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アデル★リボン ~万能でサイコパスの魔法少女が、人々の心を救済していく感動物語~  作者: タキ・エーイチ
第5章 最強の力を手に入れた落ちこぼれが、神様にお祈りするまでのお話
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第2話 落ちこぼれ

 暗い赤髪の男性が、帝立魔術大学の建物内の廊下で、台車に荷物を載せて運搬している最中だった。彼の名前は、レオ・クライン。大学の用務員をしている。近日中に構内の建物を改装するらしく、そのために様々な資料の移動を任されていた。


 レオは、台車に乗せた木箱を見つめながら、憂鬱そうに溜息を吐いた。


「何やってんだろ、俺……」


 こんな仕事をしている自分が、つくづく嫌になる。


 レオは、農村の出身者だった。9歳の頃までは、魔術とは何の関わり合いもなく生きていたが、その頃に帝国の全国各地で実施された魔力調査を受けてから、人生は激変した。


 わざわざ辺境の農村まで調査しにきた帝都の役人達は、魔力を測定する魔石にレオが示した桁違いの魔力反応に驚愕したのだった。帝国の魔術師が発明した魔力を測定する魔石は、それに触れた者の魔力が高ければ高いほど、真っ白な石の表面が濁るようになっている。その魔石に彼が触れた瞬間、石はこれ以上染まりようがないほど、漆黒に変化した。


 そのような極めて高い魔力を示したレオは、帝立魔術学院へ特待生として推薦された。彼は、入学を直ぐに承諾した。


 レオは、家族からの愛情を感じることなく育った。彼の父親は、彼が物心付く前に亡くなり、母親は、他の男と再婚した。再婚相手の男は、口には出さないが、連れ子のレオのことを厄介者のような目で見ていた。血の繋がっている母親は、息子のレオよりも、再婚相手との間に出来た娘のことばかり可愛がっていた。


 家族の間で窮屈な思いをしていたレオにとって、帝都にある学生寮への招待は、飛び上がる程嬉しいものだった。彼は、故郷を去る際に、「こんなクソ溜めみたいな所、もう帰らない」と笑顔で家族に言い残していった。


 レオは、自分の人生に大きな希望を抱いていた。魔術学院の授業で、厳しい現実を突きつけられるまでは。


 彼は、座学については、それなりについていけた。元は文字も読めない田舎者だったが、寝る間も惜しんで必死で努力した。だが、魔術の実技になると、どうしても上手くいかなった。どれだけ努力しても、成果は出なかった。


 特待生は、エリート中のエリートとして、羨望の眼差しを受ける。全生徒、全教員から強い期待が寄せられる。レオは、その特待生としての期待に応えられなかった。応えられないどころか、嘲笑の的になった。彼は、特待生どころか、一般生徒よりも、魔術の実力が劣っていた。


 レオは、落ちこぼれと揶揄された。そして、いじめの対象になった。暴言を吐かれ、暴力を振るわれた。友達も出来ることなく、孤独で惨めな学生生活を送った。地獄の青春時代であった。


 レオの成績は、最底辺のもので、卒業も危ぶまれたものだったが、実技で劣った成績は、特別な補習やレポートやらで、学院側で温情的に補われ、何とか卒業は出来た。しかも、学院は、絶望的な成績の自分に、就職先まで用意してくれた。


 その就職先というのが、帝立魔術大学の用務員だった。レオは、その事について学院へ感謝すべきなのかもしれないが、感謝しきれないものがあった。彼に言わせれば、用務員とは、つまらない雑用をする仕事であり、魔術学院のエリートが就くような職業ではない。ましてや、特待生の生徒のあるべき進路とは大きくかけ離れている。


 レオは、迷ったが、結局、大学の用務員に就職することに決めた。給料自体は、安くはないし、“帰らない”と啖呵を切って出て来た以上、故郷の農村には帰れなかった。だが、彼は、就職先の職場でも窮屈な思いをした。


 職場の仲間達からは、白い目を向けられた。魔術学院のエリートが何故、用務員などに就いているのか、という不審の視線だ。それに加えて、レオ自身の性格や態度にも問題があった。彼を取り巻くそれまでの環境に原因があったのかもしれないが、彼は酷く陰湿な人間になっていた。誰も薄気味悪い彼に近づこうと思わなかったし、彼自身、職場の仲間に対して距離を置いていた。


 そして、レオにとって、職場の人間関係と同じくらいに、苦痛な存在があった__


「やあ、レオじゃないか。荷物運びご苦労さん」


 顔を伏せながら廊下で台車を転がしていたレオに、声が掛けられる。彼は、顔を上げて、こちらへ向かって来た人物に、思わず顔を顰める。


「あ、うん……」

「なんだ、相変わらず暗いな、お前」


 レオは、身を縮める。


 レオに話し掛けてきたのは、瀟洒なローブを纏った長身の男性。彼の名前は、ダニエル・フェックス。レオと同じ、帝立魔術学院第65期卒業生だ。レオは、この同期生と嫌でも顔を合わせることになるのが、堪らなく苦痛だった。


 ダニエルは、レオと同じ特待生だった。彼は、特待生らしく、在学中も優秀な成績を修め続け、帝立魔術大学へと進学した。そして、順調に大学で学位を得た後、そのまま教員になったのだった。帝立魔術学院の卒業生に相応しい名誉な職に就いているのだった。レオが彼と顔を合わせたくない理由の一つが、彼を見ていると惨めな気持ちになるからだった。


 そして、顔を合わせたくない理由は他にもある。それは、学生時代にダニエルがレオをいじめるグループの一員であったことだ。


 ダニエルは、いじめグループの頭脳役みたいな存在だった。本人が、直接手を出すことは少なかったが、いじめのタイミングや場所、方法を仕切ったり、いじめ仲間を増やしたりしたのは彼だった。実技の練習という名目で攻撃魔法の的にされるという最も辛かったいじめを考案したのも彼だった。


 レオにとって、ダニエルは、恐怖と憎悪の対象だった。


「僕の方が忙しいはずなのに、その僕より疲れた顔しているぞ。そんなに大変か、雑用は?」

「こっちも、こっちで忙しい」

「ああそうかい。まあ、お互い大変だね。__もうすぐ大きな学会が開かれるだけど、それの準備が結構ハードなんだよ。期待の新人とか思われているらしいんだ、僕。この前に行った研究が思いの外に評価されてしまってね」


 ダニエルは、嫌みっぽく笑いながら、自慢げに話した。


 レオは、早くこの場を立ち去りたかった。恐怖と怒りでどうにかなりそうだった。しかし、ダニエルの話は続く。


「ところで、6つになる息子が、最近になって魔法学の勉強を始めたんだ。息子の方から、帝立魔術学院に入学するために、勉強したいって言い出したんだ。父親の僕に憧れてね。将来有望だよ、あの子は。__レオの方はどうだ?」

「どうって?」

「だからお前の子どもの事だよ」

「子どもはいない。結婚もしていない」


 その言葉を聞いて、ダニエルは、小馬鹿にするように笑った。


「おいおい、そうなのか。もう30過ぎているだろ。早く相手を見つけた方が良いぞ。知り合いに同期のやつらはもう大体は結婚している。皆、それなりに良い職に就いているから、選り取り見取りらしいぜ」

「俺は、ただの大学の用務員だ」

「それでも結婚相手は見つかるだろ。まあ、相手を選り好みしなければな」

「ほっといてくれ」


 レオの反抗的な言葉に、ダニエルは、むっとする。


「僕は、お前を心配して言ってやっているんだぜ? 人の助言はちゃんと聞いた方が良い。だから、お前は落ちこぼれだったんだぞ。負け犬は、いつまで経っても負け犬か」


“負け犬”というダニエルの暴言に、レオの表情が険しくなる。


「息子にお前を見せてやりたいよ。こういう大人もいるんだって。あいつは、僕を含め立派な大人達に囲まれて育ったから、世の中のクソ共のことを知らない。お前が、良い反面教師になることだろうさ」

「お前が……」

「ん?」

「お前が立派な大人?」

「何だ、その言い方は」


 ダニエルも、表情を険しくした。レオは、つい勢いで言い返してみたは良いものの、元いじめっ子の怒りの視線に、膝元が震えた。


「お前、分際をわきまえろよ。負け犬のお前が、この僕になめた口を利くな。成功者の言葉はありがたく受け取るもんだ。65期生の恥さらしのお前に、わざわざ声を掛けてやっているんだぜ、……それなりの態度ってものがあるだろ?」

「……仕事があるから、俺はこれで」


 レオは、急に台車を押す。


「おい、レオ!」

「仕事があるから!」


 レオは、ダニエルの声を無視して、逃げるようにその場から立ち去って行った。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 レオは、小走りで台車を押して、周囲に誰もいない廊下の陰まで来ると、立ち止まる。そして、次第にその身体が震えだした。ダニエルからの屈辱的な言葉の数々が、頭の中を巡り、冷静さを失わせる。


「クソッ!」


 耐え難い怒りに押されて、レオは、台車の載せてある木箱の蓋を思いっきり叩いた。ぼこっ、と派手な音がした。強く叩き過ぎたせいで、少しぼろくなっていった木箱の蓋に穴が開いてしまった。しかも、それなりに大きな穴が。


「やばっ……」


 木箱に穴が開く音で、レオは我に返る。


 レオは、呆然と、穴の辺りに砕け散らばった木片を摘まむ。自分の手に、ささくれが刺さっていることに気が付いたが、それを今気にしている場合ではない。そして、木箱の中にも落ちた砕けた木片を見つけると、それを拾うべく、穴の中に手を突っ込んだ。


 レオの穴の中に伸ばした手は、砕けた木片と、__別の何かに触れた。


 レオの運命が、大きく変化する瞬間だった。


 指先から、火花が散るような、鋭い痛みがあった。そして、正体不明の黒い何かが、レオの体を駆け巡った。その黒い何かは、指先から一気に全身に広がった。一瞬だけ、意識が体から弾き飛ばされたような感覚が襲う。


「なっ……!?」


 血管の一本一本に入り込んで蠢く正体不明のその黒い何かに、レオは、困惑の声を漏らす。自分の体に何が起きているのか理解できず、硬直する。


<……よお、相棒>


 そして、はっきりと何者かの声がした。レオは、驚いて、木箱の穴に突っ込んだ手を引っ込める。


<聞こえているんだろ、相棒。おい、お前だよ、お前。赤い髪のお前>

「……俺?」

<そうだ、お前だ。俺の声は、お前にしか聞こえてねえはずだ。俺は、お前に話しかけているんだよ>


 レオは、辺りを見回す。声は聞こえるが、姿は見えない。


<とりあえず、お前の名前を教えてくれねえか?>

「だ、誰だ? ……どこいる? 声しか聞こえないぞ……」

<俺は、サマウス。箱の中を見ろ。小さな本があるだろ。魔導書だ>

「魔導書?」


 レオは、再び木箱の穴を覗き込む。見ると、さっき拾おうとした木片の下に、小さな本があった。恐る恐る手を伸ばして、その本を手に掴み、箱の中から引き上げる。


 その本の題名は、未知の文字で書かれていた。魔術学院で学んだ悪魔の文字とも異なる、全く見たこともない文字だ。だから、レオは、その題名が読めないはずだった。


「……“サマウスの魔導書”? え、どうして……」


 だが、レオは、不思議にもその文字を読むことが出来た。彼自身、未知の文字を解読できたことに、困惑する。恐怖すら感じた。


<俺は、その魔導書に閉じ込められている悪魔だ。……閉じ込められている、と言うより、もはやその魔導書自体が俺みたいなものだがな。とにかくよろしくな、相棒>


 レオは、何と言って良いか分からず、ただじっと魔導書を見つめた。


<さて、お前はどこまで俺の事やお前自分の事を知っているんだ?>

「サマウス……だっけ……、お前のことは、何も知らない」

<じゃあ、自分のことは?>

「俺は、レオ・クライン。ロートヘルム帝国の帝立魔術大学の用務員をしている」


<自己紹介ありがとう。だが、聞きたかったのは、お前がルダ族のことを知っているかどうかなんだ>

「ルダ族? 何だそれ……?」

<じゃあ、お前、本当に何も知らないで俺に触れたわけだな。これはまた運命的な出会いだな……>


 レオには、サマウスと名乗った悪魔の言っている事が、まるで分からなかった。


<俺は、ルダ族の魔術師たちと契約していた悪魔だ。そして、今は御覧の通り、完全に魔導書に閉じ込められている。ルダ族専用の悪魔としてな>

「……ルダ族って何だ?」

<お前の先祖のことだよ>

「俺の?」


 だが、自分の先祖がそのルダ族かどうかなんて聞いたことがない。いや、そもそも“ルダ族”という言葉自体、初めて聞く。


<俺の声が聞けている以上、お前は、間違いなくルダ族の末裔だ。それも、かなり強くルダ族の血を受け継いでいるみたいだな。暗い赤髪が、奴らの特徴だった。何より、俺の声が非常に良く通る>

「だから、そのルダ族って何だ?」

<古代に滅んだとされる一族だ。ただ、生き残りがいて、そいつらの血が今もなお、密かに受け継がれている。お前みたいに、自分がルダの血を受け継でいることを知らない奴も珍しくない>


 レオが困惑して黙っていると、サマウスは、急に笑い始めた。


<俺たちの出会いは、本当に運命だな、相棒。俺は、最高のパートナーを見つけた。そして、お前も、最高のパートナーを見つけた>

「何を言っているんだ?」

<詳しい事情は分からないが、お前はその心に、俺が叶えるべき願望を持っているようだ>

「願望?」

<ああ、そうだ>


 姿は見えないものの、サマウスは、にやりと笑ったような気がした。


<俺は、復讐の悪魔サマウス。殺戮と破壊の化身だ>


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

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