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アデル★リボン ~万能でサイコパスの魔法少女が、人々の心を救済していく感動物語~  作者: タキ・エーイチ
第5章 最強の力を手に入れた落ちこぼれが、神様にお祈りするまでのお話
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第7話 状況変化

 レオがヨーゼフを殺害した頃あたりには、帝都ではすっかり連続殺人鬼の話が広まっていた。どこの新聞社もその殺人事件について大々的に報道し、中央憲兵からも住民に対して警告を発していた。憲兵ら捜査当局も、本格的に捜査を始めているようだ。


 一方、件の連続殺人鬼のレオは、以前の住居を捨て、帝都の南区域の貧民街に身を潜めていた。行方を暗まして、少しの間でも捜査の手が及ばないようにするためだ。


 だが、憲兵がレオの元に辿り着くのは、思いの外早かった。


 それは、レオが買い物帰りに、路地裏に入った時だった。


「レオ・クラインだな」


 レオは、背後からの知らない声に、振り返る。そこにいたのは、憲兵の制服を着た二人組だった。そして、物騒なことに、その手には既に杖が握られている。


「どちら様?」


 レオは、そう尋ねつつ、手に抱えていた紙袋を地面に下ろした。そして、ローブの内側に静かに手を入れる。


「動くな! 我々は、中央憲兵だ! 答えろ、お前はレオ・クラインだな?」

「そうですが」

「話がある。我々に同行してもらう」

「何の話?」

「それは、署に着いてから話そう」


 レオは、肩をすくめる。


「何の話をしたいか教えてくれないと、付いて行く気になれないな」

「貴様には、帝国市民の義務として我々の捜査に協力する義務がある」

「捜査? 何の事件の捜査だ? その事件に、俺が何か関係しているのか?」


 レオは、白々しく質問する。ふざけ半分の質問だったが、捜査当局が現在どこまで事件を

把握しているのか探る意図もあった。


 憲兵の一人は、苛立った様子で、杖を差し向ける。


「とにかく付いて来い、レオ・クライン」

「__それに、誰にも告げずに引っ越ししたんだけど、わざわざここまで俺を探しに来たのか?」

「いいから来い。あまり我々の手を煩わせるな」

「事情を教えてくれないと付いて行かない」


 レオと憲兵達の間に緊張が走る。憲兵達は、油断なく杖を構えている。レオは、ローブの内側のサマウスの魔導書に手を触れている。


 両者の睨み合いの時間が続く。


「憲兵さん、どうしても教えてくれないんだったら、無理やり喋らせるけど?」

「何だと?」


 レオが、笑う。その瞬間、彼の背後から、黒い霧が湧き上がった。憲兵達は、驚いて、身構える。


 憲兵達は、黒い霧に強い魔力を感じ取る。そして、レオに攻撃の意思ありと判断する。素早く呪文を詠唱し、杖を振るった。


 杖の先から、雷が迸る。だが、レオに襲い掛かったその雷撃は、踊り出て来た黒い霧の前に打ち消される。そして、今度は、黒い霧の中から触手が伸び、鞭のようにうねり、憲兵達の体を横薙いだ。


 憲兵達は、咄嗟に防御魔法の障壁を張ったものの、黒い触手の攻撃に呆気なく破れる。彼らは、横腹に思いっきり触手の殴打を受け、建物の壁に叩き付けられる。


「ぐっ……、うっ……、こ……ここは、一旦引くぞ……!」


 呻き声を上げて、憲兵達は懐から何かを取り出す。それは、淡い光を閉じ込めた宝珠だった。言動から察するに、その宝珠は、魔法石。しかも、移動魔法を封じたものだろう。その魔法石で、物や人を一定の範囲内に瞬間移動させられる。


 彼我の力の差を思い知った憲兵達は、その魔法石を用いて、この場を離脱するつもりなのだ。


「させるか!」


 黒い触手が素早く伸びる。触手は、刃の形状に変化すると、憲兵達の魔法石を握った手を切り落とす。彼らの手が、魔法石を握ったまま、血を撒き散らして地面に落ちる。


 憲兵達は、絶叫する。身を縮めて痙攣する。


「ふん、逃がさねえよ」


 黒い触手が、痛みに悶え苦しむ憲兵達の全身を巻き上げる。身動きが封じられた彼らの元に、レオはゆっくりと歩み寄る。


「移動魔法の魔法石か……。貰っておくぞ」


 レオは、切断されたそれぞれ憲兵の手から、移動魔法を封じた魔法石を拾い上げる。魔法石なら、魔術学院の授業で何度も見たことがある。移動魔法という比較的高度な魔法を封じ込め、しかも、帝国憲兵が装備するような高品質のものであれば、それなりに高価な代物のはずだ。


「ぐっ……、放せ……、貴様……!」

「なあ、憲兵どもは、俺の事どこまで掴んでいるんだ? 教えてくれよ。教えてくれれば、楽に殺してやる」

「放せっ!」


 回答を拒否する憲兵に、黒い触手が伸び、その太ももを抉る。


 憲兵は、思いっきり悲鳴を上げる。その大きな悲鳴が、路地裏に響き渡る。そして、憲兵が狙ったことなのか、その悲鳴は、路地裏の外にも響き渡り、付近にいた住民達の注意を引いた。レオは、付近の住民達が、寄ってくる気配を感じる。


「ちっ。でかい声出しやがって……」

<まずは、口を押え込むべきだったな、相棒。それか、別の人気のない場所に誘い込むべきだったぞ>

「そうだな。勉強になった、サマウス」


 レオは、二人の憲兵の胴体を引き裂いてから、地面においた紙袋を拾い、早々にその場を立ち去った。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 帝都を震撼させる連続殺人鬼の話は、レオ自身の耳にも入っていた。新聞では、異常な殺害現場の有り様が詳細に語られている。住民の間でも、件の殺人鬼の話で持ち切りだ。レオが、買い物の際に、パン屋の店主から、この辺に殺人鬼が潜んでいるなんて噂されていると聞かされた時には、思わず苦笑いをしてしまった。


 憲兵も本格的に動き出して、そろそろ自分に目を付ける頃だろうと、レオは思っていた。そして、わざわざ貧民街まで移り住んできた自分の元に捜査しに来たということは、既にもう、犯人として目星を付けられている可能性が高い。


 状況は、変わりつつある。先ほど憲兵二人を殺害したことで、これからは、いよいよ国家権力との衝突を覚悟しなければならない。それは確かに面倒であるが、今のレオには、例え帝国を敵に回しても打ち勝てる自信があった。


 さて、状況が変わったと言えば、レオは、変な成り行きで、とある少女の世話をすることになった。


 レオは、現在住居にしている小屋に戻った。そこは、居住区域から少し外れた、所有者不明の小屋だった。周囲は雑木林になっており、人気も無い薄暗い場所で、身を隠すにはちょうど良い住処だ。


「おかえりなさい、レオ」


 レオが、その小屋に入った途端、明るい声が聞こえた。


 エマの声だった。


「ああ、ただいま」


 慣れない様子で、レオは返事をした。彼の元に、嬉しそうにエマが駆け寄る。


「どこに行ってきたの、レオ?」

「買い物をしてきた。パンと、……あと、果物を買ってきたぞ」

「果物!」


 エマは、嬉しそうに顔を輝かせた。


 変な成り行きで、レオは、エマという少女の世話をする事になった。本当に、変な成り行きでだ。彼女は、復讐相手ヨーゼフが監禁していた少女で、レオが気まぐれで連れ出した。


「好きに食べて良いぞ」

「ありがとう、レオ!」


 レオは、パンやら果物が入った紙袋を差し出す。エマは、はしゃぎながら、紙袋に入っているリンゴを取り出した。そして、手に取ったリンゴを、着ている古びたワンピースの布に擦り付けから、嬉しそうに齧り付いた。


 エマは、出会った当初と比べて、随分と様子が変わった。監禁から解放されてほんの数日の間で、別人のように変化した。


 彼女は、体も心もボロボロの状態だった。監禁状態の苛酷さのせいか、それとも非人道的な魔術の実験の影響かは分からないが、まるで瀕死の病人みたいな顔や身体をしていた。何より、死んだような虚ろな目をしていた。


 それが彼女は今、顔や身体に生き生きとした血の気を取り戻していた。あどけなく、愛らしい少女の顔になった。美しい金髪と赤い瞳と相俟って、まるで端麗な人形のようであった。


 それに、彼女は笑うようになった。レオに対して、明るく話し掛けるようになった。


「エマ、お前……」

「何、レオ?」


 エマは、リンゴに嚙り付きながら、レオを見上げた。


「その汚い服、変えないか?」

「……でも、これしかないし……」

「新しく買ってやるよ、お金はあるし」

「本当!? ありがとう、レオ!」


 エマは、屈託なく笑う。レオは、「ああ……」と相槌を打つ。


<相棒、変なことになっているな>


 サマウスが、失笑気味に話しかけてくる。レオは、困った顔をして頷く。


「……全くその通りだ。変なことになった」

「うん? 何、レオ?」

「いや、何でもない。ただの独り言だ」


 エマには、サマウスの声は聞こえないため、レオが誰と話しているか分からず、首を傾げた。


<ガキの世話も良いけどよ、……やるべきことを忘れてないよな? 最近、大人しくしてばっかりだが>


 レオは、頷く。もちろんだ、と心の中で呟く。


 レオにはまだ、復讐すべき相手が残っている。そいつら全員に凄惨な死を与えることこそ、彼がやらなければならない事だった。


 暫く休んでいたが、今夜また、復讐を再開するつもりだ。


 レオは、夕食にシチューを作り、エマと一緒に食べた。不味くはないが、特段美味しいわけでもないそのシチューを、エマは、目を輝かせながら、忙しくスプーンを動かして口に運ぶのだった。レオとしては、そんな大した物を作ったつもりもないのに、そうも大袈裟に喜ばれると、何だか恥ずかしい気持ちになった。


「よっぽど研究所での食事がまずかったんだな」とレオが言うと、エマは、監禁時の時を思い出して暗い顔をしたので、「そういえば、服は明日の午後に買いに行くけど、お前も付いてくるか?」と話を逸らした。エマは、「一緒に服買いに行く!」と、顔を明るくしてくれた。


 夕食が終わって暫くした後、レオは、黒いローブを羽織って外出の準備をしていた。


「レオ、どこにいくの」


 レオが小屋から出て行こうとした時、背後からエマの声が掛かる。


「別に、お前には関係ないだろ。早く寝てろ」


 レオは、背を向けたまま、冷たく言い放った。


「また誰かを助けに行くの?」


 レオは、エマのその言葉にぎょっとして、思わず振り返った。見ると、エマが、瞳を輝かせて、こちらに熱い眼差しを向けている。


 レオは、変な笑い声が出た。


 エマは、レオの正体について何も知らない。帝都を震撼させている連続殺人鬼の話も、耳にしていない。だから、これからレオが何をしに外出するのか、分かっていない。


 どうやら、エマは、レオをお伽話に出てくる勇者か何かとでも思っているのだった。つまりは、良い人だと思い込んでいるのだった。


「悪い奴を懲らしめてくる」


 レオは、冗談混じりに言った。とんでもないブラックジョークであったが、エマは、それを冗談として受け取らなかった。


「頑張ってきて、レオ!」


 エマが、眩しい笑顔を向けた。レオは、素早く顔を背け、逃げるようにして、小屋を出て行った。


<一体誰を助けに行くつもりだ、相棒?>


 サマウスがからかうと、レオは、ばつが悪そうに顔を伏せた。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

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