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アデル★リボン ~万能でサイコパスの魔法少女が、人々の心を救済していく感動物語~  作者: タキ・エーイチ
第5章 最強の力を手に入れた落ちこぼれが、神様にお祈りするまでのお話
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第12話 万能の魔女との対決

「エマを、殺すのか……?」


 レオは、震えた声でサマウスに聞き返した。漆黒の大蛇は、静かに頷いた。


「……一体何のために……?」

<だから、お前を試すためだよ>

「俺がエマを殺して何になるんだ?」


 レオと漆黒の大蛇は睨み合う。


<お前がつまらない感情に打ち勝てる人間であるかを試せる。お前の意志の強さを試せる。__お前は、今まで孤独と絶望の中に生きていた。最高の環境に生まれて来たんだよ。魔王になる為の、な。現に、お前は、今までつまらない感情に囚われる事無く、復讐をやり続けれていた。だが、そのガキが現れて、狂い始めた>


 漆黒の大蛇が、レオの傍らで寝ているエマの体の上を這いずり、その顔を小突いた。


「やめろっ! 何してんだ!」


 レオは、サマウスの行動に危険を感じて、大声を上げて、エマの体に触る漆黒の大蛇を追い払った。


「……んっ……うーん……」


 顔を突かれたのと、レオの大声の所為で、エマは目を覚まし、ベッドから身体を起こす。


「……? ……レオ、おは……よう……」


 目を覚ましたエマは、まず、部屋の中に現れた漆黒の大蛇の存在に気付き、目を丸くする。そして、その禍々しい大蛇に本能的に危険を感じ取り、悲鳴を上げてレオに抱き着いた。


「レオ……! その黒いのは何……!?」


 エマは、漆黒の大蛇を見上げて恐怖で震える。


 サマウスは、エマの存在を気にすることなく、話を続ける。


<今まで他者からの温もりを感じてこなかったお前が、初めての他者からの温もりに戸惑うのは、少しは理解できる。だが、今まで生きてきた中のたった数日の事で、お前は憎悪の炎を消してしまうのか? お前の憎しみは、そんなもんだったのか? そうじゃないはずだ、相棒。俺は、お前を信じている。

 今この瞬間が、お前の人生の中で、最も重大な瞬間だ。今までのあらゆる困難は、全てお前を完成させるための前座に過ぎなかった。そして、今、最後の試練がお前の前に現れた。……さあ、やり遂げろ、レオ・クライン!>


 レオは、首を横に振る。


「で、出来ない……。この子を殺す必要は無いはずだ! 復讐はこれからも続ける! それで良いじゃないか!?」


 漆黒の大蛇が、怒ったように唸り声を上げる。レオは、エマを強く抱き寄せた。


<駄目だ。それじゃあ、『リボン』は授与できない。ここでそのガキを殺せないなら、やっぱりお前は、間抜け野郎のクソ野郎だ。きっと、復讐もやり遂げれない。……それなら、俺は、お前を見捨てる事になる。また、ただの落ちこぼれに戻りたいか?>

「ぐっ……!」


 レオは、エマに目を移す。エマも、レオを見つめ返す。


「レオ……?」

「エマ、俺は……」


 レオは、唇を噛みしめる。どうすれば良いか、分からなかった。


 ここでサマウスに見捨てられたくない。レオには、この悪魔の助けが必要だ。


 そして、サマウスの言っていることも、頭では理解出来る。きっと、今自分がエマに抱いている“つまらない感情”は、一時の気の迷いだ。それは、乗り越えなければならないものだ。


__しかし、出来ない。エマを殺す事なんて、簡単だ。魔法を使う必要も無い。その細い首を強く握り締めれば良い。あるいは、刃物を手に取って一刺しすればそれで済む。だが、レオの手は、エマを抱きしめて動かない。動いてくれない。


<おい、早くしろ、相棒>

「サマウス……、俺は……」

<早く、そのガキを殺せ__>


 その時、部屋の中に足音が響いた。それに続いて、凄まじい魔力の波動が迸る。


 部屋にいた一同は、驚いて、動きを止めた。


「あなた、レオ・クラインね」


 少女の声が、入り口の方から響く。そして、何者かが部屋に入ってきた。


「誰だ!?」


 と、レオが鋭い声で尋ねた。


「憲兵の者よ」

「憲兵……?」

「そうよ」


 突然の侵入者は、短くそう答えた。


 だが、その少女は、憲兵の恰好をしていなかった。闇色のトンガリ帽子とローブ、そして、胸には目立つ赤いリボン__まさに魔法使いの恰好だった。強いて言うのであれば、その腕に、憲兵の腕章らしきものを巻いているくらいだ。


「何者だ、お前? 本当に憲兵か?」


 その少女は、只ならぬ雰囲気を纏っていた。彼女から、尋常じゃない魔力を感じる。その長い金髪と赤い瞳は、悪魔的な煌めきを帯びていた。


「ええ憲兵よ、臨時のだけど。アーデルハイト・ロートシュライフェ特別憲兵予備役。……あなたを始末しに来たの」


 その少女の背後から、翼が広がるように、光が溢れた。彼女の背後に、得体の知れない何かがいた。非常に危険が何かが。


 レオは、咄嗟に机の上の魔導書に飛びつき、書を広げる。魔導書から伸びていた漆黒の大蛇は、霧の状態に戻って、レオの体を包む衣となった。


 眼前の少女は、“始末しに来た”と言った。彼女が何者かは知らないが、レオがやることは決まっている。殺される前に、殺す。


 レオは、先制攻撃を仕掛けようとした。


 だが、次の瞬間、部屋に光の嵐が巻き起こった。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「ぐっ……、うっ……」


 レオは、呻き声を上げながら、床から身を起こした。一瞬気を失っていたようで、自分はいつの間にか床に突っ伏していた。


「何が……起きた……?」


 光の嵐があった。圧倒的な量の魔力が渦巻き、その波動が部屋中のあらゆるものを吹き飛ばした。部屋は今、酷い散乱状態になっている。サマウスの黒い霧を纏っていたレオも、その光の嵐に抗う事が出来ず、脳が強い衝撃に揺さぶられて、そして、倒れることになった。


「あら、あなた、意識があるのね。すごいわ」


 床に伏していたレオに、少女が声を掛ける。彼女は、余裕の笑みを浮かべて、レオを見下ろしていた。


 そして、その少女の足元には、エマが転がっていた。エマは、目を閉じて動かず、床に伏していた。


「エマ!」


 レオは、起き上がって叫んだ。


「エマ……、まさか、死んで……」

「死んでないわよ、この子。気絶しているだけ。……何、この子が心配なの?」

「エマから離れろ!」


 レオは、胸に抱えていた魔導書を再び広げる。黒い霧が噴き出し、眼前の少女に対して怒り狂うようにうねる。


 そして、黒い霧の中から、少女目掛けて触手が伸びる。だが、黒い触手は、少女に触れる直前で、光り輝く霧のようなものに弾かれる。


「何っ!?」


 レオは、自分の攻撃が通じなかった事に動揺する。


 よく見ると、少女の体は、謎の光の粒子で包まれていた。謎の力に守られていた。レオの攻撃をも凌ぐ、強力な力に。


 レオは、諦めずに何回も触手による攻撃を試みた。だが、結果は同じ。黒い触手は、悉く、謎の光に弾き飛ばされる。


<相棒……、こいつ、ヤバいぜ……!>


 サマウスの声は掠れ気味だった。見ると、サマウスの魔導書の端が、若干焼け焦げたように傷付いている。


「サマウス、何なんだこいつは!? 攻撃が通用しない!」

<……相棒、そいつは__>

「悪魔の声が聞こえるわ」


 少女は、レオとサマウスの会話に割り込む。


「なるほど、悪魔を使役しているのね。その魔導書の力かしら? しかも、かなり強力な悪魔のようね。並みの憲兵じゃ勝てないわけだわ。……興味深いわね」


 レオは、驚く。


「サマウスの声が聞こえるのか!?」

「ええ、それなりに」


 やはり、この少女は異常だった。サマウスの声は、レオにしか聞こえないはずだった。


「サマウス、何でこいつ、悪魔のお前の声が聞こえるんだ!? こいつも、俺と同じルダ族の末裔ってやつか!?」

<いいや、違う……こいつは……>


 サマウスの声も、驚きに震えていた。


<こいつは、悪魔の力を所持している。身を悪魔に染めている。……見ろ! 『リボン』だ! この女、『リボン』を持っていやがる!>


 レオは、少女の胸に飾られた赤いリボンに目を遣る。


レオには、分かる。一見、目立つだけのただのリボンに見えるそれは、計り知れない魔力を帯びていた。


「……『リボン』……、あれが……」


 レオは、戦慄する。


 ちょうどつい先ほど、サマウスとの話に出た『リボン』。悪魔の力を与えられた証。その『リボン』を、眼前の少女は持っていた。サマウスの話によれば、『リボン』の所持者は、絶大な力を持っているらしい。


 そして、レオは、眼前の少女の力を実際に思い知った。彼女の力は、自分の魔法をも軽く凌ぐものだ。


<その赤色の『リボン』……おい、嬢ちゃん……お前、まさか……>


 少女は、頷いて、改めて自分の正体を告げる。


「私は『赤リボンのアデル』。万能の魔女よ」


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 アデルは、帝国中央憲兵の情報に従い、他の憲兵を引き連れ、帝都南地区の街はずれの小屋に赴いた。


 辺りに全く人気が無い場所に、その小屋はあった。そこに、連続殺人鬼レオ・クラインが潜んでいるとの事だ。


 小屋への突入は、アデルだけで行った。アデルにとって、憲兵の戦闘力は全くあてにならないどころか、自分が使う魔法の邪魔になるおそれすらあるからだ。もし自分の魔法で他の憲兵を巻き添えにしたら面倒な問題になる。


 小屋の中に踏み入ったアデルは、部屋の中に二人の人物を確認する。


 暗い赤髪の男と、金髪紅眼の幼い少女がいた。連続殺人鬼レオ・クラインと、メ―リアン魔法研究所の実験体エマだ。情報通りの容姿をしていた。


 標的を確認するや否や、アデルは、魔法を発動させた。万全の戦闘態勢に入った。


 未知の力を持つと報告されていたレオ・クラインの魔法は、確かに強力だった。ヴァイス長官の忠告に従い、アデルは、多少警戒して戦闘に臨んでいた。だが、やはり、『赤リボンのアデル』に及ぶ程のものではなかったようだ。


「……『赤リボンのアデル』だって!?」


 その名を聞いて、レオは驚く。


 レオも『赤リボンのアデル』の噂を聞いた事がある。曰く、どんな願いも叶えられる万能の魔女。そして、一国を亡ぼす程の力を持つとまで恐れられている、最強の魔法使い。


<逃げろ、相棒!>

「だ、だけど……」

<今のお前が敵う相手じゃない! ここは一旦引け!>

「それは……!」


 レオは、逃げようとしない。


 サマウスの指示に従った方が賢明なのは理解している。悔しいが、確かに、自分の力じゃ『赤リボンのアデル』に敵いそうにない。闘えば、死ぬのは自分の方だ。


「クソッ!」


 レオは、魔法を発動させる。黒い霧の中に漆黒の刃を形成し、アデル目掛けて射出する。刃は、疾風の如くアデルに襲い掛かるが、やはり、アデルを守る光の霧の前に弾き飛ばされる。


「無駄よ。最強の光の精霊を召喚して使役しているの。どうあがいても、あなたは私に勝てない」


 アデルの周りの光の霧が輝きを増す。そして、レオにお返しとばかりに、光の刃が、輝く霧の中から射出した。レオは、黒い霧を硬質化させ漆黒の障壁を形成するものの、光の刃は、その障壁を難なく貫通し、彼の腕を掠め、皮膚をほんの少し裂いた。


「痛っ!」

<何してる!? 逃げろ、相棒!>


 レオは、アデルの足元に転がったエマを見て、歯ぎしりする。


 エマを置いては、逃げられない。レオがこの場に止まる理由だった。


 アデルは、レオの視線に気付く。そして、暫く考え込んだ後、ある事を思い付いて、薄笑いを浮かべる。


「ねえ、あなた……」


 赤い瞳が、レオを見据える。


「私と取引しましょうよ」


 そして、突然、そのように話を持ち掛けたのだった。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

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