み解くことが出来た。それだけでなく、魔導書に封印されている、悪魔の声を聞くことが出来た。


 こうして、ラインハルト・ヴァイスは、サマウスと出会ったのだった。


<老けたな、ラインハルト。髭なんかも生やして。もう何年ぶりだ?>

「30年くらいだな。本当に懐かしいよ」


 中央憲兵長官の執務室の中で、ヴァイス長官とサマウスは、再開を果たした。


 ヴァイス長官は、漆黒の大蛇の姿を取っているサマウスを見上げ、何とも言えない表情を向ける。ヴァイス長官は、サマウスに対して、複雑な思いを持っていた。


 サマウスは、恐ろしい邪悪な悪魔だ。かつて、自分を悪の道へと誘惑してきた忌まわしき存在だ。だが、それと同時に、ヴァイス長官にとって、青春を共に過ごした友人とも思える存在であった。


<今何をやっているんだ? 確か、俺の記憶では、イカレ博士の紹介で、お前は軍に入ったはずだが>

「見ての通り、憲兵をやっている。今や中央憲兵長官だ。結構出世しただろう?」

<つまらんことをしているな、ラインハルト。それで偉くなったつもりか、笑わせられる……。どんなに出世しようと、所詮は国家の犬だ。ふん、お前にはお似合いだ。間抜け野郎のお前にはな>


 サマウスは、毒々しく言った。


「手厳しいな、サマウス。……もしかして、私を恨んでいたりするか?」

<恨むというほどじゃないが、俺達はあまり良い別れ方をしていないだろ。お前は、俺の力を頼るだけ頼って、要らなくなるとわかったなら、おさらばだ。あまり気分の良いもんじゃない>

「そうだな」


 良い別れ方をしていない事は、ヴァイス長官にも自覚があった。


 ヴァイス長官は、サマウスの力が不要になり、捨てたのだった。


 ヴァイス長官のことを気に入っていたキルシュタイン博士は、サマウスの魔導書の研究過程で独自の術式を開発し、落ちこぼれと言われ続けていた少年を救った。それは、ヴァイス長官に適合した、特別な術式だった。


 ヴァイス長官は、キルシュタイン博士の編み出した術式を使って、己の魔法の才能を存分に発揮した。その魔術の腕は、他の同級生からひとつ飛び抜けていた。彼の才能の開花を目にした者は、驚嘆し、称賛を送った。誰も、ヴァイス長官のことを、落ちこぼれと言わなくなった。


 そして、キルシュタイン博士の術式によって魔法が扱えるようになったヴァイス長官は、サマウスの力を使わなくなった。確かにサマウスの力は強大であったが、彼は、それほどまでの力は欲していなかった。


 やがて、サマウスの魔導書は、帝立魔術大学の保管庫に運ばれることになった。ヴァイス長官も魔導書の力が不要であったし、キルシュタイン博士も、既に魔導書から一定の研究成果を得ていて、研究の興味が別のものに移っていたからである。


 サマウスとしては、都合良く捨てられた気分であった。


<これから俺をどうする気だ? また、暗い倉庫の中にでも閉じ込めるのか?>

「ひとまず我が中央憲兵が預かることになると思う。……というか、私が責任を持って厳重に管理することにする。お前は、危険だ。また、どこのルダ族の末裔がお前に触れるとも限らん。もう二度と、こんな事件を起こさせはしない」


 サマウスは、溜息を吐く。


<全くひどい話だぜ。また退屈な眠りに就くってわけか>

「なんなら、たまには私がお喋り相手にでもなってやろうか? 色々と積もる話もあることだしな」


 ヴァイス長官は冗談っぽく言う。


<ああ、そうかい。それは嬉しいな、相棒。……いや、冗談じゃなくて、マジでたまには話し相手にでもなってくれ。お前みたいなクソ野郎でも、退屈しのぎにはなる。頼む>

「そうだな、気が向いたらな」


 ヴァイス長官は、情けなくお願いしてきたサマウスの態度に、思わずはにかんでしまった。


<積る話と言えば、お前、あのイカレ博士の姪とはその後どうなったんだよ? ほら、お前のガールフレンドの>

「ガールフレンドじゃない……__と言いたいところだが、あの後、本当に恋仲になって、結婚もした。子どもは3人いるぞ」

<なんか予想通り過ぎてつまらんな>

「つまらないか……。だが、私は幸せだ」


 そう言い切るヴァイス長官に、サマウスは舌打ちをする。


<思えば、お前は、最初からあまり見込みが無かったな。お邪魔な虫どもがたくさん周りにいやがった>

「そうだな。私には、たくさんの味方がいてくれた。お前にとっては忌々しい存在がな。おかげで、私は、私の体の中で蠢くお前に打ち勝てた。私は、とてつもなく幸せ者だったのだ。……レオ・クラインとは違って」


 ヴァイス長官は、深く思い耽るように、その連続殺人鬼の名を口にした。


<レオ、ねえ……。最初、俺は、あいつになかなかに期待していた。あいつは、素晴らしい環境にいた。本当に、期待していた。あいつは、お前とは違った__そう、思っていたんだ。だが……>

「だが?」

<結果はこのざまだ。あいつは、結局、お前と同じクソ野郎だった>


 漆黒の大蛇が、俯きながら言った。怒りと落胆、そして、悪魔らしくない切なさが混じった声だった。


 ヴァイス長官は、赤髭を撫でながら、漆黒の大蛇を見つめ、


「“同じ”か……。なあ、これは、私の勝手な想像なのだが__」


 と、切り出した。


「レオ・クラインは、自身の復讐よりも大事なものを見つけていたんじゃないか? 具体的には、あの実験体の少女に対して、特別な思いを抱いたんじゃないか?」

<さあな……>


 サマウスは、答えなくないといった様子だった。


「こんな事を言うのは、本当にどうかと思うのだが……私は、彼に同情している」


 ヴァイス長官は、やや躊躇いがちに明かした。


「彼は、もう一人の私だ。……そんな気持ちにさえなってくる。信頼出来る仲間がいなければ、私も彼と同じ結末を辿っていたのかもしれない。そして、彼も、もっと早く孤独から救われていれば、こんな事にはならなかったのかもしれない。……だから、こんな事、決して他の人の前では言えないが__」


 ヴァイス長官は、天井を仰ぎ見て、


「私は、連続殺人鬼レオ・クラインに同情するよ……」


 サマウスの前だけで、そう呟くのだった。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


__エマ・ヴァイスは、その日で、15歳の誕生日を迎えることになっていた。


 ただし、彼女の正確な年齢や誕生日は不明であった。年齢も誕生日も、勝手に決められているに過ぎない。彼女は、元々孤児で、今はヴァイス家の養子であった。


 彼女の人生は、数奇なものだった。


 彼女は、人身売買の果てにとある魔法研究所の実験体にされ、違法で非人道的な実験を受け続けながらの辛い監禁生活を送っていた。そして、奇しくも、彼女をその魔法研究所から連れ出したのは、当時帝都を震撼させていた連続殺人鬼だった。連続殺人鬼とのどのような生活を送っていたかの詳細は不明であるが、件の連続殺人鬼が中央憲兵に討伐された後、彼女は、帝都外にある孤児院に預けられることになった。


 孤児院に送られた彼女は、特別な手術を受けることになった。彼女の体には、違法な魔術の刻印の跡があったため、それを消し去るために、何人ものの凄腕の魔術師が、刻印の摘出に尽力した。手術は困難を極め、彼女に多大な身体的・精神的な負担を掛け、一時はその生命も危ぶまれる事態にもなったが、最終的に刻印は摘出でき、手術は完了した。


 ただし、手術による重大な後遺症は残った。まず、エマの左目は視力を失ってしまった。彼女の左目には、いつも眼帯が掛けられるようになった。そして、より重大なのが、記憶喪失になったことだ。彼女は、手術前の自身の記憶を全て失ってしまったのだ。


 そして、そんな彼女に対して、記憶を失う以前の彼女の事を教えようとする大人はいなかった。辛い過去を知らない方が彼女にとって幸せかもしれないし、何より、実験体エマは既に帝国憲兵に始末されていることになっていた。いずれにしても、記憶を失ったままのほうが都合が良いと大人達に判断された。


 こうして以前の自分を知らない彼女は、3年ほど前に、ヴァイス家の養子に迎え入れられた。__エマ・ヴァイスとなった。


 エマは、ヴァイス家と上手くやっていた。養親はとても優しくしてくれたし、その3人の子どもとも仲良くなった。今では、ヴァイス家の人間の事を、本当の親や兄弟姉妹のように感じていた。


 そして、皮肉にも、エマが新しい家族に上手く溶け込めたのは、以前の自分自身の記憶が無かったおかげでもあった。


 エマ・ヴァイスは、かつての実験体エマとは別人で、ヴァイス家の一員になっていた。だから、ラインハルト・ヴァイス__ヴァイス長官は、これから彼女に渡すものについて、疑問を感じなくもなかった。


 ヴァイス長官は、エマの部屋をノックする。


「エマ、ちょっと良いか?」


 ドアが開き、エマが出てくる。左目に眼帯をした、金髪で赤い瞳の、人形のように端正な少女が、微笑みながら現れる。


「どうしたの、お父様?」


 ヴァイス長官とエマは、すっかり実の父と娘のように話すようになっていた。


「エマに渡したいものがあるんだ」

「まあ! もしかして、今日の誕生日プレゼント!?」

「いや、プレゼントやケーキは今夜のパーティーまでのお楽しみだ。それとはちょっと違ってな。……本当は、これを渡してよいかどうか……、それに、エマもこんなもの渡されても困るんじゃないかと思うんだが……」


 ヴァイス長官は、随分と迷った様子で、手に持っていた大きめの袋をエマに渡す。エマは、首を傾げながら、袋の中に入っている物を取り出す。


「……ドレス? それに、これ、小さい子が着るようなものだけど……?」


 渡された物というのは、一着のドレスだった。それも、10歳前後の女の子が着るような小さなドレスだ。成長し、身体が大人に近づいている今のエマに着れるものではない。


「お父様、これ何ですか? まさか、これを着るってわけじゃ……」

「それは、昔エマが着ていたドレスだ」

「……私が?」


 そう言われても、エマにはそのドレスを着た記憶は無かった。そして、どうして今、それを渡しに来たのか、分からなかった。


 ヴァイス長官は、やはり迷った様子で、説明する。


「エマ、お前には過去の記憶は無い。そして、私は、勝手ながら、その方がお前にとって幸せだと思っている。お前は、過去の自分の事とは断ち切って、私の娘のエマ・ヴァイスとして生きていくべきだと思う。__だから、それを渡すことに、私は疑問を感じなくもない。そんな、お前の過去の物など……。

だが、一方で、それをお前に渡したいとも思うのだ。そして、お前がそれを持っていなければならないと思うのだ。かつて、お前を救ってくれたある人のためにも」


「ある人……?」

「昔、お前はある人に救われた。悪いが、その人物について詳しく教えられない。エマは、その者について、詳しく知る必要はないし、知るべきではないと思う。……ただ、そうだな……、その者の名は、レオ……とだけ言っておこう」

「レオ……?」


 エマは、手にしたドレスを見つめながら、記憶にない人物の名を呟く。


「そのドレスは、そのレオという男がお前に買ってくれた物だ。その……どういう経緯でかは教えられないが、私は、ずっとそれを預かり、保管していた。そして、エマに渡そうかどうかずっと迷っていた。正直、今も、自分のやっていることが間違っているのかもしれないと思っている。お前に、過去の事など、少しでも教えるべきでないのにな……」

「……お父様は、どうして、私の過去の事を教えてくれないんですか……?」

「繰り返すが、お前は、過去の自分の事と断ち切って生きていくべきなんだ。だから、教えられない」


 ヴァイス長官は、残酷なまでに事実を隠していた。


 エマは、重要な事は何も知らない。


 そのエマを救った人というのが、残虐非道な連続殺人鬼である事も。ヴァイス長官率いる中央憲兵が、かつて彼女を始末しようとしていた事も。__そして、彼女の誕生日が、その連続殺人鬼の命日と同じである事も。


「こんな中途半端な事をして、エマを戸惑わせてしまって本当に済まないと思っている」


 頭を下げるヴァイス長官に、エマは首を振る。


「いえ、大丈夫よ、お父様。私は、お父様のことを愛していますし、信用しています。お父様が教えるべきでないというのであれば、信じます」


 ヴァイス長官は、面を上げる。


「そうか……。なら、これだけを、覚えておいてくれ。かつて、エマを命がけで守ろうとした男がいることを。その男の名と、……遺してくれた物がそのドレスであることを」


 ヴァイス長官は、エマに渡した小さなドレスを見つめる。


 エマも、手にした小さなドレスに目を落とす。


「レオ……」


 そして、憶えていないその名を口にしながら、そのドレスを静かに抱きしめた。


 着た憶えのないそのドレスには、何故か不思議な温もりを感じるのだった。


 ★ ★ ★ ★ ★ ★

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