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アデル★リボン ~万能でサイコパスの魔法少女が、人々の心を救済していく感動物語~  作者: タキ・エーイチ
第4章 高潔ぶった聖騎士が、犬の真似を要求されるまでのお話
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第8話 エピローグ

「ああああああぁぁぁぁぁぁ!!」


 四つん這いになって片足を上げたまま、アルジーナは絶叫した。まるで狂気に憑りつかれたみたいだった。その姿は、少し滑稽ですらある。


 アルジーナは、犬が放尿するような姿勢のまま絶叫し続ける。だが、アデルに要求された行為は達成されていない。言われた通り片足は上げているものの、肝心な放尿はなされない。ただひたすらに、叫んでいるだけだった。


「ああああああぁぁぁぁぁぁ!!」

「うるさい。やるなら早くしろ、雌犬」

「ああああああぁぁぁぁぁぁ!!」

「何? 出ないの? おい、雌犬……」

「ああああああぁぁぁぁぁぁ!!」

「……」


 アルジーナは、アデルの声に応えず、やはり叫び続ける。アデルは、狂気じみたアルジーナの様子に、苦笑を漏らした。


 アルジーナの心の内で激しく葛藤が起きているのだろうか。彼女は、叫び、震え、涙を流す。そして、遂に、顔を上げて、決意した。


「ああああああ! この魔女めぇええええええ!」


 アルジーナは、立ち上がり、鞘から剣を抜いた。そして、屋根を蹴って、上空で箒に跨っているアデルに飛び掛かった。『赤リボンのアデル』との取引には応じない。聖騎士として、魔法使いは殺す。それが、彼女の最終的な選択だった。


 だが、アルジーナの剣が、アデルに届く事は無い。アルジーナが立ち上がった瞬間、アデルは、危険を察知して、ノノを叩いて更に上空へ昇る。結局、アルジーナの怒りの一閃は、空振りで終わる。


「殺してやるぞ、害虫が!」

「ねえ、取引しないの、雌犬ちゃん?」

「誰が、貴様の思う通りにしてやるか! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる!」


 アルジーナは、屋根の上に着地した後も、何度も何度も、アデルへの攻撃を試みる。激昂した聖騎士の少女が、無意味に屋根の上で何度も飛び跳ねて剣を振る姿を、アデルは、愉快そうに眺めていた。


「じゃあ、取引は破綻したということで」


 アデルは、指先に灯らせた魔法の光の明度を強めた。次の瞬間、膨大な魔力の波動が、目が眩むような輝きと共に、教会の屋根の上空を巡った。アルジーナも、その魔力の波動を感じ取り、怒り狂って飛び跳ねていたのを止め、身構えた。


 その輝きが収まった後、アデルの片手には、いつの間にかワインボトルが握られていた。一見、何の変哲もないただのワインボトルだった。


「き、貴様……何をした……!?」


 アルジーナは、怯えたように尋ねる。『赤リボンのアデル』がたった今魔法を使った事は、明白だ。ただ、どのような魔法を使ったかは、分からない。


「このワインを作ったの」

「ワインだと……!?」

「ええ。残り1回の魔法を、あなたの望みを叶える代わりに、このワインを作るために使ったの。このワインはねえ、ボルレの町ってところのワインで、超美味しいのよ。私の万能の魔法で、完璧に再現してみたの」


 アデルは、ご機嫌そうに手に持ったワインを見つめる。


「呪いを解呪しろ! 今直ぐに!」

「取引は破綻したでしょ。もう魔法も使っちゃったし、どうやっても終わりよ、終わり。あなたは、自分のつまらない感情に打ち勝てずに、唯一の希望を捨てたのよ。あーあ、聖騎士失格ね。辞めたら、その仕事?」


「ふざけるな! この害虫め! 貴様などの言いなりになる事こそ、聖騎士にあるまじき行為だ!」

「途中まで言いなりになっていたくせに」

「黙れっ!」


 アルジーナは、もう一度、アデルに飛び掛かる。そして、届かず、虚しく屋根の上に落ちる。


「じゃあ、私は行くわね。この都市の愉快な馬鹿騒ぎでも眺めながら、ワインを嗜むわ」

「待てっ! 殺してやるっ! 待て!」


 アデルは、ワインを片手に、飛び去って行った。


 アルジーナは、怨嗟の叫びを撒き散らしながら、泣き崩れていった。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 トラバの悪夢は続く。グロス教を讃える言葉を叫びながら他人を襲い掛かる狂人達。息を切らして必死に逃げ回る人達。怯えて震えながら物陰に隠れている人達。恐怖に顔を歪めながら武器を手に取って、襲い掛かってくる狂人に抗う人達。そして、街の至る所には、血塗れの死体。


 アデルは、奇声と悲鳴が渦巻くトラバの都市の光景を眼下に、悠然とワインを飲んでいた。


「うーん……。美味しいけど、やっぱり、自分で実際に見て買って飲んだ物の方が、趣があるわね。美味しいけど」

「アデル、こんな血生臭い景色を見ながら美味しそうにワインを飲める君の気が知れないよ」


 メメは、呆れた声で言った。


「馬鹿な奴らが殺し合うのを見ているのは、すごく気持ちが良いわ。特に、グロス教徒とかいう、高潔ぶった頭空っぽな連中のは」


 アデルは、赤い瞳を輝かせて、トラバの市民が殺し合う光景を見る。


「本当、最高よね。自分でも不思議なくらい、気持ちが良いもの。大袈裟な事を言えば、この光景を見るために生まれてきたような気すらするわ。グロス教徒をこの世から駆逐することが、神様が私に与えた使命なのかも」


 アデルは、ふふんと笑う。


「あれだけ悍ましく叫びながらグロス教を讃える狂人達を見れば、この都市の市民達も目を覚ますんじゃないかしら。やっぱり、グロス教徒はヤバい奴らの集まりだって。……感動的ね。私はその事を気付かせてあげた、救世主ってところかしら」

「君が呪いを振り撒いた真の狙いはそれだったの?」

「ええ、そうよ」


 この女、本当に適当な事言うのが好きだな……、とメメは苦笑する。


 確かに、こんな事態が引き起こった以上、トラバ市民のグロス教に対する姿勢には何らかの変化は生じるかもしれない。ただし、それも、この絶望的な悪夢の果てに、トラバという都市がまだ存続出来ていたならの話ではあるが。


「アデル、君の救済活動も立派だけど、グロス教会と対立するのはあまり良くないんじゃないか?」


 メメが皮肉っぽく言った言葉に、アデルは鼻で笑って返す。


「こんなにも気持ち良いんだったら、奴らと対立するのも悪くないかもしれない」


 アデルは、美味しそうにワインを口にした。


「ねえ、アデル、やっぱり……」

「ん?」

「君、グロス教会と何かあったんじゃないのかい? 何か重大な」

「そんな重大な事までは無いわよ。ただ、何となく、いけ好かないだけ」


「うーん……」

「あなた、何が知りたいわけ?」

「いや、別に……」


 アデルには、メメが何を知りたいのか上手く掴めなかった。まあ、そんな事はどうでも良く、彼女は、楽しそうにワインを飲み続けるのだった。


 アデルがトラバの悪夢を眺め、ワインを飲み続けているうちに、ボトルの中身は空になった。彼女は、満足気な表情で、空のボトルを地面に投げ捨てた。


 投げ捨てられたボトルは、全く偶然にも、必死で逃げている一人の聖騎士の男の頭に直撃した。彼は、どうやら、市民を守る聖騎士としての使命を放棄して、この都市から逃げ出そうとしている最中のようだった。ボトルに頭を撃たれた彼は、驚いて転んでしまい、その上に、呪いに掛かった狂人達が、伸し掛かっていった。


 アデルは、最後にその聖騎士の断末魔の叫びを聞いて、微笑みながらトラバの都市から飛び去って行った。

 

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