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アデル★リボン ~万能でサイコパスの魔法少女が、人々の心を救済していく感動物語~  作者: タキ・エーイチ
第5章 最強の力を手に入れた落ちこぼれが、神様にお祈りするまでのお話
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第8話 避難警告

__ハンナ・フォーゲルは、とびっきりの美人で、多くのクラスの男子を虜にしていた。彼女自身も自分の容姿に絶対的な自信を持っていた。クラスでは女王様的存在で、その周囲には、いつも何人かの取り巻きがいた。そして、彼女は、他者が苦しむのを楽しむという、歪んだ性癖を持っていた。


ハンナの性癖の矛先は、レオにも向いた。彼女は、いじめられているレオを愉快そうに眺め、時には直接手を出したりした。レオを魔法攻撃の的にするいじめに、彼女は嬉々として参加した。どうやら彼女は、人を「豚野郎!」と罵りながら暴力を振るうのが好きで、レオは、彼女のその性癖に存分に付き合わされたのだった。


 ハンナは、魔術学院を卒業後、魔法薬の分野に興味関心があったので、魔法薬を扱う会社に就職した。彼女の美貌は大人になってから更に磨きがかかり、社内の男達を魅了した。何人もの男に言い寄られ、何人もの男と交際し、そして、様々な物を貢がせた。男達は、彼女の言いなりになって、高級な靴やドレス、宝石等、何でも買い与えた。


 ハンナは、未だ独身で、帝都の市街地にある借家に独りで住んでいた。彼女が就寝する直前の夜遅く、レオは、その住居を訪ねた。ハンナが玄関扉を開けるなり、黒い霧が部屋全体を覆い、黒い触手が彼女を拘束した。黒い霧が部屋全体を覆ったのは、結界魔法を張って防音し、邪魔な助けが入るのを防ぐためであった。


 突然現れたレオに対して、最初は威勢よく罵声を響かせていたハンナだったが、数回身体を突き刺しただけで、態度が一変した。彼女は、人を傷つける事は慣れていても、傷付けられる事には慣れていなかった。拘束から逃げられず、助けを呼んでも来ない絶望的な状況に、彼女は、自分の置かれた立場を理解し、涙声で許しを請うのだった。「女王様ぶっていた奴とは思えないな」とレオが笑ってやると、ハンナは顔を赤くしながらも、「許してくれたら、気持ち良い事してあげる」と誘惑してきた。


 レオは、ハンナの誘惑を腹を抱えて笑いながら断り、彼女をたっぷり虐めてやった。彼女の前に姿見の鏡を用意し、自分自身の顔や身体がぐちゃぐちゃにされる様子を見せてやった。良く手入れしていた髪は引き千切られ、魔法薬での美容で仕上がった美しい肌は、その皮膚が剥がされたり切り刻まれたりして、台無しになる。自身の美貌に誇りを持っていたハンナにとって、自分の美貌がめちゃくちゃにされるのを見るのは、あまりにも耐え難い事だった。


 ハンナも、他の被害者と同様、朝が来るまで弄ばれ続けた。彼女は、最後の方になると、痛みと絶望で精神をやられて、全く会話が通じない状態まで出来上がってしまった。レオは、満足して、彼女の首を刎ねてから、その場から立ち去って行くのだった。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 貧民街の一角に、寂れた街並みからは多少浮くような、お洒落な服屋があることを、レオは知っていた。今日街に出て来たのは、その服屋に行くためだった。自分の服を買うためではなく、エマの服を買うためだ。


 レオとエマは、黒いローブを羽織って、人気の無い路地裏を縫うようにして目的地に歩いて行った。憲兵に絡まれないために、人目に付く場所を移動するのは出来る限り避けた方が良いと思ったのだ。


「レオ、眠いの?」


 レオの傍を歩いているエマが、心配そうに声を掛ける。


「眠そうな顔しているか、俺?」

「うん、眠そう」

「……確かに、少し眠いな」

「大丈夫?」


 レオには、自分が今どのような顔をしているかは見えないものの、眠気で体が怠いのは確かだった。昨夜は朝が来るまでハンナ・フォーゲルを弄び、それから住処に戻り、エマと一緒に少し遅めの朝食を食べ、昼前まで睡眠を採った。正直、昨日エマに“服は明日の午後に買いに行く”と言わなければ、昼過ぎも寝ていたところだった。


「だけど、約束したしな。服買いに行くって」


 レオが呟いた言葉に、エマは嬉しそうに笑う。


「ありがとう、レオ!」

「ああ……」


 レオは、素っ気なくエマの笑顔から目を逸らした。何だか、居心地が悪い。レオには、エマがいちいち大袈裟に嬉しがっているように見えた。


<随分と気に入られているようだな、相棒>

「……よしてくれ」


 レオは、頭を掻くと、小さく呟くようにして、サマウスに返した。


<お前もお前で、そのガキのことを気に入っているんじゃねえか? わざわざ飯を作ってやって、今日は、ガキのための服を買ってやる。ガキとの約束がそんなに大事なのか? 眠いなら好きなだけ寝ればいいじゃねえか>

「……」


 レオは、黙り込む。


 確かに、どうして自分は、律義にエマとの約束なんかを守っているのだろうか。彼女との約束を反故にしたところで、自分には何の不利益もないはずだ。心がもやもやする。


 レオは、自分の傍らを歩くエマに、ちらりと目を遣り、考える。考えるが、疑問は解消されない。そのうちにエマがレオの視線に気が付いて笑い掛けてきたところで、彼は慌てて視線を逸らした。


 レオは、もやもやしたまま無言で歩き、そして、いつの間にか目的地の服屋がある街路まで辿り着いていた。


 そして、街路に出た瞬間、思わずレオは顔を強張らせた。出てきて早々、道路の向こう側に二人組の憲兵が立っていた。しかも、憲兵達は、こちらに気付いて走り寄ってくる。レオは、ローブの内のサマウスの魔導書に手を触れる。


「君達!」


 と、憲兵の一人が焦った様子で呼びかける。レオに緊張が走る。


「どうしたんですか、憲兵さん?」

「今この辺の住民に避難警報を伝え回っている。君達も逃げた方が良い。この通りを上った先に皆非難している」


 憲兵は、街路の先を指差して、避難経路を伝えた。


「避難警報?」


 レオは、首を傾げる。どうやら憲兵は、連続殺人鬼の件とは関係なく自分に話し掛けてきたようだ。


「一体何の避難警報なんですか?」

「飛竜が暴れているんだ。だから、ここから早く逃げたほうが良い」


 憲兵は、重々しく告げた。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 竜は、力の象徴のような生き物だった。その体躯は、建物を抱きかかえられる程ある。その牙だらけの口は、馬や牛を丸呑み出来る。鱗は鎧のように硬く、容易に刃物を通さない。加えて、強い魔力を持ち、魔法攻撃にも耐性がある。熟練の戦士でもあっても、竜を屠るには困難を極める。


 飛竜は、竜の中でも、比較的個体数の多い種族であった。飛竜は、その名の通り、大きな翼を持ち、空を飛ぶ。見る者を圧倒する巨体を、恐ろしく俊敏に動かし、翼の羽ばたきで周囲に暴風を巻き起こす。生きる嵐と形容される存在だった。


 さて、近年のロートヘルム帝国の懸案事項として、その飛竜が活発な動きを見せている事が挙げられていた。飛竜にも、個体によって様々な気質も持っており、大人しく棲み処に止まっている個体もいれば、厄介にも人間を積極的に襲う個体もいる。


 帝都の遥か南方には、飛竜が棲み処にしている渓谷があった。そして、帝国軍の調査隊の報告によれば、近年になって、北上して帝都に接近してくる飛竜が多数目撃されているそうだ。目撃されているだけならともかく、実際に飛竜によって相当な被害が出ているのだった。


 棲み処の比較的付近にある村や牧場に飛竜達は出現し、暴れ回って建物等を破壊し、家畜や人を食らうのだ。一説には、竜は、生きた人の魔力を取り込むために、人を食らうとも言われている。その説の真偽はともかく、現に、飛竜に食われた被害者が多数出ている。


 飛竜による被害の地点は、徐々に帝都に近づいてきており、いずれは帝都が襲われるのではないかとの懸念されていた。そして、その懸念が現実のものとなったのだった。


 帝都の南地区の貧民街は、混乱を極めていた。飛竜の一匹が、侵入してきたのだ。その飛竜は、知恵を働かせたのかどうかは分からないが、防衛が薄い場所を選んで都市の城壁を飛び越えて来た。


 飛竜の羽ばたきによって起こる暴風で、建物の屋根は剥がれ、街中に様々な物体の破片が飛び交う。飛竜は、暴風を撒き散らしながら街の上空を暫く巡り回ると、急に降下しては、街路に飛び出て逃げ惑っていた人々を、掬い上げるようにして食らっていった。


 南地区に駐屯していた憲兵隊が、暴れ回る飛竜に挑むも、多数の死者を出して返り討ちにされる。戦力不足を悟った憲兵は、住民に避難を呼びかける班と、司令部等に非常事態を連絡する班に分かれて行動した。


 とにかく現地の憲兵達だけでは飛竜を討つことは難しく、精鋭部隊に任せる他ない。然るべき戦力の到着まで、憲兵としては、少しでも多くの住民を、飛竜の攻撃の届かない場所まで避難させるぐらいしか出来ない。


 レオとエマは、憲兵の避難警報に従うままに、指示された方向に街路を走っている。飛竜から逃げるためというより、ただ周囲に流されて走っているだけだった。


 街の人々は皆、慌ただしく一方向に走っていた。荷物を抱えて全身に汗を流して走る人や、泣き続ける子どもの手を引きながら走る人の姿もあった。


 レオとしては、このまま住民達の避難に付き合うつもりはない。どこか適当な路地裏の入り口でも見つけて、流れから外れるつもりだった。


「ねえ、レオ」


 走りながらエマが呼びかける。レオは、彼女の方に顔を傾ける。


「レオなら、暴れている飛竜をやっつけられる?」

「あ? ……ああ、そうかもな」


 レオは、特に何も考えずに答えた。本当に、何も考えずに口を滑らせた。だから、次のエマの質問への返答に、困る事になるのだった。


「じゃあ、レオ__」

「ん?」

「皆を助けてあげないの?」


 レオは、思わず足を止めた。エマも立ち止まった。急に立ち止まったレオ達の後ろから、迷惑そうな顔をして住民達が走り抜けていった。


「……俺が、飛竜を倒すってことか?」

「うん」と、エマは、頷いた。


 純粋な赤い瞳が、レオを見据える。エマは、レオが困っている人を助けてあげるような正義の勇者であると信じて疑わない。だから、レオが“飛竜をやっつけられる”と言った以上、彼がその行動を取ろうとしないことに、エマとしては本気で疑問だったのだ。


 確かに飛竜は倒せるが、倒しても俺に何のメリットも無い。__レオは、そう言ってエマの期待を裏切れば良かった。そうすることも出来た。


 だが、レオは黙った。困った表情で、エマを見返す。そうして、彼女と目を合わせて言葉を詰まらせている内に、彼の唇に妙な力が走り、小さく震えた。


「……」

「レオ?」

「……分かった、任せろ」


 レオの口から漏らした言葉を、エマは聞き逃さない。エマは、顔を輝かせた。


 レオは、自分で言った言葉に驚いていた。驚いたが、一度口にした言葉は取消せない。


 レオは、エマの細い手首を掴んで、道の端の物陰に連れ込んだ。


「エマ、ここにいろ。すぐ戻るから絶対に動くな」


 レオは、エマに言いつけて、ローブの内からサマウスの魔導書を手に取る。彼の足元から黒い霧が揺らぎながら立ち昇ってくる。


<おいおい、相棒、お前本当にやるつもりか?>

「せっかく竜が出たんだ。力試しにちょうどいいだろ?」


 訝しがるサマウスの声を振り払って、レオは、戦闘態勢に入る。彼を包む黒い霧は、濃度を増し、それから蠢きながら彼の背中に収束していき、漆黒の双翼を形作る。


 レオは、背中に作った双翼の出来具合を確認するため、何度か羽ばたいてみる。黒い霧で翼を作ったのは、これが初めてではない。幾度なく移動手段として活用したことがある。その漆黒の翼で、彼は自由自在に飛行出来るのだった。


 漆黒の双翼を纏ったレオに、エマは憧れの眼差しを向ける。そのレオの姿は、どちらかと言えば悪魔のそれに似たものではあったが、エマの目には、勇ましくマントを広げた勇者のように映っていた。


 レオは、エマに背を向けて距離を取る。そして、漆黒の翼を広げて、飛び立った。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

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