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アデル★リボン ~万能でサイコパスの魔法少女が、人々の心を救済していく感動物語~  作者: タキ・エーイチ
第5章 最強の力を手に入れた落ちこぼれが、神様にお祈りするまでのお話
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第6話 実験体の少女

 ヨーゼフ・メ―リアンは、かつて神童と褒め讃えられていた。帝立魔術大学に特待生として入学し、授業ではずば抜けた魔術の才能を披露し、試験でも常にトップの成績を維持し、第65期生の首席として卒業した。


 そして、彼は、魔術の天才である一方、歪んだ性格の持ち主であった。傲慢で、他者を見下す癖があった。同期の中でも、彼を疎む者が、少なからず存在する。


 特にレオは、ヨーゼフに馬鹿にされ続けていた。特待生として入学したにも関わらず全然まともに魔法が使えないレオは、ヨーゼフが侮蔑を向ける格好の標的だった。


 実技の授業で上手く魔法が使えず、先生に厳しい言葉を浴びせられ、他の生徒達から白い目を向けられるレオに対して、ヨーゼフは、声を大にして容赦なく罵倒した。彼は、何回杖を振っても失敗するレオに向かって、「早くしろ、この落ちこぼれ!」と笑いながら叫ぶのだった。


 思い返してみれば、レオのことを“落ちこぼれ”と最初に呼んだのは、ヨーゼフだった。


 だが、レオはもう、かつてのような“落ちこぼれ”ではない。


 レオは、力を手に入れた。サマウスの魔導書によって、隠れていた自分の才能に気が付いた。火、水、風、雷、その他様々な種類の魔法を扱えるようになった。


 その中でも特に有用な魔法は、黒い霧の魔法だ。それは、特殊な召喚魔法だった。黒い霧の正体は、悪魔サマウスの体の一部を顕現したもので、レオは、これを自由自在に操ることが出来る。その黒い霧は、最強の剣であり、盾であった。それは、あらゆる障害からレオを守り、そして、引き裂く。


 そして、レオは、その力を以って、“落ちこぼれ”の汚名を雪ぎに、ヨーゼフに会いに来たのだった。


 場所は、メ―リアン魔法研究所の事務室。部屋には、いや、研究所内には、もうレオとヨーゼフしかいない。他の研究員5名は、既にレオが殺してしまった。ちょうどヨーゼフの眼前には、一人の研究員の切り裂かれた死体が、撒き散らされている。


「お前……レオか……?」


 ヨーゼフは、扉の残骸の上に立つレオに、緊張した声色で尋ねる。


「そうだ、俺だ」


 レオは、不気味に笑って答える。その手には、小さな本が握られている。


 ヨーゼフは、数年前までは帝立魔術大学の方に通っていたため、用務員であったレオを見かけることがあったが、その頃と全く雰囲気が変わっていた。その表情が、気味が悪い程明るく、そして、鋭くなっている。容貌は大して変わっていないのに、見違える程だった。


「……これは、お前がやったのか?」


 ヨーゼフは、切り裂かれた死体を指して言った。


「ああ、そうだ。俺が殺した」

「……お前、何の用だ?」


 ヨーゼフが、警戒心を露にして尋ねた。レオの背後の黒い霧が、嘲笑うように蠢く。


「ヨーゼフ、お前に、本当の天才と凡人の違いを見せつけにきた」

「凡人……?」

「お前のことだ、ヨーゼフ」


 レオの挑発的な言葉に、ヨーゼフの眉間の皺が寄る。


「何だと……。この俺が、凡人だと……」


 凡人とは、ヨーゼフが最も嫌い、蔑むべき対象の人種だった。ヨーゼフは、自分にそのような言葉を投げかけられ、眉間にしわを寄せた。


「本物の天才の力を見せてやるよ、ヨーゼフ。この俺が、特別、凡人のお前の相手をしてやる。さあ、杖を取れ。魔法使いの決闘だ」

「ふざけた事を……! 蝋燭の火もまともに点けられなかった落ちこぼれが! ゴミ屑が!」


 蝋燭の火。そんなこともあったな、とレオは思い出す。


 初期の実技の授業で、魔法で蝋燭の火を点けるというものがあった。レオは、蝋燭に火を上手く点けられなかったのだが、その時たまたま隣の席にいたヨーゼフに、そのことを散々馬鹿にされ、酷く惨めな思いを味わった。まだ、自分の将来に希望を抱いていたその頃のレオにとって、なかなか印象的な出来事だった。


「じゃあ、掛かって来いよ、凡人」

「黙れ! 殺す!」


 レオの更なる挑発に、ヨーゼフは怒声を上げて、懐から杖を取りだした。


 素早い呪文の詠唱と伴にヨーゼフの杖が振られる。その杖の先から、光の刃が射出される。彼の魔術の手捌きは、帝国軍人も唸る程の鮮やかなものだった。天才の名は伊達ではない。


 射出された光の刃は、レオに襲い掛かる。刃の光度から推し量るに、相当の魔力が込められたものだった。だが、その刃は、レオを庇う黒い霧によって打ち消される。


「何っ!?」


 自身の放った攻撃魔法が防がれたことに、ヨーゼフは驚愕する。


「こんなもんか、凡人の魔法は」

「クソがっ! この落ちこぼれめ!」


 怒るヨーゼフは、再度攻撃魔法を試すが、レオの黒い霧に打ち勝つことは出来ない。レオは声を出して笑い、その背後の黒い霧から触手がヨーゼフに向かって伸びる。


 黒い触手が、ヨーゼフの全身を巻き上げた。レオは、身動きが取れなくなった彼に、ゆらりと近付く。


「クソッ、何だこの黒いのは……!? 離せっ!」

「ヨーゼフ、お前に、謝罪の機会を与えてやる」


 レオは、ヨーゼフに向かって言った。


「“凡人の私が、天才の貴方を馬鹿にしてすいませんでした”って、誠意を込めて言え」

「は? お前、何言って__」


 別の黒い触手が伸び、ヨーゼフの足先を突き刺し、貫通する。


「がああああああぁぁぁぁぁぁ! いてええええええぇぇぇぇぇぇぇ!」


 ヨーゼフは、痛みに絶叫する。


「ヨーゼフ、言え。俺は、無様に自分の敗北を認めるお前の姿が見たいんだ」

「ぐっ……、この、天才の俺が……、お前ごとに、敗北を認めるなぞ……あり得んっ!」

「そうか」


 また別の黒い触手が伸び、ヨーゼフの太ももを突き刺し、貫通する。


「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁ! ……あ、あっ! ……はあ、……はあ」

「無様だな、ヨーゼフ。変な意地張っていないで、俺の言う通りにしたらどうだ?」

「お、俺は、天才だあ! お前なんて……!」

「じゃあ、気が済むまでお前の体で遊ぶことにする」


 微笑するレオの背後から、無数の黒い触手が現れた。そして、レオのお楽しみの時間が続くのであった。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 レオは、ヨーゼフとのお楽しみに、ほぼ丸一日の時間を費やした。回復魔法と休憩を挟みながら、何回も何度も、ヨーゼフを弄び、その悲鳴を聞いた。


<なかなかしぶとい奴だったな>

「そうだな。結局、謝罪の言葉は聞けてない」


 レオは、細切れの死体となったヨーゼフを見下ろしながら、サマウスと会話を交わしていた。


 ヨーゼフは、今までの連中とは違って、一言も謝罪や命乞いをせずに死んでいった。彼の自尊心は、狂気じみたくらい強かった。


<心残りか?>

「いや、十分楽しめた。まあ、良しとしよう」


 復讐相手はまだいる。レオは、ヨーゼフの死体に背を向け、部屋を出て行った。


 そして、研究所の出口に行くため、廊下を歩いていると、とある部屋が目に留まる。


__“エマの部屋”


 そのように、部屋の扉に札が掲げられていた。


「この部屋……何だ?」


 さらに気になることに、その部屋の扉には魔法が掛けられていた。微かに魔力を感じる。試しにレオがその扉を開けようとしても、びくともしない。外見上鍵がないその扉には、魔術的な施錠がされていた。おそらく、魔法で研究所関係者しか開けられないようになっているのだ。


 レオは、黒い霧を出現させる。黒い霧から伸びた触手が、その扉を引き裂く。扉は、呆気なく崩れ落ちた。黒い霧の前には、魔法が掛かけられた扉も紙切れ同然だった。


 レオは、“エマの部屋”に足を踏み入れる。部屋の中は、まるで牢屋のようだった。壁や床や天井は、全て硬質な石で出来ており、窓は、天井付近に小さくあるだけ。部屋の中には、ほとんど何もない。あるのは、床に散らばった無数の蝋燭と、数冊の絵本__そして、一人の少女。


「誰……? “パパ”達じゃないの?」


 部屋には、一人の幼い少女がいた。虚ろな瞳で、入室して来たレオを怯えたように見上げ、か細い声で尋ねてくる。


 奇妙な少女だった。病的なまでに血の気の無い白い肌に、顔は酷く痩せこけ、腕や足は枯れ枝のように細く、肉付きが無い。そして、ぼろ切れのような汚れたワンピースを着ている。しかし、彼女の金髪は艶やかな輝きを放ち、その瞳は惹きこまれるような美しい赤色の光を秘めている。


 まるで、薄汚い案山子に、金糸と紅玉を無理やり引っ付けたような、そんな奇妙な容貌をしていた。


「パパ? ……もしかして、ヨーゼフの事か?」

「……うん、パパの名前はヨーゼフ」

「お前は、ヨーゼフの娘なのか?」


 その少女は、首を横に振る。


「私は、パパの実験体のエマ。娘じゃない」

「実験体……。あいつ、実験体にパパって呼ばせているのか……」


 レオは、思わず苦笑した。


 よく見ると、その少女__エマの体には、魔術の刻印があった。ヨーゼフが、彼女を使って何らかの実験をやっていたのは確かなようだ。奇妙に美しい髪と瞳も、魔術の実験の影響なのかもしれない。


 そうだとすると、このエマという少女は、ヨーゼフの貴重な研究資料あるいは研究成果なわけだ。復讐相手の大切なものなわけだ。__今のレオには、それだけで殺害する十分な理由になる。


 レオは、サマウスの魔導書を手に取る。殺そう、と思った。特段殺意が湧き上がっているわけはないが、そう行動するのが自然なようなことのように思ったのだ。


 レオは、もはや、人を殺すのに躊躇いを感じなくなっていた。それが、たとえ、小さな子どもであってもだ。


「お兄さんは、パパのお友達? それとも、ケンペーの人?」

「いいや、違う」

「パパは?」

「死んだ。俺がやった」


 淡々と答えたレオの言葉に、エマは、急に目を丸くした。その虚ろだった瞳に、光が差し込んだ。


「……死んだ? パパは、もういないの?」

「そうだな、もういない」

「じゃあ、お兄さんは……!」

「……?」

「私を、ここから救い出しに来たの?」


 突拍子もない事を言われて、レオは面食らった。


「……いや、その、俺は……」

「お兄さんは、パパをやっつけてくれた。……そして、私を、ここから出してくれるの?」

「……」


 レオは、エマの体のあちこちに痛々しい痣があることに気が付いた。それは、暴力の跡だった。


「……なあ、お前、ヨーゼフに酷い事されてたのか?」

「パパは、私をいじめてくるの。……変な薬を飲まされるの。体に変な物を入れてくるの。痛いのに止めてくれないの。……あと、よくぶつの。蝋燭に上手く火を点けられないと、とっても怒るの」

「蝋燭の火……」


 レオは、部屋に散らばっている無数の蝋燭に目を遣った。


「この蝋燭は何だ?」

「私の練習用の蝋燭。……こうやって並べて、一気に魔法で火を点けるの」


 エマは、散らばった蝋燭を拾う。そして、1本、2本、3本と、自分の手前に何本も蝋燭を丁寧に並べていく。


「止めろ」


 レオは、静かに、だが強い口調で言う。彼は、無意識のうちに、蝋燭を並べるエマの手を掴んでいた。


「お兄さん……?」

「蝋燭は好きじゃない。止めてくれ」


 実技の授業。蝋燭の火。ヨーゼフの罵倒。__その嫌な思い出が、レオの頭の中を巡った。


「……お前はもう、蝋燭に火を点ける事なんてしなくて良い。ヨーゼフは、もういない。だから、そんな事はしなくて良い。そんな下らないことは、もう……」


 レオは、エマの手を握り締める。彼女の手は、恐ろしく細く、弱々しかった。その手は確かに、虐げられた者の手だ。


「お兄さん、名前は何?」


 手を握り締めて黙るレオに、エマが尋ねる。


「……俺の名前……」

「うん、名前は?」


 エマの宝石のような赤い瞳が、レオに向けられる。レオは、言葉を詰まらせる。暫く、困った表情で沈黙する


 そして、その後__


「俺の名前は……レオ」


 目の前の少女に、自分の名前を教えた。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

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